派遣先企業と紹介予定派遣者との間の労働契約の成否(任天堂ほか事件)~京都地方裁判所令和6年2月27日判決~ニューズレター2025.03.vol.159

Ⅰ 事案の概要

原告らは、保健師の資格を持つ者として派遣会社であるA社に雇用され、紹介予定派遣に基づいて被告Y1社(以下「被告会社」といいます。)の人事部で勤務していました。

この紹介予定派遣は、原告らが被告会社の面接を受けた結果、A社担当者から被告会社の内定が決まったとの連絡があり、A社と労働契約を締結することによって開始しました。

しかし、被告会社への派遣期間6か月間が経過する頃、被告会社は、産業医である被告Y2と円滑な協力態勢の構築に至らないことを理由に、原告らを直接雇用せずに紹介予定派遣を終了しました。

これに対して、原告らは被告会社との間に直接の労働契約が成立したと主張して、被告会社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めました。

Ⅱ 争点

本件の争点は、紹介予定派遣(労働者派遣法2条4号)によって派遣されている派遣労働者と派遣先会社との直接の労働契約の成否でした。

原告らは、派遣労働者である原告と派遣先会社である被告との間の直接の労働契約が成立しているとの主張として、以下の①から③の3つの主張を行っていました。

  1. 原告らとA社(派遣元会社)との派遣労働契約は、労働者派遣の枠組みを超えていて無効であり、被告会社による採用決定時に原告らと被告会社との間に労働契約が成立する(「違法な労働者供給」の主張)。
  2. 被告会社による紹介予定派遣としての採用決定の時点で、原告らとA社との間に派遣労働契約が成立するだけでなく、原告らと被告会社との間で、派遣期間満了後を始期とする就労始期付き解約権留保付き労働契約が成立する(「内定類似の契約成立」の主張)。
  3. 原告らには、派遣期間満了後に直接雇用されるとの合理的期待が認められることから、被告会社が直接雇用を拒否することは許されず、派遣期間満了時に被告会社との間で労働契約が成立する(「雇止め(解雇権)濫用禁止法理」の主張)。

Ⅲ 判断のポイント

京都地方裁判所は当事者のこれらの主張に対して以下のとおり判断し、いずれの主張も排斥しました。

⑴ ①「違法な労働者供給」の主張について

紹介予定派遣を除く労働者派遣と異なり、紹介予定派遣については、職業紹介を伴うことから、労働者派遣にあたって面接といった派遣労働者を特定する行為も許容されている。

被告会社が原告らに対して行った面接及び内定に関する一連の手続きは、紹介予定派遣において許容されている特定行為であり、派遣労働契約を無効とする事情はない。

⑵ ②「内定類似の契約成立」の主張について

紹介予定派遣は、派遣先での直接雇用に至らない場合があることを制度上当然の前提としている。紹介予定派遣にとどまる限り、派遣期間満了後に直接労働契約を締結しなければならない義務が生じるものではなく、派遣労働契約とそのような直接労働契約が併存することはない。

被告会社による原告らに対する面接と内定は、派遣先である被告会社の特定行為の結果として、被告会社において就労してもらいたい派遣労働者を選考したという意味にとどまり、直接雇用を目的とした内定を出したという段階に進まない限り、これをもって原告らを直接雇用するとの意思を表示したとはいえない。

⑶ ③「雇止め(解雇権)濫用禁止法理」の主張について

紹介予定派遣は、派遣先での直接雇用に至らない場合があることを制度上当然の前提としていることから、直接雇用に向けた派遣労働者の期待が直ちに法的保護に値する合理的期待であるということはできず、職業紹介を経て直接雇用が確実に見込まれる段階に至ったとか、直接雇用をしない理由が不合理であるといった特段の事情が存しない限り、直接雇用に向けての期待は法的保護に値しないというべきである。

本件では、原告らを直接雇用するための採用行為が具体的に進展していたとは認められないところであって、原告らが職業紹介を経て直接雇用が確実に見込まれる段階にまで至っていたということはできない。

また、被告会社が原告らを直接雇用せず紹介予定派遣を終了した理由は、派遣期間6か月間で産業医であるY2と円滑な協力態勢の構築に至らなかったためである。保健師である原告らと産業医である被告Y2との協力態勢の構築は重要であり、その構築に至らなかったという点は、紹介予定派遣終了の理由として合理的なものと評価することができる。被告Y2との協力態勢の構築がかなわなかった原因の一端は原告らの側にも存する。

このような状況下において、原告らを直接雇用しなかったとしても直ちに不合理であるとはいえず、原告らの期待は法的保護に値するとまではいえない。

Ⅳ 本事例からみる実務における留意点

紹介予定派遣は、単なる労働者派遣ではなく、職業紹介の性質も伴うことから通常の労働者派遣とは異なり、面接や履歴書の送付といった派遣労働者を特定する行為も許容されています。

派遣先企業は特定行為によって派遣労働者を選定した上で、6か月間の派遣労働者の就業状況によって雇用するか否かを決定することができ、派遣期間に試用期間的な意味合いを持たせることができます。

一方、派遣労働者としては、派遣先企業に派遣前に選考されており、派遣労働者としての就業期間が試用期間的な機能を果たす側面があるとしても、正社員として雇用されることに対する期待を有することになります。

このような性質を持つ紹介予定派遣において、派遣労働者と派遣先企業との間に直接の労働契約が成立しているのではないかが争われたのが本事例です。

本事例では、紹介予定派遣においては、派遣先企業が派遣労働者の採用に関与する特定行為も許容されており、また、派遣期間終了後に派遣先において直接雇用がなされないことも予定されているという紹介予定派遣という制度の性質から派遣労働者と派遣先企業との間の直接の労働契約の成立は否定されています(主張①②)。

これらの点からは、解約権付労働契約として本採用拒否(解雇)には客観的に合理的な理由が必要とされる試用期間と比べると、直接の労働契約が成立していない紹介予定派遣では本採用拒否がより容易に行うことができるようにも思えます。

もっとも、派遣期間満了後に直接雇用されるとの合理的期待が認められることから、直接雇用を拒否することは許されないという原告の主張(主張③)に対しては、直接雇用をしない理由が不合理であるといった特段の事情が存する場合であれば、直接雇用に向けての期待が法的保護に値する可能性を示唆しています。

この裁判例においては、直接雇用をしない理由が不合理であった場合に、派遣先企業と派遣労働者との間の労働契約の成立まで認められるかについては直接的には判示されていません。しかし、法的保護に値する期待を害した場合には少なくとも損害賠償義務を派遣先企業が負うことになり、状況として限定的ではあろうかと思われますが、過去の裁判例の傾向からすると黙示の労働契約といった直接の雇用契約関係が認定される可能性も否定できません。

派遣先企業としては紹介予定派遣においても、合理的な理由がなければならないということを意識して、本採用の可否を慎重に判断する必要があります。

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