健康な働き方と組織マネジメント

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

会社の成長に最も重要なことは何でしょうか。
それはずばり、働く人間が心身ともに健康であることです。
会社を育てるのは、人です。

本コラムでは、従業員の健康的な働き方と、そのために会社が取り組んでいくべき組織マネジメントについて見ていきます。

従業員の健康管理は会社経営において重要な課題

会社が経営によって利益を上げられるのは、その経営を実行する人、つまり従業員がいるからです。人なくして会社は成り立ちません。

従業員のパフォーマンスの低下は、会社の経営悪化に直結します。そのため、従業員の健康管理を行うことは、プロジェクトの推進や商品・サービスの開発などと同じくらい重要な課題といえます。

従業員の健康的な働き方とは

では、何をもって「健康的」と見るのでしょうか。

細かく見ればいろいろとあるかと思いますが、やはり、身体的に健康であることと精神的に健康であることの2つに大別されるかと思います。

なかでも、精神的に健康であることは、メンタルヘルスの不調に起因する業務上の疾病を理由とした労災案件の発生を防止することにもなりますし、何より働く従業員のモチベーションの維持・向上に直結しますので、特に重要といえます。

働き方改革の推進と「健康経営」について

2019年4月1日から順次施行が始まっている働き方改革関連法ですが、従業員の多様な働き方の実現を主眼に置いたこの働き方改革でも、従業員の健康に配慮した具体的な内容が多数盛り込まれています。

例えば、これまで以上に厳格な時間外労働の上限規制が導入されたり、勤務終了から次の勤務開始まで十分な休息時間を確保することを内容とする勤務間インターバル制度が新設されたり、産業医などの産業保健機能が強化されたりしています。

働き方改革については以下のページで詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。

会社が健康経営に取り組むメリット

会社が従業員の健康管理を徹底することの究極的なメリットは、業績アップにつながることです。

もちろん、健康管理の徹底は、労働災害案件に発展したり会社の安全配慮義務違反の責任を問われたりすることを防止するという意義もあります。しかし、個々の従業員のモチベーションアップとそれに伴うパフォーマンスの向上が会社にもたらすプラス要素は、思っている以上に計り知れないものです。

健康的な働き方を実現するには組織マネジメントが重要

すべての従業員について健康的な働き方を実現していくためには、組織レベルでのマネジメントが不可欠です。

個々の従業員への対応でも一定程度の業務コストはかかりますので、組織レベルでのマネジメントには相当のパワーが必要です。

しかしながら、従業員の健康によってパフォーマンスを向上させ、会社の業績アップにつなげていくためには、やはりマクロレベルでの対応が不可欠になります。

経営理念の公表と意識改革

会社の経営理念は、従業員に公表して、積極的に共有しておくべきでしょう。
会社として向かうべき方向がはっきりしているということは、会社が思っている以上に従業員のモチベーション向上に資するものです。

特に、個々の事業内容と経営理念を紐づけて公表しておくことが効果的です。なぜなら、個々の事業内容に関連づけて説明した方が、会社の経営理念をイメージしやすいからです。

労働時間の適切な管理

労働時間の適切な管理は、働き方改革関連法の施行により、会社が行うべき義務として明確化されました。

それ以前でも、会社は、法律上許容される時間を超えて労働させ、法律上支払うべき額に満たない賃金を支払うことのないようにしなければならなかったので、労働時間を管理しなければならない状況は以前から変わりません。

しかし、働き方改革関連法の施行により、労働時間の管理は、タイムカードなどの客観的な方法で行わなければならないことになりました。

職場環境の改善

職場環境も従業員の健康に大きく影響します。
人間関係で上手くいかないといった人的要因もあれば、業務効率が悪いといった物的要因もあるでしょう。

前者は外から見えづらいものですし、後者も新たなシステムを導入する業務コストと経済的コストは小さくありませんので、なかなか実行は難しいかもしれませんが、従業員が日常業務の中、肌で感じているものですので、従業員の健康維持向上のうえでは効果的な手段といえます。

ハラスメントによるメンタルヘルス不調の防止

パワハラ、セクハラ、マタハラ、パタハラに代表されるハラスメントが従業員のメンタルに及ぼすダメージは、非常に大きいものです。

ハラスメントに該当するような言動を行った本人に自覚がない場合も多いので、会社が積極的にハラスメント防止に取り組んでいかなければ、ハラスメントによるメンタルヘルスの不調をなくすことはできないでしょう。

ハラスメントによるメンタルヘルス不調、メンタルヘルスに関する近年の法改正、ハラスメント防止のための対応策は、以下のページで解説しています。ぜひご一読ください。

会社の健康管理責任が問われた裁判例

ここで、会社による健康管理責任が問われた裁判例をご紹介します。

事件の概要

本件は、会社Y1の従業員Xが、会社Y2への長期出張中にうつ病を発症し、また、Y1に復職後、一旦は寛解に至ったものの、Yらの共同開発プロジェクトに関する業務に従事するようになって、再びうつ病を発症し、休職を余儀なくされましたが、これらうつ病の発症及び再発は、YらのXに対する健康上の安全配慮義務違反によるとして、Yらに対し、債務不履行又は不法行為に基づいて休業損害等の損害賠償などを求めた事案です。

裁判所の判断

事件番号:平成18年(ワ)第1736号
裁判年月日:平成20年10月30日
裁判所:名古屋地方裁判所
裁判種類:判決

裁判所は、被告には原告に対する安全配配慮義務を負っているものとして、これを怠ることは債務不履行にあたり、労働者が従事している労務が客観的には過重でなくとも、その労働者個人にとって過重労働にあたり、精神障害を発症し得ると予見できる場合には安全配慮義務があるものとしました。

ただし、原告の一度目のうつ病発症についてはその労働の過重性などから被告の安全配慮義務違反を認めたものの、二度目の発症に関しては予見できるものではなかったと判断しました。

最終的に、被告は原告に対し150万5328円を支払うという判決が下されました。

ポイントと解説

この判決では、Yらの安全配慮義務の内容を次のように定め、Yらの安全配慮義務違反を認定しました。

すなわち、通常であれば、YらにはXの業務が、社会通念上、客観的にみて平均的労働者をして精神障害等の疾患を発生させるような過重なものにならないように注意すれば足りるとしても、それに至らない程度の過重な業務に従事させている労働者についても、そのまま業務に従事させれば心身の健康を損なうことが具体的に予見されるような場合には、その危険を回避すべく業務上の配慮を行うべき義務があるとのことです。

つまり、客観的に見て平均的な労働者なら耐えられる業務内容であったとしても、その従業員の精神が弱っていることを知っている場合には格別の配慮をしなければ、安全配慮義務を果たしたことにはならないということです。

このように、会社に求められる健康管理の水準は高いので、細やかなマネジメントが不可欠といえます。

従業員の健康な働き方を目指すなら、企業労務に詳しい弁護士に相談することをおすすめします

組織レベルでの健康経営は、非常にパワーが必要なものです。
どこから手をつければいいのか、また、何が従業員の健康維持向上に資するのか、その判断は難しく、労働問題にも発展しかねないことも想定するのであれば、法律的な目線でも取り組んでいく必要があります。

企業法務に詳しい弁護士であれば、労働紛争といったマイナスの事態も想定した上でのアドバイスが可能ですので、ぜひご相談下さい。

ちょこっと人事労務

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料

企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

0120-630-807

受付時間:平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

0120-630-807

平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)

執筆弁護士

弁護士法人ALG&Associates
弁護士法人ALG&Associates

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます