定年後再雇用者の賃金規定と労契法20条違反の有無等~東京高裁平成28年11月2日判決~ニューズレター 2017.3.vol.63

Ⅰ 事案の概要

本件は、一般貨物自動車運送事業等を営む控訴人(一審被告、以下「Y社」という。)を定年により退職した後に、Y社との間で期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結し就労している被控訴人(一審原告)Xら3名が、Y社と期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している正社員である従業員との間に不合理な労働条件の相違が存在すると主張して、以下の請求をした事案です。

①主位的に、当該不合理な労働条件の定めは、労契法20条※1により無効であり、Xらには正社員に適用されている無期契約労働者に関する就業規則等の規定が適用されるべきと主張して、当該就業規則等の規定が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、その労働契約に基づき当該就業規則等の規定により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額及びこれに対する遅延損害金の支払いを求め、

②予備的には、民法709条に基づき上記差額に相当する額及び遅延損害金を請求しましたが、本稿では重要な争点であった①をご紹介します。

※1 労働契約法20条は、有期労働契約と無期労働契約の労働条件の相違が、業務の内容、責任の程度、配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。

Ⅱ  東京高裁平成28年11月2日判決

(1)1審判決(東京地裁平成28年5月13日判決)の内容

1審判決は、嘱託社員である有期契約労働者の職務内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が正社員である無期契約労働者と同一であるにもかかわらず、「労働者にとって重要な労働条件である賃金の額について、有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは、その相違の程度にかかわらずこれを正当と解すべき特段の事情がないかぎり不合理であるとの評価を免れないものであるというべきである。」とし、本件では有期契約労働者(嘱託社員)である Xらと無期契約労働者である正社員との間に「職務の内容、当該職務の内容及び配置変更の範囲にまったく違いがないにもかかわらず、賃金の額に関する労働条件に相違を設けることを正当化する特段の事情は認められない。」と判断しました。

そして、Xらに「正社員就業規則その他の規定が適用されることになるものと解するのが相当である。」としてXらの請求を認容しました。

(2)2審(控訴審)判決(東京高裁平成28年11月3日判決)の内容

上記1審判決に対し、2審(控訴審)では以下の様に、労契法20条の適用があることを前提としながらも、当該労働条件の相違は不合理ではないとして、原判決を取り消して被控訴人らの控訴人に対する各主位的請求及び予備的請求のいずれも棄却しました。

控訴審は、まず、XらとY社との間の労働契約は、期間の定めのある有期労働契約であるところその内容である賃金の定めは期間の定めのない正社員の労働契約の賃金の定めと相違しているから「本件の有期労働契約には労働契約法20条の規定が適用される。」と判断しました。

そして、労働契約法20条について、有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止する趣旨の規定と解し、不合理なものか否かの考慮要素として、法文どおり①業務内容、②当該業務の内容及び配置の変更の範囲のほか、③その他の事情を挙げ、③については上記①及び②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきものと解されるとの判断枠組みを設けて検討しています。

まず、本件で嘱託社員である被控訴人らと正社員の間の業務内容や責任の程度に差異はなく、職務の内容及び配置の変更の範囲は無期契約労働者である正社員とおおむね同じであると認定しました。

その上で③についてさらに検討を行いました。

本件の有期労働契約は高年齢者雇用安定法により義務付けられる高年齢者雇用確保措置の選択肢の一つとして締結された契約であり、控訴人が定年退職者に対する雇用確保措置として選択した継続雇用たる有期労働契約は社会一般で広く行われていること、その賃金が引き下げられるのが通例であることは公知の事実であると言って差し支えないことを認定しました。さらに、我が国の事情として平均寿命の延伸等のため高年齢者雇用安定法により60歳を超えた高年齢者の雇用確保措置が義務付けられたことで企業においては賃金コストの増大回避の要請があるため、定年後継続雇用者の賃金を定年時より引き下げることそれ自体が不合理であると言うことはできないと判断しました。

また、本件の控訴人が、無期契約労働者の能率給に対応するものとして①有期契約労働者には歩合給を設け、その支給割合を能率給より高くしていること、②無事故手当を無期契約労働者より高くしていること、③老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間について調整給を支払ったことがあるなど、正社員との賃金の差額を縮める努力をしたことに照らせば、個別の諸手当の支給の趣旨を考慮してもなお不支給や支給額が低いことが不合理であるとは認められないとしました。

Ⅲ 本判決から見る実務における留意事項

労契法20条に関する裁判例が注目される中で、本件は高年齢者雇用安定法に基づく、定年後の継続雇用措置として、有期労働契約で再雇用された労働者について、無期契約労働者と有期契約労働者との処遇の相違が労契法20条の不合理な労働条件にあたるか否かが争われました。

1審、2審ともに、Xらと無期契約労働者との間の賃金の差異は、期間の定めの有無に関連して生じたものであることを認定し労契法20条の適用があるとしています。

2審では、会社にとって高年齢者雇用安定法に基づく定年後の雇用確保措置を実施することが義務であることや公的な資料から見ても賃金が引き下げられるのが通例であることなどから、有期雇用契約前の賃金と比較して、定年後継続雇用者の賃金を定年時より20%から24%の範囲で引き下げることについて不合理ではないと判断しています。他の類似の裁判例(ハマキョウレックス事件、大阪高裁平成28年7月26日判決など)においては、個々の手当の性質ごとに不合理性が判断されているのに対して、本事例においては、全体的な減少額において不合理性を判断している点も特徴と考えられます。

本件は、会社の本業が大幅な赤字であると推認できることや企業側が有期契約労働者と無期契約労働者との間の賃金格差を縮める努力をしている点をも汲んだ事例判断ですが、定年後の嘱託社員の賃金等の条件を決定するにあたって、参考になる裁判例であるといえます。

現在、当該高裁判決に対する上告及び上告受理申立が行われており、同一労働同一賃金が推進されている社会情勢において、最高裁がいかなる判断を下すのか注目していく必要があるでしょう。

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