Ⅰ 事案の概要
本件は、被告会社(Y社)が、1年契約の英会話講師として雇用していたXに対し、2回目の契約更新を拒絶したことについて、雇止めの有効性が争われた事案です。
Y社は就業規則に、勤続6ヵ月に達した講師には、20日間の有給休暇を付与すること、そのうち5日を超える部分は計画年休とすることを規定していました。これに対しXは、Y社は計画年休制度の導入について有効な労使協定を欠くとして、5日を超える部分についても、自ら指定した日の有給休暇を主張しました。これをY社は、「Xは有給休暇と主張して無許可欠勤を繰り返した」として、本件の雇止めの客観的、合理的理由を主張した事案です。
一審は計画年休制度に有効な労使協定は存在しないとしたものの、法定年休を超える日数は会社有給休暇であるから、Y社が承認した日に限り取得することができるとして、法定有給休暇を超える日数でY社が承認しなかった日数(14日間)は、Xの無許可欠勤と認定しました。その上でXの素行に関する事情も勘案し、本件雇止めは客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当として、Xの請求を棄却しました。これに対しXが控訴、本件はその控訴審判決です。
Ⅱ 東京高裁令和元年10月9日判決
1 労働契約法19条2項該当性
Y社は、契約更新を希望する講師との間では、遅刻が多い、授業の質が低いなどの事情がある場合を除き、通常は契約更新をしていたこと、Xには授業参観の申出拒否や上司が授業を観察した結果、7項目の改善が必要と講評したという問題点はあったものの、Y社はその後にXとの契約を更新したという経緯から、Xが契約満了時に更新を期待することには合理的理由があると判断されています。
2 計画年休と労使協定
Y社は、計画年休に関する労使協定を整備していませんでした。Xの代理人弁護士から指摘を受けた後、Y社は、複数校をまとめたエリアごとに、講師の中から選出した3名と計画年休について合意したとありますが、これも「事業場の労働者の過半数を代表する者」にあたらず、労基法39条6項の労使協定の要件を充たす労使協定とはいえないとして、Y社が法定年休について時季を指定することはできないと判断されています。
3 会社年休に対する判断
Y社が就業規則に定めていた年休の日数は、勤続年数の短いXにとって、法定の年次有給休暇よりも多くの日数が与えられる内容でした。控訴審も、「法定年次有給休暇日数を超える部分である会社有給休暇については、労基法の規律を受けるものではないから、Y社がその時季を指定するものとすることも許される」と判示しています。
しかし、その上で控訴審判決は、Y社の就業規則は法定年休と会社有給休暇を区別することなく、20日のうち15日を指定しており、そのうちどの日が会社有給休暇に関する指定であるかを特定することができないことを理由に、この指定は全体として無効であり、年間20日の有給休暇全てについて、Xが時季を自由に指定することができると判示しました。
4 その他のY社の主張について
Y社は計画年休の制度は、全ての従業員講師から同意を得ているとも主張しましたが、控訴審は、「仮にそうであったとしても、そのことは上記の判断を左右するものではない」と判示しています。
さらにY社は、計画年休制度が無効とされるなら、20日の有給休暇を付与する旨の規定も無効と解釈すべきとも主張しましたが、控訴審は「付与日数と時季指定は別の問題である」として、Y社の主張を採用しませんでした。
5 結論
以上から、控訴審は、Xが有給休暇として取得した休暇は、正当な理由のない休暇と認めることはできず、その他Y社が主張していたXの素行に関する主張についても、Xの問題と捉えることはできない、重要性が大きなものとまではいえない等と指摘して、本件の雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない無効なものと判示しました。
Ⅲ 本判決の実務上の留意事項
年次有給休暇は、労働者が請求する時季に与えるものと規定されています。有給休暇の計画的付与制度はその例外であり、導入には書面による労使協定が必要です。
これは、計画年休について協定を備えていないという問題だけではなく、有効な協定といえるかという実質面の問題でもあります。
すなわち、労基法の「過半数代表者」は、当該事業場の労働者に判断の機会が与えられた上で、民主的な手続きによって選出されることが必要です(労基則6条の2、昭和63.1.1 基発1号)。そのような代表者でない者と合意しても、労基法上の労使協定とは認められません。
従業員の一部を母数から除外したり、事業場ごとではなく、エリアごとにまとめて選出したりと、形式的に要件を充たしていないことが明らかなものだけではなく、会社の代表者等が従業員の代表者となるものを指定する場合のように、民主的な手続きがとられていない場合も、有効な従業員代表との協定ではないと評価される原因になりますので、この点も併せて注意が必要です。
なお、有効な協定を備えていれば、時季指定の問題は生じなかったとはいえ、本件は就業規則の記載でも法定年休と会社年休が区別されていなかったことも、控訴審の帰結に影響しています。就業規則の内容は可能な限り、一見して区別できるものにしておくことが肝要です。
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