コピーライターの労働者性が争われた事例~東京地裁令和2年3月25日判決~ニューズレター 2021.10.vol.118

Ⅰ 事案の概要

Xは、平成21年1月頃よりYにおいてコピーライティング業務を受託していました。その後、平成22年3月頃、同年4月からの契約を、月額43万円の固定報酬とする旨の契約を締結しました(以下、「本件契約」といいます。)。

Xは平成30年1月頃にY代表者に対し、社会保険及び厚生年金に加入したいとの要望を伝えたところ、Y代表者は、本件契約が業務委託契約であると主張し、拒否しました。その後、Y代表者は同年6月20日、Xに対し、「業務委託契約終了のお知らせ」との書面を交付し、XとYの業務委託契約を、同月30日をもって終了する旨を通知しました。

そこでXは、Yに対し、本件契約が雇用契約に該当し、Yの意思表示は解雇に該当すること、同意思表示は客観的合理的理由がなく無効であることを主張し、雇用契約上の権利を有する地位の確認等を求める本件訴訟を提起しました。

Yは、本件契約が業務委託契約に該当するとして、Xの労働者性を争う旨主張しました。

Ⅱ 争点

本件訴訟では、Xが労働者(労働基準法第9条及び労働契約法第2条第1項)に該当するか否かが主として争われました。

Ⅲ 判決のポイント

1 判断基準

裁判所は、上記の争点につき、「労働者とは、使用者との使用従属関係の下に労務を提供し、その対価として使用者から賃金の支払を受ける者をいうと解されるから、労働者に当たるか否かは、雇用、請負といった法形式のいかんにかかわらず、その実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価するにふさわしい者であるかどうかによって判断すべきである。」との基準を示し、その判断要素として、①指揮監督下の労働であるか否か(具体的な仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容、時間的場所的拘束性の有無・程度、業務提供の代替性の有無)、②報酬の労務対償性、③事業者性の有無(業務用機材等機械・器具の負担関係、専属性の程度)、④その他諸般の事情があるとしました。

2 具体的事実に基づく判断

以下、本件での重要な部分について見ていきましょう。

(1) 指揮監督下の労働であるかについて

ア 具体的な仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由の有無

Xは、コピーライティング業務の他、顧客との窓口業務も担当し、Xの担当顧客から依頼があれば基本的に全ての業務を受注していました。裁判所は、これらの依頼がYに対するものであることからすれば、Xが窓口となる場合にこれを拒否する余地はなかったと推認しました。また、本件契約においては業務量を定めることなく月額43万円の固定報酬とされていたことからすれば、Xが業務の依頼を拒否することは事実上困難であると推認しました。

以上からすれば、本件契約において、Xには「具体的な仕事の依頼、指示について諾否の自由はなかった」と判断しました。


イ 業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容について

裁判所は「コピーライティング業務自体についてはその業務の性質上、被告代表者や被告の社員から具体的な指示はあまりされていなかったものの、顧客のディレクターの指示には従って業務を進める必要があり、被告においても、原告の業務の進捗状況や進行予定については、毎月2回の定例会議で確認し、原告に対しても他の社員とともに前月の売上げの状況を踏まえた訓示がなされ、少なくとも既存の顧客との関係では売上げを増やすための努力を求められていたと推認」され、Yの指示については「コピーライティング業務を委託する場合に通常注文者が行う程度の指示等に留まるものと評価することは困難である」と判断しました。


ウ 時間的場所的拘束性の有無・程度について

本件では、Xは週5日、基本的に平日はY事務所に出勤し、他の社員と同様に8時間以上稼働していました。Xが午前12時ころに出社することが多かったことについては、Yにおいて、前日の退社時間が遅ければ出社が遅くなること自体許容されていたこと、他の社員も90分程度までの遅刻であれば有給休暇申請を不要としていたことから、裁判所は、「原告は、被告の他の社員とほぼ同様の勤務時間、勤務形態で稼働していた」と判断しました。

さらに、平日ほぼ毎日出社することを前提に定期代の支給がなされていたこと、原告は外部のコピーライターと異なり窓口業務も対応していたこと、スケジュールアプリケーションへ登録していたこと、少なくとも一時期はタイムカードの打刻を指示されていたこと、定例会議への出席を求められていたことからも、「業務に関し、時間的場所的な拘束性が相当程度あった」と判断しました。

(2) 報酬の労務対償性について

本件契約締結時に業務量が定められていないこと、Xが窓口業務をも担っていたこと、Xが基本的に週5日、1日8時間以上業務に従事していたことから、「原告に対する固定報酬は、原告が一定時間労務を提供していることへの対価」であると判断しました。

(3) その他諸般の事情について

Yが本件契約締結後、Xに対し「給与明細」を発行し源泉徴収を行っていたこと、固定報酬の支払いが遅延することにつき「給料」と呼称していたことからすれば、「被告が原告を他の社員と同様に労働者として認識していたことを推認」させるとしました。その他「入社」「在職」と記載ある在職証明書にYが押印していることも、Xの労働者性を推認させるとしました。

3 結論

裁判所は以上を踏まえ、Xにおいて具体的な仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由がなく、Yの業務上の指揮監督に従って時間的場所的拘束性が相当程度あり、業務提供の代替性がないことからして、Yの指揮監督の下で労働していたと判断しました。そのうえで固定報酬の実質が労務提供の対価であることなどを踏まえ、原告が「労働者」に当たると判断しました。

Ⅳ 本事例からみる実務における留意事項

本件で裁判所が示した労働者性の判断基準自体は、従来の裁判例においても採用されているものであり、その判断要素も大きく異なるところはありません。

近年は特に働き方が多様化しており、一つ一つの事実を、経緯も含めて丁寧に裁判所が判断してその労働者性について判断しています。本裁判例は、コピーライターという専門的な業務に従事している人物でも労働者に該当しうることを示したものです。業務従事者が専門職であることのみをもって、労働者に該当しないとの認識は時に誤りになることを示している点で、重要な意味合いを有する裁判例です。

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