副業を認めるうえでの就業規則見直しのポイント

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

働き方改革の推進によって、2018年から副業の『解禁』が大きく取り上げられました。
厚生労働省のガイドライン改定やモデル就業規則から副業禁止規定が削除されるなど、副業・兼業を促進する動きは一気に加速しました。現在では民間企業だけでなく地方自治体においても、副業人材の活用が広まっています。少子高齢化によって、今後ますます、人材確保の1つとして副業人材の活用が一般的になることでしょう。

では、外部からの受け入れだけでなく、自社における副業体制はいかがでしょうか?副業を認めることで、新たな視点や経験を身につけることができれば、従業員の成長にも繋がります。
副業が社会でどんどん一般化されれば、副業を認める社内体制は社員の定着率向上にも繋がるでしょう。しかし、なんでも認めれば良いというわけではありません。副業を認めることで、従業員の過労に繋がるケースもあり得ます。どのような場合に副業・兼業を制限するべきかを踏まえた社内体制を整えましょう。

副業を認めるには就業規則の見直しが必要

副業解禁以前の就業規則は、副業・兼業を禁止する規定が一般的でした。社内で副業を認めるには、この禁止規定を廃止することがまず必要となります。しかし、廃止するだけでは不十分でしょう。副業を認めるための提出書類や要件等を定めることも必要です。

また、就業規則が法的拘束力をもつためには、従業員へ周知することが必須要件となりますので、就業規則を改定したら従業員へ周知しましょう。
さらに、労働組合または労働者代表の意見書を添付して、労働基準監督署へ提出する等の手続きも忘れず行いましょう(労働基準法89条、90条1項及び2項)。

就業規則についての詳細は下記ページよりご確認ください。

就業規則への規定がないまま副業を認めるリスク

副業禁止の規定を廃止すれば、従業員は、副業・兼業を行うことができます。

しかし、会社に過重労働等に対する安全配慮義務が無くなるわけではありません。本業だけでなく副業も行うとなれば、長時間労働になる可能性は非常に高くなるでしょう。従業員の健康を守る観点からも、副業の内容を事前に確認し、会社が過重労働等を抑止できるような制度にしておくべきです。

また、副業を認めるということは、情報漏洩や競業避止等のリスクもありますので、その点についても規定しておかなければ、良かれと思って解禁した副業により、会社に損害をもたらす可能性もあります。

厚生労働省が公表している「モデル就業規則」

厚生労働省が公表しているモデル就業規則も、副業を積極的に推進したことによって内容が変更されました。従来は、副業禁止の規定でしたが、改定によって勤務時間外は副業を可能としています。また、届出義務と不許可事由についても定めています。

しかし、モデル就業規則は、あくまでもモデルでしかありません。自社の事情に合わせて、経営に支障が出ない範囲で副業を認める規定内容にしたほうがよいでしょう。

副業に関して就業規則に規定すべき事項とポイント

では、副業・兼業を認めるにあたって、就業規則にはどのような規定を盛り込むべきでしょうか。会社の方針によって様々ですが、一般的に定めておくべき事項とそのポイントについて解説していきます。
実際に規定を改定する場合には、以下の解説でポイントを確認した上で、専門家に相談しながら行うとよいでしょう。

就業規則の記載内容については下記ページで詳細を解説しています。

副業を認める範囲・対象者

会社の従業員と一口にいっても、働き方は様々でしょう。正社員もいればパート社員、嘱託社員、最近であれば短時間正社員など多岐にわたります。
では副業について、たとえば正社員にだけ認めるなど限定することは可能なのでしょうか。

そもそも、副業については就業時間外になされるものですので、いわば私的な時間帯に行われる行為といえます。裁判例でも「就業時間外は本来労働者の自由であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは特別な場合を除き、合理性を欠く」とされています( 昭和57年11月19日小川建設事件)。

したがって、どの従業員も、原則としては、副業・兼業は認められるべきといえます。ただし、裁判例にもあるように「特別な場合」に該当する場合には、禁止することが合理的であると判断される可能性があるため、副業・兼業を認めることで、本業に支障が出るような特定の従業員について禁止することは可能と考えられます。

しかし、副業の内容によって、本業への影響は異なるでしょう。副業を認める方針とするのであれば、柔軟に判断できる体制が望ましいと考えられます。

副業を認める範囲を最初から限定するのでは無く、従業員が予定している副業内容と本業で行っている業務内容を勘案し、許可・不許可を判断できる体制にしておくと、リスクを回避しながら副業を認めることができるでしょう。

副業先の業務内容を制限できるか?

副業先が同業他社の場合には、社内の営業秘密が漏洩するリスクが考えられます。このように会社にとって損害が発生するリスクが非常に高い副業について制限することは、合理的と考えられます。就業規則の不許可事由に、以下のような規定を設けて制限しておくのが良いと思われます。

なお、以下の不許可事由を、より具体的に記載することが望ましいです。

  • 「副業等の内容が会社の業務と競合関係にある場合」
  • 「企業秘密が漏洩する、またはそのおそれがある場合」

副業を認める時間帯や期間を定めても良いか?

会社が定める所定労働時間内を禁止するのはもちろんですが、所定労働時間外であっても副業の開始時間を確認した方が良いでしょう。

もし、残業がまったくできないような時間帯に副業を行うとなれば、必要な範囲の残業もできなくなり、本業の労務提供に支障が発生する可能性があります。どの程度残業が発生するのかは会社の事情によりますが、副業の始業時間と本業の終業時間があまりに近い場合には注意しましょう。

また、副業が平日の深夜におよび、且つ頻繁なのであれば本業へ集中できないだけでなく、過労など健康を害する可能性もあります。就業規則の不許可事由に以下のような規定は最低限設けておくべきでしょう。

  • 「会社の業務に支障が生じる、または生じるおそれがある場合」
  • 「従業員の健康に悪影響があると会社が判断した場合」

もし、会社の繁忙期が毎年決まっているような業態であれば、あらかじめその期間については副業を制限することも合理的といえます。

副業の届出・申請手続き

副業・兼業の届出や申請手続きについても、就業規則に定めておきましょう。副業・兼業を開始する前に会社がその内容を正確に把握できなければ、許可の判断ができません。
申請にあたっては、副業先の会社名や業務内容、就業時間など詳細がわかる書類の添付なども要件としておくことが望ましいでしょう。

申請における「許可制」と「届出制」の違いとは?

厚生労働省が発表しているモデル就業規則では、副業等については原則として従業員の権利であるとした上で、届出制を規定しています。届出制の場合、従業員は所定の書類を届出すれば副業・兼業が可能となります。

しかし、会社には、長時間労働に対する安全配慮義務や営業秘密の漏洩などのリスクがありますので、提出書類の内容等を踏まえて判断する許可制としておくことをおすすめします。

就業規則に不許可事由を定め、その内容に抵触するような副業については許可しない、もしくは許可を取り消すとしておけば、副業の内容に応じて会社が判断することができます。

会社の利益を害する副業の禁止

競合他社やそれ以外であっても、自社の企業秘密の漏洩に繋がる可能性がある副業を認めてしまうと、会社に損害が発生する可能性があります。

そのような業種についての副業・兼業を禁止することは、会社の利益を守るためのものとして、合理性があると考えられます。会社の利益を害する副業については、禁止とする対応で問題ないでしょう。

直接的な競合関係で無くとも、副業・兼業を行う際にはあらためて従業員へ秘密保持義務について伝えておくことが望ましいです。

秘密保持義務の詳細については下記ページよりご確認ください。

競業行為・引き抜きについては下記ページで詳細を解説しています。

就業規則に違反した副業は懲戒処分の対象か?

就業規則に定めた手続きを行わずに無許可で副業・兼業を行っていた場合、就業規則に無許可の副業・兼業を懲戒事由として定めていれば、無許可の副業・兼業を懲戒処分の対象にすることは、形式上は可能です。
しかし、就業規則違反の副業で懲戒解雇まで可能かといえば、ケースバイケースではありますが、難しいと考えられます。

裁判例では、就業時間外での副業・兼業は、原則自由であるという考えが根底にあります。会社の企業秩序や本業の労務提供に支障が生じていないのであれば、懲戒解雇などの重い懲戒処分については無効となり得ます。副業・兼業の許可手続きを行わなかったという就業規則違反について、懲戒処分を下すこと自体は肯定される場合もありますが、その場合も、軽微な懲戒処分についてのみ有効と判断される可能性が高いでしょう。

実務上は、労務提供上の支障や企業秩序へ具体的な支障が生じている場合には、懲戒解雇のような処分も検討できると考えられますが、そうでなければ届出義務違反等として、けん責や減給等の軽微な処分を検討すべきでしょう。

懲戒処分については下記ページで解説していますのでご確認ください。

副業解禁における労務管理上の注意点

従業員が副業を行う場合、自社の労働時間の把握だけでは不十分となります。

労働時間については、「事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と労働基準法第38条1項に定められています。つまり、副業がフリーランス等であればこの規定は適用されませんが、副業先との契約が雇用契約であれば、本業と副業先の労働時間を通算して管理する必要があります。

しかし、副業・兼業先の労働時間を正確に把握するのは困難といえるでしょう。この点について厚生労働省のガイドラインでは、「管理モデル」という簡便な労働時間管理の方法を定めていますので参考になります。

兼業・副業については下記ページよりご確認ください。

副業による情報漏洩の防止

副業が同業他社の場合は、情報漏洩の可能性が高いとして、副業を許可しないという選択肢もあります。しかし、たとえば副業先が全く異なる業種であっても、業務中の世間話として、取引先の情報をうっかり話してしまうことなどは無いとはいえません。

最近ではSNSで情報を拡散されてしまうなどのリスクも考えられます。情報漏洩には意図的なものだけでなく、無意識に漏洩してしまう可能性もあります。副業先がどのような業種であっても、副業許可の際には、対象従業員へ情報漏洩に関する研修を行ったり、秘密保持等に関する誓約書を提出させるなど意識を高める働きかけが重要となります。

情報漏洩が公になると、会社の社会的な信用が失われるなど大きな損害が発生します。特に重要と考えられる秘密情報については、不正競争防止法で保護される「営業秘密」としての要件を備えるなど、社内の管理体制も見直しておきましょう。

秘密保持義務の詳細については下記ページよりご確認ください。

長時間労働を防ぐための措置

労働時間の管理については上記の通り、副業先の労働時間についても把握し、通算する必要があります。

自社の労働時間に問題がなくても、副業先と通算することで過労死ラインに達してしまうなど従業員の健康を害する可能性もあります。通算時間が過労死ラインに達していないとしても、就業時間中の居眠りや集中力の低下など、明らかな疲労が見られる場合には副業について本人と話し合う方が良いでしょう。特に従事している業務が運転等であれば、過労による影響は本人だけで無く、第三者にも甚大な被害が発生する可能性がありますので、迅速な対応が必要でしょう。

なお、副業が解禁となったことにより、労災保険制度も改正されました。複数の事業主の事業に雇用される「複数事業労働者」に関する特別な制度が導入され、補償内容が手厚くなりました。

安全衛生については下記ページよりご確認ください。

副業について争われた裁判例

副業・兼業に関する裁判例としては①無許可での副業・兼業を理由とする懲戒処分の有効性、②不許可事由がないにもかかわらず不許可としたことによる損害賠償請求の2種類が多く見られます。

不況により生活費の補填のため就業時間外にアルバイトをしたいという労働者は増えているでしょう。以下では、過労回避を理由としたアルバイト不許可の適否について判断された裁判例をご紹介します。

事件の概要
運送会社Yは、準社員であるトラック運転手Xからアルバイトの申請をされました。これはXの担当コース変更等によって賃金が大きく減額されていたため、アルバイト就労の必要があり、許可してもらうよう申請していました。

申請は4度にわたりましたがYは「過労で事故の危険がある」や「法定休日には十分な休息が必要」等を理由にいずれも不許可としました。Xはこの不許可に合理的な理由は無く、不法行為であるとして損害賠償請求しました。

裁判所の判断
(平成21年(ワ)第5151号・平成24年7月13日・京都地裁・第一審・マンナ運輸事件)

裁判所は、労働者は、雇用契約によって勤務時間内については労務提供の義務の履行を求められますが、勤務時間以外の時間をどのように利用するかは労働者の自由であるため、会社は、勤務時間外の副業については原則として許すべきと判断しました。その上で、労務の提供が不能又は不完全になったり、企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱す事態がある場合についてのみ、例外的に就業規則をもって副業・兼業を禁止することが許される旨判示しています。

本事案のアルバイト許可申請のうち、ある申請については、従業員が過労となる可能性があり、不許可の判断について合理性があると判断しています。しかし、その他の申請については就業日が法定休日であることをもって不許可とすることはできないなどと判断しました。

裁判所はXがYから執拗に不合理なアルバイトの不許可がされたことにより、生活の足しとする収入が得られなかったなどの精神的苦痛を被ったとして、損害賠償請求の一部を認めています。

ポイント・解説
就業時間外に副業・兼業を行うことについては、原則として従業員の自由とされています。
その上で、会社が禁止または制限できるパターンに該当するのかをしっかりと確認し、許可・不許可の判断をする必要があります。

判断のポイントや資料等についてはきちんと社内で記録化して残すようにしておきましょう。従業員から不許可事由を求められた場合に、整然と説明できる体制が必要です。

不許可の基準は、厚生労働省のモデル就業規則の記載を参考にするとよいでしょう。許可基準が担当者や上司によって変わることがないように注意しておく必要があります。

  • ① 労務提供上の支障がある場合
  • ② 業務上の秘密が漏洩する場合
  • ③ 会社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
  • ④ 競業により自社の利益が害される場合

副業に関して就業規則をどのように定めるかでお悩みなら、企業法務の専門家の弁護士にご相談下さい

副業解禁とはいえ、従業員の健康や会社の利益をどう守るのかは、依然として企業の責任です。

副業を認めることは多様な人材の確保や、従業員の柔軟なキャリアアップに繋がり非常に有益な点も多いとされていますが、無条件に許可することはリスクに繋がります。どのような副業を認め、どのような体制で問題発生を防ぐのかをよく検討した上で副業を許可する体制を作っていく必要があるでしょう。

就業規則にどのように定めるのかなど疑問があれば、企業法務の専門家の弁護士へご相談ください。法的観点から貴社の状況に合わせたアドバイスをさせて頂きます。

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執筆弁護士

弁護士 田中 佑資
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士田中 佑資(東京弁護士会)
プロフェッショナルパートナー 弁護士 田中 真純
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所プロフェッショナルパートナー 弁護士田中 真純(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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