職種限定合意に反する配転命令の不法行為該当性(滋賀県社会福祉協議会事件)~大阪高裁令和7年1月23日判決~ニューズレター2026.1.vol.169

Ⅰ 事案の概要

本事案は、Y法人に雇用されていた労働者Xが、Y法人から、職種及び業務内容の変更を伴う配置転換命令(以下、「本件配転命令」といいます。)を受けたため、同命令は労働者Xの職種を限定する旨のX・Y法人間の合意に反するとして、Y法人に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償等を求めて、訴えを提起した事案です。

第一審(京都地判令和4年4月27日)及び控訴審(大阪高判令和4年11月24日)及び第二審では、本件において、労働者XとY法人との間には、黙示の職種限定合意があったと認めつつも、例外的に、法人Yにおいて、労働者Xに、本件配転命令をする権限を認めるとともに、労働者Xの解雇を回避するためには、労働者Xを、契約上限定された職種等以外に配転することにも、業務上の必要性があり、本件配転命令は、甘受すべき程度を超える不利益を労働者Xにもたらすものとまでは認められないとして、本件配転命令は権利の濫用とまではいえず、違法・無効ということもできない旨判示しました。

労働者Xがこれを不服として上告した上告審(最高裁第2小法廷判決令和6年4月26日)では、労働者Xの上告受理申立てを受理した上で、労働者XとY法人の間には、職種限定合意があったといえるから、Y法人は、労働者Xの同意を得ることなく、合意された職種以外の部署に配置転換を命ずる権限はそもそも有していなかったというほかなく、Y法人が本件配転命令をする権限を有していたことを前提として、その濫用にあたらないとした原審(控訴審)の判断には、明らかな法令の違反がある旨指摘しました。そして、最高裁は、本件配転命令について不法行為を構成する事情の有無や、Y法人が労働者Xの配置転換に関し、労働者Xに対して負う雇用契約上の債務の内容やその債務の不履行の有無等について、さらに審理を尽くさせるため、本件について、大阪高裁に差し戻しました(詳しくは、労務ニューズレターVol.151もご覧ください。)。

Ⅱ 争点

本事案における主たる争点は、①本件配転命令が違法か、すなわち、職種限定合意がある場合の本件配転命令の有効性と、②違法な配転命令が不法行為にあたり、労働者Xが損害賠償の対象となるような損害を被ったといえるか、の2点です。

Ⅲ 判決のポイント

本件のように、使用者が労働者の同意を得ることなく職種限定合意に反する配置転換命令がされたことを理由として債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求がされ、かつ、職種限定合意が認定された裁判例は見当たらないところ、差戻し審では、労働者XとY法人との間には黙示の職種限定合意があり、本件配転命令は違法であるとした上で、Y法人が労働者Xにした本件配転命令は不法行為を構成し、損害賠償責任を負う旨判示しました。

不法行為の成否について、具体的には、労働者XとY法人には黙示の職種限定合意が存在しており、Y法人は、労働者Xに対し、その合意に反する配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかったのであるから、Y法人が労働者Xに対し、本件合意に反して行った本件配転命令は違法であり、また、Y法人は、労働者Xを本件合意にかかる職種以外の職種に就かせることを想定していなかったうえ、本件配転命令前に労働者Xが、本件合意にかかる職種を続けたい旨訴えるなど、本件合意の存在をうかがわせる対応をしており、Y法人としては、本件合意の存在を容易に認識できたというべきであるとして、本件配転命令を行ったことにつき、Y法人には過失がある旨判示しました。そのうえで、Y法人は、違法な配転命令を回避するために信義則上尽くすべき手続きもとっていないこと等から、労働者Xに対して、慰謝料として合計80万円を支払うよう命じました。

Ⅳ 本事例からみる実務における留意事項

1 本事案の実務への影響

実務上、使用者が労働者の同意を得ることなく職種限定合意に反する配置転換命令がされたと主張する場合には、労働者は、本件配転命令が無効であり、配置転換後の職場に勤務する義務(債務)がないことの確認を求める訴えを提起し、判断されてきたといえます。しかし、本事案では、職種限定合意に反する配転命令の違法性及びこれに伴う損害賠償請求がされ、当該事例に則した範囲の判断ではあるものの、職種限定合意に反する配転命令がされた際に、当該配転命令が不法行為にあたると判断される可能性があることが示されました。

本事案では、労働者Xが従事している業務の需要が減少しており、当該業務の廃止に伴う解雇の回避といった事情も踏まえてもなお、本件合意に反する本件配転命令を違法とし、使用者側には、パワーハラスメント(過小要求)としての通報なども行われていたことから本件合意の存在を容易に認識できたという事情があったのであるから、本件配転命令をしたことに過失があると判断しています。また、違法な本件配転命令により生じた損害及びその額について、Y法人が、労働者Xに対し、労働者Xが長年従事していた本件業務を廃止する旨の説明をしなかったことや、他の職種へ変更することの同意を得るための働き掛けをするなど、違法な配転命令を回避するために信義則上尽くすべき手続きをとっていないことを考慮要素として挙げています。

これらのことからすると、今後、使用者と労働者との間で職種を限定する明示又は黙示の合意があると考えられるが、当該職種を継続することが困難で、廃止せざるを得ないような場合には、少なくとも、当該労働者に対し、本件業務を廃止する旨の説明をしたり、職種変更の同意を得るための働き掛けをする等の対応は必要であるといえます。

また、本事案において考慮されている事情からすると、上記のような場合には、整理解雇の4要素(①職種廃止の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの妥当性)に基づいて、当該配置転換が不法行為にあたるか否かを検討することになると考えられます。

2 基本的な対応

職種限定合意がある場合であっても、配置転換命令権が認められる余地がある旨の解釈を示した下級審裁判例では、労働者が職種限定合意に係る職種が廃止されるにもかかわらず、配置転換に応じない場合には、飽くまで職種を優先して労働契約を終了させるのか、労働契約を継続させることを優先して配置転換に応じるのかは、労働者の判断に委ねることが労働者の意思に合致するものである旨述べている裁判例があります(東京地判平19・3・26)。

本事案は、職種限定合意がある場合には、使用者に配転命令権は認められないことを判示していますが、使用者が、当該労働者に対し、「その同意を得ることなく」配置転換を命じたことを違法と判示していることからすると、使用者と当該労働者が合意すれば、職種限定合意に係る職種以外への配転も可能と考えられます。そのため、使用者としては、職種が廃止される場合には、廃止対象となる労働者に対し、当該職種が廃止となること等を丁寧に説明して、労働者に理解を求めるとともに、職種を変更する旨の同意を得るように働きかけることに加え、当該労働者が、労働契約を終了させるのか、配置転換に応じるのかを判断し、自由な意思で選択できる情報や環境を整えることが必要といえます。

そして、使用者が、当該労働者に対し、何度も面談をして丁寧に説明したり、職種の変更を打診する等、できうる限りの手続きを履践してもなお、労働者から配置転換の同意が得られない場合には、退職勧奨や整理解雇といった選択を検討することになると考えられます。

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