企業がとるべき無期転換ルールへの変更対応

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

本記事では、「企業がとるべき無期転換ルールへの変更対応」について解説していきます。
無期転換ルールについて、「話は聞いたことがあるけど、具体的にどのように対応したらいいのか分からない」という経営者の方も多いのではないでしょうか。
また、「問題社員については、無期転換ルールを適用したくないがどうしたらいいのか」とお悩みの方もいらっしゃるでしょう。

そのような方は、まず本記事をご覧いただき、ご参考いただければと思います。

目次

「無期期転換ルール」とは?

「無期転換ルール」とは、同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約者が、以下の労働契約法上の要件を満たした場合に、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことを指します。

  • 有期労働契約が5年を超えて更新された場合
  • 有期契約労働者(契約社員、アルバイトなど)からの申込みがある

労働契約法
(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)第18条第1項

同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

問題社員の無期転換を拒否することは可能か?

事実関係にもよりますが、契約期間が満了することによって、当然に有期労働契約を終了できる場合や、無期転換の拒否、つまり雇止めの理由が労働契約法19条柱書の「客観的に合理的な理由」及び「社会通念上相当」であると認められる場合には、無期転換を拒否することはできると考えられます。

そもそも、有期労働契約は、期間満了とともに終了するのが原則です。法律上、期間の定めがある雇用契約は、その契約期間中に「やむを得ない事由」がなければ解消することができないと定められている(労働契約法17条、民法628条)ことから、「やむを得ない事由」がない限りは、期間の満了により当然に雇用契約が終了することが予定されているものと解されます。
そのため、有期労働契約に定められた契約期間が満了することで、契約を終了させること自体は可能と考えられています。

もっとも、有期契約労働者が契約を何度も更新されたにもかかわらず、突如、期間満了により契約を終了されるとなると身分保障が十分であるとはいえません。実際に、反復して有期労働契約を更新され、長期間雇用契約が継続していた労働者が突如、雇止めをされるという事態が複数発生していました。

そこで、最高裁判例が、契約更新の手続きが形骸化して実質的に期間の定めのない契約と実質的に同一である場合や、更新手続きがなされていても労働者の雇用継続への合理的期待を保護すべき場合に、その更新拒絶について、解雇権濫用法理を類推適用すべきと判断し、裁判実務上、同様の判断がなされてきました。

この裁判実務上の考え方が、法律に明文化され、労働契約法19条として定められました。
すなわち、以下どちらかの場合は、雇止めをするためには客観的に合理的な理由及び社会通念上相当性を備えることが必要になります。

(1)有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあり、当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できる場合(1号)
(2)労働者において有期労働契約の契約期間の満了時に有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合(2号)

ここから、次のように有期労働契約の更新態様ごとに雇止めの法的効果が考えられることになります(「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について」厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)。

①期間満了後も雇用関係が継続すると期待することに合理性が認められないもの:原則どおり契約期間満了により当然に契約関係が終了する。

②期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っていると認められたもの:解雇権濫用法理が類推適用される(雇止めに客観的に合理的な理由及び社会通念上相当性が必要)。

③相当程度の反復更新の実態があり雇用継続への合理的な期待が認められるもの:解雇権濫用法理が類推適用される(雇止めに客観的に合理的な理由及び社会通念上相当性が必要)。

④当初の契約締結等から雇用継続への合理的な期待が生じているもの:解雇権濫用法理が類推適用される(雇止めに客観的に合理的な理由及び社会通念上相当性が必要)。

そのため、問題社員の無期転換を拒否するために雇止めを行うに当たっては、以下のような事情を確認し、上記①~④のどの態様に当たるかを考慮する必要があります。

  • 当該問題社員との有期労働契約の内容
  • 雇用の臨時性・常用性
  • 従前の更新の回数
  • 更新に当たっての説明内容(使用者の言動)
  • 雇用の通算期間

もし、上記②~④までの有期労働契約の更新態様に該当するのであれば、問題社員の問題行動によっては、雇止めに客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると判断される可能性があります。
まずは、当該問題行動の事実確認、分析から始める必要があるでしょう。

無期転換回避を目的とした雇止めは有効か?

無期転換申込権が発生する前に、無期転換を回避しようと雇止めを行うのは、労働契約法19条の趣旨に照らすと、無効と判断される可能性が高いです。もっとも、雇止め自体に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である場合には、雇止めは有効とされる可能性もあります。

前述のとおり、労働契約法19条は、有期労働契約者の身分保障が不十分であるため、契約を反復・更新されている有期労働契約者の地位を保護するということを目的としています。

このことから、有期労働契約が反復・更新されたにもかかわらず、無期転換を回避しようという目的で雇止めを行うのは、労働契約法の趣旨に反するものであり、そのような雇止めは無効であると判断される可能性があります。

そのため、無期転換を回避することのみを目的とした雇止めは避けるべきでしょう。

無期転換については、以下のページでも解説しています。あわせてご覧ください。

懲戒処分に値する行為があった場合は?

懲戒処分に値する行為があったことから直ちに雇止めが有効になると判断されるわけではないと考えられますが、雇止めの有効性が認められるための考慮要素の一つになると考えられます。

過去の裁判例(東京地方裁判所 平成29年12月25日判決)においても、労働者が「度重なる業務命令に違反し、また、胸章の着用や清潔な身だしなみを整えることといった服務規律に関する度重なる指導を受け、これらが容易に改善することができる性質のものであるにもかかわらず、改善をしなかったことも、軽視することは相当ではない。」として、懲戒事由に該当しうる業務命令違反を考慮要素の一つとし、雇止めは「客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当である」と判断しました。

個別具体的な事情により、判断要素が変わり得るものではありますが、少なくとも裁判実務では、雇止めの有効性判断において、懲戒事由を考慮要素に含んでいることがうかがわれます。

懲戒処分を行う場合の注意すべきポイントについては、以下のページでも解説しています。あわせてご覧ください。

問題社員の無期転換を回避するには

確実に無期転換を回避するというのは困難ではありますが、有期労働契約を締結する場合の契約内容の整備、有期労働契約を更新する場合の手続きの整備を適切に行うことが肝要です。

また、問題社員の問題行動の内容にもよりますが、雇止めに客観的に合理的な理由及び社会通念上相当性があると認められるように記録化することが必要になります。

なお、無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、あらかじめ労働者に無期転換申込権を放棄させることは、法の趣旨に反し、当該意思表示は無効と解されるため、できないものと考えられています。

初めから5年の有期契約社員として採用する

有期労働契約締結の当初から不更新条項・更新限度条項を明示的に定める方法や、採用の際に雇用の臨時性を説明しておく方法があります。
そこで、有期労働契約締結当初から契約書に「不更新条項」や「更新限度条項」を定めることができるのか、が問題となります。

この点、厚生労働省の通達(平15.10.22基発1022001号)において、有期労働契約を更新しない理由の明示例として、以下のように記載していることから、不更新条項や更新限度条項を定めた契約を締結することの有効性を認めているものとうかがわれます。

  • (ア)前回の契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていたため(不更新条項)
  • (イ)契約締結当初から、更新回数の上限を設けており、本契約は当該上限に係るものであるため(更新限度条項)

もっとも、契約書に不更新条項や更新限度条項を定めているからといって、雇止めができると安心できるわけではないことに注意が必要です。

というのも、有期労働契約が更新されることの合理的期待の有無は、期間満了時に判断される(労働契約法19条1項)ことから、例えば、期間満了までの間に、使用者側から限度を超える雇用継続を期待させるような言動があったという事情等を踏まえ、更新上限期間で雇止めをされるような地位にあることを予想していたものとは考えられず、雇用継続に対する合理的期待が生じていたとして、雇止めを無効と判断した裁判例があります(東京高等裁判所 平成13年6月27日判決)

そのため、有期労働契約の期間中や契約期間満了時においても、更新されることの期待が生じるような発言を控えること、また更新への期待を持たれない説明を行うことを心掛ける必要があります。

クーリング期間について

同一の使用者との間で有期労働契約を締結していない期間、すなわち「無契約期間」が、一定の長さ以上にわたる場合、この期間が「クーリング期間」として扱われ、当該無契約期間以前の契約期間が通算期間に算入されないという考え方です(労働契約法18条2項)。

クーリング期間の長さは、次の表のとおりです。

無契約期間の前の通算契約期間 契約がない期間(無契約期間)
2ヶ月以下 1ヶ月以上
2ヶ月超~4ヶ月以下 2ヶ月以上
4ヶ月超~6ヶ月以下 3ヶ月以上
6ヶ月超~8ヶ月以下 4ヶ月以上
8ヶ月超~10ヶ月以下 5ヶ月以上
10ヶ月超 6ヶ月以上

引用元:無期転換ルールハンドブック~無期転換ルールの円滑な運用のために~」厚生労働省

もっとも、以下の厚生労働省の公表結果が示すように、労働契約法18条1項の潜脱とならないように適切にクーリング期間を利用することが必要になります。

企業が無期転換の対応を取らないことのリスク

無期転換ルールに基づき無期転換申込権を行使した労働者に対し、無期転換の対応をしなかった場合、つまり雇止めや解雇を行った場合には、当該労働者から、雇止めや解雇の効力を争う労働審判の申立てや訴訟提起がなされると考えられます。

この場合、無効と判断される可能性は高く、無期労働契約が締結された労働者として雇用する義務が生じるでしょう。

無期転換ルールに違反した場合の罰則

労働契約法18条1項に違反した場合であっても、罰則は課せられません。
労働契約法自体に、罰則が定められていないからです。

もっとも、上記のように、無期転換ルールに違反したことにより、無期労働契約が締結された労働者として雇用する義務が生じます。

無期転換後の労働条件に関する注意点

無期転換後の労働条件については、労働協約や就業規則、個々の労働契約に別段の定めがある場合を除き、直前の有期労働契約と同一の労働条件となります。
なお、無期転換後の雇用区分については、会社ごとに定められた制度に基づいて取り扱うことになります。

就業規則を整備する必要性について

無期転換ルールは、あくまで契約期間が有期から無期に転換されることを内容とするものであるため、無期転換後の給与や待遇などの労働条件は、就業規則等で別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一の労働条件が適用されることになります。

そのため、無期労働契約に転換された労働者に対して、どのような労働条件が適用されるかを会社内で検討した上で、別段の定めをする場合には、就業規則に当該労働条件が適用される旨の規定を設ける必要があります。

もっとも、無期転換前の労働条件よりも下回る条件を規定することは、無期転換ルールの趣旨を損なうものと考えられるため、望ましいものではありません。

有期労働契約にまつわる裁判例

ここで、無期転換への期待を認めなかった最高裁判決をご紹介します。

事件の概要

労働者Xは、平成23年4月1日、Y学園に、同学園契約職員規程(以下、「本規程」という。)に基づき、契約期間を同日から平成24年3月31日までとする有期労働契約を締結して、契約社員となり、Y学園が運営するA短期大学の講師として勤務していた。

本規程において、契約社員の雇用期間は、当該事業年度の範囲内とし、契約職員が希望し、かつ、当該雇用期間を更新することが必要と認められる場合であり、当該契約社員の在職中の勤務成績が良好であると認められれば、3年を限度に更新することがある旨が定められていた。

Y学園は、平成24年3月19日に、労働者Xに対し、同月31日をもって労働契約を終了する旨を通知したところ、労働者Xは、当該雇止めが無効であるとして訴訟を提起した。

原審は、採用当初の3年の契約期間に対する労働者Xの認識や契約職員の更新の実態等に照らせば、3年は試用期間であり、特段の事情がない限り、無期労働契約に移行するとの期待に客観的な合理性があるとして、雇止めが無効であると判断した。

裁判所の判断

福原学園事件【平成27年(受)第589号 最高裁判所第一小法廷 平成28年12月1日判決】

雇止めが無効であるとの原審の判断を破棄し、雇止めが有効であると判断した。
労働者XとY学園との間の労働契約は、期間1年の有期労働契約として締結され、その内容となる本規程には、契約期間の更新限度が3年であること、無期労働契約にすることができるのは、希望する契約社員の勤務成績を考慮してY学園が必要と認めた場合である旨が明確に定められているため、労働者Xは契約更新について十分に認識した上で、労働契約を締結したことを認定した。

その上で、大学の教員の雇用が一般に流動性のあることが想定されていること、3年の更新限度期間の満了後に労働契約が期間の定めのないものとならなかった契約社員も複数に上っていることに照らし、労働契約が期間の定めのないものとなるか否かは、労働者Xの勤務成績を考慮して行うY学園の判断に委ねられるとして、労働者XとY学園との間の労働契約が3年の更新限度期間の満了にともなって、当然に無期労働契約となることを内容とするものであったとはいえないと判断した。

ポイント・解説

本判決は、事例判断であり、一般的な考え方を示したものではないことをご留意ください。

実務上、中途入社社員の適性を測るために、期間の定めのない労働契約を締結せずに、短期間(1年)の有期労働契約を締結し、期待した適性がない場合には、期間満了と共に有期労働契約を終了させるという運用が見受けられます。

このような有期労働契約が、実際には、無期労働契約の試用期間として扱われ、有期労働契約として効力を有さないのではないかという点が問題となり得ます。

本判決の原審では、3年の労働契約が労働者の適性評価のための期間としての試用期間であると判断しましたが、本判決は、一定の理由を付した上で、試用期間に当たることを否定し、有期労働契約であると判断した点に、実務上の運用において注目すべき点があると考えられます。(なお、本判決の第1審及び原審において、労働者Xが当初から無期労働契約であり、1年は試用期間との主張を行っていないことは十分にご注意ください。)

本判決において、有期労働契約に当たると判断した理由において、主に①労働契約が期間1年の有期労働契約として締結されたこと、②就業規則においても契約期間の更新限度が定められていること、③職業の性格として流動性があること、④更新限度期間の満了後に契約が終了した労働者が存在すること、という事情を掲げており、有期労働契約であることが明確となる事情を備えていることが必要と考えているものとうかがわれます。

そのため、実務上の運用においても、試用期間のための有期労働契約を締結する場合には、雇用契約書や就業規則を整備する等の対応を行い、明確に有期労働契約であることが分かるようにすることが重要と考えられます。

問題社員への無期転換対応についてお悩みなら、労働問題の専門家である弁護士にご相談下さい

ここまで企業がとるべき無期転換ルールについて解説してきました。

もともと、無期転換ルールは有期労働契約者の地位を保護するために定められたものであるため、企業側としてはその点に十分留意して対応することが求められます。特に、無期転換申込権が発生する前に、無期転換を回避しようと問題社員に対して雇止めを行うのが有効とされるかという点については、難しい判断が求められ、より慎重な対応が必要です。

弁護士法人ALGには労働問題に関して豊富な経験を持つ弁護士が多数在籍しています。ぜひ、相談をご検討ください。

無期転換ルールに関するQ&A

労働契約法19条柱書において、雇止めの理由が「客観的に合理的な理由」及び「社会通念上相当」であると認められる場合には、無期転換を拒否することはできると定められています。

もっとも、いかなる事由があれば、雇止めの理由に「客観的に合理的な理由」及び「社会通念上相当」であると認められるかという判断基準がないため、当該従業員に関する事情を総合的に考慮する必要があります。


能力が低いことを理由に、無期転換を認めないとすることは可能ですか?

事実関係にもよりますが、単に能力が低いという理由のみでは「客観的に合理的な理由」及び「社会通念上相当」であるとは認められ難いと考えられます。

遅刻欠勤の多い有期労働者から無期転換の申込みがあった場合、応じる必要はありますか?

事実関係にもよりますが、遅刻欠勤の程度によっては、雇止めに「客観的に合理的な理由」及び「社会通念上相当」であると認められる可能性があると考えられます。

過去の裁判例(東京地方裁判所 平成29年12月25日判決)においても、労働者が「度重なる業務命令に違反し、また、胸章の着用や清潔な身だしなみを整えることといった服務規律に関する度重なる指導を受け、これらが容易に改善することができる性質のものであるにもかかわらず、改善をしなかったことも、軽視することは相当ではない。」として、懲戒事由に該当しうる業務命令違反を考慮要素の一つとし、雇止めは「客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当である」と判断しました。

そのため、業務命令違反の程度によっては、雇止めが有効と判断される可能性があります。

懲戒処分にあたる行為を行った場合、無期転換を認めないとすることは可能ですか?

事実関係にもよりますが、懲戒処分に当たる行為の内容や程度によっては、雇止めが有効と判断される可能性があります。
また、上記(Q1-3)の裁判例のように、雇止めの有効性判断の要素となり得ると考えられます。

懲戒処分を行う場合の注意すべきポイントについて、下記ページで解説しています。あわせてご覧ください。

勤務態度が悪いことを理由に、無期転換申込権の発生前に雇止めとすることは可能ですか?

事実関係にもよりますが、勤務態度が悪いという事情が、業務命令違反の程度として重いと認められる場合には、雇止めが有効と判断される可能性があります。
また、上記(Q1-3)の裁判例のように、雇止めの有効性判断の要素となり得ると考えられます。

有期労働契約における雇止めについては、下記ページでも解説しています。あわせてご覧ください。

勤務成績不良であることを理由に、更新回数の上限を定めることは認められますか?

更新回数の上限を定めることは可能と考えられますが、必ずしも雇止めが有効と判断されるわけではないことに注意が必要です。

しかしながら、厚生労働省の通達(平15.10.22基発1022001号)において、有期労働契約を更新しない理由の明示例として、以下のように記載していることから、不更新条項及び更新限度条項を定めた契約を締結することの有効性を認めているとうかがわれます。

  • (ア)前回の契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていたため
  • (イ)契約締結当初から、更新回数の上限を設けており、本契約は当該上限に係るものであるため

そのため、勤務成績不良であることを理由に、不更新条項や更新限度条項を定めることは可能と考えられます。

もっとも、雇止めの有効性は、期間満了時に有期労働契約が更新される合理的期待があったか否かにより判断されるため、不更新条項や更新限度条項を定めたことにより、必ずしも雇止めが有効と判断されるわけではないことに注意が必要です。

正社員としてはスキル不足である場合、限定正社員として登用することは認められますか?

無期転換後の雇用区分については、会社ごとに定められた制度に基づいて取り扱うことになるでしょう。
なお、無期転換後の給与や待遇等の労働条件については、以下に別段の定めがある場合を除き、直前の有期労働契約と同一の労働条件となります。

  • 労働協約
  • 就業規則
  • 個々の労働契約

問題社員を無期転換させないために、6ヶ月以上のクーリング期間を設けることは認められますか?

労働契約法18条1項の潜脱となるようなクーリング期間の利用は、厚生労働省も推奨していないため、無期転換させないことを目的としたクーリング期間の利用は望ましいものではないでしょう。

問題社員を無期転換とする場合、転換前よりも処遇を低くすることは可能ですか?

無期転換後の給与などの労働条件は、就業規則等で別段の定めがある部分を除いて、直前の有期労働契約と同一の労働条件が適用されます。
そのため、無期労働契約に転換された労働者に対して、どのような労働条件が適用されるかを会社内で検討した上で、別段の定めをする場合には、就業規則に当該労働条件が適用される旨の規定を設ける必要があります。

もっとも、無期転換前の労働条件よりも下回る条件を規定することは、無期転換ルールの趣旨を損なうものと考えられるため、望ましいものではありません。
問題社員であることのみを理由として処遇を低くした場合には、正当な理由があるとはいい難く、後々トラブルとなる可能性が高いため、控えるべきでしょう。

無期転換後に問題行為があった場合、解雇することは可能ですか?

無期転換後の労働者の地位は、期間の定めのない労働契約を締結された労働者と同一と考えられますので、労働契約法16条の要件を満たす場合に解雇が可能になると考えられます。
すなわち、解雇事由に、客観的に合理的な理由と社会通念上相当性が認められる必要があります。

解雇については下記ページでも解説しています。あわせてご覧ください。

無期転換ルールを違反した会社への罰則はありますか?

労働契約法自体に罰則規定がないため、労働契約法18条1項に違反した場合であっても、罰則は課せられません。
もっとも、無期転換ルールに違反したことにより、無期労働契約が締結された労働者として雇用する義務が生じます。

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執筆弁護士

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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