業績不振を理由とした賃金減額はできる?減給の方法などを解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

企業経営において業績悪化は珍しいものではなく、人件費の見直しが課題となる場面もあります。その際、業績不振を理由に賃金を減額できるのか、許される範囲はどこまでかと悩む経営者や人事担当者は少なくありません。ただし、賃金は重要な労働条件であり、会社の判断のみで引き下げることはできません。

本記事では、賃金減額の可否、上限、適法に進めるための方法や注意点を解説します。

業績不振を理由とした賃金減額(賃金カット)は認められるのか?

業績不振があったとしても、会社側が一方的に賃金を減額することは原則として認められません。賃金は労働契約の根幹をなす重要な労働条件であり、その変更には厳格な手続きが必要となります。

業績不振で減給が認められる可能性があるケース

業績不振を理由とした減給が認められる可能性があるのは、以下のような事例が考えられます。

  • 企業の存続が危ぶまれ、解雇を避けるための最終手段として減給が行われるケース
  • 役員報酬のカットや経費削減など、会社全体で徹底した合理化策が先行して実施されているケース

業績不振による賃金減額には上限がある?

業績不振による減額では、「減給の制裁」の場合の労働基準法91条による制限(1回の額が平均賃金の1日分の半額、総額が1賃金支払期の10分の1以内)のように「〇割まで」といった具体的な法律上の制限はありません。

ただし、賃金減額の有効性が厳格に判断されることを踏まえると、倒産の危機などの例外的な場合であっても、10分の1以上の賃金減額が認められる可能性は低いと考えられることはもとより、10分の1以内の減額であっても、無効となることがあり得るため、慎重に減額幅を検討する必要があります。

業績不振を理由とした賞与の減額も認められる?

賞与(ボーナス)については、就業規則の規定内容によります。
「業績に応じて支給する」旨の規定がある場合、業績不振を理由とした不支給や減額は比較的認められやすい傾向にあります。一方で、「基本給の○ヶ月分を支給する」と確定的に定められている場合は、基本給と同様に個別の合意や就業規則の変更が必要となります。

業績不振による賃金減額の方法

賃金を適法に減額するための手続きには、主に以下の3つの方法があります。

  • 労働者の同意を得る方法
  • 就業規則を変更する方法
  • 労働協約を改定する方法

労働者の同意を得る場合

最も確実な方法は、労働者一人ひとりと面談し、書面で個別の合意を得ることです。ただし、会社側の強制による同意は無効とされるため、労働者の「自由な意思に基づく同意」であることを証明できるよう、説明プロセスを記録に残すことが重要です。

また、労働者の個別の同意を得たとしても、就業規則を下回る労働条件を定める労働契約は無効となることから(労働契約法12条)、就業規則の変更を併せて行う必要がある場合があります。

就業規則を変更する場合

全従業員を対象とする場合、就業規則を変更する方法があります。労働契約法第10条に基づき、変更内容に合理性が認められなければなりません。

合理性の判断では、労働者が受ける不利益の程度、変更の必要性の内容と程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置、交渉の経緯などが考慮されます。例えば、深刻な経営悪化により賃金を引き下げなければ倒産のおそれがある、代償措置や経過措置を講じているなどの事情は、賃金減額の合理性を肯定する事情となり、不利益変更が認められる可能性があります。

また、就業規則の不利益変更は労働者の合意によってもすることができるとされており、その場合には上記労働契約法9条における合理性の要件を充足する必要はありません。しかし、ここでいう合意は、単に書面へのサインをしたというだけでなく、「労働者の自由な意思に基づいたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か」という点から厳格な認定がなされます(山梨県民信用組合事件、最判平成28年2月19日)。

労働協約で定める場合

労働組合がある場合、組合との交渉を経て労働協約を締結又は改訂することで賃金を減額することが可能です。労働協約は個人の契約や就業規則に優先する強い効力を持ちますが、組合員以外の労働者への適用には注意が必要となります。

違法な賃金減額をした場合のペナルティ

適正な手続きを踏まずに賃金を一方的にカットした場合、未払い賃金の支払いを命じられるだけでなく、労働基準法24条違反として労働基準監督署からの是正勧告を受ける可能性30万円以下の罰金を科される可能性があります。また、悪質なケースでは付加金の支払いを命じられたり、企業の社会的信用を大きく損なうおそれがあります。

賃金の引き下げについて争われた裁判例

事件の概要

平成29年(ネ)1364号・地位確認等請求控訴事件・平成30年2月27日・大阪高等裁判所判決
農業協同組合(被控訴人)の職員であった労働者ら(控訴人ら)が、スタッフ職制度の導入に伴う就業規則の変更(賞与の原則不支給、定期昇給の停止など)は不利益変更であり、労働契約法9条および10条の要件を満たさないとして、変更前の規定に基づいた未払賃金や賞与の支払いを求めた事案です。

裁判所の判断
裁判所は、以下の点から、就業規則の変更には高度の必要性と合理性があるとして、労働者側の請求を棄却しました。

  • 不利益の程度:賞与や定期昇給が原則として実施されなくなった点は不利益といえるが、変更前の給与規程においてこれらが具体的な権利として確定的に定められていなかったことから、実質的な不利益の程度は小さいと判断されました。
  • 変更の必要性:赤字が恒常化していなくても、高年齢層の人件費が事業収支を圧迫しており、削減しなければ経営が行き詰まることが予想されたこと、近隣の同規模農協と比較して事業利益が相当低かったことなどから、変更の「高度の必要性」が認められました。

ポイント・解説
本判決の重要なポイントは、将来的な経営危機を回避するための予防的な賃金体系の見直しに高度の必要性を認めた点にあります。

通常、賃金減額には倒産寸前のような切迫した状況が求められる傾向にありますが、本件では「現状では赤字でなくても、問題を先送りにすれば早晩経営が行き詰まる」という予測のもとで行われた変更の合理性を肯定しています。ただし、これは「不利益の程度が比較的小さい(具体的な権利として確立していなかった)」という事情とセットで判断されている点に注意が必要です。

よくある質問

業績不振による賃金減額を行う際、従業員への説明は必要ですか?

はい、極めて重要です。
会社側が一方的に賃金を減額することは原則として認められず、変更には厳格な手続きが必要となります。特に労働者の同意を得る場合、それが「自由な意思に基づく同意」であると認められるためには、なぜ減額が必要なのかという客観的な説明と誠実な協議プロセスが不可欠です。

説明を尽くし、そのプロセスを記録に残すことが後のトラブルを防ぐ鍵となります。

従業員が賃金減額に同意しない場合、どのように対応すべきですか?

個別に同意を得ることが難しい場合には、就業規則の改定による対応を検討することになります。
ただし、就業規則を変更して賃金を引き下げるには、労働契約法第10条に照らし、当該変更に合理性が認められることが必要です。とりわけ賃金の減額については、合理性の判断において高度な必要性が求められます。

業績不振による減給に反対する従業員を解雇することはできますか?

減給は「解雇を避けるための最終手段」として検討されるべきもので、減給に反対したことのみをもって直ちに解雇することは極めてリスクが高いといえます。

賃金の10分の1を超える減給が可能なケースはありますか?

業績不振による減給には、「減給の制裁」に関する労働基準法第91条のように、「何割まで」といった明確な法律上の制限は設けられていません。

ただし、賃金減額はその有効性が厳しく判断されるため、倒産の危機など特段の事情がある場合でも、賃金の10分の1を超える減額が認められる可能性は高くありません。さらに、10分の1以内であっても無効となることがあるため、減額の程度は慎重に検討する必要があります。

業績不振を理由に残業手当を見直すことは認められますか?

残業手当(割増賃金)は労働基準法で定められた支払い義務があるため、「残業をさせているのに手当を払わない」という見直しは違法です。

減給の対象となる従業員を限定することは可能ですか?

業績不振により減給する必要性がある場合には、従業員全員が応分に負担すべきという原則があるため(最判平成12年9月7日参照)、減給の対象となる従業員を限定して減給することは無効とされる可能性があります。そのため、慎重に検討する必要があります。

賃金減額を行った後に、企業が行うべき手続きは何ですか?

就業規則を変更して減額を行った場合、労働基準監督署への届出が必要です。

労働組合がある場合、減給はどのように扱うべきですか?

労働組合がある場合は、組合との交渉を経て「労働協約」を締結または改定することで、賃金を減額することが可能です。労働協約は個人の契約や就業規則に優先する強い効力を持ちます。

賃金減額でトラブルにならないために弁護士がアドバイスいたします

たとえ経営が苦しい状況であっても、会社側が一方的な判断で賃金を減額することは原則として許されず、法的な要件を慎重にクリアしていく必要があります。

なぜ減額が必要なのかという客観的な説明、労働者側との誠実な協議など、適正な手続きを踏んでいるかどうかが、後のトラブルを防ぐ鍵となります。
賃金減額の実施には高度な法的判断が伴うため、まずは専門家である弁護士にご相談いただくことが最良の選択といえるでしょう。

弁護士法人ALGでは、労務問題に精通した弁護士が在籍していますので、貴社の事情に応じた柔軟な対応が可能です。賃金についてお悩みがあれば、まずはお気軽にご相談ください。

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執筆弁護士

 塚本 大誠
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所塚本 大誠(東京弁護士会)
 廣瀬 文人
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所廣瀬 文人(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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