副業を認めるうえでの就業規則見直しのポイント

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

近年、厚生労働省のガイドライン改定やモデル就業規則からの副業禁止規定削除などにより、副業・兼業の促進が加速しました。今後も少子高齢化に伴い、副業人材の活用は人材確保の一つとして一般的になるでしょう。

従業員が副業によって新たな視点や経験を身につけることは、企業の成長にも繋がります。また、副業を認める社内体制は社員の定着率向上にも寄与するでしょう。一方で、副業が従業員の過労に繋がるケースも起こり得るため、どのような場合に副業・兼業を制限するべきかを踏まえた社内体制の整備が重要になってきます。

このページでは、副業を認める場合の就業規則の見直しや注意点について解説します。

副業を認めるには就業規則の見直しが必要

副業解禁以前の就業規則は、副業・兼業を禁止する規定が一般的でした。社内で副業を認めるには、この禁止規定を廃止することがまず必要となります。しかし、廃止するだけでは不十分であり、副業を認めるための提出書類や要件等を定めることも必要です。

また、就業規則が法的拘束力をもつためには、従業員へ周知することが必須要件となりますので、就業規則を改定したら従業員へ周知しましょう。
さらに、労働組合または労働者代表の意見書を添付して、労働基準監督署へ提出する等の手続きも忘れず行いましょう(労基法89条、90条1項及び2項)。

就業規則についての詳細は下記ページよりご確認ください。

就業規則への規定がないまま副業を認めるリスク

就業規則への規定がないまま副業を認めるリスクとして、以下の点が挙げられます。

  • 過重労働による健康問題:従業員が副業を含め長時間労働を行うことで、健康を害する可能性が高くなる
  • 情報漏洩のリスク:副業先で会社の機密情報が漏洩する可能性がある
  • 競業避止義務違反:従業員が競合他社で働くことで、会社の利益が損なわれる可能性がある
  • 業務効率の低下:副業によって従業員の集中力や業務効率が低下する可能性がある

副業の解禁が会社に損害をもたらさないよう、就業規則に副業に関する明確な規定を設けることが重要です。

厚生労働省が公表している「モデル就業規則」

厚生労働省が公表しているモデル就業規則も、副業を積極的に推進したことによって内容が変更されました。従来は、副業禁止の規定でしたが、改定によって勤務時間外は副業を可能としています。また、届出義務と不許可事由についても定めています。

しかし、モデル就業規則は、あくまでもモデルでしかありません。自社の事情に合わせて、経営に支障が出ない範囲で副業を認める規定内容にしたほうがよいでしょう。

副業に関して就業規則を規定するポイント

副業・兼業を認める際には、会社の方針に応じて就業規則に必要な規定を盛り込み、従業員に周知する必要があります。
一般的に定めておくべき事項として、以下の項目が挙げられます。

  • 副業・兼業を認める条件
  • 副業・兼業の申請手続きと届け出る内容(会社名等)
  • 過労状態になる場合等には副業・兼業の中止を命じること
  • 秘密保持義務・競業避止義務を守ること
  • 企業の名誉や信用を損ねてはいけないこと
  • 労働時間が通算されること
  • 通勤手当の取り扱い
  • 通勤災害・業務災害の取り扱い

規定を改定する際には、次項からの解説を参考にし、専門家に相談しながら進めると良いでしょう。

就業規則の記載事項については下記ページでも詳細を解説しています。

副業を認める範囲・対象者を明確にする

副業・兼業を認める際に、従業員の範囲を限定することはできません。
副業は正社員だけでなくパート社員、嘱託社員、短時間正社員などにも等しく認められます。

これは、副業が就業時間外に行われる私的な行為であり、裁判例でも「就業時間外は本来労働者の自由であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは特別な場合を除き、合理性を欠く」とされているからです( 昭和57年11月19日小川建設事件)。

ただし、裁判例にもあるように本業に支障が出るなどの「特別な場合」には、副業の禁止が認められる可能性があります。副業の内容によって本業への影響は異なるため、リスクを回避しながら柔軟に判断できる体制を整備することが重要です。

副業先の業務内容を制限できるか?

会社にとって損害が発生するおそれが非常に高い副業については制限することが認められる可能性が高いです。例えば、副業先が同業他社で自社の営業秘密が漏洩するリスクが高いといったケースが考えられます。

そのため、就業規則の不許可事由には以下のような規定を設けて副業を制限しておく方が良いでしょう。

  • 「副業等の内容が会社の業務と競合関係にある場合」
  • 「企業秘密が漏洩する、またはそのおそれがある場合」

なお、これらの不許可事由をより具体的に記載することもリスク回避の点から重要となります。

副業を認める時間帯や期間を定めても良いか?

副業を認めるにあたっては、副業を認める時間帯や期間について、会社の状況を踏まえながら、労使で十分に話し合って決める必要があります。

例えば会社が定める所定労働時間内の副業を禁止するのはもちろんですが、所定労働時間外でも副業の開始時間を確認する必要があります。残業する可能性の高い時間帯に副業を行うと、本業の労務提供に支障が出る可能性があります。副業の始業時間と本業の終業時間が近い場合には注意が必要です。

また、副業が平日の深夜におよび頻繁に行われる場合は、過労や健康問題が発生する可能性があります。
就業規則の不許可事由として以下の規定を設けることが重要です。

  • 「会社の業務に支障が生じる、または生じるおそれがある場合」
  • 「従業員の健康に悪影響があると会社が判断した場合」

さらに、会社の繁忙期が毎年決まっている場合は、その期間について副業を制限することも合理的です。

副業の届出・申請手続きを定める

副業・兼業の届出や申請手続きについても、就業規則に定めておきます。副業・兼業を許可するために、まずは会社がその内容を正確に把握できなければ、許可の判断ができません。

届出制とする際は、届出のフォーマットも作成しておきましょう。副業先の会社名や業務内容、就業時間など詳細がわかる書類の添付なども要件としておくと良いでしょう。

フォーマットに記載する内容としては以下の項目が挙げられます。

【副業の届出に記載する内容例】

  • 副業の契約形態(雇用・非雇用)
  • 副業先の事業内容
  • 副業先との労働契約締結日
  • 副業先との労働契約期間
  • 副業先での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻
  • 副業先での所定労働時間外労働の見込み時間数
  • 副業の内容に変更等があった場合の対応
  • 副業に関する事項について確認を行う頻度

申請における「許可制」と「届出制」の違いとは?

厚生労働省のモデル就業規則では、副業等について「届出制」を規定しています。届出制のメリットは、従業員が所定の書類を提出すれば副業・兼業が可能となり、手続きが簡便であることです。これは副業の自由度を高めたい場合に向いています。

一方、「許可制」のメリットは、会社が提出書類の内容を踏まえて副業を許可する方法により、長時間労働や営業秘密漏洩のリスクを管理できることです。これは副業によるリスクを慎重に管理したい場合に向いているといえます。

副業を禁止・制限できる条件を設ける

副業・兼業の促進に関するガイドライン』によると、以下のケースで副業を制限できるとされています。

  • ① 労務提供上の支障がある場合
  • ② 業務上の秘密が漏洩する場合
  • ③ 会社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
  • ④ 競業により自社の利益が害される場合

そのため、秘密保持義務や競業避止義務に違反するなど、会社の利益を害する可能性がある副業は禁止することが可能です。ただし、副業の許可基準が担当者や上司によって変わることがないように注意する必要があります。

副業規定に違反した場合の処分を定める

副業規定に違反した場合の処分を定めておきます。
副業規定に違反した場合、就業規則に無許可の副業・兼業を懲戒事由として定めていれば、懲戒処分の対象にすることは形式上可能です。ただし、裁判例では就業時間外の副業・兼業は原則自由とされており、企業秩序や本業の労務提供に支障がない場合、懲戒解雇などの重い懲戒処分は無効となる可能性が高いです。

実務上は、労務提供や企業秩序に具体的な支障がある場合には懲戒解雇も検討できますが、そうでなければけん責や減給などの軽微な処分を検討すべきでしょう。

懲戒処分については下記ページで解説していますのでご確認ください。

副業解禁における労務管理上の注意点

労働時間の通算管理

従業員が副業を行う場合、自社の労働時間の把握だけでは不十分です。
労働基準法第38条1項では、「事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定められています。つまり、副業がフリーランス等であればこの規定は適用されませんが、副業先との契約が雇用契約であれば、本業と副業先の労働時間を通算して管理する必要があります。

副業・兼業先の労働時間を自社の労働時間と合わせて、自社での労働が、1日8時間または週40時間を超える場合、時間外労働に関する36協定の締結・届出や割増賃金の支払いが必要です。

ただし、副業・兼業先の労働時間を正確に把握するのは困難です。この点について厚生労働省のガイドラインでは、「管理モデル」という簡便な労働時間管理の方法を定めていますのでご参考ください。

兼業・副業の違いについては下記ページよりご確認ください。

長時間労働を防ぐための措置

労働時間の管理については上記の通り、副業先の労働時間についても把握し、通算する必要があります。

自社の労働時間に問題がなくても、副業先と通算することで過労死ラインに達してしまうなど従業員の健康を害する可能性もあります。通算時間が過労死ラインに達していないとしても、就業時間中の居眠りや集中力の低下など、明らかな疲労が見られる場合には副業について本人と話し合う方が良いでしょう。

特に従事している業務が運転等であれば、過労による影響は本人だけで無く、第三者にも甚大な被害が発生する可能性がありますので、迅速な対応が必要でしょう。

なお、副業が解禁となったことにより、労災保険制度も改正されました。複数の事業主の事業に雇用される「複数事業労働者」に関する特別な制度が導入され、補償内容が手厚くなりました。

安全衛生については下記ページよりご確認ください。

副業による情報漏洩の防止

副業先が同業他社の場合、情報漏洩のリスクが高いとして、副業を許可しない選択肢もあります。しかし、異なる業種でも業務中の世間話やSNSでの情報拡散など、無意識に情報漏洩する可能性が無いとはいえません。

副業先がどのような業種であっても、副業許可の際には、情報漏洩に関する研修や秘密保持誓約書の提出を従業員に求めることが重要です。

情報漏洩が公になると、会社の社会的な信用が失われるなど大きな損害が発生します。特に重要と考えられる秘密情報については、不正競争防止法で保護される「営業秘密」としての要件を備えるなど、社内の管理体制も見直しておきましょう。

秘密保持義務の詳細については下記ページよりご確認ください。

副業・兼業に関する裁判例

ここで、過労回避を理由としたアルバイト不許可の適否について判断された裁判例をご紹介します。

事件の概要
運送会社Yは、準社員であるトラック運転手Xからアルバイトの申請を受けました。Xは担当コース変更により賃金が大幅に減額されたため、アルバイトが必要でしたが、Yは過労による事故の危険や法定休日の休息が必要との理由で4度にわたり不許可としました。Xはこの不許可に合理的な理由がないとして損害賠償請求を行いました。

裁判所の判断 (平成21年(ワ)第5151号・平成24年7月13日・京都地裁・第一審・マンナ運輸事件)

裁判所は、勤務時間外の副業は労働者の自由であり、会社は原則として許可すべきと判断しました。ただし、労務提供が不能または不完全になる場合や企業秘密が漏洩する場合などに、例外的に副業・兼業を禁止することが許されるとしています。

本事案では、過労となる可能性がある申請については不許可の判断に合理性があると認められましたが、就業日が法定休日であることを理由に不許可とすることはできないと判断しました。

ポイント・解説
就業時間外に副業・兼業を行うことについては、原則として従業員の自由です。
その上で、会社が禁止または制限できるパターンに該当するのかをしっかりと確認し、許可・不許可の判断をする必要があります。

従業員から不許可事由を求められた場合に整然と説明できるよう、判断のポイントや資料等についてはきちんと社内で記録化して残すようにしておきましょう。

副業に関する就業規則の定めについては弁護士法人ALGにご相談ください

副業解禁とはいえ、従業員の健康や会社の利益をどう守るのかは、依然として企業の責任です。

副業を認めることは多様な人材の確保や、従業員の柔軟なキャリアアップに繋がり非常に有益な点も多いとされていますが、無条件に許可することはリスクに繋がります。どのような副業を認め、どのような体制で問題発生を防ぐのかをよく検討した上で副業を許可する体制を作っていく必要があるでしょう。

就業規則にどのように定めるのかなど疑問があれば、企業法務の専門家の弁護士へご相談ください。法的観点から貴社の状況に合わせたアドバイスをさせて頂きます。

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執筆弁護士

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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