ハラスメントの労働審判で、会社側が主張すべき反論と答弁書

会社にとって労働審判を申し立てられるということは、得てして突然のことであり、労働審判を申し立てられた会社としては、対応に窮してしまうということも珍しくありません。 殊に、「会社からハラスメントを受けていた」という主張をされることは、それが事実かどうかはさておき、会社のイメージを悪くさせるものであり、気持ちの良いものではありません。
では、ハラスメントを理由に労働審判を申し立てられた場合、会社としてはどのような対応をしていくべきでしょうか。

ハラスメントによる労働審判の申立てを受けた際にまず何をすべきか

ハラスメントによる労働審判を受けた場合、まずは、「申立書」に記載されている事実関係の有無について、社内調査を行うことが必要です。

労働審判は、他の法的手続に比べ、スピード感のある手続の進行がなされますので、社内調査も迅速に行っていく必要があります。

社内調査の内容としては、

  1. 事実の有無(パワハラにあたりうる発言があったかどうか等)
  2. 証拠の有無(パワハラ発言があったとして録音があるか、なかった場合にそれを証言できる者がいるか等)

を中心に、関係者への聞き取りや、メールやメッセージの内容確認といった調査をすることが考えられます。

ハラスメントによる労働審判に会社はどう反論すべきか?

労働者がハラスメントを理由として労働審判を申し立てる場合、その最終的な主張は、「会社にハラスメントがあったことによって生じた損害についての賠償をしろ」というものです。

この労働者の主張に対する会社の反論としては、上記調査の結果を踏まえ、いくつかのパターンが考えられます。

  1. 「申立書」記載の事実はないこと
  2. 「申立書」記載の事実はあるが、それらはハラスメントには該当しないこと
  3. ハラスメントの事実はあるが、それとは関係のない損害(精神疾患の罹患等)が主張されていること

といったパターンが主なものと考えられます。

実際の労働審判の場においては、上記反論を組み合わせたりして、会社としてハラスメントによる損害賠償責任を負わないという反論をしていくこととなります。

労働審判とはどのような制度か

そもそも、労働審判とは、いったいどのような制度なのでしょうか。

労働審判とは、裁判官1名と、会社側と労働者側の労働関係について専門的な知識を持つ労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、原則3回までの期日で、会社と労働者との間の紛争について審理する紛争解決手続のことをいいます。

労働審判委員は、審理の過程で調停を試みたり、調停による解決ができないような場合には、審判(通常の裁判でいう判決のようなもの)を行ったりします。

労働審判の主な流れ

労働審判は、労働者側からの申立てがあり、その申立書が会社に届けられることでスタートします。

その時点で、第1回労働審判手続期日が指定されていますので、会社は、その1週間前までに答弁書の提出を求められることが一般的です。

労働審判は、原則として3回以内の期日で手続きを終えるものとされているため、第1回の期日で労働審判委員から、大体の解決の方向性が示されることもあります。

ハラスメントの有無といった、主張及び証拠の整理については、原則として2回目までの期日で終えることとされており、3回目の期日には、労働審判委員からの最終的な和解案が示されることとなります。

上記3回までの審判期日において、会社と労働者との間で和解ができそうにない場合には、労働審判委員は、審判をすることとなります。

通常の裁判との違い

通常の裁判が、半年程度から数年程度の審理期間を要することを考えると、労働審判は、一般的に申立てから原則3回の期日で終了するものであり、また、会社に呼出状が届いてから3ヶ月から4ヶ月程度で手続が終了するものである点、通常の裁判手続に比べて非常に迅速な手続であるものと言えます。

もっとも、労働審判委員がする審判は、異議が出されてしまうと通常の訴訟に移行してしまうため、注意が必要となります。

つまり、会社に有利な内容の審判がなされても、労働者は引き続き訴訟で訴えを継続してくるケースがあるため、すぐに安心することはできないということです。

ハラスメントで労働審判を申し立てられた際にすべきこと

労働審判を申し立てられた際には、まず、会社に届いた「申立書」記載の事実関係について、調査することが必要です。

その後、定められた提出期限を目安に、「答弁書」の作成をしていくこととなります。

労働者の主張を把握する

労働審判への対応を進めていくにあたっては、労働者の主張を把握することが肝心です。

会社によるハラスメントに基づく損害賠償を求められているのであれば、①何がハラスメントであり、②ハラスメントによって何か起こったのかという点を中心に、主張している事実関係を、しっかり把握する必要があります。

会社側の反論を記載した答弁書の作成

答弁書に記載すべき内容は、大きく以下の3つです。

  1. 「申立ての趣旨」に対する答弁
    ⇒労働者の申立て(賠償金を支払え等)を争うかどうか
  2. 申立書記載の事実に対する認否
    ⇒申立書記載の事実を事実と認めるかどうか
  3. 会社側の反論
    ⇒上記反論のパターンに応じた会社としての反論とその理由
    (ハラスメントの事実がないのであれば、なぜ「ない」といえるのか等)

以上の答弁書の内容について、何らかの証拠がある場合には、証拠として提出する必要があります。

答弁書作成のポイント

ここで、パワハラの場合、セクハラの場合を想定した答弁書作成のポイントについて説明します。

パワハラの場合

まず、パワーハラスメント、いわゆるパワハラとは、職場において行われる以下の要素を備えた言動をいいます。

  1. 優越的な関係を背景としたものであること
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
  3. 労働者の就業環境が害されるものであること

パワハラについて争う「答弁書」を作成する際には、上記要素それぞれについて言及しておくべきでしょう。

特に、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであるかどうかは、言動の内容によりますが、その判断が難しいことが多いです。

その点を争う場合には、当該労働者の就業状況や、問題となる発言等が行われた経緯等から、行われた発言等が「業務上必要かつ相当な範囲内であること」をしっかりと説明しておくべきでしょう。

セクハラの場合

セクシュアルハラスメント、いわゆるセクハラとは、「職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否するなどの対応により解雇、降格、減給などの不利益を受けること」(対価型セクハラ)又は「性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に悪影響が生じること」(環境型セクハラ)をいいます。

○対価型セクハラの具体例

  • 事業主が性的な関係を要求したが拒否されたので解雇する
  • 人事考課などを条件に性的な関係を求める
  • 職場内での性的な発言に対し抗議した者を配置転換する

○環境型セクハラの具体例

  • 性的な話題をしばしば口にする
  • 恋愛経験を執ように尋ねる
  • 宴会で男性に裸踊りを強要する
  • 特に用事もないのに執ようにメールを送る

パワハラについて争う「答弁書」を作成する際には、上記類型とその具体例を念頭に、セクハラがなかったことを言及すべきでしょう。

会社内でよくあるセクハラといえば、「環境型セクハラ」が該当しますが、それそのもののみによって、多額の損害賠償が認められるということは考え難いです(かといって放置して良いものではありません)。一方で、昨今においては露骨なものは少なくなったとはいえ、「対価型セクハラ」が行われてしまった場合には、損害賠償額も大きくなりやすく、会社の内部統制の観点からも大問題です。

会社として、「対価型セクハラ」があったことを争う場合には、行われた解雇や配置転換と、性的な言動とが関係がないということを、人事考課等の客観的な資料を踏まえて説明する必要があるといえます。

なお、“セクハラ”について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

ハラスメントによる労働審判を未然に防ぐための対策

会社としては、ハラスメントが社内で行われてしまうと、労働審判や裁判に巻き込まれ、多額の損害賠償責任を負うおそれもあるなど、会社にとって大きなリスクを負うことになります。

このようなリスクを避ける根本的な対策としては、「ハラスメントを起こさない社内体制を整える」という方法が最も有効でしょう。

具体的には、社内での勉強会を設けてハラスメントに関する啓発を行い、そのうえでハラスメントに及んでしまった労働者を適正に処罰できるよう、就業規則を整える必要があるといえます。

また、ハラスメントが起こってしまった場合に備え、社内の手続でトラブルを解決できるよう、社内に相談窓口を設置しておくことも、リスクを大きくしない対策として有効です。

その他、ハラスメントは、労働者同士の密室的なやり取りの中で行われることが多いため、ミーティングの内容の議事録を取っておくことや、労働者同士のメッセージのやり取りを事後的に確認できるようにしておくこと、労働者同士が密室でやり取りをしないように工夫をしておく(なるべくオープンスペースでミーティングを行うようにしたりする等)ことも対策として考えられます。

このような措置をとっておけば、ハラスメントが起こってしまった場合にも、事後的な調査が行いやすくなるものと考えられます。

ハラスメントの労働審判において、会社側は可能な限り反論すべきです。答弁書の作成などでお悩みなら弁護士にお任せください

会社にとって労働審判を申し立てられた際の対応は、手続の迅速性から、申し立てられたハラスメントの内容が事実かどうかにかかわらず、非常に負担となります。

特に、答弁書の作成は、短い労働審判の手続の中で一番重要な作業となりますが、その作成にあたっては、迅速かつ充実した事実調査を前提に、法的な知見を前提とした主張・反論を展開する必要があり、そのような経験のない会社の経営者の方や、担当者の方にとっては、難易度が高いものといわざるを得ません。

労働審判を申し立てられた際には、なるべく早い段階で、弁護士にご相談いただくことを推奨します。

執筆弁護士

弁護士 大平 健城
弁護士法人ALG&Associates 弁護士大平 健城

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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