フレックスタイム制における時間外労働

フレックスタイム制は、通常の時間管理による働き方とは異なる労働形態です。
それゆえに、時間外労働の捉え方も全く異なります。
本稿では、フレックスタイム制を導入した場合どのように時間外労働を把握するのかよく分からないという方に向けてご説明していきます。

目次

フレックスタイム制における時間外労働の考え方

フレックスタイム制は、一定の期間(最大3ヶ月まで)についてあらかじめ定められた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度です。

時間外労働は、この一定の期間(「清算期間」といいます)を単位として把握します。

すなわち、フレックスタイム制において時間外労働となるのは、清算期間における総労働時間の総枠を超えた時間ということです。

時間外労働が発生する場合は36協定の締結が必要

フレックスタイム制による労働においても、法定時間外労働をさせるには36協定を締結する必要があります。

先に述べたように、フレックスタイム制は清算期間を基礎に考えます。そのため、36協定は「1日」についての延長時間を協定する必要はなく、「清算期間」を通算して時間外労働をすることができる時間を協定すれば足ります。

フレックスタイム制の残業時間の計算方法

フレックスタイム制の残業時間は、清算期間を基準に換算します。

清算期間が1ヶ月以内の場合

清算期間における実際の労働時間のうち、「清算期間における総労働時間の総枠」(以下、単に「総枠」といいます)を超えた時間数が残業時間となります。

法定労働時間(1日8時間・週40時間)と同様の所定労働時間を定めている場合、総枠は次のように算出します。

清算期間における法定労働時間の総枠 = 1週間の法定労働時間(40時間)× 清算期間の歴日数/7

我が国の暦では、ひと月あたりの歴日数は28~31日です。

例えば、清算期間1ヶ月のフレックスタイム制における各総枠は、上の計算式に従うと、以下のように整理できます。

31日 177.1時間
30日 171.4時間
29日 165.7時間
28日 160.0時間

上記労働時間を超えて労働させる場合には、フレックスタイム制に関する労使協定(以下、36協定と区別するために「フレックス協定」といいます)の締結の他に、36協定の締結・届出も必要となります。

清算期間が1ヶ月を超える場合

働き方改革推進法の改正により、清算期間は最大3ヶ月まで延長することができるようになりました。

清算期間の延長には、割増賃金の支払が不要になったり、欠勤控除が不要になったりといったメリットがあります。

ただし、清算期間が1ヶ月を超える場合は、以下の内容も守らなければなりません。

  1. 清算期間全体の労働時間が、週平均40時間を超えないこと
  2. 1ヶ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと

これにより、例えば、繁忙月だけ週平均の労働時間を60時間に設定するといった定め方はできません。

なお、清算期間が1ヶ月を超える場合はフレックス協定の届出も必要となりますので、ご注意ください。

特例措置対象事業場の法定労働時間

通常の法定労働時間は1日8時間・週40時間です。

これに対し、下記の事業場(これらを「特例措置対象事業場」といいます)における法定労働時間は、1日8時間・週44時間となります。

次に掲げる業種に該当する常時10人未満の労働者を使用する事業場
商業 卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業
映画・演劇業 映画の映写、演劇、その他興業の事業
保健衛生業 病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業
接客娯楽業 旅館、飲食店、ゴルフ場、講演・遊園地、その他の積極娯楽業

1週間の法定労働時間が44時間となりますので、清算期間1ヶ月のフレックスタイム制における総枠は、次のように整理されます。

31日 194.8時間
30日 188.5時間
29日 182.2時間
28日 176.0時間

上記労働時間を超えて労働させる場合には、36協定の締結・届出が必要です。

なお、清算期間が1ヶ月を超える場合は、特例措置対象事業場であっても、週平均40時間を超えて労働させるには36協定の締結・届出と割増賃金の支払が必要となりますので、ご注意ください。

もちろん、清算期間が1ヶ月を超えていますので、フレックス協定の届出も必要です。

労働時間に過不足があった場合の対処法は?

フレックスタイム制を導入した場合に、清算期間における総労働時間と実労働時間との過不足に応じたときは、過不足に応じた賃金の支払が必要です。

総労働時間に過剰があった場合

超過した時間分の賃金を追加して支払います。

「所定労働時間=法定労働時間」でフレックスタイム制を導入した場合は、「超過した時間=法定外労働時間」となりますので、割増賃金を支払えば足ります。

これに対し、「所定労働時間<法定労働時間」のフレックスタイム制では、超過した時間のうち、どこからが法定労働時間における総枠を超えた労働時間なのかを見極める必要があります。

法定労働時間における総枠を超えていなければ労働基準法上の割増賃金を支払う必要がないからです。

総労働時間に不足があった場合

2通りの対応方法があります。

  1. 不足した時間分の賃金を控除して支払う
  2. 賃金控除は行わず、不足した時間を繰り越して、次の精算期間の総労働時間に合算する

②の対応を行う場合には、加算後の時間(総労働時間+前の清算期間における不足した時間)が、法定労働時間における総枠の範囲内であることが必要です。

そのため、②の対応は、「所定労働時間<法定労働時間」のフレックスタイム制の場合に採り得る対応といえます。

働き方改革による時間外労働の上限規制

働き方改革推進法の改正により、時間外労働の上限規制が強化されました。

この上限規制は、フレックスタイム制を導入している場合でも守らなくてはなりません。

フレックスタイム制における深夜労働と休日労働の取り扱い

フレックスタイム制を導入した場合、深夜割増(2割5分)と休日割増(3割5分)については、実際の労働時間数に応じて支払う必要があります。

これに対し、時間外割増(2割5分)は計算方法が異なります。

フレックスタイム制における時間外割増賃金は、清算期間における法定労働時間の総枠を超える労働に対して支払います。

つまり、実際の労働時間が清算期間における法定労働時間の総枠を超えていなければ、時間外割増賃金を支払う必要はありません。

そのため、時間外割増(2割5分)は、清算期間における法定労働時間の総枠を超えている労働時間に対して支払えば足ります。

よくある質問

フレックスタイム制の清算期間は、会社が自由に決めることができるのでしょうか?

清算期間はフレックス協定に定めなければならない事項ですので、会社のみの判断で自由に決めることはできません。

フレックスタイム制を導入した場合、労働者に残業命令を下すことは可能ですか?

できません。
フレックスタイム制は、始業・終業の時刻を労働者の意思に委ねる制度だからです。

フレックスタイムにおける時間外労働について、就業規則にはどのように規定すべきでしょうか?

実際の労働時間が清算期間における総労働時間に比べて著しく少なくなるおそれもありますので、不足分の賃金控除に関しては定めておくべきでしょう。
また、深夜割増や休日割増の支払が増大しないよう、深夜労働や法定休日労働をする場合は事前に所属長の承認を得る等、定めておくことも有用でしょう。

法定内残業が発生した場合でも割増賃金の支払は必要ですか?

不要です。
フレックスタイム制における時間外割増賃金は、清算期間における法定労働時間の総枠を超えなければ支払不要だからです。

フレックスタイム制においても、時間外労働が月60時間を超えた場合の割増賃金は、50%以上となるのでしょうか?

なります。
1ヶ月を超える清算期間を定めている場合でも同様です。

フレックスタイム制で時間外労働を適正に管理するなら、労務問題に強い弁護士にご相談ください。

フレックスタイム制は、従業員にとっては自由に働けるようになる制度であり、フレックスタイム制の検討されている会社は多いでしょう。

しかし、これまで見てきたように、フレックスタイム制は、使用者からすれば労務管理をより複雑にする制度でもあります。

当法人では、使用者側の労務を多く取り扱っております。

フレックスタイム制の導入に関していえば、単にフレックス協定を作成するだけではなく、クライアントの従来の勤務形態(所定労働時間が7時間30分等)にフィットした制度を設計し、未払残業代が発生しないためのオペレーションに関するアドバイザリー等、広くリーガルサービスを提供することができます。

フレックスタイム制を導入したいけれども何をどこまで行えば良いか分からないといった場合には、ぜひ、当法人を含む弁護士(事務所)へのご相談をご検討ください。

執筆弁護士

弁護士 岡 佳佑
弁護士法人ALG&Associates 弁護士岡 佳佑

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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