不当解雇で慰謝料請求される?相場や企業が取るべき対応を解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

「問題のある社員を解雇しただけなのに、慰謝料まで支払わなければならないのか」と不安を感じる企業担当者は少なくないでしょう。

実際、不当解雇が無効と判断された場合でも、必ずしも慰謝料を請求されるわけではありません。しかし、企業側に悪質な対応があったと評価されれば、慰謝料の支払いを命じられる可能性があります。

この記事では、不当解雇で慰謝料請求されるケースや慰謝料の相場、企業が取るべき適切な対応などについてわかりやすく解説します。

不当解雇で慰謝料を請求されるのか?

不当解雇をしたからといって、企業が必ず慰謝料を支払わなければならないわけではありません。

裁判で不当解雇と判断された場合、まず負担することになるのは、解雇期間中の未払い賃金にあたる「バックペイ」です。実務上は、バックペイによって労働者の精神的な苦痛がある程度回復されると考えられているため、慰謝料まで認められるケースは多くありません。

もっとも、不当解雇に加えて従業員への嫌がらせや退職強要、名誉を傷つける言動などがあった場合は話が別です。このような悪質な対応があったと認められると、バックペイに加えて慰謝料の支払いを命じられる可能性があります。

不当解雇で慰謝料請求が認められるケース

不当解雇で慰謝料請求が認められるのは、企業の対応に強い違法性や悪質性があり、従業員に大きな精神的苦痛を与えたケースです。例えば、次のような場合には、慰謝料の支払いが命じられる可能性があります。

  • 労働組合活動を理由に解雇した
  • 妊娠や産休・育休の取得を理由として解雇した
  • 内部通報を行ったことへの報復として解雇した
  • 従業員に責任のない問題を押しつけて解雇した
  • 事実とは異なる理由や不合理な理由を用いて解雇した
  • 社内会議で批判的な発言をしたことをきっかけに解雇した
  • 十分な調査や弁明の機会を与えないまま懲戒解雇した
  • 解雇理由を社内外に公表し、従業員の名誉を傷つけた
  • 退職を強要するための嫌がらせを繰り返した末に解雇した

不当解雇と正当解雇の違いについては、以下のページで詳しく解説しています。

解雇期間中の未払い賃金(バックペイ)との違い

バックペイとは、不当解雇によって従業員が働けなかった期間について、本来支払われるはずだった未払い賃金のことです。不当解雇が無効になると、法律上は雇用関係が継続していたと扱われるため、企業は解雇期間中のバックペイを支払わなければなりません。

一方、慰謝料は、不当解雇によって従業員が受けた精神的苦痛を補償するための損害賠償金です。不当解雇が認められた場合でも、慰謝料が必ず認められるわけではありません。

企業としては、慰謝料以上に高額化しやすいバックペイの存在も理解しておくことが重要です。裁判が長期化すると、バックペイだけで数百万円から1000万円を超えるケースもあります。

不当解雇による慰謝料請求が認められた裁判例

事件の概要(令和5年(ワ)第21365号 東京地方裁判所 令和7年8月8日判決)

Y社が経営するバーの店長であった従業員Xが、マネジメント能力不足や、売上の未達成を理由に解雇された事案です。

Y社は、Xが採用時に毎月800万円の売上目標を掲げながら達成できなかったことや、アルバイトへのパワハラが多くの退職者を生んだことを解雇の理由として主張しました。一方、Xはこれらを否定し、会社代表者から「馬鹿じゃねぇの」「器がない」「人生をなめてる」などの暴言を受け、胸ぐらをつかまれるなどの行為もあったとして、解雇無効を求めて提訴しました。

裁判所の判断

裁判所は、XがY社に対して売上を保証した証拠は存在せず、実際の店舗の売上も継続的に赤字だったわけではないと指摘しました。また、アルバイトやシェフの退職についても、Xのパワハラが原因であることを証明する証拠がないため、解雇には客観的に合理的な理由がなく、不当解雇にあたると結論づけています。

さらに、代表者が酒に酔った状態で深夜に長時間叱責し、「バカだ」などの侮辱的な発言を繰り返したことや、胸ぐらをつかんだ行為をパワハラと認定し、バックペイとは別に慰謝料40万円の支払いを命じました。

ポイント・解説

裁判所は、Y社が主張した能力不足について、売上実績や損益分岐点などの客観的なデータを検討した結果、十分な根拠はないとして解雇を無効と判断しました。さらに、解雇そのものだけでなく、人格否定発言や暴行によって従業員が受けた精神的苦痛を考慮し、バックペイに加えて慰謝料の支払いを命じています。

能力不足を理由に解雇する場合は、営業成績などパフォーマンスを示す資料や指導記録を残すとともに、従業員への言動にも十分配慮することが大切です。

不当解雇による慰謝料請求が認められなかった裁判例

事件の概要(令和5年(ワ)第26657号 東京地方裁判所 令和7年2月27日判決)

保険代理店で営業職として働き、躁うつ病を患っていた従業員Xが、普通解雇されたことを不服として提訴した事案です。

Y社はXが重要会議を寝坊で欠席したことや、社長への恐怖心から人事面談を複数回拒否したこと、躁うつ病による事故回避のために出された「業務中の自動車運転禁止命令」に従わなかったことなどを理由に解雇しました。

しかし、本人は始末書を提出しており、解雇は不当だと主張しました。さらに、社長から懇親会で「うつ病がなんだ」などの暴言を受けたとして、慰謝料も請求したものです。

裁判所の判断

裁判所は、会議の無断欠席と面談拒否については、Xが始末書を提出して反省していたことや、Y社も「また一緒に仕事をしよう」と発言していたことから、解雇するほど重大な問題だったとはいえないと判断しました。
また、運転禁止命令違反についても、違反後に注意や指導を行っていなかった点を重視し、解雇は無効と判断しました。

一方、パワハラについては証拠不十分として認めず、慰謝料請求を棄却しました。社長の発言は指導の一環だった可能性があり、その後もXが社長を食事に誘うなど交流が続いていた点が考慮されたものです。

ポイント・解説

実際に従業員には業務命令違反などの問題行動がありましたが、裁判所は、会社が十分な改善指導を尽くさないまま解雇に踏み切った点を問題視し、不当解雇と判断しています。

企業としては、問題行動が見られた場合でも、いきなり解雇を選択するのではなく、注意・指導、懲戒処分などを段階的に行い、その経緯を記録として残しておくことが重要です。また、精神疾患など健康上の事情がある従業員については、業務内容の見直しや必要な配慮を検討しながら対応する必要があります。

不当解雇の慰謝料相場はいくら?

不当解雇における慰謝料の相場は事案によって異なりますが、一般的には20万円から100万円程度とされています。
ただし、会社の対応が特に悪質だった場合には、100万円を超える慰謝料が認められることも珍しくありません。慰謝料の金額は、解雇に至る経緯や会社の対応、労働者が受けた精神的苦痛の大きさなどを総合的に考慮して決定されます。

慰謝料が高額化しやすいケース

解雇に強い違法性や悪質性が認められる場合には、相場よりも高額な慰謝料が認められる可能性があります。特に、次のようなケースでは慰謝料が高額化しやすい傾向があります。

  • ハラスメントを伴う解雇
    人格を否定する発言や執拗な退職強要などにより、従業員に大きな精神的苦痛を与えたケース
  • 解雇した従業員の名誉を毀損した場合
    根拠のない解雇理由を社内外に広めるなどして、従業員の名誉を傷つけたケース
  • 法律で禁止されている理由による解雇
    妊娠・出産、育児休業の取得、内部告発などを理由として行われた違法な解雇
  • 労働者の生活に深刻な影響を与えたケース
    解雇によって生活基盤が大きく損なわれ、労働者やその家族に重大な不利益が生じたケース
  • 精神疾患を発症したケース
    不当解雇が原因で、うつ病などの重度の精神疾患を発症したケース

不当解雇による慰謝料請求を防ぐために企業が取るべき対応

不当解雇と判断されると、企業は未払い賃金だけでなく、慰謝料の支払いを命じられる可能性があります。そのため、解雇を検討するときは、法的な要件を満たしているかを十分に確認し、適切な手順を踏むことが重要です。

ここでは、不当解雇を防止するために、企業が実践すべき以下の対応について解説していきます。

  • 就業規則を整備する
  • 注意・指導の記録を残す
  • 軽い懲戒処分から検討する
  • 退職勧奨を行う
  • 解雇予告・解雇予告手当を支払う

就業規則を整備する

不当解雇を防ぐためには、あらかじめ就業規則に解雇事由を明確に定めておくことが重要です。

就業規則には解雇事由を記載することが義務づけられており、解雇は基本的にこれらの事由に該当する場合に限り認められます。そのため、「勤務成績が著しく不良で改善が見込めない場合」「重大な服務規律違反があった場合」「無断欠勤を繰り返し、指導しても改善しない場合」など、解雇事由を具体的に定めておくことが大切です。

さらに、就業規則は作成するだけでは十分ではありません。所轄の労働基準監督署へ届け出るとともに、従業員に周知しておく必要があります。就業規則は労働者に周知されてはじめて効力が認められるため注意しましょう。

注意・指導の記録を残す

問題社員を解雇する場合は、注意・指導の履歴を記録して残しておくことが不可欠です。
たとえ解雇理由に該当する問題行動があったとしても、会社が十分な改善指導を行わずに解雇すると、不当解雇と判断されるおそれがあります。

そのため、問題があれば直ちに解雇するのではなく、まずは注意・指導を行い、改善を促すことが大切です。そして、面談日や指導内容、従業員の反応、改善状況などは書面やメールなどで記録しておきましょう。

これらの記録は、後に不当解雇を主張された場合に、会社が適切な指導を行っていたと証明する重要な証拠になります。企業防衛の観点からも、指導と記録は必ずセットで行うべきです。

軽い懲戒処分から検討する

注意や指導を行っても改善が見られない場合は、懲戒処分を検討することになります。

懲戒処分は問題行動の内容に応じて段階的に行うことが重要です。問題があるからといって、いきなり重い処分を科すと、後に無効と判断されるおそれがあります。

一般的には、戒告・けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇の順に処分が重くなります。例えば、遅刻を数回しただけで出勤停止や解雇といった重い処分を行えば、処分が重すぎると判断される可能性があります。そのため、まずは軽い処分で改善を促し、それでも同様の問題行動が繰り返される場合に、より重い処分へ移行することが望ましいでしょう。

懲戒処分を行うときの注意点についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

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退職勧奨を行う

不当解雇のリスクを抑えたいのであれば、解雇前に退職勧奨を行うことをおすすめします。

退職勧奨とは、会社が従業員に対して、自主的に辞めてほしいと申し入れる行為です。会社と従業員が十分に話し合い、従業員が納得したうえで退職に合意すれば、不当解雇や慰謝料請求などのトラブルを防ぎやすくなります。

もっとも、退職勧奨はあくまでも退職を勧めるものであり、退職を強制してはなりません。例えば、「退職するまで何度も面談を繰り返す」「威圧的な態度で退職を迫る」といった行為は、違法な退職強要と判断されるおそれがあります。

退職勧奨を行うときは、退職を勧める理由を丁寧に説明し、従業員の意思を尊重しながら話し合いを進めることが大切です。

退職勧奨の正しい進め方について詳しく知りたい方は、以下のページをご一読ください。

解雇予告・解雇予告手当を支払う

従業員を解雇する場合は、基本的に30日前までに解雇予告を行う必要があります。また、30日前までに予告できないときは、不足する日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません(労働基準法20条1項)。例えば、解雇日の10日前に解雇を通知する場合は、少なくとも20日分の平均賃金の支払いが必要です。

もっとも、例外もあります。天災事変により事業の継続が困難になった場合や、横領など従業員の悪質な行為を理由に解雇する場合は、労働基準監督署長の認定を受けることで、解雇予告が免除されることがあります。

解雇予告や解雇予告手当については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

よくある質問

不当解雇と判断された場合、慰謝料は必ず支払う必要がありますか?

不当解雇と判断されても、慰謝料まで認められるケースはまれです。バックペイの支払いにより、通常は精神的苦痛も回復すると考えられているためです。ただし、パワハラや名誉毀損など悪質な事情がある場合は、慰謝料の支払いが命じられる可能性があります。

慰謝料とは別にバックペイも支払う必要がありますか?

はい。不当解雇と判断された場合は、慰謝料とは別にバックペイの支払いを命じられる可能性があります。

バックペイとは、解雇が無効とされた際に、解雇日から復職日までの給与をさかのぼって支払うものです。裁判が長引くほど高額になるため注意が必要です。

懲戒解雇でも不当解雇として慰謝料を請求されることはありますか?

はい。懲戒解雇であっても、不当解雇として慰謝料を請求される場合があります。
特に事実無根の理由による解雇や軽微なミスによる解雇、名誉毀損を伴う対応などがあれば、会社の悪質性が認められ、慰謝料の支払いが命じられる可能性があります。

懲戒解雇の要件や具体的な手続きについて詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

解雇理由証明書の不備は慰謝料請求の原因になりますか?

解雇理由証明書の不備だけで、慰謝料請求が認められることは多くありません。
ただし、解雇理由が曖昧であったり、事実と異なる記載があったりすると、会社側に不利に働き、解雇が無効となるおそれもあります。
解雇理由は漏れなく、正確に記載しましょう。

試用期間中の解雇でも、不当解雇として慰謝料を請求されますか?

はい。試用期間中でも不当解雇として慰謝料を請求される可能性があります。
試用期間中の解雇でも、合理的な理由と社会的相当性が必要です。十分に改善の機会を与えずに解雇すると無効と判断され、対応が悪質であれば慰謝料を請求される可能性があります。

解雇を撤回すれば慰謝料請求は防げますか?

解雇を撤回しただけで慰謝料請求を防げるわけではありません。不当解雇による精神的な苦痛や会社の法的責任は、撤回後も残ります。

ただし、自主的な撤回は有利な事情として考慮され、慰謝料が減額されたり、請求が認められにくくなる可能性があります。

退職金を払えば慰謝料請求は防げますか?

退職金を支払っただけでは、慰謝料請求を防げません。
退職金は勤続への功労に対して支払われるものであり、精神的な苦痛を補償する慰謝料とは性質が異なります。そのため、退職金を受け取った従業員でも、不当解雇を理由に慰謝料を請求する可能性があります。

合意退職に切り替えれば慰謝料請求は防げますか?

合意退職が成立すれば、慰謝料請求のリスクを抑えられる可能性があります。
ただし、その合意は従業員の自由な意思に基づく必要があります。強引な退職勧奨によって退職に同意させると、不当解雇や慰謝料請求につながるおそれがあるため注意しましょう。

不当解雇で慰謝料請求されたらお早めに弁護士にご相談ください

不当解雇で慰謝料請求されたら、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。

企業が独自の判断で対応すると、かえって従業員との対立が深まり、労働審判や裁判へ発展するおそれがあります。また、不当解雇と判断された場合は、慰謝料だけでなくバックペイの負担が生じる可能性があるため注意が必要です。

解雇の有効性は、解雇理由だけでなく、これまでの対応や手続きが適切だったかも含めて判断されるため、専門的な知識が欠かせません。弁護士であれば、解雇の有効性を分析したうえで、従業員との交渉、労働審判、裁判対応まで一貫してサポートできます。

不当解雇による慰謝料請求でお困りの際は、企業側の労働問題に精通する弁護士法人ALGへご相談ください。

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執筆弁護士

弁護士法人ALG&Associates
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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