パワハラ加害者への対応|処分の判断基準や処分なしとなるケースを解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

パワハラが発生したとき、企業は「加害者を処分するべきか」という判断を迫られます。
しかし、すべてのケースで懲戒処分が適切とは限らず、状況によっては、注意や指導による改善が望ましい場合もあります。

対応を誤ると労働トラブルにつながるため、事実関係を正確に把握したうえで、ケースに応じた対応を行うことが大切です。

この記事では、パワハラ加害者への対応方法や処分の判断基準、処分なしとなるケースなどについて解説します。

パワハラ加害者に対して企業はどう対応すべき?

パワハラが発覚した場合、企業は被害者の保護はもちろん、加害者に対しても適切に対応する必要があります。

まず重要なのは、被害者や加害者、関係者への聞き取りを行い、事実関係を確認することです。一方の主張だけで判断せず、メールや録音データなどの客観的な証拠をもとに、パワハラの有無を判断することが大切です。

調査の結果、パワハラが認められた場合には、注意や指導、配置転換、降格、懲戒処分などの措置を検討します。また、同様の問題を繰り返さないために、加害者にハラスメント研修を行うことも必要です。企業がパワハラへの対応を怠ると、安全配慮義務違反を問われるリスクがあるため、適切に対応しましょう。

パワハラ加害者にはどのような処分ができる?

パワハラが認められた場合、企業は加害者に対して人事上の降格、懲戒処分、解雇などの処分を行うことができます。懲戒処分には、軽いものから順に戒告や譴責、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇などがあります。

もっとも、パワハラがあったからといって、直ちに重い処分を科せるわけではありません。
特に懲戒処分を行うためには、就業規則にパワハラを懲戒事由として定めておく必要があります。

また、処分の内容も、パワハラの内容や被害の程度に照らして相当でなければ、無効と判断される可能性があります。
まずは事実関係を調査したうえで、軽い処分から段階的に対応することが大切です。

懲戒処分を行うときの注意点について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

懲戒処分を選択する際の判断基準

パワハラの内容が悪質なケースでは、加害者への懲戒処分を検討する必要があります。処分の内容は、パワハラの内容、発生頻度や期間、被害の深刻さ、反省状況、過去の懲戒歴などを総合的に踏まえて判断します。

例えば、からかいや無視など比較的軽いパワハラであれば、注意や指導、戒告、譴責などを行うのが一般的です。一方、注意後も改善が見られない場合や、執拗な叱責によって精神疾患を発症させたような場合は、減給や出勤停止、降格などが検討されます。さらに、暴行や傷害、脅迫など犯罪にあたる行為や、懲戒処分後もパワハラを繰り返すケースでは、諭旨解雇や懲戒解雇が選択されることもあります。

行為に比べて重すぎる処分は無効となるおそれがあるため、慎重に選択しましょう。

パワハラ加害者の配置転換は認められる?

パワハラ加害者を別の部署へ異動させる配置転換は、基本的に認められています。被害者と加害者を引き離すことで、被害の拡大や再発を防ぐ効果が期待できるためです。

ただし、会社が自由に配置転換を命じられるわけではありません。例えば、職種や勤務地が限定された雇用契約を結んでいる場合は、配置転換命令を出しても加害者は拒否することができます。

また、配置転換の必要性に比べて、加害者が受ける不利益が大きすぎる場合は、人事権の濫用として無効と判断される可能性があります。特に仕事のない部署への異動など、制裁目的と受け取られる配置転換は避けるべきです。パワハラの内容や被害の程度、加害者への影響を踏まえ、適切な配置転換を行うことが必要です。

配置転換が違法と判断される基準について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

パワハラの加害者を懲戒処分なしとすることは可能?

パワハラが認定された場合でも、必ず懲戒処分を行わなければならないわけではありません。
パワハラの程度が軽い場合は、懲戒処分は行わずに、他の方法で再発を防止する方が望ましいと判断されるケースもあります。

例えば、厳重注意やパワハラ防止研修の受講、被害者への謝罪、二度とパワハラを行わない旨の誓約書提出などにとどめることも可能です。

懲戒処分なしとなるケース

パワハラ加害者に対する対応として、懲戒処分以外の方法を選択するケースもあります。
例えば、初めてのパワハラで悪質性が低く、加害者も真摯に反省している場合は、厳重注意や指導にとどめることがあります。

また、加害者が速やかに謝罪して、当事者間の関係が改善した場合も同様です。さらに、上司は指導のつもりであったものの、その伝え方によって部下が精神的な負担を感じて問題化するケースも多いです。

このような場合で、行為の悪質性が低いと判断されれば、パワハラ防止研修の受講などによって改善を図ることもあります。

懲戒処分なしとする場合の注意点

パワハラ加害者に懲戒処分を行わない場合は、その判断に合理的な理由があることを説明できるようにしておく必要があります。理由が曖昧だと、被害者や他の従業員から「会社が加害者をかばっている」と受け取られ、不信感を招くおそれがあるためです。

また、懲戒処分を見送る場合でも、厳重注意やパワハラ防止研修の受講、誓約書の提出などの対応は欠かせません。さらに、被害者へのフォローを継続するとともに、加害者の改善状況を定期的に確認することも求められます。

何の対策も講じなければ、パワハラが再発するリスクがあるため注意しましょう。

パワハラ加害者を解雇することはできる?

加害者を解雇することは可能ですが、パワハラがあったという理由だけで直ちに解雇できるわけではありません。解雇が認められるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが必要です(労働契約法16条)。

例えば、暴行や脅迫などパワハラの悪質性が高い場合や、注意・指導、配置転換、懲戒処分を行っても改善が見られない場合は、解雇が認められる可能性が高くなります。また、解雇を行うには、録音やメールなどの証拠によってパワハラの事実を証明できることが求められます。さらに、懲戒解雇の場合は、就業規則にパワハラを懲戒解雇事由として定めていることが必要です。

安易に解雇すると不当解雇となるおそれがあるため、慎重に解雇の必要性を検討しましょう。

懲戒解雇の要件や手続きの進め方について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

パワハラを理由とした解雇の裁判例

事件の概要(平成27年(ワ)第27767号 東京地方裁判所 平成28年11月16日判決)

【平成27年(ワ)第27767号 東京地方裁判所 平成28年11月16日判決】
Y社の部長代行だった従業員Xは、複数の部下に「お前はアホか」「いつでも辞めさせられる」「お前は生き方が間違っている」「よく休日に子供と遊んでいられるな」などの暴言を繰り返していました。

また、休日や深夜にもLINEで連絡し、返信を求めるなどの行為を続けた結果、部下の一人が適応障害を発症して休職する事態となりました。Y社はXに厳重注意したものの、改善しなかったため、懲戒解雇処分としました。しかし、Xは業務上必要な指導であり、懲戒解雇は重すぎると主張し提訴しました。

裁判所の判断

裁判所は、「アホ」「クビ」などの暴言や、部下の生き方や私生活にまで踏み込んだ非難、休日のLINE返信の強要は、部下の人格や尊厳を傷つけるパワハラに当たると判断しました。また、これらの行為によって部下が休職するなど、被害も重大であると指摘しています。

さらに、Xは過去にパワハラを理由に厳重注意を受けていたにもかかわらず、同様の行為を繰り返し、自らの問題を認めず反省の姿勢も示していませんでした。そのため、裁判所は、懲戒解雇はやむを得ず有効であると判断しました。

ポイント・解説

この裁判例のポイントは、パワハラ加害者の解雇が認められるかどうかは、パワハラの悪質性だけでなく、会社の対応にも左右されることを示した点にあります。

本件では、会社は加害者に厳重注意を行いましたが、その後も同様のパワハラが繰り返され、反省も見られませんでした。そのため、裁判所は解雇以外の対応は難しかったと判断しています。

企業としては、いきなり解雇に踏み切るのではなく、注意・指導、配置転換、懲戒処分などを段階的に行い、改善の機会を与えることが重要です。

パワハラ加害者への対応で企業が注意すべきポイント

パワハラ加害者への対応を誤ると、被害者の負担が大きくなるだけでなく、企業が安全配慮義務違反として責任を問われるおそれがあります。また、加害者に対して懲戒処分や解雇を行う場合は、十分な証拠をそろえ、適切な手続きを踏まなければなりません。

そこで、パワハラ加害者への対応にあたって企業が押さえておきたい次のポイントを解説します。

  • ①十分な調査を実施する
  • ②客観的な証拠を確保する
  • ③就業規則の懲戒規定に処分内容を定めておく
  • ④加害者への適切なフォローを行う
  • ⑤報復行為や二次被害を防止する

十分な調査を実施する

パワハラが疑われる場合は、まず事実関係を正確に把握することが重要です。十分な調査を行わないまま懲戒処分や解雇をすると、後にその処分が無効と判断されるおそれがあります。

被害者と加害者の双方から事情を聴くだけでなく、同僚や上司など関係者へのヒアリングも行いましょう。問題となった発言や行為が実際にあったのか、そのような言動に至った経緯は何か、加害者と被害者の関係性はどうだったのかといった点について詳しく確認する必要があります。

一方の主張だけをうのみにして判断するのではなく、証言や証拠を突き合わせながら事実関係を整理し、パワハラに当たるかどうかを見極めましょう。

パワハラ加害者への対応や調査方法については、以下のページで詳しく解説しています。

客観的な証拠を確保する

パワハラ加害者に適切な処分を行うためには、客観的な証拠を確保することが欠かせません。被害者と加害者の主張が食い違うケースは少なくありませんが、証拠があれば事実関係を把握しやすくなります。

証拠としては、録音・録画データ、メールやチャットの履歴、被害の状況を記録したメモや日記、医師の診断書、第三者の証言などが考えられます。企業は、こうした資料を幅広く収集し、内容を総合的に検討したうえで、パワハラの有無を判断することが必要です。

十分な証拠を確保しておくことは、後に処分の有効性を争われたときに備えるうえでも大切です。

就業規則の懲戒規定に処分内容を定めておく

パワハラが発生した場合に適切な懲戒処分を行うためには、あらかじめ就業規則を整備しておくことが重要です。就業規則には、パワハラを禁止する旨や具体的な禁止行為に加え、減給や降格、懲戒解雇などの処分内容を明確に定めておかなければなりません。

これらの規定が不十分だと、処分を行っても後に無効と判断されるおそれがあります。また、就業規則にパワハラのルールを定めることは、「パワハラを許さない」という企業の姿勢を従業員へ示すことにもつながります。

なお、就業規則は作成するだけでなく、研修などを行い従業員に内容を理解してもらうことも大切です。

加害者への適切なフォローを行う

パワハラ加害者への対応は、処分をして終わりではありません。再発を防ぐためにも、加害者が自らの問題行為を理解し、行動を改善できるようフォローすることが求められます。

例えば、上司による指導やハラスメント研修の受講、必要に応じてカウンセリングの実施などが考えられます。また、処分後も定期的に面談を行い、部下との接し方や指導方法に改善が見られるかを確認しましょう。

加害者を責め立てたり、孤立させたりせず、改善に向けた継続的なフォローを行うことが大切です。

報復行為や二次被害を防止する

パワハラへの対応では、被害者を守るために、報復行為や二次被害(セカンドハラスメント)を防ぐことが大切です。被害者が勇気を出して相談しても、その後に嫌がらせや不利益な扱いを受ければ、さらに精神的な負担を抱えることになります。

そのため、企業は加害者に対し、被害者への報復を禁止することや、違反した場合は処分の対象となることを明確に伝えなければなりません。また、「大げさだ」「あなたにも責任があったのでは」など被害者を軽視する発言や、職場での詮索による二次被害が生じないよう、管理職や従業員への教育も徹底する必要があります。

よくある質問

パワハラ加害者の言い分はどの程度考慮すべきですか?

加害者の言い分も十分に確認することが必要です。一方的な判断は事実誤認や不公平な処分につながるおそれがあるためです。
ただし、加害者の主張をうのみにせず、被害者や関係者の証言、証拠と照らし合わせながら、中立的な立場で事実の認定を行いましょう。

パワハラの証拠がない場合はどう対応すべきですか?

パワハラの証拠がない場合でも、直ちに「事実なし」と判断するべきではありません。
当事者双方へのヒアリングや関係者の証言をもとに事実関係を確認し、供述内容の一貫性や客観的事情との整合性を慎重に検討したうえで、パワハラに当たるか判断しましょう。

パワハラ加害者を自宅待機にできますか?

はい、パワハラ加害者を自宅待機させることは可能です。
被害者の安全確保や事実調査、処分の検討を行うために、会社が業務命令として一時的な自宅待機を命じることは少なくありません。ただし、基本的に自宅待機期間中の給与は支払う必要があります。

従業員がパワハラを否定している場合はどうすればよいですか?

従業員がパワハラの事実を否定しているからといって、そこで調査を終えるべきではありません。当事者双方への聞き取りに加え、メール・チャット履歴、録音データ、第三者の証言などを確認し、客観的な事実をもとにパワハラの有無を判断することが必要です。

パワハラ加害者にカウンセリングを受けさせることはできますか?

はい、加害者にカウンセリングを受けさせることは可能です。
加害者が自身の言動を振り返り、パワハラに至った原因や改善方法を理解する機会となります。

ただし、効果は本人の意欲に左右されるため、企業による継続的な指導や職場環境の改善も求められます。

パワハラ加害者が逆恨みしている場合、企業はどのように対応すべきですか?

報復のおそれがある場合は、被害者の安全確保を最優先に対応することが重要です。加害者に対して被害者への連絡や接触を禁止し、違反した場合は処分の対象となることを伝えましょう。
配置転換や在宅勤務などを活用して双方を離すという方法もあります。

パワハラ加害者がうつ病などのメンタル不調を抱えている場合でも処分できますか?

加害者がメンタル不調を抱えていても、懲戒処分などを行える可能性があります。メンタル不調があることだけを理由に責任が免除されるわけではありません。
ただし、精神状態とパワハラとの関係や、本人の責任能力を調査し、適切な処分を下す必要があります。

パワハラ加害者が管理職の場合、どのように対応すべきですか?

管理職であっても特別扱いせず、厳正に調査し対応することが必要です。
管理職のパワハラは職場への影響が大きく、放置すると会社全体の信用低下につながります。必要に応じて弁護士などの専門家を交えて調査し、降格や懲戒処分など適切に対応しましょう。

パワハラ加害者との面談ではどのような点に注意すべきですか?

面談では先入観を持たず、事実を正確に確認することが重要です。「いつ・どこで・誰に・どのような言動をしたのか」を具体的に聞き取り、内容は記録に残しましょう。公平な調査のため、人事部門など中立的な立場の担当者が面談を行うことが望ましいです。

パワハラ加害者を懲戒解雇する際の注意点はありますか?

懲戒解雇は最も重い処分であるため、慎重な判断が必要です。事実調査や証拠収集を行い、就業規則に懲戒解雇の根拠があるかを確認しましょう。
また、本人の弁明も聞き、パワハラの悪質性や被害の大きさなどを踏まえ、解雇が妥当かを判断することが重要です。

パワハラの加害者への対応でお困りなら弁護士法人ALGにご相談ください

パワハラを放置すると、被害者だけでなく周囲の従業員の信頼も失われ、「この会社は従業員を守ってくれない」という不信感が広がるおそれがあります。その結果、モチベーションが低下し、生産性の低下や退職につながることも少なくありません。そのため、企業にはパワハラ加害者に対して、適切かつ迅速に対応することが求められます。

弁護士法人ALGでは、多くの企業の労働問題に対応してきた経験を活かし、パワハラ事案ごとに最適な対応方法をご提案することが可能です。社内調査や懲戒処分の検討、解雇の可否判断、就業規則の整備など、企業をトータルでサポートいたします。パワハラ加害者への対応にお悩みの際は、弁護士法人ALGへご相談ください。

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執筆弁護士

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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