議事録・録音・録画の必要性

団体交渉とは、労働組合が、団体行動を通じて使用者と対等な立場に立ち、労働要件をはじめとする労使間の関係に関するルールを取り決め、労働協約を締結するために使用者と交渉する行為をいいます。
この団体交渉は、通常一度で終了することは少なく、回数を積み重ねて労働協約締結を目指すものですので、交渉過程を記録し、会社にとって不利にならない協約締結を目指す必要がありますし、後に労働組合とのトラブルが生じるおそれもありますので、団体交渉の議事録を作成しておく必要があります。

このページでは、団体交渉における記録の必要性について解説します。

団体交渉の内容を記録する必要性

団体交渉は、労働組合ないしそれに準ずる団体が、代表者を通じて、使用者または使用者団体と労働条件その他の問題をめぐって交渉することをいいます。

団体交渉は、1回で終わるものではなく、複数回の交渉が必要となる場合が多いです。

そのため、交渉過程を正確に把握したうえで組合側と会社の合意形成を行う必要があり、交渉内容を記録しておくことが必要となります。

なお、団体交渉の進め方に関しては以下のページで詳しく解説しています。ぜひご参照ください。

団体交渉において議事録は作成すべきか?

団体交渉を行う際、議事録は作成すべきであるといえます。
以下で、その目的や議事録に記載する内容等について解説します。

議事録の作成目的

団体交渉を行う際は、基本的に録音をするべきです。さらに、録音だけでなく、議事録も作成しましょう。議事録は、後々に紛争に発展した場合、証拠として用いることができます。
議事録は、労働組合側と共同で作成する必要はありません。各当事者がそれぞれ作成すればよいでしょう。

労働組合からの不当な要求に対する対応例を、以下のページで紹介していますので、ぜひご一読ください。

議事録に記載する内容

議事録には、団体交渉の場でなされたすべての発言について記載すべきです。
なお、団体交渉でなされる協議事項については、以下のページもご参考にしてください。

議事録へのサインについて

労働組合側から議事録が送付されてくることがあります。これにサインを求められることがありますが、もちろん応じる必要はありません。
労働組合が作成した書面に、企業側がサインをしてしまうと、内容によっては労働協約の効力を持ってしまい、企業側がその内容に拘束されるおそれがあります。したがって、安易にサインするべきではありません。

団体交渉の内容を録音・録画する必要性と注意点

交渉中にメモを取るだけでは、議事録作成において不十分な場合もあります。そのため、ICレコーダー等を準備して、記録を残す意味で録音しておくほうがよいでしょう。労働組合側も、ICレコーダー等を用意していることが多いです。

団体交渉が始まる前に、「録音させていただきます」等ひとこと述べて、ICレコーダーを隠さず机上に置き、録音しましょう。
机上のICレコーダーの存在は、労働組合側に対して乱暴な言動を防ぐための心理的負荷にもなり得ます。

団体交渉の記録が争点となった裁判例

ここで、団体交渉の記録が争点となった裁判例を紹介します。

事件の概要

原告である従業員が加入していた労働組合(被告補助参加人)が、原告が不合理な条件に固執し、団体交渉を拒否したことで、埼玉県労働委員会に救済を申し立て、それを容認する命令が下されました。原告は中央労働委員会に再審査の申立てをしたものの、それが却下されたため、命令の取消しを求めたという事案です。

原告は、録音・撮影の禁止を団体交渉の条件のひとつとして提示しましたが、被告補助参加人がこれを拒否したことで団体交渉が開催されなかったことが、正当な理由にあたるか否かが問題となりました。

裁判所の判断(東京地方裁判所 令和2年1月30日判決)

“一方当事者が,一定の条件が充たされない限り,団体交渉の開催を拒否するとの態度に出ることがあり,当該当事者が自己の開催条件に固執する限り,他方は,その条件を受け入れるか,これを拒否し続けた結果,団体交渉が開催されないままということになり,その場合には,開催条件に固執した者が団体交渉を拒否したとみられることもあり得る。この場合,当該条件に固執してされた団体交渉拒否について「正当な理由」(労組法7条2号。以下,条文の摘示を省略することがある。)があるといえるか否かは,…一方当事者が求める団体交渉開催の条件等の内容が,…必要性が認められるか否か,条件等の内容それ自体が円滑な団体交渉実施等の観点に照らして合理的な内容か否か,当該条件等の内容が団体交渉の他方当事者の利益を不当に害するものか否かなどの事情を総合して,当該条件等の必要性,合理性等が認められない場合には,当該条件等が具備されないことを理由とした団体交渉拒否は,「正当な理由」がないというべきである。

…録音撮影禁止条件についてみると…団体交渉の内容を正確に記録しておくことは,労働条件等を含む労使関係について労使対等の立場で合意により形成するという団体交渉の目的に照らし,労使双方にとって必要があるといえる。そして,録音は,交渉内容の正確な記録のため有用な手段の一つであり,…少なくとも,団体交渉の全過程における録音を一律に禁止することについて,当然に必要性及び合理性があるということはできない。“

引用元:東京地方裁判所 平成31年(行ウ)第92号 不当労働行為救済命令取消請求事件 令和2年1月30日

ポイント・解説

団体交渉は、交渉当事者が対等の立場に立って話し合い交渉することであって、当事者のどちらか一方の要請に対して他方が「聞き置く」といったものではありません。
その意味で、使用者には、単に交渉の席につくことのみならず、労働者側と誠実さをもって交渉する義務があります。

使用者が交渉の席につくこと自体を拒否する場合のほか、交渉の席についても交渉態度が不誠実とみなされる場合には、正当な理由がない団体交渉拒否とみなされるおそれがあります。

団体交渉の録音等は、団体交渉を適切に進め、労働者との協約締結のために資する行為です。団体交渉の場において労働組合側が録音することを望む場合には、録音禁止の条件をつけたり、録音を理由に交渉を拒否したりする等の対応は避けた方がよいでしょう。

団体交渉の記録で不備が無いよう、人事労務を得意とする弁護士がサポートさせていただきます

団体交渉の場では、準備不足や対応を誤ることによって、会社に不利な発言をしてしまったり、会社に不利な労働協約を締結してしまったりするおそれがあります。

団体交渉の知識、経験が豊富な弁護士に相談することにより、交渉の記録方法、内容、その他団体交渉を会社に有利に進めるためのアドバイスを得ることができます。弁護士法人ALGには、人事労務に強い弁護士が揃っております。団体交渉でお悩みの際は、ぜひ弊所までご相談ください。

執筆弁護士

弁護士 奈良 亜希乃
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士奈良 亜希乃(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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