配転命令の有効性と差額賃金の支払いについて~大阪高裁平成25年4月25日判決~ニューズレター 2014.2.vol.17

Ⅰ.事案の概要

本件は、配置転換命令(配転命令)の有効性が争われたケースです。

Y社の本社営業部にて正社員として勤務していたXは、入社4年目に営業課長に就任して以降、約7年間営業課長として勤務していました。その後、Y社はXの営業成績不振を理由にXに退職勧奨を行い、Xの課長職を解き、倉庫での勤務を命じました。Xの倉庫での主な業務内容は、取引先から取引先への荷物の運搬でした。この配転によって、Xの賃金は約半分に減りました。

Xは、Y社から出された配転命令について、権利の濫用であるため無効であると主張するとともに、差額賃金の請求をしました。

この点について裁判所は次のように判断しました。

Ⅱ.大阪高裁平成25年4月25日判決

裁判所は、「使用者の配転命令権は、無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されない」としたうえで、「業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機や目的をもってされたものであるときもしくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該配転命令は権利の濫用になるものではない」という一般論を示しました。そして、この基準に沿って次のように具体的な認定及び判断をしました。

(1) 業務上の必要性があるか否か

裁判では、Xの営業成績が配転命令までの直近三年度において最下位であったこと等が認定されましたが、Xが新規開拓営業を担当する唯一の営業部員であり、新規開拓営業は既存顧客を対象とする営業よりも利益を得るのが容易でないことなどから、Xについて「営業担当者としての適性を欠くと評価すべきものであったとは認められない」とされました。また、Xを倉庫業務に配転する必要性についても検討され、当該倉庫での業務は従前から従業員1名が担当しており、従業員2名で担当しなければならないほどの業務量はなかったことなどから、Y社がXを倉庫に配置する必要性は乏しかったと判断しました。

(2) 不当な動機及び目的の有無

次に裁判所は、Y社がXに対し突然退職を勧奨したことや、その後約2か月にわたり退職勧奨を繰り返したけれどもXがこれを拒否したために本件配転命令に及んだことを認定しました。そして、倉庫には2名の従業員を配置することが必要なほどの業務量はなく、Xが倉庫において行うべき業務はほとんど存在しないことや、本件配転命令がXの職種を総合職から運搬職に変更するものであって、賃金水準を大幅に低下させるものであること等が考慮されました。

その結果、本件配転命令は、Y社が退職勧奨を拒否したXに対する報復として、退職に追い込むため、又は大幅な賃金の減額を正当化するためになされたことが推認されるとして、不当な動機及び目的に基づくものであったことが認定されました。

(3) 通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無

Xの職種を総合職から運搬職に変更し、これに伴い賃金を2分の1以下へと大幅に減額した本件配転命令は、Xに対し、社会通念上、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとして、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があると認定しました。

(4) 結論

以上の検討過程を経て、裁判所は、本件配転命令を、Y社の配転命令権の濫用によるものとして、無効と判断しました。これに併せて、「配転命令や降格命令に伴う賃金の減額も無効というべき」と判断し、差額分の賃金の支払請求についても認めました。

Ⅲ.本判決から見る実務における留意事項

会社が配置転換をする権利については、就業規則等で定められている企業が多く、これを根拠として、会社は従業員に対して配転命令をすることができると考えられています。

もっとも会社の配転命令権も権利である以上、権利を濫用すれば無効となります(民法1条3項)。会社が配転命令権を濫用したか否かは、①配転をする業務上の必要性があるか否か、②業務上の必要性が存在するとしても(ア)不当な動機や目的をもってなされたものでないか、(イ)労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものでないか、といった観点からチェックされることになるというのが、昭和61年7月14日に出された最高裁の判例の立場ですのでご留意ください。ご紹介した裁判例もこの基準を参照したものということができます。

なお、前記最高裁の判例によれば、①業務上の必要性については、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的な運営に寄与する点が認められる限りは肯定されると考えられています。

②業務上の必要性がある場合には、(ア)不当な動機・目的、(イ)通常甘受すべき程度を著しく超える不利益について検討されることになりますが、これらについては、個々のケースにおいて具体的事情を総合考慮して決せられることになります。

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