Ⅰ 事案の概要
Xはフィリピン出身の日本国籍取得者で、外国人技能実習の監理団体であるYに採用され、外国人技能実習生の指導員として勤務していました。Xは、自らが担当する九州地方各地の実習実施者に対し月2回以上の訪問指導を行うほか、技能実習生のために、来日時等の送迎、日常の生活指導や急なトラブルの際の通訳を行うなどの業務に従事していました。
Yは、Xを労働基準法38条の2第1項(以下「本件規定」といいます。)の定める事業場外みなし労働時間制の対象に該当するものとして、就業規則に基づく所定労働時間労働したものとして扱っていました。
Xは、自らの就業形態は事業場外みなし労働時間制の対象に該当しないとして、Yに対し、未払の時間外労働手当の支払を求めました。
Ⅱ 争点
本事例の争点は、Xが事業場外で従事した業務の一部(以下「本件業務」といいます。)が本件規定にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるか否かです。
第一審(熊本地裁令和4年5月17日判決)及び控訴審(福岡高裁令和4年11月10日判決)は、本件業務は「労働時間を算定し難いとき」に当たらないと判断しました。第一審及び控訴審は、XがYに提出していた業務日報に関し、①その記載内容につき実習実施者等への確認が可能であること、②Y自身が業務日報の正確性を前提に時間外労働の時間を算定して残業手当を支払う場合もあったことを指摘した上で、その正確性が担保されていたなどと評価しました。
Ⅲ 判決のポイント
⑴ 最高裁判決
最高裁は、原審を破棄し、差戻しとしました。
まず、原審の確定した事実関係等によれば、本件業務は、実習実施者に対する訪問指導のほか、技能実習生の送迎、生活指導や急なトラブルの際の通訳等、多岐にわたるものであり、Xは本件業務に関し、自ら具体的なスケジュールを管理しており、所定の休憩時間とは異なる時間に休憩をとることや自らの判断により直行直帰することも許されており、随時具体的に指示を受けたり報告をしたりすることもなかったと判示しました。
このような事情の下で、業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等を考慮すれば、Xが担当する実習実施者や訪問指導の頻度等が定まっていたとしても、YにおいてXの事業場外における勤務の状況を具体的に把握することが容易であったと直ちにはいい難いと判示しました。
そして、原審は業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情を十分に検討することなく、業務日報による報告のみを重視して、本件業務につき本件規定にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないとしたものであるとして、このような原審の判断には、本件規定の解釈適用を誤った違法があると判示しました。
⑵ 差戻し審(福岡高裁令和7年8月28日判決)
差戻し審は、差戻し前の判断を覆し、本件業務は「労働時間を算定し難いとき」に当たると認定しました。
まず、Xが毎月月末までにYに提出することを求められていた業務日報は、いわば自己申告としての意味を有するものであり、申告内容の真実性を確認するために事前に得られる情報が限られているYにおいてその記載の正確性を確認することは困難であると判示しました。また、業務日報のほかに、Yの職員が実習実施者を訪問等した際に作成していた訪問指導記録も存在しましたが、これは法律上の義務を履行した記録にとどまり、業務日報との間に記載の食い違いも多々あったため、業務日報の正確性を客観的に担保するものではないと判断しました。
他方で、Yは業務日報に基づいて残業時間を算出して残業手当を支払う場合もありましたが、このことだけでは業務日報全体の正確性が客観的に担保されていたとは評価できず、本件業務について、使用者が労働者の勤務状況全般を具体的に把握することは困難であったと認定しました。
以上によれば、本件業務に関し、Yにおいて、Xの事業場外における勤務の状況を具体的に把握することが容易であったとはいえず、業務日報による報告によって、これを把握することが可能になるものともいえないとして、本件業務は「労働時間を算定し難いとき」に当たると判示しました。
Ⅳ 本事例からみる実務における留意事項
⑴ 本事例の意義
本事例は、阪急トラベルサポート事件(最高裁平成26年1月24日判決)に続き、最高裁が労働基準法38条の2第1項の「労働時間を算定し難いとき」の解釈適用について判示した重要判決です。
本事例は、阪急トラベルサポート事件と同様の考慮要素を用いながらも、同事件を参照せず一般的判断枠組みも定立していません。これは、林裁判官の補足意見と併せて考えると、「労働時間を算定し難いとき」に当たるか否かの判断は個々の事例ごとに具体的な事情を検討して行うべきという最高裁の立場を示したものと考えられます。
⑵ テレワークにおける事業場外みなし労働時間制の採用
今般、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、テレワークを実施する企業が増加し、テレワークが定着しつつあります。テレワークによって、自宅等の事業場外で業務を行うときは、事業場外みなし労働時間制を採用できる場合があります。
しかし、みなし労働時間制は実労働時間制の例外を許容するものであるため、「労働時間が算出し難い場合」に該当する否かは厳格に判断されるべきと考えられています。
「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」(厚生労働省)では、テレワークにおいて労働時間を算定し難いというためには、①情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと(情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であること)、②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないことの2つをいずれも満たすことが必要とされています。
テレワークについて事業場外みなし労働時間制の採用を検討される場合には、上記要件を満たすかどうか、慎重に吟味されることをお勧めいたします。
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