機密情報へのアクセス等を理由とした解雇の有効性(Velocity Global Japan事件)~東京地裁令和6年9月25日判決~ニューズレター2026.4.vol.172

Ⅰ 事案の概要

Xは、Y社との雇用契約に基づき、国外に所在する法人であるA社の指揮命令のもとで勤務していました。Y社は、Xが、元勤務先であるB社において機密情報を業務以外の目的で使用しようとしていたこともふまえて、Y社の顧客であるA社のサーバー内の資料を業務以外の目的で使用しようと、Xの業務との関連性が薄く、機密性の高い資料も含めて、約200回以上にわたり閲覧又はダウンロードしたこと等を理由に、Xを普通解雇しました。Xは、アクセスした資料は機密性が高いとはいえないし、資料に記録された情報を業務以外の目的で使用しようとしたこともない、XはA社の日本における営業活動を単独で担っており、業務内容等の知識を得るなどのためにA社が保有する資料にアクセスするのは当然であるとして、解雇が無効であると主張し、雇用契約上の地位の確認や解雇時から判決までの賃金の支払い等を求めました。

なお、Y社では、就業規則上、「懲戒事由があり、解雇が相当な場合」に解雇する旨の規定があり、「業務上知り得た・・・顧客・・・に関連する企業秘密・・・を他者に漏らす、または漏らそうとする」行為や、「業務上知り得た・・・当社の顧客・・・に関する営業秘密を当社の業務以外の目的で使用し、または使用しようとする」行為が懲戒事由となっていました。

Ⅱ 争点

本事案では、本件解雇の有効性、中間収入控除、本件解雇の不法行為該当性が争点となりました。本記事では、本件解雇の有効性の判断において、機密情報へのアクセス行為がどのように評価されたかに着目して解説します。

Ⅲ 判決のポイント

裁判所は、まず、Xが、多数回にわたり、A社のサーバー内の資料を閲覧又はダウンロードしたこと、Xが閲覧・ダウンロードした資料の中には、治験部門に関するものだけでなく、その他の部門に関するものもあったことを認定しました。そのうえで、Y社の、XがY社の顧客であるA社のサーバー内の資料にアクセスし、当該資料に記録された情報を業務以外の目的で使用しようとしたという主張に対して、Xが「アクセスした資料に記録された情報を業務以外の目的で使用しようとしたと認めるに足りる証拠はない」と判示しました。

また、Xがその業務との関係でアクセスを許されているのは、原則として日本市場における治験業務関連の資料のみであり、それ以外の資料については業務との関連が薄いという主張に対しては、Xは「A社の日本における既存顧客及び新規顧客に対する営業活動を担っていた」ことや、「将来の顧客の要望に備えてA社の業務に関する幅広い知識を得ることは業務の一環といえる」こと、「実際に、顧客の要望に応じて説明や資料提供をする対象事項は治験部門に限られていなかった」ことを理由に、「Xがアクセスした資料については、治験部門以外のものを含めて、Xの業務との関連が薄いとは認められない。」と判示しました。

さらに、Xが元勤務先であるB社において機密情報を業務以外の目的で使用しようとしたのと同様に、A社においても重要な機密情報を目的外使用する意図を有していたとの主張に対しては、B社が、A社に対し、Xが勤務の最終週にB社のシステム上で業務上必要がない大量の機密・機微情報にアクセスしたとして、A社がXから機密情報を受け取っていないことなどの確認を求める旨の通知書を送付したことは認定しながらも、「勤務先が保有する資料にアクセスする目的は業務や資料の内容によって様々であるから、仮にXがB社において機密情報を業務以外の目的で使用しようとしたことがあったとしても、XがA社において機密情報を目的外使用する意図を有していたと推認することはできない。」としました。

結局、裁判所は、XがA社のサーバー内の資料にアクセスした行為については懲戒事由に該当しないと判断し、ほかにY社が主張していたXの行為についても懲戒事由に該当しないため、本件解雇は解雇事由がなく無効であるとして、Xが雇用契約上の地位にあることや解雇時から判決までの賃金の支払いを認めました。

Ⅳ 本事例からみる実務における留意事項

本事例は、会社において、従業員のある行為が懲戒事由に該当すると判断するに当たり、後に裁判で争われた場合に、そのような懲戒事由を基礎付ける事実が証拠上認められるのか、という点について慎重に検討すべきであることを再認識させるものといえます。

本事例とは反対に、企業秘密の漏えいを理由とした懲戒解雇が有効になった裁判例として、日本リーバ事件(東京地裁平成14年12月20日判決)が挙げられます。同事件では、会社が開発していた製品のデータを競合他社に漏えいしたことや、当該競業他社への転職が内定した後で、会社の機密事項を扱う会議に出席し、そこで入手した資料を持ち出したこと等を理由になされた懲戒解雇が有効と判断されました。裁判所は、当該従業員のメールのやり取りから、競業他社への転職に至る経緯等、当該従業員の行動を順に認定していき、メールの内容やメールを削除したこと等から、当該従業員が会社の重要な機密情報を外部に漏えいしたと推認するのが相当であると判断しました。

同事件では、当該従業員のメールのやり取りが裁判所の判断の基礎となっていることから、懲戒解雇の有効性判断において、会社が、削除されていた当該従業員のメールのやり取りを復元し、証拠として提出できたことが重要であったと思われます。

本事例で問題となった、Xが機密情報を業務以外の「目的」で使用しようとしたことや、「目的外使用する意図」を有していたことについても、これらが証拠上認められるためには、XがA社のサーバーにアクセスしていた事実や、元勤務先でも機密情報にアクセスしていた疑いがあったといった客観的な事実だけでは足らず、ほかにXの内心(目的や意図といった主観的な事情)を推認させる証拠が必要であると思われます。会社にとってそれらを認定できる証拠の入手は困難である場合もありますが、仮に裁判になった場合、このような判断がなされる可能性があることは念頭に置き、証拠確保が可能となるシステムの導入や情報管理のルールの制定などに留意しておくべきと思われます。

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