
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
(元)従業員から労働審判を申し立てられた場合、会社側として、どのように対応をすればよいでしょうか。詳しくは後述しますが、労働審判において、相手方である会社側にとって準備時間は短く、適切に対応をしないと、会社が予定外の不利益を被ることがあり得ます。
本コラムでは、そのような事態を回避するため、労働審判の流れを簡潔に説明いたします。
目次
労働審判のポイント
労働審判は、労働者個人と会社との間で発生した労働トラブルを実態の応じて迅速に解決するための手続きです。大まかな労働審判の流れを次項で説明いたします。
労働審判の大まかな流れ
労働審判は、原則として、3期日以内に終了することが予定されている手続きです。
労働審判の第1回期日は、申立がなされた日から40日以内に指定されます(労働審判規則第13条)。
その中で、和解ができないかを探り、できない場合には、審判に移行します。
この審判に当事者が納得できない場合には、訴訟に移行することとなります。
労働審判を申し立てられた会社はどう対応すべきか?
では、労働者から労働審判の申し立てがあった場合、会社側はどのように対応すればよいのでしょうか?
次項から、労働審判の申し立てがあった場合の会社側の対応のポイントについて説明いたします。
申立て~期日前のポイント
会社側は、労働者から労働審判を申し立てられ、「相手方」という立場で労働審判にかかわることが多いかと存じます。
労働審判が実際に申し立てられた場合には、裁判所から申立書が送付されてきます。
まずは、申立書の内容を確認し、会社側の認識と異なる点がないか、法的に反論する必要のある点がないか等を検討することになります。
労働審判に対応するうえでの手続きの流れについては、以下のページでより詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
答弁書は期限間近に提出すると不利になる?
労働審判においては、申立書が送付された後、裁判所から答弁書の提出期限も伝えられます。
答弁書の提出期限を守ることができないと、会社側の認識が、裁判所に適切に理解されず、不利に展開する可能性が否定できません。
労働審判期日のポイント
ここで、労働審判期日において、会社側に求められる対応について説明いたします。
事実関係を説明できる者を同行させる
労働審判期日においては、裁判所の審判員から、争点に関し、申立書及び答弁書の記載内容に従い、口頭で事実確認等がされる可能性があります。
したがって、当日は、事実関係を把握しており、説明が可能な者を同行させる必要があります。
審判員からの質問には端的に回答する
労働審判は、原則として、3回の期日で終了するため、自身の主張を伝える機会が何度もあるわけではありません。
したがって、審判員からの質問には、端的に回答することができるよう、期日前には、事案の概要及び会社の主張内容を正確に理解しておくことが重要となります。
調停成立時のポイント
では、調停成立時において、会社側に求められる対応にはどのようなポイントがあるのでしょうか。次項からみてみましょう。
和解の落としどころを見極める
労働審判は、原則として、3期日以内で終了するものです。そのため、実際には、第1回期日で審判員からある程度の心証が開示され、和解案が提示されるケースが多いです。
したがって、事前に和解することについて、どの程度の条件まで譲歩することができるかは想定したうえで、第1回期日に参加することが重要となります。
調停条項には「守秘義務条項」を入れておく
和解調停が成立した場合には、事案の概要に応じて、様々な調停条項が盛り込まれることになります。
この中で、会社が労働審判を申し立てられたということ及びその内容を、申立人が第三者に話すことができないようにするために、「守秘義務条項」を盛り込むことが重要となります。
審判確定時のポイント
審判が確定した際、会社側に求められる対応にはどのようなポイントがあるのでしょうか。次項からみてみましょう。
異議申立ては2週間以内に行う
労働審判は、2週間以内に異議が出なければ、裁判上の和解と同一の効力が生じます(労働審判法第21条第4項)。
そして、裁判上の和解と同一の効力というは、判決と同じ効力を有するというのと同義になります。
したがって、労働審判の結論について、争いたい場合には、2週間以内に異議申し立てをする必要があります。
労働審判でやってはいけない対応とは?
ここで、労働審判に対応するうえで、避けた方がよい点について説明いたします。
労働審判の呼出しを無視する
労働審判が申し立てられた場合、相手方には出頭義務が課され、これに違反した場合には5万円以下の過料の制裁が課されることになっています(労働審判法第31条)。
また、訴訟の場合と異なり、擬制自白(原告の言い分をすべて認めたという扱いになってしまう制度のこと。)の定め等があるわけではありませんが、相手方から答弁書の提出もなく、申立人の主張立証に基づき審判を下せるとの判断がなされた場合には、審判が下される可能性もあるため、呼出しを無視することは避けるべきでしょう。
法律や証拠、事実に基づかない主張を行う
労働審判においては、審判官が、法律や証拠をもとに、事案を判断することになります。
この点、法律に基づかない主張や、証拠を伴わない事実の主張をしても、審判官を納得させることは困難ですので、避けるべきでしょう。
声を荒げたり、侮辱するような発言をする
労働審判においては、申立人が、会社の認識に沿わない主張をしてくることも多いため、会社としては、腹が立つようなこともあるとは存じます。
ただし、声を荒げたり、侮辱するような発言をすることで、状況が改善することはなく、むしろ審判官からの心証が悪化したり、別のトラブルを発生させたりするだけであるため、避けるべきでしょう。
労働審判委員会の進行に従わない
労働審判委員会の進行に従わないことも審判官からの心証を悪化させる原因となりかねず、状況が改善することはないため、避けるべきでしょう。
会社が労働審判で虚偽の陳述をした場合はどうなる?
労働審判において、虚偽の陳述を行うことは避けるべきでしょう。
会社が、労働審判において、証拠に基づかず、虚偽の陳述をしたとしても、その主張は、申立人側の主張と一致しないでしょうし、また、証拠も伴わないため、当該陳述の内容が審判の前提となる事実として認められる可能性は低いです。
さらに、虚偽の陳述をした場合は、他の証拠や事実と齟齬が生じる可能性が高く、そうすると、会社の主張全体の信用性が大きく下がる可能性があります。
労働審判に強い弁護士を選ぶポイント
労働審判は、短い準備期間で、充実した主張を行う必要があり、労働法制に関する経験、知識が豊富な弁護士でなければ適切な対応をすることが困難でしょう。
労働分野をよく扱う弁護士を選ぶことが重要です。自社の顧問弁護士が、労働分野に詳しくはないという状況でしたら、他の弁護士を選択することもあり得るでしょう。
労働審判の有利な解決を目指すには会社側の対応が重要です。労働審判の対応でお悩みなら弁護士にご相談下さい
労働審判について、会社の認識をきちんと裁判所に伝え、有利な解決を目指すには、法的な知識、事実の精査が非常に重要です。
会社の担当者だけで対応することも可能ですが、それにかかる負担、時間及び最終的に対応を誤った場合のリスクを考えると、専門家である弁護士を利用することをお勧めいたします。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士アイヴァソン マグナス一樹(東京弁護士会)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある