監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
有期雇用で働く方にとって重要な「無期転換ルール」ですが、特定の職種や働き方については、その適用を調整する特例制度が存在します。これには大学等の研究者、高度な専門職、そして定年後の継続雇用者が含まれます。
本記事では、これらの例外的な仕組みについて分かりやすく解説します。
目次
- 1 無期転換ルールの例外となる特例制度とは?
- 2 継続雇用の高齢者に対する特例
- 3 高度専門職に対する特例
- 4 大学等及び研究開発法人の研究者、教員等に対する特例
- 5 無期転換ルールの特例を受けるための手続き
- 6 無期転換の特例“10年ルール”に関する裁判例
- 7 よくある質問
- 7.1 無期転換ルールの特例はアルバイトやパートにも適用されますか?
- 7.2 無期転換ルールの特例は企業単位で適用されますか?
- 7.3 企業の定年年齢を超えて新たに雇用した従業員も、無期転換の特例の対象になりますか?
- 7.4 無期転換ルールの特例は必ず届出をしなければならないのでしょうか?
- 7.5 就業規則で「無期転換の申込権は発生しない」と定めていますが、特例の届出は必要ですか?
- 7.6 無期転換ルールの特例を適用する際、従業員への周知はどのようにすべきですか?
- 7.7 高度専門職の従業員がプロジェクトを途中で離脱した場合、特例はどうなりますか?
- 7.8 高度専門職の特例で、プロジェクト中の契約期間は無期転換ルールの通算期間に含まれますか?
- 8 無期転換ルールの特例を正しく適用するためにも弁護士にご相談ください
無期転換ルールの例外となる特例制度とは?
無期転換ルールの例外となる特例制度とは、特定の要件を満たす場合に通常の5年という期間設定や権利発生を調整する制度です。この制度の対象は、①定年後の継続雇用者②高度専門職従事者③研究者等です。
そもそも無期転換ルールとは?
無期転換ルールとは、同一の使用者との有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合に、労働者の申込みにより無期労働契約へ転換する制度です。使用者はこの申込みを拒否できません。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
継続雇用の高齢者に対する特例
有期雇用特別措置法により、定年後に引き続いて雇用される高齢者については、労働契約法の無期転換申込権が発生するまでの期間に関する特例が適用されます。
この特例は、無期転換制度を高齢者に一律に適用すると、企業が5年を超える継続雇用を控えるなど、高齢者の雇用機会を損なう可能性があるという指摘に対応して設けられたものです。
特例の対象となる労働者
特例の対象となる労働者は、定年に達した後に引き続いて雇用される有期雇用労働者(継続雇用の高齢者)です。他の企業を定年退職した後に新規採用された場合や、60歳以前から有期雇用労働者である場合は、原則として対象外となります。
特例を適用するための要件
特例の適用を受けるためには、ある会社を定年に達したのちに引き続いて同一企業に雇用される有期雇用労働者であることが必要です。
高度専門職に対する特例
高度専門職に対する無期転換ルールの特例制度について、その対象労働者および適用要件を解説します。
特例の対象となる労働者
特例の対象となる労働者は、「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」2条1項に規定される、高度の専門的知識等を有する有期雇用労働者です。
具体的には、以下のような者が含まれます。
- 博士の学位を有する者
- 公認会計士、医師、弁護士、税理士、社会保険労務士などの特定の国家資格を有する者
- ITストラテジスト、システムアナリスト等の資格試験に合格した者
- その他、専門的知識等を有すると認められる有期雇用労働者
特例を適用するための要件
特例を適用するためには、以下の手続および実務上の要件を満たす必要があります。
- (1) 「5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務」に従事する高度専門知識等を有する有期雇用労働者であること
- (2) 年間の賃金換算額が1075万円以上であること
大学等及び研究開発法人の研究者、教員等に対する特例
大学等および研究開発法人の研究者や教員等については、労働契約法第18条に基づく無期転換申込権の発生要件である「通算5年超」の期間を「10年超」とする特例が適用されます。
特例の対象となる労働者
特例の対象となる労働者は、主に以下の5つの類型に該当する者です。
- (1)科学技術に関する研究者または技術者(補助業務を行う人材を含む)で、大学等や研究開発法人と有期労働契約を締結した者
- (2)専門的な知識・能力を必要とする研究開発等の企画立案、資金確保、知的財産権の活用、運営管理業務に従事し、大学等や研究開発法人と契約した者
- (3)外部機関に雇用され、大学等や研究開発法人との契約に基づく共同研究開発業務に専ら従事する科学技術の研究者・技術者
- (4)共同研究開発等に係る運営管理業務(専門的知識が必要なもの)に専ら従事する者
- (5)大学教員等任期法に基づき、任期の定めがある労働契約を締結した教員(教授、准教授、助教、講師、助手)および専ら研究・教育に従事する特定の職員
特例を適用するための要件
特例が適用されるためには、対象機関(大学、大学共同利用機関、特定の研究開発法人、試験研究機関等)との契約、またはこれらと共同で行う研究開発等に従事していることが必要です。なお、契約期間の計算において、大学に在学している間に締結された有期労働契約の期間は、通算契約期間に算入されません。
無期転換ルールの特例を受けるための手続き
有期雇用特別措置法に基づく無期転換ルールの特例を適用するためには、事業主が適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受ける必要があります。
①雇用管理計画の策定
事業主は、特例対象労働者の能力が有効に発揮されるよう、特性に応じた雇用管理措置の計画を作成します。
高度専門職(第一種計画)の場合
認定を受けるための雇用管理措置として、以下のいずれかを実施する必要があります。
- 教育訓練のための有給休暇または長期休暇の付与(年次有給休暇を除く)
- 教育訓練時間の確保(始業・終業時刻の変更や勤務時間短縮等)
- 教育訓練費用の助成(受講料の援助等)
継続雇用の高齢者(第二種計画)の場合
対象は、定年に達した後に引き続き雇用される労働者です。以下の雇用管理措置のうち、1つ以上を講じる必要があります。
- 高年齢者雇用推進者の選任
- 職業訓練の実施
- 作業施設や方法の改善
- 健康管理や安全衛生への配慮
- 職域の拡大や職務能力評価・賃金制度の整備
- 勤務時間制度の弾力化(短時間勤務制度の導入等)
②都道府県労働局長へ申請・認定
作成した計画書(第一種または第二種)は、本社・本店を管轄する都道府県労働局へ提出します。
- 提出先:本社を管轄する都道府県労働局(労働基準監督署経由も可)
- 提出部数:申請書および添付書類、就業規則などを各2部(原本と写し)
- 一括申請:複数事業所がある場合でも、本社で一括して申請可能です。ただし、高度専門職の場合はプロジェクトごとに申請が必要です。
- 認定:計画が適切であると認められれば、都道府県労働局から認定通知書が交付されます。
③就業規則・雇用契約書への反映
認定を受けた後は、対象となる労働者に対して適切な明示と制度の整備を行います。
- (1)有期労働契約の締結または更新の際に、特例が適用されている旨を書面で明示しなければなりません。高度専門職の場合は、プロジェクトの具体的な範囲も明示する必要があります。
- (2)特例適用のための雇用管理措置の実施に伴い、就業規則を変更する場合は、労働基準法に基づく届出等の手続きが必要となります。
無期転換の特例“10年ルール”に関する裁判例
事件の概要(令5(受)906号・令和6年10月31日判決・最高裁第一小法廷・学校法人羽衣学園事件)
大学の有期契約専任教員であった原告(X)が、労働契約法18条1項に基づき無期労働契約へ転換したと主張し、被告である学校法人(Y)に対し地位確認等を求めたものです。
被告側は、Xの職が「大学の教員等の任期に関する法律」(以下、任期法)所定の職に該当し、10年特例が適用されるため無期転換は成立していないと主張しました。
裁判所の判断
(1)第一審(大阪地裁):Xの講師職は任期法4条1項1号の「教育研究組織の職」に該当すると判断し、10年特例の適用を認めてXの請求を棄却しました。
(2)控訴審(大阪高裁):職務に研究の側面が乏しいとして任期法の適用を否定し、5年ルールに基づく無期転換を認め、Xの地位確認請求を認容しました。
(3)最高裁:原判決(控訴審)の判断には、任期法4条1項1号の解釈に関する考慮不尽等の過誤があるとし、原判決中の被告敗訴部分を破棄して原審(大阪高裁)に差し戻しました。
ポイント・解説
本判決の争点は、有期契約の専任教員であるXの職が、任期法4条1項1号の「教育研究組織の職」に該当するかという点でした。
最高裁は、「教育研究組織の職」の意義を過度に厳格に解釈すべきではないとしたうえで、当該専攻コースでは、最新の実務経験や知見を取り入れるため、教員の流動性を高める必要性があると指摘しました。
そのため、当該専攻コースで授業等を担当する本件講師職は、多様な知識や経験を有する人材の確保が特に求められる職であり、任期法4条1項1号所定の「教育研究組織の職」に該当すると判断されました。
よくある質問
無期転換ルールの特例はアルバイトやパートにも適用されますか?
-
無期転換ルールおよびその特例は、アルバイト、パートタイマー、準社員など、名称にかかわらず契約期間の定めのあるすべての労働者に適用されます。
無期転換ルールの特例は企業単位で適用されますか?
-
同一の使用者(企業)であるかの判断は、事業所単位ではなく、法人などの事業主単位で行われます。
企業の定年年齢を超えて新たに雇用した従業員も、無期転換の特例の対象になりますか?
-
定年後に新たに雇用された従業員は、特例の対象になりません。
高齢者の特例は、同一の使用者の下で定年後も「引き続き雇用される」者に限定されており、基本的には定年前に無期雇用されていた者が対象となります。
無期転換ルールの特例は必ず届出をしなければならないのでしょうか?
-
特例を適用するためには、必ず都道府県労働局長の認定を受ける必要があります。
就業規則で「無期転換の申込権は発生しない」と定めていますが、特例の届出は必要ですか?
-
就業規則の定めがあっても、特例の届出(認定申請)は必要です。
無期転換申込権をあらかじめ放棄させるような契約は認められないため、法的な特例を適用するには労働局長の認定が不可欠です。
無期転換ルールの特例を適用する際、従業員への周知はどのようにすべきですか?
-
従業員への周知については、労働条件通知書に「無期転換申込権が発生する更新のタイミング」や「無期転換後の労働条件」などを明示することが求められています。
高度専門職の従業員がプロジェクトを途中で離脱した場合、特例はどうなりますか?
-
高度専門職の特例は、プロジェクトに従事している期間(上限10年)について適用されます。
プロジェクトを離脱したり終了したりした後に契約が更新される場合は、無期転換ルールが適用されることになります。
高度専門職の特例で、プロジェクト中の契約期間は無期転換ルールの通算期間に含まれますか?
-
プロジェクト中の期間も無期転換ルールの通算期間には含まれます。
ただし、特例期間中は「申込権が発生しない」という扱いになり、特例期間終了後の更新時に通算5年を超えていれば、その時点で申込権が発生します。
無期転換ルールの特例を正しく適用するためにも弁護士にご相談ください
無期転換ルールの特例は、高度専門職や定年後の継続雇用など適用範囲が広く、企業の柔軟な人事戦略を支える制度です。しかし、認定手続きの失念や要件の解釈ミスは、意図しない無期雇用転換や労働紛争のリスクを招きます。
無期転換ルールの正しい運用のためにも、弁護士等に相談し、リーガルチェックを行うことが有用です。
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執筆弁護士

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所宇佐美 和希(東京弁護士会)

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所廣瀬 文人(東京弁護士会)
この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
