従業員を今すぐ解雇できる?即日解雇する場合に会社がおさえておくべき注意点

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

即日解雇は、従業員に解雇を言い渡す当日に雇用関係を終了させる解雇方法を言います。
解雇には、大きく分けて、普通解雇と懲戒解雇に分けられていますが、そのいずれについても、判例上、非常に高いハードルを越えなければならないと考えられています。

それでは、そもそも高いハードルを越える必要がある従業員の解雇を、即日で実施することはできるのでしょうか。解雇できるとして、会社はどのような点に注意する必要があるでしょうか。
以下では、従業員を即日で解雇することができるのか否か、会社が従業員を即日解雇する場合に注意すべき点を解説します。

目次

従業員を今すぐ解雇することはできる?

結論から言えば、即日解雇することは可能であると考えられています。
しかし、当然ながら即日解雇することは容易なことではありません。
解雇をするためには、解雇をするだけの理由と合理性が必要であるほか、即日で解雇する場合には、解雇予告手当を支払う必要があるとされています。

解雇の合理性・社会的相当性が必要

従業員を解雇する場合には、普通解雇と懲戒解雇のいずれであっても、当該解雇に以下が認められることが必要と考えられています(労働契約法16条)。

  • 客観的に合理的な理由がある(客観的合理性)
    労働者の労働能力の欠如、規律違反行為の存在など、解雇理由として合理的と考えられる事情が存在すること
  • 社会通念上相当である(社会的相当性)
    解雇の理由となる事情の内容・程度、労働者側の情状、使用者側の事情や対応、他の労働者への対応例との比較、解雇手続の履践など、当該解雇にかかる諸事情を総合的に勘案し、労働者の雇用喪失という不利益に相応する事情が存在していること

原則解雇予告手当の支払いが必要

即日解雇をするためには、以上のほかに、解雇予告手当として、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(労働基準法20条1項本文)。

詳しくは以下のページをご覧ください。

即日解雇の解雇予告手当が不要となるケースもある

前述のように、即日解雇する場合には解雇予告手当を支給することが原則となりますが、例外的に、解雇予告手当を支給する必要がない場合もあります。

解雇予告の適用除外

労働基準法20条1項但し書きにおいて、解雇予告手当を支給する必要がない場合として、以下のように規定されています。

  • 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
    使用者の故意・重過失によらない火災、震災などを指すと考えられています。
  • 労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合
    解釈例規によると、労働者の非違行為が重大・悪質であり予告なしで解雇することもやむを得ない場合に限って認められるとされています。

労働基準監督署の除外認定

解雇予告手当を支給する必要がない場合に該当する場合であっても、解雇が「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」又は「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」に該当するかどうかについて、会社が独自で判断して良いわけではありません。
当該各事由に該当するか否かについては、所轄の労働基準監督署長による認定を受けることが必要です(労働基準法第20条第3項・第19条第2項)。

なお、当該認定は、あくまでも労働基準監督署の判断に過ぎないため、仮に解雇予告除外認定が行われたとしても、労働者側から解雇の有効性を別途争われる可能性は依然として残ると考えられます。

会社としては、解雇予告除外認定を行うかどうか以前に、そもそも労働者を解雇できるか否かについて慎重に検討する必要があります。

即日解雇をする際の基本的な流れ

  1. 解雇を適法に行うことができるかの検討

    解雇の種類に応じた解雇事由に当たる事情がない場合、不当解雇として無効となるため、就業規則を確認し、従業員を解雇する事情が解雇事由として規定されているか確認する必要があります。

    さらに、前述のように、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、解雇権の濫用として違法・無効となるため、弁護士等に相談をして、慎重に解雇することができるかを検討する必要があります。

  2. 解雇予告手当支給の準備

    解雇予告手当の支払いを行う準備が必要になります。
    従業員を即日解雇する際には、原則として30日以上の平均賃金を支払わなければならないため、あらかじめ、対象となる従業員の平均賃金の算定をすることが必要です。

  3. 解雇通知を作成する

    当該従業員を解雇したことや解雇日等を客観的な証拠として残すために対象となる従業員に対して解雇通知を交付することが重要となります。

即日解雇する場合に会社がおさえておくべき注意点

即日解雇に当たっては、当該従業員を確実に解雇したことが明らかになるように、いくつかの注意点があるため、以下、説明します。

解雇通知書は書面で交付する

当該従業員を解雇したことや解雇日等を客観的な証拠として残すために対象となる従業員に対して解雇通知を書面にて交付することが重要となります。

なお、即日解雇では、従業員に解雇通知書を手渡しするようにすべきと考えられます。
解雇通知書を郵送する方法もありますが、従業員が受け取らない、あるいは受け取ったことを後日証明できなくなるなど、解雇の効力が認められないリスクがあるため、郵送することは避けることが望ましいと考えられます。

解雇理由証明書を請求されたら速やかに交付する

労働基準法22条1項においては、労働者が退職する際に、退職の事由(解雇理由を含む)等を記載した証明書を交付するよう請求した場合、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならないと規定されています。
解雇が恣意的になされることを防止するとともに、労働者が解雇を受け入れるか争うかを迅速に判断できるようにするためです。

この証明書においては、使用者は、解雇理由を具体的に記載する必要があります。
例えば、就業規則上の解雇事由に該当するとして解雇がなされた場合には、就業規則の当該条項の内容及び同条項に該当する事実関係を証明書に記載しなければならないと考えられています。

なお、解雇理由証明書に記載された理由以外の解雇理由を訴訟において事後的に追加主張することは、原則として許されないものと考えられています。そのため、会社としては、解雇をする場合には、事前に解雇理由を十分に精査しておく必要があります。

使用者が解雇理由証明書を交付しなかった場合、使用者は30万円以下の罰金に処せられます(労基法120条1号)が、そのことから直ちに解雇が権利濫用とされ無効となるわけではないと考えられています。

詳しくは以下のページをご覧ください。

業務の引継ぎは早めに済ませておく

従業員を即日解雇する場合、解雇の翌日から当該従業員は出社することがなくなるため、解雇を言い渡した後に、当該従業員が行っていた業務の引継ぎをすることができないこととなります。
そのため、即日解雇する場合には、会社の業務遂行に支障がないように準備する必要があります。

法律上の解雇禁止期間にも注意

使用者は、労働者が業務上の負傷や疾病による療養のために休業する期間及びその後30日間、産前産後休業の期間及びその後の30日間は、当該労働者を解雇してはならないとされています(労働基準法19条1項本文)。
これらの期間に解雇されると、当該労働者の再就職が難しく、生活に脅威を来すことになるためと考えられています。

即時解雇が不当解雇とみなされた場合のリスク

即日解雇が、事後的に裁判で違法・不当な解雇であると判断された場合には、解雇された従業員は、解雇された日以降も引き続き会社の従業員であったこととなるため、解雇された日以降の従業員の賃金を支払わなければならないこととなります。

さらに、仮に、即日解雇自体が無効とならない場合であっても、解雇予告手当を支給しなかったあるいは30日分に満たない額を支給していた場合には、解雇予告義務違反として、裁判所から付加金の支払いを命じられることがあります。

これは、労働者の請求を受けた裁判所が、使用者に対し、未払賃金と同額の支払いを命じる金銭で、労働基準法違反に対する制裁金として命じられるものです(同法114条)。

違法な即日解雇を受けた労働者が、裁判所に訴訟を提起すれば、未払いの解雇予告手当金に、さらに同額を加算して支払うよう命令される可能性があります。

即日解雇の有効性について争われた裁判例

これまで述べてきたように、即日解雇の場面では、労働基準法により原則として、30日分の賃金を解雇予告手当として支払うことが義務付けられていますが、解雇予告手当を支給すればいいというものではなく、解雇が認められるに足りる事情が必要なことは即日解雇ではない解雇の場合と同様であり、安易に即日解雇して重大なトラブルになっているケースも散見されます。

以下では、会社が従業員を即日解雇した事案について解説していきます。

事件の概要
(平27(ワ)602号・平成29年3月31日・さいたま地方裁判所・判決)

本件は、香港出身の日本国籍を有するXが、不動産の売買仲介賃貸及び管理等を業務とする株式会社での総務又は経理事務担当者として勤務しており、ある時、Y事務所内において、当時Y代表者が所持していた紙製のファイルが、Xの顔面に当たったというトラブルが発生し、Xは、Y代表者からの暴行又は傷害被害を受けたとして、警察署に被害届を提出し、あるいは提出しようとしました。

しかし、Yはこれを虚偽告訴罪にあたると主張し、また、その後Xが、怪我を負ってもいないのに複数の病院を受診するなどした上、その治療費等をYに請求して支払わせたことが詐欺罪にあたると主張して、これらが、就業規則上の解雇事由に該当すること、また、Xの日本語能力の乏しさとそれに伴う日本語での会話の困難さ、接客態度や電話応対の悪さ等についても解雇事由に該当することを理由として、Xを即日解雇したことに対して、Xが、雇用契約上の地位の確認、判決確定までの賃金の支払い等を請求した事案です。

裁判所の判断
裁判所は、XとY代表者との間のトラブルの経過を見れば、Xにおいて代表者が意図的にXを殴打したと思ったことは無理からぬことであり、さらに、結局のところXによる被害届は正式に受理もされずに終わったというのであるから、XがY代表者について虚偽告訴をした事実があったとは認められないこと、Xが無用無益な治療・検査を受け、意図的にその過剰診療の代金等をYに支払わせた事実を認めるに足る証拠もないから、Xに詐欺行為があったとも認められないとして、Xによる被害届の提出及び治療費等の請求が、被告就業規則所定の懲戒解雇事由や普通解雇事由にあたると認められないと判断しました。

また、Xの日本語能力の低さ等の点についても、これらの事実の存在を認めるに足りる証拠がないか、仮に存在したとしても、それをもって就業規則所定の懲戒解雇事由や普通解雇事由にはいずれも該当しないものであって、他に解雇の合理的理由を基礎づけるような事情が存在するとも認められないと判断して、YによるXの解雇は、無効であると判示しました。

ポイント・解説
本裁判においては、Yは、Xについて多数の就業規則違反に関する主張をしていました。
しかしながら、それら就業規則違反の主張については、事実に対する評価を誤ったものであり、客観的に合理的な理由であるとは認められない、又は、証拠が不十分であるとして会社の主張する規律違反行為があったとは認められないという判断がされています。

解雇するにあたっては、訴訟等の紛争になった場合に備えて裁判所が事実認定をすることができるように証拠を揃えるということはもちろん、それらが認められたとしても、それらの事実に基づく解雇が客観的に合理的な理由として就業規則所定の解雇事由に該当する事実として認められるかを検討することが、極めて重要であると考えられます。

即日解雇によるトラブルを防ぐために、労働問題に強い弁護士がアドバイスいたします

これまで説明してきたように、そもそも解雇すること自体に慎重になる必要があるうえ、即日解雇には解雇予告義務違反による付加金など大きなリスクが伴います。
従業員の問題行動にお悩みの際には、是非労働問題に精通した弁護士へ相談することをお勧めします。

よくある質問

即日解雇の通知は口頭で行ってもいいですか?

口頭で行うことも可能ですが、解雇を通知したことを客観的な証拠として残すために、書面で通知することが望ましいと考えられます。

即日解雇を行う場合、解雇通知書はいつ交付する必要がありますか?

即日解雇を行う場合には、解雇を通知したその日に手渡しで交付すべきと考えられます。
郵送する方法もありますが、従業員が受け取らない、あるいは受け取ったことを後日証明できなくなるなど、解雇の効力が認められないリスクがあり、避けた方が良いでしょう。

能力不足の従業員を即日解雇にできますか?

30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支給することにより、解雇を通知したその日で解雇することは可能と考えられます。
なお、当該解雇が有効な解雇であるかどうかについては別途問題となるため、解雇を行う場合には、慎重な検討が必要となります。

詳しくは以下のページをご覧ください。

即日解雇が認められるかどうかはどのように判断されますか?

即日解雇が認められるか否かは、普通解雇ないし懲戒解雇と同様に、当該解雇が客観的に合理的な理由に基づいて行われたもので、社会通念上相当であるか否かにより判断されると考えられています。

従業員が即日解雇に同意しない場合はどうしたらいいですか?

解雇は、就業規則に定める事由に該当することを理由として、使用者から一方的な意思表示により、労働契約関係を終了させるものであるため、労働者の同意は必要ありません。

そのため、労働者が同意していなかったとしても、当該解雇が、当該解雇が客観的に合理的な理由に基づいて行われたもので、社会通念上相当である場合には、有効に解雇できると考えられます。

懲戒解雇であれば解雇予告や解雇予告手当の支払いは不要ですか?

懲戒解雇を行う場合であっても、労働基準法20条1項本文の規定は適用されるため、解雇予告や解雇予告手当を支給する必要はあると考えられます。

詳しくは以下のページをご覧ください。

パートやアルバイトの即日解雇でも解雇予告手当の支払いは必要ですか?

パートやアルバイトであったとしても、解雇予告手当の支払いは必要となります。

即日解雇を行う場合、解雇予告手当はいくら支払う必要がありますか?

解雇予告手当は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないとされています(労働基準法20条1項本文)。

詳しくは以下のページをご覧ください。

解雇予告除外認定の申請から認定までの期間はどれくらいかかりますか?

認定までにかかる期間は事案によって異なるものであるため、一概に認定までの期間を明言することは困難ですが、少なくとも数週間の期間を要すると考えられます。

即日解雇する従業員の有給休暇が残っていた場合、会社が有給休暇を買い取る必要はありますか?

使用者に有給休暇の買取義務はないと考えられています。
そのため、労働者が買取を求めたとしても、応じる必要はないことになりますが、会社が任意で、有給休暇を買い取ることはできると考えられます。

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執筆弁護士

弁護士 田中 佑資
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士田中 佑資(東京弁護士会)
プロフェッショナルパートナー 弁護士 田中 真純
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所プロフェッショナルパートナー 弁護士田中 真純(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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