無断欠勤が続く問題社員(モンスター社員)への対応と解雇する場合の注意点

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

近年はリモートワークが定着しつつありますが、それが認められていない社員にとって、会社に出勤することは労働契約における最低限の義務といえます。
社員が無断欠勤を繰り返すと、使用者は必要な指示等を出せなくなり、円滑に組織を運営することができません。そのため、使用者側としては、無断欠勤を繰り返す社員に対して、適切な形で処分をする必要があります。
本コラムでは、無断欠勤が続く社員への適切な対応や当該社員を解雇する場合の注意点について解説していきます。

無断欠勤が続く社員への対応と流れ

無断欠勤が続く社員については、以下の流れで対応を進めましょう。

  1. 本人に連絡をとる
  2. 出社命令を出す
  3. 指導・処分の検討
  4. 退職勧奨を行う

各手順について、次項から詳しく解説していきます。

本人に連絡をとる

社員が無断欠勤した場合、まずは本人と連絡をとり、欠勤の理由や事情を確認します。
社員が1人暮らしで連絡がとれない、家族からの連絡もないといった状況であれば、安否確認のため自宅を訪問するのが良いでしょう。

無断欠勤の理由としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 急病を発症して動けない
  • 逮捕された
  • 通勤途中で事故に遭った
  • セクハラやパワハラを受けている
  • うつ病が悪化して欠勤の連絡ができない
  • 寝坊や遅刻などの怠慢

無断欠勤の原因がハラスメントや長時間労働など“会社側”にある場合、事業主は速やかに事実確認を行い、改善を図る必要があります。また、うつ病などの精神疾患を発症している場合、産業医などと連携してメンタルケアを実施するのが望ましいでしょう。

出社命令を出す

無断欠勤に合理的な理由が認められず、また、注意・指導をしたにもかかわらず無断欠勤が続く場合、当該社員に対して出社命令を出します。なお、文書やメール等の記録に残る形で出社命令を行えば、使用者側はきちんと手続きを履践したと証明することができます。

指導・処分の検討

出社命令に応じない場合、減給や降格などの懲戒処分も検討することになります。
懲戒処分を行うには、就業規則などで“懲戒規定”が定められており、かつ無断欠勤が懲戒処分の対象になると明示されていることが必要です。そのため、まずは就業規則の内容をチェックしましょう。

懲戒処分の内容としては、戒告やけん責など比較的軽いものから、諭旨解雇や懲戒解雇など重いものまでさまざまです。無断欠勤の場合いきなり解雇など厳しい処分を下すと無効になる可能性が高いため、慎重に検討しましょう。
また、無断欠勤のペナルティとして、社員に罰金を科すことも禁止されています(労基法16条)。

懲戒処分の種類や手順については、以下のページで詳しく紹介しています。

退職勧奨を行う

出社命令や懲戒処分を行ってもなお、無断欠勤が改善されない場合、当該社員に対して退職勧奨を行うことが考えられます。退職勧奨とは、以下いずれかの行為をいいます。

  • ①労働者からの辞職を勧める使用者側の行為
  • ②使用者からの“労働契約の合意解約の申込み”に対して、労働者側の承諾を勧める行為

退職勧奨を行うこと自体に法律上の規制はなく、行う時期や内容も使用者が自由に決めることができるのが基本です。
ただし、あくまでも、退職を勧める手続きですので、強制力も法的な効果もありません。また、退職勧奨が過剰になって退職強要になってしまうと、違法と評価されるリスクがあるため注意が必要です。

退職勧奨における注意点等は、以下のページでさらに詳しく解説しています。

無断欠勤を繰り返す社員は解雇できるのか?

無断欠勤が続いても、すぐには解雇できないのが通例です。

社員を解雇するには、「客観的合理性」や「社会的相当性」が必要となるため、単に「数日無断欠勤した」というだけでは解雇は認められない可能性が高いです(解雇権濫用法理)。
さらに、社員に「不当解雇」を訴えられ、裁判に発展するおそれもあります。

無断欠勤による解雇の有効性は、以下の要素を総合的に考慮して判断されるのが一般的です。

  • 無断欠勤の回数や期間
  • 無断欠勤の理由
  • 当該欠勤が業務に与えた影響
  • 本人の反省の有無
  • 従前の勤務態度
  • 当該欠勤に対する注意や指導、処分の履歴

解雇権濫用法理については、以下のページで詳しく解説しています。

無断欠勤を理由に解雇できないケース

社員の無断欠勤が、メンタルヘルス不調や私傷病を理由とするものである場合、当該社員を解雇できない可能性があります。具体的には、法律によって以下の制限が設けられています。

・メンタルヘルス不調が業務に起因していると判断された場合
「療養のために休職する期間」及び「その期間満了後30日間」は、基本的に解雇することができません(労基法19条1項)。
ただし、会社が打切保障を支払う場合には、例外的に解雇できる余地があります(労基法81条、19条1項)。

・メンタルヘルス不調の原因が業務外にある場合や、私生活上のケガ・病気を理由とする欠勤の場合
就業規則等で規定された“休職期間”が満了していないにもかかわらず、解雇をしてしまうと、解雇権の濫用(労働契約法16条)と判断される可能性が高いといえます。

社員のメンタルヘルスや、メンタルヘルス不調の原因となるハラスメントについては、以下のページで詳しく解説しています。

普通解雇・懲戒解雇どちらに該当するのか?

無断欠勤を「普通解雇」「懲戒解雇」どちらにするかは、就業規則などの規定をもとに会社が判断することになります。
そのため、まずは無断欠勤が就業規則上の「解雇事由」に該当することが前提となります。

また、普通解雇、懲戒解雇いずれにせよ、解雇には「客観的合理性」と「社会的相当性」が必要です。例えば、無断欠勤が何度も続き、反省の態度がみられないケースや、注意や指導を繰り返しても一向に改善されないケースでは、解雇もやむを得ないと判断される可能性があります。

もっとも、懲戒解雇の有効性はより厳しく判断される傾向があるため、あえて普通解雇を選択するのもひとつの方法です。

懲戒解雇や普通解雇の要件などは、以下のページで詳しく解説しています。

無断欠勤が続く社員を解雇する際の注意点

無断欠勤を理由とした解雇は、適切な手順を踏まないと「不当解雇」として無効になるおそれがあります。そこで、会社は以下の2点に注意が必要です。

  • 就業規則に解雇事由を定めておく
  • 解雇通知を確実に行う

それぞれの注意点について、次項から解説していきます。

就業規則に解雇事由を定めておく

社員を解雇するには、就業規則や労働条件通知書において、どのような行為が解雇に相当するのか「解雇事由」を定めておく必要があります。無断欠勤の場合、以下のように定めます。

例:2週間以上無断欠勤が続いた場合、解雇することがある

欠勤日数の要件があまりにも短期だと、そもそも就業規則の合理性が否定されるおそれがあるため注意しましょう。
また、就業規則で解雇事由を追加・変更した際は、所轄の労働基準監督署に届出を行い、変更後の内容を社員に周知する必要があります。

解雇通知を確実に行う

会社は解雇日の30日前までに、解雇する旨を本人に通知することが義務付けられています(労基法20条)。この期間を空けずに解雇する場合、会社は社員に一定の「解雇予告手当」を支払わなければなりません。

ただし、労働基準監督署から「解雇予告除外認定」を受けた場合、期間を空けずに即解雇が可能です。
解雇予告除外認定とは、社員に重大な悪質性が認められる場合、解雇予告や解雇予告手当の支払いをすることなく当該社員を解雇できる制度です。除外認定を受けられるのは、以下の2ケースです。

  • 天変地異その他やむを得ない理由で事業を継続できなくなった
  • 労働者の責に帰すべき事由により解雇に至った

厚生労働省の指針では、「2週間以上無断欠勤が続き、出勤の督促に応じない」場合、労働者の責に帰すべき事由に該当するとされています。

解雇予告の流れや解雇予告手当の計算方法などは、以下のページをご覧ください。

無断欠勤による解雇が不当と判断された場合のリスク

解雇の判断や手順を誤ると、社員から「不当解雇」を訴えられるおそれがあります。不当解雇が認められると、会社は以下のようなリスクを負います。

・解雇期間における未払い賃金の支払い
不当解雇が認められると、当該解雇は「無効」になり、社員は従業員としての地位を有することになります。そのため、解雇日から現在までの未払い賃金を支払う必要があります。

・慰謝料の支払い
解雇されたことによる精神的苦痛を理由に、社員から慰謝料(損害賠償金)を請求されることがあります。

・企業イメージの悪化
不当解雇が表沙汰になると、会社のイメージが悪化し、売上低下や取引中止、採用活動の難航などを招くおそれがあります。

不当解雇の判断基準については、以下のページで解説しています。

無断欠勤による解雇の有効性が問われた裁判例

無断欠勤による解雇の有効性が争われた裁判例をご紹介します。

事件の概要

出版社で働く記者が、“記者としての能力不足”等を理由に福利厚生部へ異動となりました。また、異動先の部署においても、ミスや無断早退、会議への欠席を繰り返したため、けん責処分減給処分等を受けました。

これらの処分にもかかわらず、同社員はさらに約50日間無断欠勤をしたところ、最終的に会社から懲戒解雇されたという事例です(平11(ワ)4526号 東京地方裁判所 平成14年4月22日判決)。

裁判所の判断

裁判所は、「約50日間という長期間の無断欠勤は、会社の職務復帰命令に違反するものであり、社員の基本的な義務に反する重大な命令違反である」としています。

また、同社員は懲戒解雇に至るまでにも複数回懲戒処分を受けていることを考えると、本件懲戒解雇は有効であるとの判断がなされました。

ポイント・解説

本件は、同社員が無断欠勤以外にも非違行為を繰り返しており、会社がそれらに対して複数回懲戒処分を行ってきた事案でした。よって、無断欠勤のみを理由とする懲戒解雇を有効としているわけではないという点には注意が必要です。

また、本件の場合、同社員が非違行為を行うたびに会社が注意、指導を行うなど、段階的に懲戒処分を行った点も、懲戒処分が有効であると判断された理由であると考えられます。

無断欠勤や解雇に関するよくある質問

無断欠勤が何日続くと解雇が認められる?

「○日以上無断欠勤が続いたら解雇できる」といった明確な基準はありません。
ただし、2週間の無断欠勤に対する懲戒解雇を有効とした裁判例(東京地方裁判所 平成12年10月27日)があることから、2週間が一定の目安になると考えられます。

社員が行方不明になってしまった場合は解雇できる?

社員が行方不明になった場合、無断欠勤が続くことになるため、解雇事由にあたります。

ただし、解雇の意思表示は、相手方に到達してはじめて効力が生じるため(民法97条)、社員に到達したことが認められないと解雇の効力は生じません。
当該社員が行方不明となっており、家族ですら居所がわからないような場合には、公示送達(民法98条)を行うのが良いでしょう。

公示送達により、裁判所を通して意思表示を行うことで、解雇通知が本人に到達したものとみなされます。

無断欠勤を繰り返す社員の対応や解雇問題でお困りなら、労働問題に強い弁護士にご相談下さい。

無断欠勤を繰り返す社員がいると、業務に大きな支障が出かねません。そのため、会社は適切な処分を検討すべきでしょう。
しかし、解雇は簡単に認められるものではなく、その有効性は厳しく判断される傾向があります。社員から「不当解雇」を訴えられるリスクもあるため、適切な対応が必要です。

弁護士であれば、解雇が認められる基準や解雇前にすべき措置を熟知しているため、トラブルの発生を未然に防ぐことができます。また、適切な手順を踏むことで、解雇の有効性が認められる可能性も高まります。

弁護士法人ALGは、問題社員や不当解雇について多数の実績があります。無断欠勤を繰り返す社員にお困りの場合、ぜひ一度ご相談ください。

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執筆弁護士

プロフェッショナルパートナー 弁護士 田中 真純
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所プロフェッショナルパートナー 弁護士田中 真純(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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