臨時職員と正規職員の基本給にかかる労働条件の相違が労働契約法20条に反すると認められた事例~福岡高裁平成30年11月29日判決~ニューズレター 2020.3.vol.99

Ⅰ 事案の概要

本件は、Y法人の臨時職員であるXが、両者間の労働契約(以下、「本件労働契約」といいます。)に係る賃金の定めが有期労働契約であることによる不合理な労働条件であって、無期労働契約を締結している正規職員との間で、著しい賃金格差が生じていることが、労働契約法20条及び公序良俗に反するとして、不法行為に基づき、824万0750円の損害賠償請求をした事案です。

具体的には、Xは、昭和51年4月にY法人にアルバイト職員として採用、その年の8月1日から改めて臨時職員として採用され、現在に至るまで臨時職員として勤務しています。Y法人は、Y大学及びY大学病院を運営する学校法人です。

XとY法人との間の労働契約は、任期を1年とする有期契約で、Xが臨時職員としてY法人に採用されて以降、現在まで有期契約を更新してきました。しかし、Xの給与額は、Xと同じ内容の業務を行い、Xとほぼ同じ勤続年数の正規職員の給与の約2分の1ほどであり、このような賃金の定めが、労働契約法20条及び公序良俗に反するとして、XがY法人に対して損害賠償請求をしたものです。

Ⅱ 本判決の内容

1 本件の争点

本件の争点は、①平成25年4月1日(労働契約法施行日)から現在までの本件労働契約における賃金の定めが労働契約法20条に違反するか否かと②Xの損害額です。

2 裁判所の判断

(1)原審の判断

Xが自身の労働条件との比較対象としてあげた同じ内容の業務を行い、Xとほぼ同じ勤続年数の教務職員5名の、業務の内容やその範囲、経歴、責任の程度等を比較したうえで、Xとは業務内容や責任の程度等が異なるとして、上記各氏との比較において、平成25年4月1日から現在までの本件労働契約における賃金の定めが労働契約法20条に違反すると認めることはできないと判示しました。

以上の理由から、Xの訴えを退けましたが、Xはその内容を不服として、控訴しました。

(2)本裁判所の判断

ア.①について

(ア)本件では、正規職員である対照職員とXとの間で、業務内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)に違いがあり、さらに両者は、その可能性だけではなく実際上も職務の内容及び配置の各変更において相違がありました。しかし、Y法人において、臨時職員は、人員不足を一時的に補う目的で採用を開始したもので、長期雇用することを採用当時は予定していなかったと考えられるため、その後、長期間雇止めもなく雇用されるというその採用当時に予定していなかった雇用状態が生じたという事情は、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であるか否かの判断における、「その他の事情」(労働契約法20条)として考慮される事情にあたるとしました。

(イ)そして、上記の事情を踏まえ、臨時職員と対照職員の職務の内容並びに配置の各変更の範囲に違いがあること等を踏まえても、30年以上の長期にわたり雇用を続け、業務に対する習熟度を上げたXに対して、現在では同じ頃採用された正規職員との基本給が約2倍の格差が生じているという労働条件の格差は、同学歴の正規職員の主任昇格前の賃金水準を下回る3万円の限度において不合理であると評価でき、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当であると判示しました。

イ.②について

Xと学歴が同じ短大卒の正規職員が、管理業務に携わるないし携わることができる地位である主任に昇格する前の賃金水準すら満たさず、現在では、同じ頃採用された正規職員との基本給の額に約2倍の格差が生じているという労働条件の相違は、同学歴の正規職員の主任昇格前の賃金水準を下回る3万円の限度において不合理であると評価することができるものであると判示し、平成25年4月1日から平成27年7月30日までの正規職員であれば支給を受けることができた月額賃金の差額各3万円及び賞与に相当する損害(合計113万4000円)を認定しました。

Ⅲ 本判決のポイント

労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、労働条件の相違が、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価できるものをいいます(最高裁平成30年6月1日判決、ハマキョウレックス事件)。そして、労働契約法20条で挙げられている「その他の事情」とは、労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではありません(最高裁平成30年6月1日判決、長澤運輸事件)。もっとも、最高裁が合理性の判断基準を明らかにしたとはいえ、「その他の事情」にはどのような事情が含まれるのかについては明確にされていませんでした。

この点、原審では、「その他の事情」を考慮することなく、労働契約法20条には反しないと判断しましたが、本判決は、制度の内容や制度構築の経緯等を検討し、その採用当時に予定していなかった雇用状態が生じたという事情が、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であるか否かの判断における「その他の事情」(労働契約法20条)にあたり、その事情を考慮すれば、賃金に係る労働条件の相違は不合理であると判断しました。本判決は、「その他の事情」について労働者に有利な考慮要素とした判断をしており、そこに本判決の意義があります。

Ⅳ 本事例からみる実務における留意点

労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者が、雇用形態や業務の内容、責任の程度に差異があるけれども、その職務の内容や責任の内容との均衡がとれた処遇を求める規定であり、あくまでも「均衡」のとれた処遇を求めるもので、無期契約労働者と同一の労働条件である「均等」を保障するものではありません。そのことも影響して、原告の請求は全額認容とはなっていません。

本件では、Xと対照職員との業務内容や責任の程度等は正規職員とは異なっていたと判断していますが、加えて、臨時職員を採用することになった経緯や採用の制度等も「その他の事情」として考慮しています。待遇が不合理な程度に至っているか否かについては、職務内容、責任の程度のみならず、その他の事情をも加味して置かれた状況との相関関係で決定されるため、如何なる要素がその他の事情として考慮されるかは重要です。

今後、不合理性の判断には、業務の内容や責任の程度以外に、有期契約労働者を採用した制度やその制度構築の経緯、その後の雇用者側の経営状態の変化といった職務以外の一切の事情も考慮されることが予測されるため、雇用者側は、有期契約労働者の採用制度の整備や制度の見直し、有期契約労働者への説明等を十分に行う必要があります。

また、本判決は、Xが30年以上という長期間にわたって職務を行ってきたこと、同年代に入社した正規職員との給与の差が約2倍近くも開いていることも影響して、不合理な労働条件であると判断しています。そのため、有期契約労働者の勤続年数や差異の程度も合理性の判断に影響を及ぼしていると考えられます。

なお、現行の労働契約法20条は、令和2年4月1日から施行される短期間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善に関する法律8条に移行します。

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