残業代請求を和解で解決するには?注意点や和解金の相場など

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

従業員から未払い残業代を請求された場合、まず請求内容を確認し、対応を検討することが重要です。また、裁判ではなく「和解」による解決を目指すのもおすすめです。和解は当事者の話し合いで解決する方法なので、トラブルを再燃させない和解をすることが重要です。

ただし、和解後のトラブルを防ぐため、和解の方法や合意書の作成は適切に行う必要があります。

本記事では、残業代請求を和解で解決するメリット、和解を目指す場合の注意点、和解金の相場などについて詳しく解説していきます。

残業代請求された場合は和解による解決を目指すべき

従業員から未払い残業代を請求された場合、当事者同士の「和解」で解決するケースが多いです。
ただし、残業代未払いは労働基準法違反であり、同法24条の「賃金支払いの5原則」にも抵触する重大な行為です。そのため、一度和解が成立しても、後々和解の効力をめぐってトラブルになることもあります。

企業のリスクを下げるには、従業員と適切な方法で話し合い、和解した内容を書面に残すことが重要です。
和解の定義や効力について、次項から詳しくみていきましょう。

また、従業員から残業代請求された場合の対応は、以下のページでも詳しく解説しています。

和解の効力

和解には以下の2種類があり、それぞれ定義が異なります。

【私法上の和解】
当事者が譲歩し合い、争いを終えると約束することです。残業代請求の場合、従業員が賃金債権(残業代の請求権)を放棄する代わりに、企業が一定の和解金を支払う方法が一般的です。

【裁判上の和解】
裁判所が関与して和解する方法です。
例えば、未払い残業代について裁判で争う場合、裁判所から双方の主張を踏まえた“和解案”が提示され、当事者が合意することで和解が成立します。

なお、和解成立後に新たな事実が判明しても、一度成立した和解を覆すことはできないのが基本です(民法696条「和解の確定効」)。

和解が成立しなかったらどうなる?

交渉で和解が成立しなかった場合、労働審判や裁判に発展する可能性が高いです。また、裁判上の和解も不成立となった場合、最終的には裁判所が下す「審判」や「判決」に従うことになります。

審判や判決には、相手と交渉しなくても終局的な解決を目指せるというメリットがありますが、解決までに多大な時間や労力、費用がかかるのがデメリットです。
また、裁判が長引くと他の従業員の不安を招いたり、企業イメージが悪くなったりするリスクもあります。

この点、交渉の段階で和解が成立すれば、事業主の負担を大きく減らすことができます。また、お互いに譲歩して解決するため、比較的円満な解決が望めるでしょう。

残業代請求について和解で解決する場合の注意点

従業員から未払い残業代を請求された場合、企業は以下の点に注意が必要です。

  • 残業代請求を無視してはいけない
  • 和解合意書を作成する
  • 自由な意思による債権放棄を裏付ける証拠を残す
  • 「和解金」として支払う

以下でそれぞれ具体的に解説していきます。

残業代請求を無視してはいけない

残業代請求では、従業員(元従業員)や弁護士から「内容証明」が送られてくるケースが多いです。

内容証明を無視すると、従業員から労働基準監督署に通報されたり、裁判を起こされたりするおそれがあるため、まずは速やかに返答することが重要です。例えば、「調査に時間を要するため、〇月〇日まで回答をお待ちください」などと返答するのが一般的です。

また、残業代請求を無視した事実は裁判所に悪い印象を与え、企業に不利な結果となるリスクもあるため注意しましょう。

もっとも、すぐに請求額全額を支払う必要はありませんが、まずは真摯に対応する姿勢を示すことがポイントです。

和解合意書を作成する

話し合いにより一定の支払いをすることが決まった場合、金銭を支払う前に「和解合意書」を作成しましょう。合意書には、支払う金額や清算条項、守秘義務条項などを記載します。

和解合意書のメリットは、争いの再燃を防ぐことができるという点です。例えば、清算条項を設けておくと、後から追加で残業代を請求されたり、紛争を蒸し返されるリスクを防止できます。
また、きちんと書面化することで言った言わないのトラブルも起こりにくくなります。

さらに、守秘義務条項を定めないと、従業員が紛争について口外し、他の従業員からも残業代請求されるという事態が起こり得ます。そのため、必要な項目は漏れなく記載するようにしましょう。

自由な意思による債権放棄を裏付ける証拠を残す

残業代などの賃金債権の放棄は、従業員の自由な意思に基づいて行われる必要があります。自由意思が認められない場合、和解が無効になる可能性があるため注意が必要です。
債権放棄が従業員の自由な意思に基づくものだと証明するには、

  • 交渉はメールや文書で行い、証拠を残す
  • 口頭で交渉する場合、やり取りを録音する
  • お互いに譲歩したことを示すため、和解合意書には従業員の主張を盛り込んだ条項も設ける
  • 従業員に十分検討する時間を与える

などの対策が効果的です。

「和解金」として支払う

従業員に一定の金銭を支払う場合、名目は「和解金」とするのがポイントです。
和解金は紛争を解決するために必要なコストという意味合いなので、残業代未払いという会社の非を認めるものではありません。そのため、会社が法令順守していたことを示すために有効です。

一方、「未払い残業代」の名目で支ってしまうと、未払いの事実を認めることになるため、他の従業員からも請求を受けるリスクが高まります。また、残業代未払いは社外にも悪い印象を与えるため、売上や採用活動などに支障をきたすおそれもあります。

「残業代未払いは認めないが、裁判で勝てるほどの証拠がない」という場合は、一定の和解金を支払って解決するのも一つの方法です。

残業代請求された場合の和解金の相場や決め方は?

残業代請求の和解金に相場はありません。というのも、和解金は当事者が譲歩し合って決めるため、交渉の経緯によって金額も変わるためです。
和解金額の決定では、以下のような要素を考慮するのが一般的です。

  • 未払い残業代の金額
  • 遅延損害金
  • 付加金
  • 証拠の有無
  • 社会保険料、税金などの源泉徴収
  • 和解金の支払い方法
  • 弁護士依頼の有無

また、労働審判の解決金相場も参考になります。労働審判では、労働審判委員会が当事者の間に入り、和解で解決する(解決金を支払う)ケースが多いです。そのため、解決金の相場をもとに和解金額を決めるのもひとつの方法です。

また、過去の裁判例を参考にする方法もあります。次項でみてみましょう。

未払い残業代請求に関する裁判例

【平27(ワ)157号 神戸地方裁判所姫路支部 平成28年9月29日判決】

〈事件の概要〉
菓子販売会社Yで運送業務を担っていたXが、退職後にYへ未払い残業代を請求した事案です。Xはタイムカードの記録を証拠に、早出残業などに対する残業代を支払うよう主張しました。

〈裁判所の判断〉
裁判所は、「タイムカードの記録があるからといって、直ちにその時間が労働時間と推定されるものではない」としました。そのうえで、Xが早出に関する業務日報を一切提出していないことや、早出出勤の必要性が不明確であることから、「Xが主張する労働時間は過大である」と判断しています。

その結果、Yが支払うべき割増賃金は、Xの請求額(約412万円)の5割にあたる約206万円が相当であると判断しました。

未払い残業代請求を和解によって解決したい場合は労務問題に強い弁護士にご相談ください

和解は一見円満な解決方法ですが、和解の仕方や合意書の内容を誤ると後々トラブルになる可能性があります。また、和解金には相場がないため、従業員と金額の折り合いがつかないこともあるでしょう。

弁護士であれば、未払い残業代を請求された場合の対応や交渉の進め方、和解合意書の作成方法など幅広くサポートできます。また、残業代請求は初期対応も重要なので、できるだけ早めに依頼することをおすすめします。

弁護士法人ALGは、労務問題に特化した弁護士が多数在籍しています。残業代請求事案についても多数の実績がありますので、お悩みの方はぜひお気軽にご相談ください。

ちょこっと人事労務

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料

企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

0120-630-807

受付時間:平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

0120-630-807

平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)

執筆弁護士

弁護士法人ALG&Associates
弁護士法人ALG&Associates

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます