Ⅰ 事案の概要
本件は、Y社に長期間(約8年半)アルバイトとして勤務してきた Xが、Y社の方針で雇止めされたことに対し、雇止めの無効を主張して地位確認及び賃金請求、また、Xが加入した組合とY社との間での団体交渉等でのY社の発言が不法行為に該当するものとして慰謝料の請求をした事案です。
Xは、E大学大学院に在籍する大学院生で、Y社はコーヒー・軽食等の店舗内提供・テイクアウト販売を行う店舗を直接経営する株式会社です。
平成15年8月24日にXはY社との間で期間の定めのある労働契約を締結し、契約の更新を繰り返して平成19年3月27日まで勤務していました。その後、Xは平成20年7月7日にY社に再入社して以降も、Y社との間で期間の定めのある労働契約の更新を繰り返していましたが、平成25年6月15日にY社から雇止めされ、これを無効として上記訴訟を提起しました。
Ⅱ 東京地裁平成27年7月31日判決
(1)ここでは本件で雇止めの有効性の判断の中で争われた、
- ①XがY社との間の労働契約を更新してきた事実が労働契約法19条1号に該当するのか、
- ②Xの雇用契約の期待に合理的な理由があると言えるかどうか(労働契約法19条2号該当性)について以下に取り上げます。
(2)争点① 労働契約法19条1号該当性
ア:Xの主張
Xは、更新期間合計約8年6か月、33回に及ぶこと、自分が時間帯責任者として店長と全く変わらない接客販売業務を行ってきたこと、契約更新手続が形骸化していたこと等を主張して、同法19条1項に該当すると主張しました。
イ:裁判所の判断
これに対し裁判所はまず、契約更新の手続きとして、Y社ではアルバイトの評価期間を設けアルバイトの管理者である店長に対し、所定のチェックリストを用いて各アルバイトの勤務状況を評価することを指示し、店長がアルバイトと直接面談を行い契約書を交付し、その作成を指示し契約更新を行っていることを認定しました。そして「アルバイトの有期労働契約の契約更新手続きが形骸化した事実はなく、XY者間の労働契約は期間満了の都度更新されてきたものと認められることから、本件雇止めを、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視することはできない。」と判示し、労働契約法19条1号該当性を否定しました。
(3)争点② 労働契約法19条2号該当性
ア:Xの主張
Xは、前記(1)の通り更新期間の長さ・更新回数の多さを主張し、加えて時間帯責任者として店長と全く変わらない業務を行ってきていて、この業務は被告にとって必要不可欠な店舗運営の根幹にかかわる業務であったと主張しました。また、更新手続きについて、個別面談等は行われず、勤務態度に問題が無ければ当然に契約更新されてきたと主張しました。
イ:裁判所の判断
裁判所はXの従事してきた業務が店長と全く変わらないとの主張に対し、Y社の店長の権限について、売上管理、原価管理、労務管理、部下育成、人材開発の内容を検討し(店長の権限は)「時間帯責任者を含むアルバイトの業務とは質的に異なるものと認められ、原告の従事してきた業務につき被告の店長の業務と同等の評価をすることは出来ない」としました。
契約更新手続については、前記(1)同様の事実認定をし、「契約更新手続きが形骸化したとは認められない」と判断しました。
さらに契約更新の実態として、「Xの月ごとの勤務状況は月5日程度」であるがY社の「アルバイトの採用条件として最低でも週2日程度、1回あたり4時間以上の勤務希望者から採用することが認められ」「更新に際しても同じ条件が必要とされる」「一般的には店長から雇止めされるアルバイトは少ないものの、Xについては店長から例外的に雇止めされるべき問題のあるアルバイトと評価されていたことになる」と、Xの勤務頻度の低さをも指摘したうえで、「Xの雇用継続の期待は単なる主観的な期待にとどまり同期待に合理的な理由があるとは言えないことから労働契約法19条2号にも該当しない」と判示しました。
(4)雇止めの適法性について
本判決は、予備的に雇止め制限法理が適用された場合における雇止めの適法性についても検討し、以下の通り適法と判示しました。
まず本判決は「Y社内においては、店長は2年ごとに配置転換されるが、配置転換された店長が出す指示に対し従前から勤務しているアルバイトが反発し亀裂が生じる事例が多々あった」こと、「営業部門としては店長の指示をアルバイトに徹底させるなどの方策は取ったが事態の解決には至らなかった」なかで、アルバイトについて契約期間の上限を4年とする本件更新制限が導入された経緯を確認しました。
そして、「本件更新制限の導入はY社内において時間をかけて検討されてきたことが認められる」、本件更新制限の合理性、相当性について「前提事実として店長とアルバイトの亀裂があり、店長とアルバイトとの指揮命令関係に支障をきたしている事実が頻発しているのであれば、企業として何らかの対策をとらざるを得ない」として、「Y社において本件更新制限を導入することにやむを得ない事情があり、かつ、Xの勤務頻度の低さにも問題があるのであるから、本件雇止めは客観的に合理的な理由があり社会通念上も相当であると認められる。」と判示しました。
Ⅲ 本裁判例から見る実務における留意事項
本判決では、Xは反復更新の期間や回数が非常に長期に及んでいるものの労働密度の点では月あたりの勤務日数が5日程度で労働時間数も少なかったこと、また、雇止めの背景事情として裁判所の認定によると解雇規制の脱法等の目的ではなく、長期勤続しているアルバイトと店長との亀裂が全社的に問題となっている中で制度的に更新回数に上限を設けたという点が指摘されています。
更新回数の点で、最判昭和61年12月4日の判例では、2か月の雇用を5回更新したケースで労働者の雇用継続の期待の合理性自体肯定されています。本判決で労働契約法19条2号該当性を否定した点については、本件のXの勤務頻度の低さが重視されたと思われますので、更新期間が長く更新回数が多い場合はなお同法19条2号に該当する可能性があることに御留意ください。
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