割増賃金相当額を減額して手当を算出する賃金制度の適法性等(JPロジスティクス(旧トールエクスプレスジャパン)事件)~大阪高裁令和5年7月20日判決~ニューズレター2026.9.vol.177

Ⅰ 事案の概要

1 本事案は、貨物自動車運送事業等を営むJPロジスティクス株式会社(旧商号:トールエクスプレスジャパン株式会社、以下「Y社」)との間で労働契約を締結し、集配業務に従事していた労働者10名(以下「Xら」)が、Y社に対し、未払賃金等の支払いを求めて控訴した事件です。

一審においてXらの請求がいずれも棄却されたため、Xらがこれを不服として控訴し、高等裁判所で審理が行われました。

2 XらはY社において集配職として勤務していました。Y社における集配職の賃金体系は、「基準内賃金」と「基準外賃金」とで構成されていました(以下「本件賃金制度」)。

ア 基準内賃金:職務給、勤続年数手当、現業職地域手当、資格手当、能率手当、リーダー手当、独身手当、営業開発手当、配偶者手当
イ 基準外賃金:扶養手当、通勤手当、別居手当、時間外手当、宿日直手当、休暇手当、調整手当

このうち、基準外賃金の一部を構成する時間外手当は、「時間外手当A」「時間外手当B」「時間外手当C」(以下、これらを合わせて「本件各時間外手当」)の3つに分かれており、それぞれの計算式に従って算出されていました。

3 特に問題となったのは、基準内賃金の一部である「能率手当」の計算方法(以下「本件計算方法」)です。能率手当は、各集配職が従事した業務内容(配達・集荷の重量や枚数、軒数、走行距離、大型作業や持込作業など)に基づいて算出される「賃金対象額」を基礎としていました。

そして、その具体的な算出方法は以下の通り定められていました。

ウ 能率手当 = 賃金対象額 - 時間外手当A

この計算式から分かるように、能率手当は、算出された「賃金対象額」が「時間外手当A」を上回る場合にのみ、その差額が支給される仕組みとなっていました。もし時間外手当Aの金額が賃金対象額を上回る、あるいは同額である場合には、能率手当の支給額は0円となります。

Ⅱ 争点

本件の争点はいくつかありますが、本ニューズレターでは、以下の争点についてご紹介します。なお、Xらは、元来歩合給として支払うことが予定されている能率手当の一部につき名目を時間外手当Aに置き換えて支払うものであって、判別性の要件を満たしていないと主張していました。

争点① ある手当の支払いをもって割増賃金の支払いと認められるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と、労基法37条の定める割増賃金に当たる部分とが明確に区別できること(「判別性」の要件)が必要であるところ、本件においてこの判別性が認められるか

争点② タクシー会社において歩合給から残業代を差し引く仕組みを労基法37条違反と判示した最高裁判決(国際自動車事件第2次上告審判決)が指摘した問題点(残業代の置き換え)が本件でも生じているか

Ⅲ 判決のポイント

二審は、一審の判断をほぼそのまま維持し、Xらの控訴をいずれも棄却(Xら側の敗訴)とする判決を下しました。

1 能率手当の意義・性質

能率手当は、時間制賃金に対応する時間外手当A(60時間を超える労働時間に係る時間外手当を含まない。)の総額が、取り扱った荷物の重量、伝票枚数、客の軒数、走行距離等の集配業務の業務量に基づいて算出される賃金対象額を下回る場合は、集配先を回る経路や順序、荷物の積み込み方法等の具体的な業務遂行方法を工夫することで効率的に業務に従事した結果、より多くの追加業務の指示を受けたものとみて、質の高い労働(労働密度の高い労働)を提供したと評価して、これに対する対価として、本件計算方法に従った金額を支払うものと判断されました。

業務の遂行方法に一定の裁量が認められる集配職に対し、効率的な業務遂行についてのインセンティブ(動機付け)を与え、これによって業務の効率化を図ることを可能にするものであって、計算の際に用いる賃金対象額が実態に即していない等の特段の事情がない限り、本件計算方法には、一定の合理性があるとされています。

2 各争点に関する判断

(1) 争点①について

本件では、本件各時間外手当の算出方法が賃金規則等に明記されており、給料支払明細書にも「時間外手当A」や「能率手当」といった項目が明確に区分して記載され、従業員がいつでも閲覧可能でした。そのため、通常の労働時間の賃金に当たる部分と、労基法37条の定める割増賃金に当たる部分とが明確に区別できる(判別性を満たす)と認められました。

なお、Xらは、時間外手当Aの算定にあたって、基礎賃金に能率手当が組み込まれていないことを問題視しましたが、能率手当が、請負制賃金として一定の場合に支払われることに由来するものであることに加えて、能率手当が支払われる場合の時間外割増賃金は、能率手当を基礎賃金とした時間外手当Bが支給されることになっていたことなどを踏まえて、判別性の要件への影響を否定しました。

(2) 争点②について

裁判所は、国際自動車事件では歩合給そのもの(出来高払制によって定められた賃金)から割増賃金が差し引かれていたのに対し、本件における賃金対象額は、時間制賃金と請負制賃金を併用する賃金体系のもと、労働契約上必ず支払われると保障されているわけではない「その他の請負制によって定められた賃金」(請負制賃金)に該当するものであり、労働密度が時間外手当Aを上回った場合に支給したとしても不合理とはいえず、同最高裁判決が指摘した問題点(残業代の置き換え)は本件では生じていないと判示しました。

Ⅳ 本事例からみる実務における留意事項

1 固定給部分が最低賃金法を満たしていること

本件において会社側が勝訴できた理由の一つに、「能率手当が0円になったとしても、通常の時間制賃金(基本給や手当)および残業時間に応じて適法に計算された時間外手当Aが、何ら減額されることなく全額支払われている」という点があります。

実務における留意点として、まずはベースとなる固定給が最低賃金法に違反していないことが必要です。また、労基法27条が定める「出来高払制の保障給」との関係においても、仕事の有無や成果に関わらず、労働時間に応じた一定額(実務上は通常の賃金の6割以上が目安とされることが多いです。)が固定的賃金によって完全にカバーされている賃金体系を構築しておく必要があります。

2 就業規則(賃金規程)や給与明細への明記

固定残業代が有効に支払われているか否かでよく争いになるのが、「判別性」の要件です。本件では、手当の名称、具体的な計算式が賃金規則等に明記されており、それが従業員に周知されていました。さらに、実際の給料支払明細書において、通常の労働に対する基本給等と、労働時間に応じて算出された「時間外手当A」等の項目が完全に分かれて印字されていました。

実務においては、手当の具体的な計算式等を就業規則(賃金規程)に明記した上で、給与支払明細書でも支給項目を明確に区分して記載する必要があります。

3 「残業代の置き換え」と捉えられない手当の制度設計

過去の国際自動車事件などの敗訴例に共通するのは、「本来であれば通常の労働に対する賃金(歩合給)として全額支払うべき性質のものを、残業が発生した途端に残業代の名目に置き換えて支給している」と裁判所に評価された点です。

これに対し、本件が適法とされたのは、本件の能率手当が「売上や成果の一定割合をそのまま支給する歩合給」ではなく、「時間あたり通常期待される労働密度を超えて、効率的に質の高い労働を提供したことに対するプラスアルファの加算給(インセンティブ)」という性質を有していたためです。この性質等の認定には、労働組合との協議を経て導入されたといった経緯も考慮されています。

実務において、本件の能率手当と同様の仕組みを導入する際は、時間制賃金と請負制賃金の併用型賃金としつつ、請負制賃金の発生条件として時間制賃金の時間外手当を考慮するにとどめ、また、業務内容に裁量の余地があるなど労働密度向上の余地があることを前提として、業務効率化のためのインセンティブとして支給する必要があると考えられます。自社の業務の性質を踏まえて、賃金体系における工夫を検討することが重要でしょう。

ちょこっと人事労務

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・オンライン法律相談無料

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません。

0120-630-807

受付時間:平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

0120-630-807

平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。

執筆弁護士
検索ワードを入力してください

該当する記事179

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます