2022年から中小企業も義務化!パワハラの防止措置義務について

パワハラ防止措置の内容についてYouTubeで配信しています。

いわゆるパワハラ防止措置の指針に基づき、企業は①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談・苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応並びに④併せて講ずべき措置をパワハラ防止措置として行わなければなりません。

動画では、これらのパワハラ防止措置の内容について、指針に沿って解説しています。

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

これまで大企業に限定されてきたいわゆる「パワハラの防止措置義務」について、2022年からは中小企業においても義務化されることになりました。
そこで、本コラムでは、厚生労働省都道府県労働局雇用環境・均等部(室)が発行するパンフレット「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」(以下、「厚労省資料」といいます。)に準拠する形で、中小企業にも義務付けられることとなるパワハラの防止措置について解説します。

2022年から中小企業もパワハラの防止措置が義務化

2020年6月、改正労働施策総合推進法(以下、「パワハラ防止法」といいます。)が施行されました。同法施行当初、中小企業に対しては努力義務が課されているに留まっていましたが、2022年4月1日をもって、中小企業も法的義務の対象とされることとなりました。

パワハラ対策が必要となる「中小企業」の定義とは?

パワハラ防止法では、その附則において、中小企業が定義されています。
文言は複雑ですが、以下の図表のとおりであり、それぞれの業種毎に、①(資本金の額又は出資の総額)又は②(常時使用する従業員の数)のいずれかの条件を満たすものが「中小企業」と定義されます。

業種 ①資本金の額又は出資の総額 ②常時使用する従業員の数
小売業 5000万円以下 50人以下
サービス業(サービス業、医療・福祉業) 5000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種(製造業、建設業、運輸業等上記以外の全ての業種) 3億円以下 300人以下

(参考:厚労省資料「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」)

どのような行為がパワハラにあたるのか?

パワハラとは、職場で⾏われる言動のうち、以下の①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。

  • ① 優越的な関係を背景とした⾔動であって、
  • ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  • ③ 労働者の就業環境が害されるもの

したがって、例えば、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で⾏われる適正な業務指⽰や指導については、職場におけるパワハラには該当しません。

パワハラの定義についてより詳しく知りたい方は、以下のページも参照してください。

中小企業に課せられるパワハラ防止措置の内容とは?

ここからは、パワハラ防止措置の内容について解説します。

厚労省資料によれば、事業主が職場におけるパワーハラスメントを防止するため雇用管理上講ずべき措置として、次の「措置」が定められています。
この「措置」は、次の4つの視点から整理されており、より具体的な措置として10の措置(「ⅰ」から「ⅹ」の措置)が示されています。

  • ①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
  • ②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • ③職場におけるパワハラへの事後の迅速かつ適切な対応
  • ④併せて講ずべき措置

以下、各項目について具体的にみていきます。

①事業主の方針の明確化およびその周知・啓発

ⅰ パワーハラスメントの内容、パワーハラスメントを⾏ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発することが求められます。
たとえば、就業規則その他の職場におけるルールを定めた文書に、事業主の方針を規定し、その規定と併せて、パワーハラスメントの定義、内容(具体例等を交えて説明することが考えられます。)及びパワーハラスメントの発生の原因や背景等を労働者に周知・啓発することが求められます。

ⅱ パワーハラスメントの⾏為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することが求められます。
たとえば、パワーハラスメントに係る言動を行った者は現行の就業規則等において定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し、それを労働者に周知・啓発することが求められます。
ここでは、例えば、パワーハラスメントに該当する行為が自社の就業規則の何条に違反し、同就業規則上の懲戒処分としてはどのようなものが想定されるのかを明示することが考えられます。

②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

ⅲ 相談窓⼝をあらかじめ定め、電話番号、担当部署、担当者名、窓口対応時間等を労働者に周知します。

ⅳ 相談窓⼝担当者が、内容や状況に応じて適切に対処できるようにすることが必要とされています。
被害を受けた労働者が気おくれして相談をためらう例もあること等も踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなど、その認識にも配慮することが求められます。なお、パワーハラスメントが実際に発生している場合だけでなく、そのおそれがある場合や、パワーハラスメントに該当するか否か判断が難しい場合であっても、広く相談に対応することが求められます。
“パワーハラスメントに該当する行為が明確に認定されるとまではいえない”というようなケースでも、何も対応をしなくても良いことにはならない点に注意が必要です。

③職場におけるパワハラの事後の迅速かつ適切な対応

ⅴ 事実関係を迅速かつ正確に確認することが求められます。
相談窓口の担当者等が、相談があってから迅速に、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認します。ここでは、両当事者の言い分を十分に聴きとる必要があります。その際、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮することが求められます。
なお、相談者と行為者の間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、当事者の事情等について詳しいと考えられる第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずる必要があります。

パワハラがあった場合の対応方法については以下のページでも解説しています。ぜひ参照してください。

パワハラ被害者への対応

ⅵ 職場におけるハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うことが必要となります。
具体的には、事案の内容や状況に応じ、以下の措置を行います。

  • 被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助
  • 被害者と行為者を引き離すための配置転換
  • 行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復
  • 管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること 等

パワハラ行為者への対応

ⅶ 事実関係の確認ができたら、⾏為者に対する措置を適正に⾏います。
具体的には、就業規則等に基づいて必要な懲戒処分を行うと共に、事案の内容や状況に応じて以下の措置を行います。

  • 被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助
  • 被害者と行為者を引き離すための配置転換
  • 行為者の謝罪等の措置を講ずること 等

行為者に対して処分を行うだけでなく、行為者の言動がなぜハラスメントに該当するのか、当該言動の何か問題なのかを理解してもらえるよう、説明や指導をすることが大切です。

再発防止措置

ⅷ 改めて職場におけるパワハラに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講じます。
具体的には、職場におけるパワハラを行ってはならない旨の事業主の方針及び職場におけるハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット等の広報資料等に改めて掲載し、配付等すること、労働者に対してパワハラに関する意識を啓発するための講習を改めて実施すること等が求められます。なお、その際は、当事者の承諾を得た上で、表現には注意しつつ、自社においてパワハラ事案が発生したことに必要かつ適切な限度で触れることも検討するべきでしょう。

④①~③とあわせて講ずべき措置

ⅸ 相談者・⾏為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知することが求められます。

ⅹ 事業主に相談したこと、事実関係の確認に協⼒したこと、都道府県労働局の援助制度を利⽤したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発することが求められます。

中小企業がパワハラ防止対策に取り組むメリット

パワハラ防止対策に取り組むメリットとしては、例えば以下の点が挙げられます。

  • コミュニケーションの活性化につながる。
    パワハラ対策により、従業員同士がお互いを一人の人間として尊重し合う企業風土が醸成でき、コミュニケーションの活性化にもつながります。
  • 離職率が下がる。
    昨今の就職・転職市場において、離職率は求職者の大きな関心事の一つです。そして、人々の悩みの多くは人間関係からくるものです。パワハラ対策がされている職場では、従業員同士の人間関係も良好なものとなり、離職率も下がることが期待できます。
  • 会社が抱える課題や問題解決の端緒となる。
    パワハラの背景には、業務上の課題や問題が潜んでいるということがあります。パワハラ対策を適切に行うことで、会社が抱える課題や問題が発見でき、結果として問題解決につながる可能性があります。

パワハラの防止措置義務を怠った場合はどうなる?罰則は?

パワハラ防止法上、同法に違反したことに対する罰則はありません。ただし、厚生労働大臣は必要があると認めるときは、事業主に対する助言、指導または勧告をすることができます。

同法違反に対する勧告に事業主が従わない場合には、その旨が公表される可能性もあります。

また、当然ながら、パワハラ防止措置を講じないことで、パワハラが発生する可能性は相対的に高まるといえます。パワハラが発生した場合は、被害者に対して会社が損害賠償義務を負う可能性があることに注意してください。

パワハラだけでなくセクハラ・マタハラ等の対策も必要

職場におけるセクシュアルハラスメント※1や、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント※2についても、当該言動により労働者の就業環境が害されることがないよう、防止措置を講じることが事業主に義務付けられています。

※1 男女雇用機会均等法第11条
※2 男女雇用機会均等法第11条の2及び育児・介護休業法第25条

セクハラ・マタハラの定義や対応方法については、以下のページでも解説しています。ぜひ参照してください。

職場におけるパワハラに関する裁判例

最後に、パワハラに関する裁判例として、三洋電機コンシューマエレクトロニクス事件(広島高裁松江支部 平成21年5月22日判決)をご紹介します。

事件の概要

被告会社(Y1)の従業員である原告(X)は、以下のような複数の問題行動を起こしていました。

(ア)ロッカールームにおいて「Aさんは以前会社のお金を何億も使い込んで、それで今の職場に飛ばされたんだで、それでY2課長も迷惑しとるんだよ」などと述べて同僚のAを中傷する発言をした。

(イ)従業員の県外出向といった会社が執る施策につき労使間のルールを無視してY1の役員に対し脅迫的な言辞などを用いて当該施策を妨害・中止させようとするなどした(具体的には、Xは同役員に対し「サンプルの不正出荷をしている人がいる」、「Xに対してY1が辞めさせるように言っている」、「人事担当者が従業員に県外出向を強要している」、「準社員や社員の中には、人事担当者をドスで刺すという発言をしている人がいる」などと述べた)。

このXの(ア)と(イ)の問題行動につき、注意・指導の必要があると考えたY2が、B課長とともにXとの面談を実施した際、Y2が、Xの態度に腹を立て感情的になり大きな声を出して叱責するなどし、「いいかげんにしてくれ、本当に。変な正義心か何か知らないけど、何を考えているんだ、本当に。会社が必死になって詰めようとしていることを何であんたが妨害するんだ。」「自分は面白半分でやっているかもわからんけど、名誉毀損の犯罪なんだぞ」「それから誰彼と知らず電話をかけたり、そういう行為は一切これからはやめてくれ。今後そういうことがあったら、会社としてはもう相当な処分をする」「あなたは自分のやったことに対して、まったく反省の色もない。」「何が監督署だ、何が裁判所だ。自分がやっていることを隠しておいて、何が裁判所だ。とぼけんなよ、本当に。俺は、絶対許さんぞ」などと発言したことを受けて、Xが、Y1、Y2を被告として慰謝料請求をしました。

1審では、Y1らが「Xの言動に関する誤った理解を前提」に、上記一連の行為(本件では、上記言動以外にも、Xに社内規定の精読等をさせる、Xを出向させる等の行為が問題となっていましたが、ここでは割愛しています。)を行ったと認定し、これが「全体として、原告の勤務先ないし出向元であることや、その人事担当者であるという優越的地位に乗じて、原告を心理的に追い詰め、長年の勤務先である被告会社の従業員としての地位を根本的に脅かすべき嫌がらせ(いわゆるパワーハラスメント)を構成する」とし、Y1らに対し慰謝料として300万の支払いを命じました。本件は、かかる一審判決を不服としたY1、Y2が控訴したものです。

裁判所の判断

裁判所は、以下のように判示して、結論として、Y1及びY2について、上記言動について不法行為責任(Y1については使用者責任)を肯定する一方、その言動がなされた経緯を踏まえて賠償額は相当定額で足りるとして、10万円の限度で慰謝料請求を認めました。

(判決要旨)

Y2がB課長とともにXを呼び、本件面談に及んだ主な理由は、以下にある。

  • Xにおいて上記(ア)の行為について反省が見られないこと
  • 上記(イ)は従業員として不相当な行為であるから注意、指導する必要があると考えたこと

本件面談の、「従業員に対して適切な注意、指導を行う」という目的は正当であるといえる。しかし、Y2が大声で、Xの人間性を否定するかのような表現でXを𠮟りつけた点については、従業員に対する注意、指導として社会通念上許容される範囲を超えており、Xに対する不法行為を構成する。

もっとも、以下の点については考慮されるべきである。

  • 面談の際、Y2が感情的になって大きな声を出したのは、Xが、Y2に対して不遜な態度を取り続けたことが多分に起因している
  • Xはこの場でのY2との会話を同人に秘して録音していたのであり、Xは録音を意識して会話に臨んでいるのに対し、Y2は録音されていることに気付かず、Xの対応に発言内容をエスカレートさせていったと見られる

Y2の言動は、Xの言動に影響を受けた面があるとはいえど、やはり、会社の人事担当者としては不適切であって、Y2及びY1は慰謝料支払義務を免れない。ただし、本件面談の経緯などからすれば、その額は相当低額で足りる。

ポイント・解説

上記裁判例においては、違法なパワハラ行為の存在が認定された点では、一審と控訴審で同じであったものの、慰謝料額の算定に際して判断が大きく分かれた点が注目されます。この先例は、会社の責任(賠償額)を判断するにあたり、パワハラに該当する言動がなされた経緯や背景が極めて重要であることを明らかにしているといえます。

中小企業におけるパワハラ対策でお悩みなら弁護士にご相談ください

これまで述べてきたとおり、中小企業におけるパワハラ防止措置は多様であり、かつ、企業毎の実態に即したものである必要があります。現に行っているパワハラ防止対策の運用状況の把握や見直しをすることも重要です。

パワハラ対策でお悩みの場合は、ぜひ弁護士に相談してください。

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執筆弁護士

弁護士 須合 裕二
弁護士法人ALG&Associates 弁護士須合 裕二

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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