パワハラ事案における会社の法的責任

会社がハラスメント対策を怠ったこと等を理由に、従業員が会社に対して損害賠償を請求することがあります。これに対しては、会社はとるべき措置をとっていたことを主張することになります。
以下では、パワハラに関して、会社は何をしておくべきなのかについて解説します。

パワハラが発生したとき、会社はどのような責任を負うのか?

パワハラが発生した場合、加害者の不法行為責任を前提として、会社が使用者責任(民法715条1項本文)を負ったり、パワハラ防止措置を怠ったことに基づき債務不履行責任(民法415条1項本文)を負ったりすることがあります。

パワハラが会社に与える影響

パワハラにより、被害者の労働意欲の低下、職場環境の悪化、被害者や他の従業員の離職、人手不足による生産性の低下、被害者からの損害賠償請求、氏名公表による社会的評価の低下等、会社に対して様々な悪影響を与えるおそれがあります。

会社にはパワハラ防止策を講じる義務がある

会社は、労働者と労働契約を締結しており、労働契約に付随する義務として、働きやすい良好な職場環境を維持する義務を負います。その一環として、会社は、パワハラ防止策を講じなくてはなりません。

労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の成立

労働施策総合推進法の成立により、パワハラの定義づけがされるとともに、会社のパワハラ防止義務の内容が明確になりました。

会社がとるべき措置としては、①職場でパワハラを行ってはならない旨の指針等を明確化し、労働者に対して周知・啓発すること、②相談窓口を設け、それを周知すること、③パワハラが起きていることを把握した場合、事実確認・被害者への配慮・加害者への措置・再発防止策等を適正に講じること等が挙げられます。

パワハラ事案における会社の法的責任

パワハラが起きた場合、会社は、使用者責任(民法715条1項本文)、不法行為責任(民法709条)、債務不履行責任(民法415条1項本文)を負う可能性があります。

使用者責任

加害者が、職場で、被害者に対してパワハラに該当する違法行為を行った場合、会社が損害賠償義務を負う可能性があります。

不法行為責任

過去にパワハラの報告を多数受けており、会社がパワハラの発生を予見できたにも関わらず漫然と対策を講じなかった場合や、パワハラが会社ぐるみで行われた場合などには、会社が損害賠償責任を負う可能性があります。

債務不履行責任

会社が、ハラスメント被害を防止する体制を整備しなかった場合や相談窓口との連携を怠り事実関係の調査を適切にしなかった場合などには、会社が損害賠償義務を負う可能性があります。

会社が責任を負う法的根拠とは?

まず、会社の使用者責任の根拠は、被用者による利益を享受する使用者は、被用者にする損失もまた甘受すべきであるとする報償責任にあると考えられます。次に、会社の不法行為責任の根拠は、会社の行為の違法性にあると考えられます。そして、会社の債務不履行責任の根拠は、労働契約関係に入った者に及ぶ信義則にあると考えられます。

パワハラ事案において会社の責任が問われたもの

以下では、ハラスメントに関して、会社が責任を問われた事案(①東京地方裁判所 平成30年3月27日判決、②最高裁 平成30年2月15日第1小法廷判決)をご紹介します。

事件の概要

事案①:親会社たる被告から業務委託を受けた子会社Aが、雇用する原告をして、本件業務に従事させたところ、原告が、東京労働局に対して、本件業務が偽装請負である旨を申告しました。

その後、原告は、「当該申告により、上司からパワハラを受けた。Aは、偽装請負やパワハラの事実を知りながら、何ら対策をとらずに放置し、職場環境配慮義務を怠った。そして、Aの親会社であり、本件業務をAに委託した被告は、Aの不法行為を把握していながら、これを放置し、Aとともに職場環境配慮義務を怠ったことから、共同不法行為責任を負う。」旨を主張しました。

事案②:被上告人は、上告人の子会社Bの契約社員として、上告人の事業場内で就労していたところ、交際をしていたBの従業員Cから、自宅に押し掛けられる等の被害を受けた。

被上告人は、Bの課長及び係長と面談し、相談したが、目立った対応がされなかったので、Bを退職し、派遣会社を通じて、上告人の別の事業場での業務に従事するようになった。

Cは、その後も、被上告人の自宅付近に自動車を複数回停車させた。

これを知った上告人の従業員Dは、元同僚であった被上告人のために、上告人の相談窓口に対して、被上告人及びCへの事実確認等をして欲しい旨を申し出ました。

上告人は、Bに対して、C及び関係者の聞き取り調査を行わせたものの、被上告人に対する事実確認は行いませんでした。

そこで、被上告人は、法令等の遵守に関する社員行動基準を定め、自社及び子会社等から成る企業集団の業務の適正等を確保するための体制(ex.グループ会社の事業場内で就労する者から、法令等の遵守に関する相談を受ける窓口を設け、当該制度を周知し、実際に相談への対応を行っていた。)を整備していた上告人に対し、相応の措置を講ずるなど信義則上の義務に違反したとして、債務不履行責任を主張しました。

裁判所の判断

事案①では、原告が雇用契約を締結したのはAであり、原告が被告の指揮監督の下で労務の提供をしていたわけではないことを理由に、被告が、原告に対して、雇用契約上の付随義務又は信義則上の義務として、職場環境配慮義務を負わないと判断され、原告の主張は認められませんでした。

事案②では、Bの債務不履行責任を認めた原審の判断を維持した上で、(1)被上告人の体制の具体的な仕組みが、相談を申し出た者が求める対応をそのまま実施することを義務付けるものではないこと、(2)Dの相談内容が、上告人の退職後に、グループ会社の事業場外で行われたCの行為に関するものであること及び(3)Dの相談申出は、Cが上告人の自宅付近に自動車を停車させたときから8ヶ月以上経過した後に行われたことを考慮し、上告人が被上告人に対して事実確認等を行わなかったことをもって、上告人の信義則上の義務違反があったと認めることはできないと判断され、被上告人の主張は認められませんでした。

ポイントと解説

上記の事例から、会社は、雇用契約を締結し、その指揮監督下で労務提供を行っている従業員に対して職場環境配慮義務を負うのが原則ですが、ハラスメントに関する相談体制を設けている場合は、グループ会社の事業場内で生じたハラスメントについて被害者以外の従業員から相談を受けたとき、当該制度に即した措置を講じる義務が生じ、これを怠れば、信義則上の義務違反を理由に、被害者である元従業員に対しても例外的に損害賠償責任を負うおそれがあることがうかがわれます。

今後、パワハラ防止制度を設ける場面で関連法令に反していないかという点に加えて、当該制度を運用する場面においても、当該制度の具体的内容にそぐわない対応になっていないかという点にも留意する必要があると考えられます。

パワハラで労働審判を申し立てられたら

従業員から労働審判を申し立てられた場合、3週間程度で反論書面を作成し、裁判所に提出する必要があります。反論書面を作成するためには、申立書の内容を吟味した上で法的構成を決定した上で、会社において採用されているパワハラ防止策の運用をまとめるとともに、パワハラに該当する事実として従業員が主張するものを確認し、それぞれを裏付ける証拠を集める必要があります。

パワハラ問題では会社への責任が問われます。お悩みなら一度弁護士にご相談下さい。

パワハラ防止措置として十分かどうか心配な場合や、パワハラを受けた労働者が会社を訴えてきた場合には、弁護士に法的アドバイスを求めたり、労働審判や訴訟への対応を依頼したりすることもご検討下さい。

執筆弁護士

弁護士 森下 優介
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士森下 優介(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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