無断欠勤が続く問題社員(モンスター社員)への対応と解雇する場合の注意点

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

近年はリモートワークが定着しつつありますが、それが認められていない労働者にとって、会社に出勤することは労働契約における最低限の義務といえます。
労働者が無断欠勤を繰り返すと、使用者は必要な指示等を出せなくなり、円滑に組織を運営することができません。そのため、使用者側としては、無断欠勤を繰り返す労働者に対して、適切な形で処分をする必要があります。
本コラムでは、無断欠勤が続く労働者への適切な対応や当該社員を解雇する場合の注意点について解説していきます。

無断欠勤が続く社員への対応と流れ

無断欠勤が続く社員への対応とその流れについて、具体的に説明していきます。

本人に連絡をとる

無断欠勤が続いても、本人に理由を聞かずいきなり懲戒処分を行うと手続き上の問題が発生します(労働基準法15条)。そこで、まずは本人に連絡をとって無断欠勤をした理由を聞き、欠勤に合理的な理由があるのかを調査します。

出社命令を出す

無断欠勤に合理的な理由が認められず、また、注意・指導をしたにもかかわらず無断欠勤が続く場合、当該社員に対して出社命令を出します。なお、文書やメール等の記録に残る形で出社命令を行えば、使用者側はきちんと手続きを履践したと証明することができます。

指導・処分の検討

当該社員が出社命令にも応じない場合、減給・降格等の懲戒処分を行うことも検討します。
もっとも、懲戒処分を行うためには、下記の要件を満たすことが必要です。

  • ①周知された就業規則等に懲戒処分の合理的な根拠規定が定められていること
  • ②就業規則等の“懲戒処分事由に”該当すること
  • ③処分内容が相当であること
  • ④手続きが相当であること

無断欠勤が懲戒事由として就業規則等に定められていない場合、懲戒処分は認められないと判断される可能性が高いです。
したがって、まずは就業規則等にそのような規定があるのかを確認してから、懲戒処分を行うかについて検討しましょう。

また、無断欠勤があったことだけを理由に懲戒処分を行うことは、リスクが大きいといえます。懲戒処分を行うためには、無断欠勤の事実が、単なる労働契約上の債務不履行であるということにとどまらず、企業秩序違反と認められる必要があるためです。

よって、使用者は、当該社員の無断欠勤によって会社業務にどのような支障が生じたかをきちんと把握しておくことが重要です。

労働者を懲戒処分する際のポイントは、以下のページでも解説しています。

退職勧奨を行う

出社命令や懲戒処分を行ってもなお、無断欠勤が改善されない場合、当該社員に対して退職勧奨を行うことが考えられます。退職勧奨とは、以下いずれかの行為をいいます。

  • ①労働者からの辞職を勧める使用者側の行為
  • ②使用者からの“労働契約の合意解約の申込み”に対して、労働者側の承諾を勧める行為

退職勧奨を行うこと自体に法律上の規制はなく、行う時期や内容も使用者が自由に決めることができるのが基本です。
ただし、あくまでも、退職を勧める手続きですので、強制力も法的な効果もありません。また、退職勧奨が過剰になって退職強要になってしまうと、違法と評価されるリスクがあるため注意が必要です。

退職勧奨における注意点等は、以下のページでさらに詳しく解説しています。

無断欠勤を繰り返す社員は解雇できるのか?

無断欠勤が続く社員でも、直ちに解雇できるわけではありません。これは、後述する「解雇権濫用法理」が問題となるためです。
無断欠勤に対する解雇が「解雇権濫用」にあたるかは、以下の点を総合的に考慮して判断されることになります。

  • 無断欠勤の理由や悪質性
  • 無断欠勤の回数や期間
  • 当該欠勤が業務に与えた影響
  • 本人の反省の有無
  • 従前の勤務態度
  • 類似事例における会社での取扱い

適切な解雇事由等については、以下のページをご覧ください。

「解雇権濫用法理」に関する注意点

「解雇権濫用法理」は、使用者による不当解雇を防ぐためのルールです。以下に該当する場合、解雇権の濫用にあたり、当該処分は無効になるとされています。

  • 解雇する客観的で合理的な理由がない
  • 解雇が社会通念上相当でない

解雇は労働者の精神や生活に大きな影響を与えることから、解雇権濫用法理によって制限されることがあります。特に、懲戒解雇は最も重い処分ですので、有効性については慎重に判断されるでしょう。

解雇権濫用法理についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

普通解雇・懲戒解雇どちらに該当するのか?

解雇には、懲戒解雇の他に「普通解雇」があります。
普通解雇は、労働者による“労働契約の債務不履行”を理由に、労働契約を終了させることをいい、その根拠は民法627条1項等に基づく「解約申し入れ」であるとされています。

懲戒解雇と普通解雇は、解雇が認められる要件等に違いがあります。
無断欠勤に対する解雇が「懲戒解雇」と「普通解雇」のどちらに該当するかは、就業規則等の規定をもとに、会社が判断することになります。

それぞれの解雇事由の具体的な内容については、以下のページをご覧ください。

解雇事由として就業規則に定めていない場合

懲戒処分を行うためには、就業規則等で懲戒事由として定めておく必要があります。
本テーマの場合、無断欠勤が懲戒処分の対象と明示されている必要があるのです。

一方、普通解雇の場合、「使用者は、就業規則所定の普通解雇事由に該当する事実が存在しなくても、客観的に合理的な理由があって解雇権の濫用にわたらない限り雇用契約を終了させることができる」とされています。(東京地方裁判所 平成12年1月21日判決)。
したがって、就業規則等の懲戒事由に該当しなくても、普通解雇であれば有効と判断される可能性もあります。

懲戒事由を定める際のポイントは、以下のページをご覧ください。

無断欠勤が何日続くと解雇が認められる?

「○日以上無断欠勤が続いたら解雇できる」といった明確な基準はありません。
ただし、2週間の無断欠勤に対する懲戒解雇を有効とした裁判例(東京地方裁判所 平成12年10月27日)があることから、2週間が一定の目安になると考えられます。

無断欠勤が続いても解雇できない場合とは?

労働者の無断欠勤が、メンタルヘルス不調私傷病を理由とするものである場合、当該社員を解雇できない可能性があります。具体的には、法律によって以下の制限が設けられています。

・メンタルヘルス不調が業務に起因していると判断された場合
→「療養のために休職する期間」及び「その期間満了後30日間」は、基本的に解雇することができません(労基法19条1項)。
ただし、会社が打切保障を支払う場合には、例外的に解雇できる余地があります(労基法81条、19条1項)。

・メンタルヘルス不調の原因が業務外にある場合や、私生活上のケガ・病気を理由とする欠勤の場合
→就業規則等で規定された“休職期間”が満了していないにもかかわらず、解雇をしてしまうと、解雇権の濫用(労働契約法16条)と判断される可能性が高いといえます。

労働者のメンタルヘルスや、メンタルヘルス不調の原因となるハラスメントについては、以下のページで詳しく解説しています。

不当解雇をめぐる損害賠償リスク

不当解雇を行うと、労働者から損害賠償請求されるリスクがあります(民法709条)。これは、会社の不法行為に基づくもので、慰謝料などを請求されるのが一般的です。

不当解雇が認められると、会社は労働者に対して「解雇期間における未払い賃金」を支払うのが基本です。
しかし、慰謝料などの損害賠償金は、解雇されたことによる精神的苦痛に対して支払うものですので、解雇期間における未払い賃金とは別に請求される可能性が高いといえます。

不当解雇にあたるケースは、以下のページで解説しています。

不当解雇とならないためにしておくべきこと

不当解雇を防ぐには、軽い処分から重い処分へと段階を踏むことが重要です。
具体的には、注意・指導→出社命令→軽い懲戒処分→重い懲戒処分(解雇)というプロセスを踏むのが良いでしょう。
手順を誤ると、処分が違法となるおそれがあるため注意が必要です。

また、懲戒処分の内容は、就業規則等で具体的に定めておく必要があります。詳しくは以下のページをご覧ください。

無断欠勤による解雇にも解雇通知は必要か?

労働者を解雇する場合、解雇日の30日以上前に、解雇する旨を本人へ通知(解雇予告)する必要があります。この期間を空けずに解雇する場合に、使用者は労働者に対して解雇予告手当を支払わなければなりません(労基法20条1項本文)。
なお、30日間の解雇予告期間を設けた場合、解雇予告手当の支払いは不要となります(同項本文)。

無断欠勤による解雇でも、基本的に解雇予告ないし解雇予告手当の支払いが必要となります。
もっとも、次項でご説明する除外認定を受ければ、解雇予告が不要となる可能性があります。

解雇予告についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

解雇予告の除外認定について

解雇予告除外認定とは、解雇予告や解雇予告手当の支払いを行うことなく、労働者を解雇できる制度です(労基法20条1項)。
ただし、除外認定を受けることができるのは以下のケースです。

  • 天変地異その他やむを得ない理由で事業が継続できなくなった
  • 労働者の故意・過失等が原因で解雇に至った

懲戒解雇の場合、労働者の故意や過失が原因となることも多いでしょう。しかし、解雇予告除外認定は限定的に判断されるため、必ず認定されるとは限りません。

無断欠勤のケースで解雇予告除外認定を受けるには、何度も注意や指導を行ったにもかかわらず状況が改善されないなど、重大な企業秩序違反が認められる必要があるでしょう。

社員が行方不明になってしまった場合は?

社員が行方不明になった場合、無断欠勤が続くことになるため、解雇事由に当たります。

ただし、解雇の意思表示は、相手方に到達してはじめて効力が生じるため(民法97条)、労働者に到達したことが認められないと解雇の効力は生じません。
当該社員が行方不明となっており、家族ですら居所がわからないような場合には、公示送達(民法98条)を行うのが良いでしょう。

公示送達により、裁判所を通して意思表示を行うことで、解雇通知が本人に到達したものとみなされます。

無断欠勤を防ぐために会社ができる取り組み

無断欠勤を防ぐためには、あらかじめ就業規則等において、処分(減給・降格等)の対象となることを周知しておく必要があります。
また、日ごろから、社員の勤怠やメンタルヘルスに気を配り、定期的にコミュニケーションをとることも有用です。

無断欠勤による解雇の有効性が問われた裁判例

無断欠勤による解雇の有効性が争われた裁判例をご紹介します。

事件の概要

出版社で働く記者が、“記者としての能力不足”等を理由に福利厚生部へ異動となりました。また、異動先の部署においても、ミスや無断早退、会議への欠席を繰り返したため、けん責処分減給処分等を受けました。

これらの処分にもかかわらず、同社員はさらに約50日間無断欠勤をしたところ、最終的に会社から懲戒解雇されたという事例です(東京地方裁判所 平成14年4月22日判決)。

裁判所の判断

裁判所は、「約50日間という長期間の無断欠勤は、会社の職務復帰命令に違反するものであり、社員の基本的な義務に反する重大な命令違反である」としています。

また、同社員は懲戒解雇に至るまでにも複数回懲戒処分を受けていることを考えると、本件懲戒解雇は有効であるとの判断がなされました。

ポイント・解説

本件は、同社員が無断欠勤以外にも非違行為を繰り返しており、会社がそれらに対して複数回懲戒処分を行ってきた事案でした。よって、無断欠勤のみを理由とする懲戒解雇を有効としているわけではないという点には注意が必要です。

また、本件の場合、同社員が非違行為を行うたびに会社が注意、指導を行うなど、段階的に懲戒処分を行った点も、懲戒処分が有効であると判断された理由であると考えられます。

無断欠勤を繰り返す社員の対応や解雇問題でお困りなら、労働問題に強い弁護士にご相談下さい。

会社にとって、正当な理由なく無断欠勤を続ける社員に給料を払い続けることは避けたいところです。もっとも、無断欠勤をしているからといって、直ちに解雇してしまうと会社にとって大きなリスクとなります。

こうした問題社員の処遇についてお困りの場合、ぜひお気軽に弁護士法人ALGにご相談ください。

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執筆弁護士

プロフェッショナルパートナー 弁護士 田中 真純
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所プロフェッショナルパートナー 弁護士田中 真純(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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