裁量労働制導入における留意点

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働者の自由な働き方を実現する制度の一つに裁量労働制があります。
この制度では、働く時間を労働者が自らの裁量で決められるため、運用次第では生産性向上につながります。
しかし、すべての職種に適用できないことや長時間労働が常態化しやすいなどの注意点があります。

また令和6年4月からは、裁量労働制の見直しにより、必要な手続きや決定すべき事項などが追加されるなどの新しい規制が適用されます。
そこで、以下では、裁量労働制の対象となる職種や、導入・運用に当たっての留意点などを解説します。

労働基準法で定められている「裁量労働制」

裁量労働制とは、労働基準法が定める労働時間の柔軟化を図る制度の1つで、業務の性質上、その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるものについて、実労働時間ではなく、労使協定や労使委員会の決議で定められた時間によって労働時間を算定します。

裁量労働制について、詳しくは以下のページもご覧ください。

労働者の自由な働き方を実現する目的

そもそも労働法が制定された当初は、工場労働者など集団的に働く労働者を念頭において、法定労働時間や時間外労働などの画一的なルールを当てはめて、法定労働時間を超える労働があったときには、超える時間の長さに比例した割増賃金の支払いを義務付けていました。

しかし、サービス経済化、情報化などの環境の変化により、労働の専門化・多様性が高まったことで、従来のような、労働時間の長さに着目した画一的な規制では対応できない労働者(労働の質に基づいた評価をすることが適している労働者)が増えてきました。

このような状況に対応するために、業務遂行に労働者の裁量が必要となる業務について、実際の労働時間にかかわらず、労使協定や労使委員会の決議で定める時間だけ働いたものとみなす裁量労働のみなし制が導入されました。

裁量労働制とはどのような仕組みなのか?

裁量労働制には、まず、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制という2類型が存在しています(以下から、「専門型」・「企画型」とします)。

専門型と企画型のそれぞれについて、労働基準法や厚生労働省令、厚生労働大臣告示により裁量制の対象となる業務が定められています。
そして、それら対象業務に当てはまるものについて、労働法所定の手続きを踏むことで、労使協定や労使委員会の決議で定めた時間を働いたものとみなすことになります。

フレックスタイム制やみなし労働とは何が違うのか?

裁量労働制と似た制度に、フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制があります。

フレックスタイム制とは、労使協定により、あらかじめ定められた総労働時間の範囲内において、労働者が、日々の始業時刻・終業時刻などの具体的な時間配分を、その都度自由に決めることができる制度です。

事業場外みなし労働時間制とは、地方への出張や外回り営業等、労働時間中の全部または一部について、事業場の外で労働をするため、実際の労働時間の把握が困難な場合に、実際、何時間働いたかにかかわらず、事前に定めた時間を働いたものとみなします。

裁量労働制と事業場外みなし労働時間制は、どちらも「みなし労働制度」の一種であるという点、つまり、実際に何時間働いたかにかかわらず、事前に定めた時間働いたものとみなすという点が共通しています。

他方、フレックスタイム制は、労働時間を柔軟に調整できる制度ですが、みなし労働制度とは異なり、実際の労働時間に基づいて賃金を計算します。

また、裁量労働制では対象者の業務が限定されますが、上記2つの制度は、対象とされる業務に限定がありません。
裁量労働制と他の制度との違いについては以下のページでも解説しています。あわせてご覧ください。

裁量労働制導入における留意点とは

裁量労働制を導入するにあたっては、当然のことながら、裁量労働制を導入しようとする業務が、裁量労働制が適用される業務であることが必要です。労働基準法所定の業務に該当しないものについて、裁量労働制を導入することができません。

また、労働基準法所定の業務に該当する場合、例えば、企画型に該当する業務であっても、業務に従事する時間に関し使用者から具体的な指示を受けて行うものは、対象業務となりません。

さらに、裁量労働制を労働者に適用するためには、労働契約上の根拠が必要であるため、協定・決議とは別に、個別の労働契約や就業規則等に裁量労働制に関する規定を定める必要があります。
そのため、個々の労働者に裁量労働制を適用する前(労働者本人から同意を取得する前)には裁量労働制に関する規定を定めることが必要です。一般的には、就業規則に定めることが多いです。

裁量労働制の導入手続きについては以下のページでも解説しています。あわせてご覧ください。

業務遂行の方法・時間配分は労働者の裁量に委ねられる

裁量労働制を導入した業務に関しては、業務遂行の方法や時間配分の決定などについて、労働者に裁量を持たせる必要があります。
そのため、例えば、専門型の対象業務に労働者が従事している場合であっても、その業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し、労働者に裁量がないという状況が明らかになった場合には、専門型を適用することはできず、労働時間のみなしの効果は生じません。

みなしの効果が発生しない場合には、原則通り、実際の労働時間に応じた賃金または割増賃金の支払いをしなければならないことになります。

裁量労働制の対象となる業務は限られる

【専門型】

専門型は、厚生労働省令および厚生労働大臣告示により指定された、下記の20の業務に限って、導入することができます(※太字部分は令和6年4月1日から追加される業務です)。

  • 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
  • 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同じ。)の分析又は設計の業務
  • 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第28号に規定する放送番組(以下「放送番組」という。)の制作のための取材若しくは編集の業務
  • 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
  • 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
  • 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
  • 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
  • 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
  • ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
  • 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
  • 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  • 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
  • 銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)
  • 公認会計士の業務
  • 弁護士の業務
  • 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
  • 不動産鑑定士の業務
  • 弁理士の業務
  • 税理士の業務
  • 中小企業診断士の業務

【企画型】

企画型は、専門型のような具体的な業種の指定はありませんが、労働基準法38条の4第1項第1号において、対象業務として、以下の4つの要件すべてを満たす業務が規定されています。

  • 業務が所属する事業場の事業の運営に関するものであること(例えば対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼすもの、事業場独自の事業戦略に関するものなど)
  • 企画、立案、調査及び分析の業務であること
  • 業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると、業務の性質に照らして客観的に判断される業務であること
  • 業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること

専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制については以下のページでも解説しています。あわせてご覧ください。

法律で定められた手続きを経る必要がある

専門型・企画型の裁量労働制の導入に当たっては、以下の通り、各別に、必要な手続きが定められています。
専門型は、大まかに以下のような手続きをとる必要があります。

  1. 過半数労働組合または過半数代表者と、労使協定を結ぶ
  2. 個別の労働契約や就業規則等の整備、所轄労働基準監督署に協定届を届け出る ③ 労働者本人の同意を得る(令和6年4月~)
  3. 制度を実施する
  4. 労使協定の有効期間の満了 (継続する場合は①へ)

企画型の場合は、以下の通りの手続きとなります。

  1. 労働基準法所定の要件を備えた労使委員会を設置する
  2. 労使委員会において労働基準法及び労働基準法施行規則所定の事項について、委員の5分の4以上の多数による決議を行う
  3. 個別の労働契約や就業規則等の整備、所轄労働基準監督署に決議届を届け出る
  4. 労働者本人の同意を得る
  5. 制度を実施する
  6. 決議の有効期間の満了 (継続する場合は②へ)

裁量労働制の導入手続きについては以下のページでも解説しています。あわせてご覧ください。

不同意者に対する不利益な取り扱いの禁止

次の場合の配置および処遇は、不同意または同意の撤回を理由として不利益に取り扱うものであってはなりません。

  • 労働者が制度の適用に同意をしなかった場合
  • 適用労働者が同意を撤回した場合

不利益取り扱いに当たるか否かについては、個別の事情に応じて判断されますが、あらかじめ労働契約(個別の労働契約や就業規則等)の内容として、適用労働者と非適用労働者の等級とそれに基づく賃金額や、適用労働者のみが支給対象の手当が定められている場合には、同意をしなかった場合の労働条件は当該労働契約の内容に基づき決定されるものであるため、その内容が明らかに合理性のないものでない限り、同意をしなかったことを理由とする不利益取り扱いには当たりません。

労働者の健康・福祉を確保する義務がある

裁量労働制においても労働安全衛生法第66条の8の3等により、労働時間の状況の把握が義務付けられており、いかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握する必要があります。

また、裁量労働制が適用された労働者については、業務の遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ね、使用者が具体的な指示をしないこととなりますが、使用者はこのために当該適用労働者について、労働者の生命、身体および健康を危険から保護すべき義務(いわゆる安全配慮義務)を免れるものではありません。

また、健康・福祉確保措置としては、以下①~⑩のいずれかの措置を選択し、専門型は労使協定、企画型は労使委員会の決議をして、実施することが適切です。
健康・福祉確保措置を協定・決議するに当たっては、長時間労働の抑制や休日確保を図るための各事業場の適用労働者全員を対象とする措置として下記①~④までに掲げる措置の中から1つ以上を実施し、かつ、勤務状況や健康状態の改善を図るための個々の適用労働者の状況に応じて講ずる措置として下記⑤~⑩に掲げる措置の中から1つ以上を実施することが望ましとされています。

このうち特に、把握した適用労働者の勤務状況およびその健康状態を踏まえて、労働者の健康確保をはかる上で③の措置を実施することが望ましいです。

  • ① 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること
  • ② 労働基準法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1ヶ月について一定回数以内とすること
  • ③ 把握した労働時間が一定時間を超えない範囲内とすることおよび当該時間を超えたときは労働基準法第38条の3第1項の規定を適用しないこととすること
  • ④ 働き過ぎの防止の観点から、年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること
  • ⑤ 把握した労働時間が一定時間を超える対象労働者に対し、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいい、労働安全衛生法第66条の8第1項の規定による面接指導を除く)を行うこと
  • ⑥ 把握した対象労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、代償休日または特別な休暇を付与すること
  • ⑦ 把握した対象労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、健康診断を実施すること
  • ⑧ 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
  • ⑨ 把握した対象労働者の勤務状況およびその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること
  • ⑩ 働き過ぎによる健康障害防止の観点から、必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、または対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

長時間労働で体調不良者が出た場合

長時間労働により体調不良者が出た場合または体調不良者が出るおそれがある場合には、上記①~⑩の事項のうち、特に以下の措置を適切に実施することが望ましいです。

  • ⑤把握した労働時間が一定時間を超える対象労働者に対し、医師による面接指導を行うこと
  • ⑥把握した対象労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、代償休日または特別な休暇を付与すること
  • ⑦把握した対象労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、健康診断を実施すること

面接指導や、健康診断の実施義務については以下のページで解説しています。あわせてご覧ください。

苦情処理措置を定める必要がある

苦情処理措置に関しては、次の点について、その具体的内容を明らかにすることが必要です。

  • 苦情の申出の窓口、担当者
  • 取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等

この際、使用者や人事担当者以外の者を申出の窓口とすること等を工夫することにより、対象労働者が苦情を申し出やすい仕組みにすることや、取り扱う苦情の範囲に関しては対象労働者に適用される評価制度、賃金制度およびこれらに付随する事項に関する苦情も含めることが適当です。

既に企業内に苦情処理システムをお持ちの企業については、例えば、そのようなシステムで専門型に関する苦情処理を併せて行うことを労働者に周知するとともに、当該システムが企画型の運用の実態に応じて機能するよう配慮することが求められます。

裁量労働制であっても割増賃金は発生する

裁量労働制は、労働時間数にみなし効果が発生するだけで、時間外・休日労働等に関する規定は変わらず適用されます。
労使協定等で定めるみなし労働時間数が法定労働時間を超える場合には、36協定の締結・届出および割増賃金の支払いをしなければなりません。

裁量労働制を適切に運用するためには

裁量労働制は、労働者に柔軟な働き方を認めるものであり、労働者にとっては、仕事とプライベートのバランスをとることができるものである一方で、運用の仕方によっては、労働者に違法な長時間労働を強いる結果となる可能性もあります。

そのため、裁量労働制を導入するにあたっては、淡々と必要な手続きをとるだけでなく、労使協定や労使委員会決議において、労働基準法および労働基準法施行規則所定の事項だけではなく、措定の事項以外の事項についても、十分な検討をする必要があります。

労働時間を正確に把握・管理する

裁量労働制においても、労働時間の状況の把握が義務付けられており、いかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供できる状態にあったかどうかを把握する必要があります。

労働時間の状況把握の方法については、各事業場の実態に応じて適当な当該方法を具体的に明らかにしていることが必要です。労働者の自己申告は原則として認められず、やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合においては認められます。

そして、上記により把握した労働者の労働時間の状況に基づいて、対象労働者の勤務状況に応じ、使用者が健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確に協定・決議することが必要です。

遅刻や早退の取り扱いについて

裁量労働のみなし時間制は、業務遂行や労働時間の配分に関して裁量性が高い業務を行う労働者に関して、協定・決議で定めることで、実際の労働時間と関係なく、協定・決議で定めた時間労働したものとみなす制度です。

しかし、裁量労働制の適用労働者は、フレックスタイム制のように出退勤が自由というわけではありません。
使用者は、具体的な業務のやり方や働く時間について、大幅に労働者の判断に委ね、具体的な指示命令を行わないことにはなりますが、裁量労働従事者にも、就業規則や労働契約書等によって、始業・終業時刻は決められることとなります。

そのため、例えば、裁量労働制の適用労働者が遅刻をした場合には、職場の秩序を乱したことを理由に注意し、それでも繰り返される場合には、就業規則に従い、懲戒処分を検討していくことになります。ただし、労使協定で定めた時間は労働したものとみなされる以上、裁量労働の範囲であれば、賃金カットはできないと考えられます。

また、早退について、例えば、上司に早退する旨を告げる等一定の手続きをせずに勝手に早退した場合には、手続違反に対して注意し、改善されない場合には、就業規則に従い、懲戒処分を行うことができます。ただし、遅刻同様、賃金カットはできないのが通常です。

労働基準法に違反した場合の罰則

労働基準法には、裁量労働制を導入・運用する際に行わなければならない義務に違反した場合について、個別に罰則を科す条項は存在していません。

もっとも、前述のように、裁量労働制は、あくまで労働時間数についてみなし効果が発生するだけであって、休憩、休日、時間外・休日労働、深夜業に関する規定は変わらず適用されることになります。
そのため、休憩、休日、時間外・休日労働、深夜業に関する規定に違反した場合には、変わらず罰金刑や懲役刑が科されることとなります。

裁量労働制に関する裁判例

裁量労働制は、以上のように、実際の労働時間にかかわらず、事前に協定・決議された時間数労働したとみなされる制度であるため、長時間労働が常態化しやすいという問題があり、実際にも裁量労働制適用下の長時間・過重労働により過労死に至り、労災認定された事例も存在します。

さらに、裁量労働制においては、裁量労働制を適用できない業務・労働者に対し違法適用し、時間外割増賃金を支払わないという事例も生じやすく、しかもその被害が潜在化しやすいという問題があります。

以下では、問題となった従業員の行う業務が、専門業務型裁量労働制の対象となる業務に該当するか否かについて判断した事例を紹介します。

【事件の概要】
会計事務代行業務等を目的とする株式会社Y1および税理士法人Y2は、税理士となる資格を有せず、税理士名簿への登録も受けていなかったXを、Yらの法人税・資産税部門の税理士の補助業務を行うスタッフとして雇用していました。

Xは、Yらに雇用されていた期間、時間外および休日労働をしましたが、YらはXに、割増賃金の一部の支払いをしなかったことから、Xが未払分の支払いを求めたのですが、Yらが応じなかったため、Xは、未払分の割増賃金、付加金およびそれらに対する遅延損害金の支払いを請求するため、提訴しました。

裁判所の判断
(平成25年(ネ)第5962号、平成25年(ネ)第7081号・平成26年2月27日・東京高等裁判所・第二審・レガシィ事件)

裁判所は、専門業務型裁量労働制の対象業務の規定方法が、限定列挙方式となっている趣旨は、裁量労働制が、労働者が実際に労働した時間を問題としないで、労使協定で事前に定めた時間働いたものとみなし、割増賃金の支払を不必要とするものであり、賃金面で労働者の不利益となる可能性がある制度であるため、その対象業務をできる限り明確化すべきことにあったと考えられると判断しています。

そして、「税理士の業務」が専門業務型裁量労働制の対象とされた趣旨は、税理士が法律上の国家資格として専門性が確立していると考えられることに着目したものであるため、専門業務型裁量労働制の対象となる「税理士の業務」とは、税理士法3条所定の税理士となる資格を有し、同法18条所定の税理士名簿への登録を受けた者自身を主体とする業務をいうと考えるのが相当である旨判事しました。

そのうえで、本事案では、Xは、Yらの法人税・資産税部門の税理士の補助業務を行うスタッフとして雇用され、雇用期間中は、確定申告に関する業務等を行っていたものの、Xは、税理士となる資格を持たず、税理士名簿への登録も受けていなかったのであるから、Xの業務は、専門業務型裁量労働制の対象となる「税理士の業務」ということはできないと判断しました。

ポイント・解説
裁量労働制の対象は限定して規定されており、専門型に至っては、具体的な20の業務が明確に規定されています。
そして、上記の裁判例からすると、裁量労働制の適用を受ける業務は、非常に限定的に考えなければならないことになります。

したがって、裁量労働制を導入しようとする業務について、事前に対象となる業務に当たるか否かを十分に検討した上で導入しなければ、労働者に対する賃金の支払いがなされていない、または不十分であるとして、労働者との間で争いが生じてしまう可能性があるため、十分に注意しましょう。

裁量労働制の導入でお悩みの方は、弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けましょう。

裁量労働制は、労働者にとっては、自由な働き方をすることができるもので、会社にとっても、あらかじめ協定・決議された時間数労働したとみなして、割増賃金の支払いを不要とするものであり、導入することができれば、業務の効率化を図ることができます。しかし、十分な検討無く導入した場合には、無用の紛争を生じさせてしまうおそれがあります。

裁量労働制を導入するにあたっては、誰のどのような業務について導入するのか、どのような体制で問題発生を防ぐのかをよく検討した上で、適法かつ効率的に業務を遂行できる体制を作る必要があります。

裁量労働制を導入するにあたって、導入しようとしている業務について導入に当たり問題点がないか、協定・決議においていかなる定めをすれば有用かなど疑問があれば、企業法務専門家の弁護士へご相談ください。

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執筆弁護士

 田中 佑資
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所田中 佑資(東京弁護士会)
弁護士 アイヴァソン マグナス一樹
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士アイヴァソン マグナス一樹(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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