被害妄想型のモンスター社員を解雇できる?不当解雇にならないための注意点

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

パワーハラスメント等の労務上の問題を抱えた会社が「ブラック企業」と呼ばれるようになって久しいですが、逆に昨今では、過度な被害妄想をした結果、業務態度が悪い、欠勤を繰り返す等の問題を起こす社員に関連した問題が生じるケースもあります。
以下では、会社として、過度な被害妄想をする問題社員にどのように対応するべきか等について解説していきます。

目次

過度な被害妄想をする問題社員とは?

被害妄想を抱える問題社員と一口に言っても様々であり、単に会社からの注意指導に対して、パワハラ等と主張して被害を受けたと強弁する社員や、精神的疾患に起因する被害妄想を抱える社員等様々なケースが存在します。

過度な被害妄想をする問題社員の典型例

過度な被害妄想をする問題社員の例としては、過度な被害妄想をすることにより、上司の注意指導を自らに対する不必要な攻撃等と捉え、無断欠勤を続ける社員、上司や同僚に対して暴言を吐く社員といったものが挙げられます。

こういった過度な被害妄想をする問題社員は、上司が業務上必要な範囲で注意指導しようとしても、注意指導自体がパワハラに該当する等と主張して、自らが被害者であると強弁して、被害妄想的な言動をとることもあります。会社としては、社員からパワハラであると主張されてしまうと、業務上必要な注意指導であったとしても、躊躇してしまう側面があることは現実的にあり得るところです。

過度な被害妄想をする社員になってしまう原因は?

過度な被害妄想をする社員になってしまう原因としては、上司があまり注意指導等をせず、社員の問題行動を放置する等してしまうことで、時折注意をされると、過度に反応し、自らの行動を顧みずに被害者意識を強く持つこと等が挙げられます。

過度な被害妄想をする問題社員が会社に及ぼす影響

過度な被害妄想をする問題社員が会社に及ぼす影響としては、職場環境の悪化や他の社員の士気の低下が挙げられます。

例えば、過度な被害妄想をする問題社員の問題行動について業務上必要な範囲で注意指導をしようとする上司に対し、パワハラであると反論する等して、上司とのコミュニケーションを拒絶するというケースがあります。場合によっては、過度な被害妄想をする問題社員は、上司のみならず同僚との間でも衝突することも少なくなく、職場全体の環境が悪化してしまうことになります。

また、過度な被害妄想をする問題社員からの法的措置を極端に恐れて会社が対応を放置していると、他の社員からは「あんなに問題を起こしても会社は注意しない」と受け止められてしまい、他の社員の士気が低下してしまうリスクもあります。

過度な被害妄想をする問題社員を解雇できる?

過度な被害妄想をする問題社員が問題行動を続けるようであれば、会社としては解雇を含め、毅然とした対応を考えなければなりません。

しかし、過度な被害妄想をする問題社員がいることで職場環境が悪化しているとしても、いきなり解雇してしまうと、過度な被害妄想をする問題社員から解雇の有効性を争われてしまい、解雇が無効と判断されてしまう可能性が高いです。

我が国の労働法制は労働者を保護する体制を敷いており、例え過度な被害妄想をする問題社員であってもそう簡単に解雇をすることはできないことに注意しなければいけません。過度な被害妄想をする問題社員を最終的に解雇するとしても、まずは過度な被害妄想をする問題社員に注意指導を続けながら、これに従わないようであれば、戒告、譴責等の比較的軽い懲戒処分を行い、段階を踏んで解雇に踏み切ることが望ましいでしょう。

また、場合によっては懲戒処分を行う前に、社員を休職させて治療に専念させることが求められるケースもあります。

詳しくは以下のページもご覧ください。

不当解雇に注意!解雇に踏み切る前に検討すべき対応

会社としては、あくまで解雇は最終手段であるという前提の下、解雇に及ぶ前にその他の手段をもって過度な被害妄想をする社員の問題行動を収拾することができないかを検討する必要があります。基本的には、以下の手順に沿って過度な被害妄想をする問題社員に対応することが考えられます。

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事実確認を行う

過度な被害妄想をする問題社員の問題行動に関する通報等があった場合、会社は、まず当該問題行動があったか否か、問題行動の原因等、事実確認を行う必要があります。

ここで他の社員からの通報内容だけを鵜吞みにして事実確認を疎かにしてしまうと、後に通報内容に誤り等があったことが発覚した場合、会社が下した懲戒処分の有効性に疑義が生じる可能性もあります。会社としては、書面等の客観的証拠を収集する他、複数の社員からヒアリングを行う等、客観的かつ確実な事実確認を行うようにしましょう。

問題行動に対して指導する

事実確認を行った結果、過度な被害妄想をする問題社員の行動が事実であることが判明した場合は、過度な被害妄想をする問題社員に対して、注意指導を行います。

具体的には、過度な被害妄想をする問題社員の行動の何が問題なのかを指摘しつつ、改善を求めることになります。場合によっては、過度な被害妄想をする問題社員から、注意指導を行うこと自体がパワハラである等と独自の主張を展開されることもあり得ますが、会社としては業務上必要な範囲での注意指導であってパワハラではないとの立場の下、毅然と注意指導を行うことが必要です。

その際、後に過度な被害妄想をする問題社員との間で注意指導に関して言った・言わないの争いになることを避ける観点から、面談内容を書面化することや、録音をする等して、客観的な証拠を確保するようにしましょう。

懲戒処分を検討する

繰り返しの注意指導にもかかわらず、過度な被害妄想をする問題社員が問題行動を改めないのであれば、いよいよ懲戒処分の検討段階に入ります。

しかし、ここで拙速に懲戒解雇を行うべきではありません。後に過度な被害妄想をする問題社員側から解雇の有効性を争われ、解雇の有効性が否定される可能性が高いためです。

労働者を解雇する場合、客観的・合理的な理由の下、社会通念上の相当性が求められます(労働契約法第16条)。ここでいう「社会通念上の相当性」の中においては、解雇を行う前に労働者に対して注意指導を行ったか等の事情が検討されるところ、拙速な解雇を行ってしまうと、労働者に対して必要な注意指導を行っていなかったと判断される可能性が高くなってしまいます。そこで、まずは戒告、譴責等の比較的軽い懲戒処分を行い、過度な被害妄想をする問題社員に対して、段階的に注意指導を行ったという証拠を残すことが望ましいといえます。

他方で、事実調査を行う過程で、問題社員の過度な被害妄想が、精神的疾患に起因するものであることが疑われるケースもあります。
この場合、会社としては、懲戒処分の措置をとる前に、精神科医による健康診断等を促し、必要に応じて休職等の対応を検討してその経過を見る対応をとることが必要になります。あくまで解雇は最終手段であり、治療による改善の余地があるのであれば、改善に向けた対応を会社としてとることが求められます。

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退職勧奨を行う

会社としては、解雇だけではなく、過度な被害妄想をする問題社員に対して退職勧奨を行い、当該社員との間で退職合意を結ぶことも考えられます。この方法によって過度な被害妄想をする問題社員に退職してもらうメリットとしては、合意での退職になりますので、一方的に雇用関係を終了する解雇と異なり、過度な被害妄想をする問題社員との間で紛争化する恐れが比較的少ないという点が挙げられます。

他方で、過度な被害妄想をする問題社員側が明確に退職勧奨に応じない意向を示しているにもかかわらず、退職勧奨に応じなければ解雇する等、退職を強要するような対応をとってしまうと、違法な退職強要がなされたものとして、後に退職合意が取り交わされたとしても無効になってしまうことがありますので注意が必要です。

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過度な被害妄想をする問題社員を生まないための対策

過度な被害妄想をする問題社員を社内に生み出さないためには、会社として、過度な被害妄想をする問題社員に対して、解雇を含めた毅然とした対応をとることが重要です。

過度な被害妄想をする問題社員は、インターネット等で得た労働法制に関する知識を自己に有利に解釈することがあり、会社単独で対応することが困難な場合もあります。しかし、対応が困難であるからと言ってこれを放置してしまうと、職場環境の悪化等にも繋がりかねません。会社としては、過度な被害妄想をする問題社員に対する注意指導等を行い、過度な被害妄想をする問題社員からの不当要求や不当な主張に対しては、きっぱりと拒絶する姿勢が求められるでしょう。

他方で、過度な被害妄想が精神的疾患に起因するものである場合には、通院を進める等の対応をとり、問題社員の問題行動が悪化しないような対策をとることも必要になります。

過度な被害妄想をする問題社員の対応でお困りなら、お早めに弁護士にご相談下さい

会社単独で過度な被害妄想をする問題社員の対応をすることは困難なケースも多いです。場合によっては、弁護士の助言を得ながら、過度な被害妄想をする問題社員に対する対応策を練ることも有効です。過度な被害妄想をする問題社員の対応にお困りでしたら、お早めに弁護士までご相談ください。

よくある質問

過度な被害妄想をする問題社員の特徴を教えて下さい

過度な被害妄想をする問題社員は、当該社員に対して、上司が業務上必要な範囲で注意指導しようとすると、注意指導がパワハラに該当する等、自らが被害者であると強弁して、被害妄想的な言動をとるという特徴があります。

過度な被害妄想をする問題社員にはどのように接したらいいですか?

過度な被害妄想をする問題社員に対しては、会社として、適切に注意指導を行い、場合によっては懲戒処分や解雇を行うといった毅然とした対応をとることが必要です。

他方で、拙速な対応をしてしまうと、過度な被害妄想をする問題社員にかえって反論の材料・武器を与えてしまうことにもなりかねません。そこで、会社としては、注意指導を行った面談記録等の客観的証拠を残すことや、懲戒処分を下す際には弁明手続きをとる等、適切な手続きを踏むことが必要になります。

なお、問題社員の被害妄想が精神的疾患に起因するケースもあります。この場合には、通院等を勧めて、場合によっては休職措置をとるなど、段階的な対応をとることが必要になります。

過度な被害妄想をする問題社員への対応を誤るとどうなりますか?

過度な被害妄想をする問題社員への対応として、必要な手続きを経ない等の不十分な対応の下で懲戒処分を下す等の誤った対応をとると、後に懲戒処分の有効性が認められない結果になるリスクがあります。

他方で、過度な被害妄想をする問題社員からの法的措置を恐れて対応を放置すると、他の社員からは問題行動をとる社員を会社が放置・黙認しているように受け取られ、会社全体の士気が下がることにもつながりかねません。

過度な被害妄想をする問題社員の配置転換が違法になるケースはありますか?

配置転換については、業務上の必要性がなく、必要性があるとしても不当な動機・目的をもってなされたもの又は社員に著しい不利益を生じさせる場合には、違法な配置転換としてその有効性が認められない場合があります。

しかし、過度な被害妄想をする問題社員の行動(ハラスメント等)が他の社員に対して悪影響を及ぼしており、他の社員の就労環境が悪化しているというケースも珍しくありません。この場合、会社としては、安全配慮義務の下、他の社員の就労環境の安全を保つ義務もあることから、他の社員の就労環境の保護という点も踏まえて配置転換の可否を判断することになると考えられます。

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過度な被害妄想をする問題社員の懲戒処分の重さはどの程度が妥当ですか?

過度な被害妄想をする問題社員に行う懲戒処分の重さは、ケースバイケースではありますが、単に他の従業員に暴言を吐く、上司が注意指導しても従わない等の事実のみでは、即座に懲戒解雇を行うことは認められない可能性が高いと考えられます。

極めて重大な懲戒事由に該当する場合ではない限りは、初回の懲戒処分としては、戒告、譴責等の比較的軽い処分を検討することが妥当です。

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過度な被害妄想をする問題社員の解雇でトラブルにならないためにはどうしたらいいですか?

過度な被害妄想をする問題社員を解雇する場合、当該社員に対して繰り返し注意指導を行った証拠資料を残しておくことに加え、懲戒処分としての解雇を行う場合には、弁明手続きを付与する等、適切な手続きを踏むことがトラブル回避のために重要となります。

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過度な被害妄想をする問題社員とコミュニケーションがとりづらいことを理由に解雇できますか?

単にコミュニケーションがとりづらいというだけで解雇することは有効な解雇と認められない可能性が高いです。極めて重大な懲戒事由に該当する場合ではない限りは、初回の懲戒処分としては、戒告、譴責等の比較的軽い処分を検討することが妥当です。

戒告、譴責等の比較的軽い懲戒処分を行った上、注意指導を繰り返し行ったにもかかわらず、問題行動が改善されなかったという段階を踏んで、初めて解雇を検討することになります。その際には、過度な被害妄想をする問題社員に対して、改善を求める事項を明示して注意指導を行った記録を確実に証拠資料として残すようにしましょう。

過度な被害妄想をする問題社員から訴訟を起こされた場合の対処法はありますか?

過度な被害妄想をする問題社員から懲戒処分や解雇の有効性を争う訴訟を起こされた場合、従前に行ってきた過度な被害妄想をする問題社員に対する注意指導の記録等、懲戒処分等が有効であることを主張するための資料を収集し、会社の判断が誤っていなかったことを主張する体制をしっかりと整える必要があります。

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執筆弁護士

弁護士 榊原 誠史
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士榊原 誠史(東京弁護士会)
プロフェッショナルパートナー 弁護士 田中 真純
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所プロフェッショナルパートナー 弁護士田中 真純(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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