退職勧奨で言ってはいけないこととは?4つの言葉や成功のポイント

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

従業員の合意により労働契約を終了させる「退職勧奨」は、一歩間違えると「違法な退職勧奨」と判断されるリスクがあります。不用意な発言が多額の慰謝料請求に発展するケースも少なくありません。

本記事では、退職勧奨で避けるべき言葉や、違法な退職勧奨をした場合の会社のリスクなどを解説します。

目次

退職勧奨で言ってはいけないこととは?

退職勧奨は、労働者の自由意思に基づく退職合意を獲得するものです。社員に過度な心理的圧力をかけたり、本人の名誉感情を侵害したりするやり方は会社が社員に対し、本人の意思にかかわらず退職を強要する退職強要に該当します。

以下では、退職勧奨で言ってはいけない言葉について説明します。

罵倒・侮辱など従業員の人格を否定する言葉

大声で怒鳴る、机を叩くといった威圧的な態度や、「給料泥棒」「寄生虫」などと労働者の能力や人格を否定・侮辱する発言は、退職勧奨の限度を超えた違法行為であると判断される可能性があります。

退職に応じる以外に選択肢がないかのような言葉

退職勧奨はあくまで労働者の自由な意思による合意解約の申込みです。「会社に残る席はない」「しがみついても意味がない」「辞めるというまで帰さない」などと執拗に迫り、退職以外の選択肢はないと誤信させて行った退職の意思表示は、錯誤又は強迫として取り消され又は無効になる可能性があります。

退職に応じなければ解雇されると受け取れる言葉

「辞めなければ懲戒解雇にする」と告げる行為は、退職勧奨における不法行為や、退職意思表示の取消・無効の原因となり得ます。

ハラスメントに該当する言葉

「寄生虫」「他の社員の迷惑」といった表現は、社会通念上の許容限度を逸脱するとして、違法な退職勧奨に当たると判断された例があります。加えて、名誉感情を不当に侵害する発言や、業務上必要かつ相当な範囲を超えて就業環境を害する言動は、パワーハラスメントに該当し、違法な退職勧奨と評価され得ます。

退職勧奨での発言が不当と判断された裁判例

退職勧奨における発言が不当と判断された裁判例として、全日空事件(大阪地判平成11.10.18)が挙げられます。

事件の概要(平成7年(ワ)第11394号・平成11年10月18日・大阪地方裁判所)

この事件は、上司5名が従業員に対し、約4ヶ月間にわたり30回以上の面談を行い、中には8時間にも及ぶ長時間面談があり、面談時には「寄生虫」「他の乗務員に迷惑」といった発言や、大声を出す、机をたたくといった行為があった事案です。

裁判所の判断

裁判所は、当該退職勧奨の頻度、面談時間の長さ、言動が許容できる範囲を超えていると判断しました。その結果、違法な退職勧奨として不法行為の成立を認め、会社に対して慰謝料90万円の支払いを命じました。

ポイント・解説

この事件は、退職勧奨の頻度、面談時間の長さ、発言内容及び行為の態様などを考慮した結果、退職勧奨が社会通念上許容される範囲を超えた場合に、違法な退職勧奨となり、不法行為が成立することを具体的に示した事例です。

違法な退職勧奨をした場合の会社側のリスク

違法な退職勧奨をした場合の会社側のリスクとして以下のリスクが考えられます。

  • 退職してもらえない
  • 退職が無効になる
  • 労使紛争に発展する
  • 慰謝料を請求される

退職してもらえない

退職勧奨は、あくまで合意による労働契約の解約の申込みであり、労働者にはこれを拒否する自由があります。違法な態様で強引に迫ると、労働者が態度を硬化させ、退職の合意に至ることが困難になります。解雇を適法に行わない限り、会社は雇用を継続しなければなりません。

退職が無効になる

違法な退職勧奨を行った場合、退職そのものが無効になる可能性があります。その場合には、社員の希望に応じて復職を認める必要があります。また、職場を離れていた期間の賃金も全額支払わなければなりません。

労使紛争に発展する

社員に「労働審判」や「訴訟」を起こされ、紛争に発展するおそれがあります。
特に訴訟となった場合、解決まで1年以上かかるケースも多いため、会社の手間や費用負担は大きくなると考えられます。

慰謝料を請求される

違法な退職勧奨により“精神的苦痛”を負ったとして、社員に慰謝料を請求される可能性があります。慰謝料の相場は30万~100万円とされていますが、本人がうつ病などを患った場合はより高額になる傾向があります。

退職勧奨でトラブルにならないためのポイント

退職勧奨において、退職の合意は自由な意思に基づくものではなかったなどと後のトラブルが発生するのを防ぐために、以下のようなポイントがあります。

詳しくは以下のページをご覧ください。

面談の場所・回数・時間・人数に配慮する

面談は1回30分〜1時間、回数は最大3〜4回程度が目安です。長時間・多数回の拘束や、鍵のかかる部屋への隔離、大人数での包囲などは、心理的圧迫による「退職強要」とみなされ違法となるため、会議室などで2〜3名で行うのが適切です。

面談での会話を録音しておく

「退職を強要された」「解雇と言われた」などの言った言わないの争いを防ぐため、録音や書面で記録を残します。後に訴訟などへ発展した際、会社側が威圧的な言動を行わず、適法に勧奨を進めていたことを立証するための不可欠な証拠となります。

退職条件の上乗せを検討する

解決金(給与数ヶ月分など)や退職金の上乗せ、有給休暇消化などの条件を提示し合意を促します。特に「会社都合退職」扱いとすることは、失業手当の給付制限期間がなく労働者のメリットが大きいため、交渉時の重要な条件となります。

退職合意書を作成する

後日「言った言わない」のトラブルに発展することを防ぐため、必ず退職合意書を作成します。退職日や解決金の額、会社都合か否か、有給消化などの条件を明記します。さらに、互いに債権債務がないとする清算条項を設け、将来的な紛争を確定的に防止します。

退職勧奨に応じない場合の対処法

退職勧奨はあくまで労働者の同意が前提であるため、退職を拒否する意思が明示された後の執拗な説得は違法な退職勧奨となります。したがって、明確に拒否された場合は直ちに勧奨を中止し、配置転換など雇用継続を前提とした対応へ切り替える必要があります。

もっとも、労働者が退職後の生活に不安がある場合には、条件面での譲歩が有効です。解決金や退職金を上乗せして支払うことで、退職に応じてもらえる可能性があります。金額としては、3~6ヶ月分の給与を上乗せするのがひとつの目安です。

詳しくは以下のページをご覧ください。

よくある質問

退職勧奨で必ず言うべきことはありますか?

退職勧奨で必ず伝えるべきこととして、退職勧奨となった理由を十分に説明できるように準備すること、担当者の個人的な見解ではなく会社としての評価・認識を伝えること、対象者の不安を払しょくするために退職条件などを説明すること、そして「これは任意の話し合いであって強制ではない」と説明することなどが挙げられます。

退職勧奨は遠回しに伝えるべきでしょうか?

退職勧奨を実施する側としては話しづらいテーマですが、単刀直入に結論から「退職に関する話し合いをしたい」と切り出す方が、話し合いが長時間に及びづらく、条件面の話に進みやすいこともあります。

退職勧奨の際に解雇の可能性を伝えても良いですか?

退職勧奨の際に解雇の可能性を直接的な「二者択一」として伝えることは退職強要となりかねないため、避けるべきです。例えば、「問題行動を会社としてこれ以上放置することはできない。」といった、会社として適切な対応を取る旨を伝えることは可能です。それに対して従業員側から「解雇される可能性があるのか」と聞かれた場合に、問題行動について最後の改善の機会を与えるために「これ以上改善が見られなければ解雇の可能性もありうる」と伝えることは、「退職勧奨に応じなければ解雇」という「二者択一」の趣旨ではなくなるため、伝えて「即違法」とはならないでしょう。

退職勧奨の際に降格・減給・転勤の可能性を伝えても良いですか?

退職勧奨を拒否した従業員に対して、配置転換や関連会社への出向を命じることは、労働条件の再検討として行われることがあります。

ただし、これらの措置は、当該従業員のキャリアや年齢、異動先の業務内容、異動による当該従業員の生活上の不利益などを踏まえて、必要性・相当性を十分に検証し、理由や目的を説明するなどの手続的配慮も必要です。

必要性・相当性の認められない配置転換等は、それ自体人事権の濫用となりますし、合理的な理由や目的がなければ、退職勧奨拒否に対する報復という不当な動機・目的による配置転換等と認定されやすい状況となるからです。

「一身上の都合で退職してほしい」という言い方は適切ですか?

「一身上の都合で退職してほしい」という言い方は、会社が退職勧奨を行う際には適切ではありません。会社として退職してほしい意向を明確に伝え、その理由を具体的に説明することが重要です。

退職勧奨となった理由を十分に説明できるように準備し、担当者の個人的な見解を伝達することは控えるべきです。退職事由として、自己都合とするのか会社都合とするのかについても、従業員と真摯に話し合って決める必要があります。

「みんな辞めている」「他の人も同意している」など、周囲を引き合いに出すのは適切ですか?

「みんな辞めている」「他の人も同意している」など、周囲を引き合いに出すことは適切ではありません。このような言動は、従業員が恐怖感を抱くような方法による勧奨とみなされ、違法な退職勧奨と判断されるリスクがあります。強制的な雰囲気の中で面談を行ってはなりません。

「あなたのために言っている」と感情的に説得するのは適切ですか?

「あなたのために言っている」といった感情的な説得は過度に行わないようにしましょう。

退職勧奨をするに至った理由を伝えないままに感情的な説得ばかり繰り返すことは、従業員がなぜ退職を求められているか分からず、退職の意向を引き出せないばかりか、退職の合意に至ったとしても、従業員の自由な意思決定ではなかったとして、無効な退職合意や違法な退職勧奨であると判断されるリスクがあります。

「退職してくれたら特別に○○を支給する」と条件で交渉するのは適切ですか?

「退職してくれたら特別に○○を支給する」といった条件交渉は適切です。退職金の上乗せ、再就職あっせん、有給休暇の買取りなどのインセンティブ(優遇措置)を検討し、提示することは、退職勧奨を円滑に進めるための有効な方法です。

ただし、本来、退職勧奨に応じなくても、事由の如何にかかわらず退職の際に必ず支給されるもの(退職金規程に基づく退職金など)を、「今回退職勧奨に応じたら特別に支給する」と伝えることは、従業員の自由な意思を妨げるものとして、退職合意が無効となるほか、違法な退職勧奨とされる可能性もあるため、注意が必要です。

退職勧奨の場で録音することを伝える場合はどう言えば良いですか?

退職勧奨の場は緊張感が高まりやすいため、角が立たないよう配慮することが重要です。
一例としては、「後で内容を正確に確認するため、録音させていただいてもよろしいでしょうか。」などとあくまで事実確認のためが目的であることを丁寧に伝えることが考えられます。

退職勧奨は30日以上前に伝えなければなりませんか?

退職勧奨は、解雇とは異なり、対象者の退職予定日の30日前までに予告するか、予告手当を支払うといった法律上の義務はありません。

退職勧奨の進め方や伝え方について弁護士がアドバイスいたします

退職勧奨は、進め方や伝え方を誤ると、違法な退職勧奨と判断されるリスクがあり、企業には慎重かつ専門的な対応が強く求められます。対応を誤った場合、労働紛争や訴訟に発展する可能性も否定できません。

弁護士法人ALGには労務問題に精通した弁護士が多数在籍しております。トラブルを未然に防ぎ、適正な手続きを確保するためにも、退職勧奨にお悩みの際は私たちへご相談ください。

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執筆弁護士

弁護士 大額 祥聖
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士大額 祥聖(東京弁護士会)
弁護士 中村 和茂
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士中村 和茂(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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