派遣先の団交応諾義務

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働組合から使用者に対し、団体交渉の申し入れがあった場合、当該労働組合に使用者の雇用する労働者が加入していれば、使用者には、この団体交渉に応じる義務があります(団交応諾義務 労働組合法7条2号参照)。
では、派遣社員の加入する労働組合から派遣先会社が団体交渉を申し込まれた場合、派遣先会社には団交応諾義務が生じるのでしょうか。派遣先会社は派遣社員を雇用しているとはいえないため、応じるべきか否かの判断に迷うこともありそうです。

そこで、今回は、この派遣先会社の団交応諾義務について解説していきます。

派遣労働者からの団体交渉に派遣先は応じる義務があるのか?

派遣社員の場合、当該社員を雇用しているのは派遣元会社となります。そこで、その派遣社員の加入する労働組合からの団体交渉を受けるべき使用者は、まずは派遣元会社となります。

しかしながら、派遣社員が実際に業務に従事しているのは派遣先の会社のため、当該職場環境の改善などの労働条件については、派遣先会社にも断交応諾義務が認められるか否かが問題となります。

団体交渉において使用者が負う義務や、団体交渉の当事者となりうる立場の詳細は、以下のページをご覧ください。

派遣元・派遣先・派遣労働者の関係とは

労働者が派遣されている状況では、派遣元会社・派遣先会社・派遣労働者それぞれにはどのような関係性があるのでしょうか。

まず、派遣元と派遣先は、労働者を派遣するための労働者派遣契約を結んでいます。
そして、派遣元と派遣労働者には、既に説明しているとおり、雇用関係があります。言い換えると、派遣労働者は、派遣元に雇用されているということです。

他方、派遣先と派遣労働者には、雇用関係がありません。もっとも、派遣先は、派遣労働者に向けて、業務の指示や服務指導等を直接行うことができるため、派遣先と派遣労働者には指揮命令関係があるといえます。

そもそも派遣労働とは何かお知りになりたい方や、派遣元会社と派遣先会社の役割についてお知りになりたい方は、以下のページをご覧ください。

派遣先は団体交渉上の「使用者」に該当するのか?

派遣労働者の「使用者」にあたるのは、通常、派遣元会社になります。そのため、派遣労働者が実質的に業務に就いている派遣先会社は、団体交渉上の使用者にはあたらないとされるのが原則です。ただし、派遣先会社であっても、派遣労働者の業務について相当な支配力を持っている場合には、団体交渉上の「使用者」にあたるとする場合があります。

派遣元会社及び派遣先会社それぞれの責任について、より詳しくは以下のページをご覧ください。

労働組合法が定める使用者の定義

労働基準法において、「使用者」には、「事業主」、「事業の経営担当者」、「その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」の3つを含むと定められています(労基法10条)。

そして、「事業主」というのは、労働契約を実際に締結している法人や個人企業主を意味します。そこで、派遣社員が労働契約を行っているのは、雇用主である派遣元会社となります。

なお、「使用者」の定義に関しては、以下のページでより詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

派遣先企業が使用者にあたるとされた判例

この点、労働組合法上の「使用者」について、「派遣されている労働者をその業務に従事させており、労働者が従事している業務の全般につき、事業主は、労働条件等に関して部分的とはいえ雇用主と同視できるほどに現実的、また具体的に支配や決定をすることが可能な地位にあり、その限りにおいて」は、当該派遣先会社も「使用者」であるとした判例があります(最高裁 平成7年2月28日第三小法廷判決、朝日放送事件)。

事件の概要

ラジオ、テレビ放送事業等を営むX社は、請負契約に基づき下請企業(本件における組合員らの雇用主)から派遣された労働者らが組合員となっているY組合から、賃上げ、夏季・年末各一時金の支給、社員化、配転撤回、休憩室設置等の要求事項につき、団体交渉の申入れを受けました。

もっとも、X社は、本件の組合員らの「使用者」ではないとしてこれらの団体交渉を拒否しました。

そこで、Y組合がX社を相手として不当労働行為からの救済を求めたところ、初審命令及び再審命令とも、本件の組合員らの使用者は下請企業であるが、X社もまた、労働組合法7条2号の「使用者」に当たるとして、救済命令を発しました。

X社は、当該命令が「X社は、本件の組合員らの番組制作業務に関する勤務の割り付けなど就労に係る諸条件について、同人らの使用者でないとの理由でY組合との団体交渉を拒否してはならない。」などとしたことを不服として、その取消を求めた事件です。

裁判所の判断

事件番号: 平5(行ツ)17号
裁判年月日: 平成 7年 2月28日
裁判所:最高裁第三小法廷
裁判種類:判決
判示事項:労働者を直接雇用しているわけではない派遣先会社X社であっても、労働者を自己の業務に従事させていたことや、労働者の基本的な労働条件を決めるなど、部分的ではあるものの雇用主と同等に労働者を支配していたことから、労働組合法7条でいう「使用者」にあたると判断しました。

ポイント・解説

まず、本判決は、労働組合法7条にいう「使用者」の意義を検討すると、一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうが、同条の目的が、団結権の侵害といえるような行為を、不当労働行為として排除・是正し、正常な労使関係を取り戻すことである点を考慮すると、雇用主にはあたらない事業主の場合でも、雇用主から労働者の派遣を受けて自身の業務に就かせ、その労働者の基本的な労働条件等について、部分的ではあるが雇用主と同視できるほどに現実的、また具体的に支配や決定をすることができる地位にあれば、その限りにおいて、上記事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するべきであると判断しました。

そして、本件において、X社は、派遣社員に対する関係で労働契約上の雇用主に当たるものではないが、本件における事実関係によれば、X社は、請負三社より派遣されてきた従業員が従事する業務の全般に関して、編成日程表、台本や制作進行表の作成により、作業する日時、作業する時間、作業する場所、作業の内容といった詳細まで自ら決定していたこと、請負三社は、単に、ほぼ固定している一定の従業員のうちの誰をどの番組制作業務に従事させるかを決めていただけということ、X社の下に派遣される請負三社の従業員は、このようにして決められたことに応じて、X社から支給ないし貸与される器材等を使用し、X社の作業秩序に組み込まれて被上告人の従業員と共に番組制作業務に従事していたこと、請負三社の従業員の作業の進行は、作業時間帯の変更、作業時間の延長、休憩等の点についても、すべてX社の従業員であるディレクターが指揮監督を行っていたことが明らかであると判断しました。

そして、X社は、実質的にみて、請負三社より派遣されてきた従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等を決めており、右従業員の基本的な労働条件等について、部分的ではあるが雇用主である請負三社と同視できるほどに現実的、また具体的に支配や決定をすることができる地位にあったものというべきであるから、その限りにおいて、労働組合法7条にいう「使用者」に当たるものと解するのが相当であるとしました。

すなわち、例え形式的に労働契約上の雇用主にあたらない場合であっても、その労働条件を鑑みて、実質的に雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあれば、使用者性が認められる可能性があるということです。

派遣先が団体交渉に応じるべきとされる労働条件

派遣先が団体交渉に応じるべきとされる労働条件としては、次のようものが考えられます。

まずは、派遣社員が業務に従事している職場の労働環境、安全配慮義務の改善についてです。さらには、派遣先の社員からのセクハラやパワハラについても交渉の条件となり得ます。その他、派遣先会社が決定できる労働条件についても交渉の条件になりそうです。

派遣先会社が交渉に応じるべき項目は、以下のページでさらに詳しく説明しています。ぜひご覧ください。

派遣労働者からの団体交渉に応じるべきか判断に迷ったら、一度弁護士にご相談ください。

派遣先会社は、通常であれば派遣社員による団体交渉における使用者にはあたらないとされます。しかし、「派遣労働者がどのように業務に従事していたか」「派遣先会社がどの程度派遣社員を支配していたか」によっては、使用者にあたるおそれがあるため、注意すべきでしょう。また、派遣社員の加入する労働組合から団体交渉を申し入れられた場合には、早期解決に向けた行動を取ることが重要です。団体交渉を有利に進めたいのであれば、専門的な知識と経験を有する弁護士に対応を依頼することをおすすめします。

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執筆弁護士

弁護士 東條 迪彦
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士東條 迪彦(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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