
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働者を解雇する場合、使用者は解雇予告の実施または解雇予告手当の支払いのいずれかをすることが義務付けられています。
仮に解雇予告を実施する場合、使用者は解雇予告通知書を用いて労働者に通知することで将来のトラブルを避けることができます。
本記事では、解雇予告通知書の概要、作成方法や交付手続等について解説します。
目次
- 1 解雇予告通知書とは
- 2 解雇予告通知書と解雇通知書の違い
- 3 解雇予告通知書の記載事項
- 4 解雇予告通知書の交付方法
- 5 解雇予告通知書の受け取りを拒否されたら?
- 6 解雇予告をしなかった場合の罰則
- 7 解雇予告通知書についてご不安な点があれば、弁護士に相談することをおすすめします。
- 8 解雇予告通知書に関するQ&A
- 8.1 解雇予告通知書と解雇理由証明書の違いを教えて下さい。
- 8.2 解雇予告通知書を交付するタイミングはいつですか?
- 8.3 解雇予告通知書を交付しなくてよいケースはありますか?
- 8.4 パート・アルバイトにも解雇予告通知書の交付は必要ですか?
- 8.5 試用期間中の従業員にも解雇予告通知書の交付は必要ですか?
- 8.6 解雇予告通知書のひな形やテンプレートはありますか?
- 8.7 解雇予告通知書の解雇理由はどのように記載すべきですか?
- 8.8 解雇予告通知書には会社の印鑑を押印する必要がありますか?
- 8.9 解雇予告通知書を直接手渡せない場合はどうしたらいいですか?
- 8.10 解雇する従業員が行方不明の場合、解雇予告通知書の交付は不要ですか?
解雇予告通知書とは
解雇予告通知書とは、使用者が労働者に対して、当該労働者を解雇する旨を伝える書面のことです。
解雇予告を書面で通知することで、使用者は後々労働者とトラブルになるリスクを低減することができます。
詳しくは以下のページをご覧ください。
解雇予告通知書の発行は義務か?
解雇予告は口頭によってすることも可能です。
そのため、解雇予告通知書を発行しないことで直ちに違法と評価されるわけではありません。
しかしながら、労働者を普通解雇する際に、使用者は解雇予告手当を支払わない限り、原則として解雇する30日以上前に解雇予告をしなければなりません(労働基準法20条1項)。
そこで、後になって解雇予告がなかったなどと労働者から主張されることを回避するためにも、労働者を普通解雇する際には解雇予告通知書を作成することが有用です。
解雇予告通知書と解雇通知書の違い
解雇予告通知書と解雇通知書はどちらも解雇の通知を書面で伝えるものですが、「解雇通知書」という表題の書面は書面をもって即時解雇する場合に用いられやすい一方で、通知後一定期間の経過を待って解雇する旨を労働者に書面で伝える場合には、書面の表題を「解雇予告通知書」とすることもあります。
解雇予告通知書の記載事項
仮に後日解雇された従業員が解雇は違法であると訴訟を起こした場合でも、解雇には正当な理由があり、また適法な手続を経て解雇したと主張するためには、解雇予告通知書に解雇に関する詳細を記載しておくことが重要です。以下では解雇予告通知書の記載事項について説明します。
作成年月日
解雇予告通知を作成した年月日を記載することで、当該年月日に解雇対象の労働者に対していつ解雇予告通知をしたのかを明らかにすることができます。
なお、原則として使用者は労働者を普通解雇する30日以上前に解雇予告通知をしなければならないところ、この日数のカウントは解雇予告通知が労働者に到達した時点からスタートすることに注意が必要です。
解雇する従業員の氏名
解雇対象者を明確にするために、解雇する従業員の氏名を記載する必要があります。
会社名・代表者氏名
解雇の内容を特定するためには、何という名称の使用者が何という氏名の労働者を解雇するのかを特定する必要があります。
そのため、解雇する従業員の氏名に加えて、会社名・代表者氏名を記載する必要があります。
解雇の意思表示
解雇予告通知書の到達によって労働基準法上の解雇の予告の効果が発生するためには、解雇予告通知書に解雇の意思表示が記載されていることが必要です。労働基準法20条1項に基づいて通知していることを示すとより解雇の意思表示として明確になるでしょう。
解雇年月日
解雇予告通知の到達から解雇日が一定期間(原則として、30日以上)後に定められていることが適法な解雇の要件になるため、解雇予定日を予め記載する必要があります。
解雇理由
後に「不当な理由で解雇された」などと労働者が主張してトラブルになることを防ぐために、解雇対象の労働者が就業規則上のどの条項にあたるため解雇するのか、及びその就業規則の条項に該当する理由については記載しておくことが肝要です。
解雇予告通知書の交付方法
以下では、解雇予告通知書を交付するうえでの注意点について説明します。
解雇予告通知は書面で交付する
解雇予告を書面で通知することで、使用者は後々労働者とトラブルになるリスクを低減することができます。そのため、解雇予告通知は口頭で行うのではなく、解雇予告通知書を交付することによって行うことが望ましいです。
手渡しする場合は受領印をもらう
労働者が解雇予告通知書に受領印を押すことで、労働者に解雇予告通知書が到達したことを証拠として残すことができます。
解雇予告通知書の受け取りを拒否されたら?
解雇予告通知書の受取が拒否された場合でも、労働者が解雇予告を伝えられたのであれば、解雇予告の意思表示は到達したものと考えることができます。
しかし、解雇予告の意思表示が到達したことを証拠として残しておいた方が後のトラブルを防ぐ観点からも有用です。解雇予告通知書の受取を拒否された場合には、不在の場合でもポストに郵便物が投函される特定記録郵便等を用いて解雇予告通知書を交付しておきましょう。
解雇予告をしなかった場合の罰則
解雇予告をせず、解雇予告手当を支払うこともなく労働者を解雇した場合、労働基準法20条1項に違反したものとして6ヶ月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処される可能性があります(労働基準法119条1号)。
解雇予告通知書についてご不安な点があれば、弁護士に相談することをおすすめします。
解雇予告通知書は不備があった際に、解雇予告が無効になるなど様々なリスクがあり慎重に作成すべきものです。解雇予告通知書について、法的に整理された内容の文書を作成したい、又は文書を作成するうえで不安がある場合には、弁護士に作成をご依頼ください。
解雇予告通知書に関するQ&A
解雇予告通知書と解雇理由証明書の違いを教えて下さい。
-
解雇予告通知書と解雇理由証明書の主な違いは以下になります。
・解雇予告通知書
使用者が労働者に対して当該労働者を解雇する旨を伝える書面・解雇理由証明書
解雇予告後に労働者から解雇理由について証明書を出すよう請求された場合に交付しなければならない書面解雇予告を書面で行うことは義務ではありませんが、解雇理由証明書は労働者から交付を請求された場合には書面での交付が義務となります。
詳しくは以下のページをご覧ください。
解雇予告通知書を交付するタイミングはいつですか?
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解雇予告手当を支払わずに労働者を解雇する場合には、解雇の日の30日以上前に解雇予告をしなければなりません。
郵便等で解雇予告通知書を送付する場合には、解雇予告通知書の到達をもって解雇予告の効果が発生するため、余裕をもって発送することが必要です。
解雇予告通知書を交付しなくてよいケースはありますか?
-
労働基準法21条は、次の項目に該当する労働者について解雇予告の義務を除外しています。
- 日日雇い入れられる者(1箇月を超えて引き続き使用される場合を除く)
- 2箇月以内の期間を定めて使用される者(所定の期間を超えて引き続き使用される場合を除く)
- 季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者(所定の期間を超えて引き続き使用される場合を除く)
- 試の使用期間中の者(14日を超えて引き続き使用される者を除く)
パート・アルバイトにも解雇予告通知書の交付は必要ですか?
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労働基準法21条の各項目にいずれも該当しないパート・アルバイトには、解雇予告通知書の交付が必要です。
試用期間中の従業員にも解雇予告通知書の交付は必要ですか?
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14日を超えて使用されている試用期間中の従業員にも解雇予告通知書の交付が必要です。
解雇予告通知書のひな形やテンプレートはありますか?
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インターネット上で解雇予告通知書のひな形を入手することは可能ですが、法的に正確な内容の解雇理由通知書を作成したい場合は弁護士への依頼・相談をおすすめします。
解雇予告通知書の解雇理由はどのように記載すべきですか?
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労働者を解雇する理由が就業規則のどの条項に該当するのか、またその理由についても記載することが肝要です。
解雇予告通知書には会社の印鑑を押印する必要がありますか?
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会社の印鑑を押すことは義務ではありませんが、万が一訴訟等の紛争になった際には会社の印鑑による押印があることが、会社が解雇の意思表示をしたという強い証拠になりうるため、会社の印鑑を押印することをおすすめします。
解雇予告通知書を直接手渡せない場合はどうしたらいいですか?
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解雇予告通知書を労働者に直接交付できない場合は、郵便等の手段で労働者の住所に解雇予告通知書を送付することが考えられます。内容証明郵便に加えて、労働者が不在の場合にも投函される特定記録郵便を送付することが望ましいでしょう。
解雇する従業員が行方不明の場合、解雇予告通知書の交付は不要ですか?
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労働基準法20条1項ただし書は、「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」には解雇予告を不要としています。
また、2週間以上の正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合は「労働者の責めに帰すべき事由」として認定すべきであるとしています(昭和 23 年 11 月 11 日基発第 1637 号、昭和 31 年 3 月 1 日基発第 111 号)。
その場合、解雇予告通知書の交付は原則として不要になりますが、解雇予告通知書を送付したにもかかわらず応答しないといった事実は労働者が出勤の督促に応じないことを示す材料になるため、解雇予告通知書の交付を試みることは有用でしょう。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士九里 亮太(東京弁護士会)
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所プロフェッショナルパートナー 弁護士田中 真純(東京弁護士会)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある