期間雇用の塾講師につき、年齢を理由になされた雇止めが無効とされた事例~東京地裁平成27年6月30日判決~ニューズレター 2016.4.vol.52

Ⅰ 事案の概要

Xは、平成4年、学習塾等を経営するY社に採用され、平成5年以降、毎年3月1日付で、1年単位で雇用契約を更新していました。Xは、Y社の生徒向けの主力商品である集団指導形態のクラスの授業を担当していました。Xの契約更新回数は20回に及び、20年以上にわたり専任講師として勤務していました。なお、雇用契約の更新に際しては、教室長と面談し、契約内容に関する説明を受けた上で雇用契約書に署名捺印していました。具体的な説明内容は、給与待遇のことが主でした。

Y社は、平成15年3月1日、専任講師に係る就業規則を改定し、「50歳不更新制度」及び「特別嘱託専任講師制度」(以下、「特嘱制度」といいます。)を導入しました。前者は、専任講師の契約更新について、原則満50歳を最後とし、以降の契約更新は行わないというものです。後者は、前者の経過措置として、平成15年3月1日からの10年間、当該期間内に50歳に達した専任講師は、希望があれば、特別嘱託専任社員として雇用契約を締結するというものです。なお、Y社は、平成24年2月末に、この特嘱制度を廃止したとしています。

改定に先立ち、平成14年11月13日、Y社は、専任講師に対する説明会を実施し、前記50歳不更新制度及び特嘱制度を説明しました。説明会の資料には、前記各制度の記載の他に、「満60歳を超えた時点で、特別嘱託専任社員職を勇退していただく」や、「経過期間終了後の取り扱いについては、『予備校○○』等、Y社グループの業務があります。双方合意すれば移っていただくことになります。」等といった旨の記載がありました。

Y社は、50歳不更新制度に基づき、平成25年2月28日をもって、X(当時52歳)を雇止めしたため(以下、「本件雇止め」といいます。)、Xは、雇用契約上の地位の確認や給与の支払いを求めて提訴しました(なお、本件訴訟では、能力を理由とする別の労働者に対する雇止めの有効性も問題となりましたが、紙数の関係上、割愛します。)。

Ⅱ  東京地裁平成27年6月30日判決

(1)雇用継続に対する期待に合理性があるか否かについて

本判決は、期間の定めのある雇用契約であっても、雇用の継続に対する労働者の期待に合理性がある場合には、解雇権濫用法理が適用され、解雇権の濫用として解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しなかった時には、契約期間満了後における使用者と労働者との間の法律関係は、従前の雇用契約が更新された場合と同様になる旨判示しました。

その上で、Xは、雇用契約を20回更新し、その業務内容は、Y社の主力商品である集団指導形態のクラスの授業を受け持つという重大な点で継続性がある一方、更新手続は特に厳格なものではなく、Xが、平成25年2月28日の契約期間満了後も雇用継続を期待することには合理性がある旨判示しました。

また、Y社より、特嘱制度が10年間限定の経過措置であり、Xは、平成25年度以降契約の更新ができなくなることを認識していたから、雇用継続に対する期待に合理性はないと主張された点について、本判決は、説明会の資料内容等を踏まえると、10年間の経過により特嘱制度が廃止され、平成25年度以降特嘱としての契約が更新できなくなることまで伝えた内容であったとは認めがたく、説明会における説明は、専任としての雇用は更新されず雇止めとなるが、特嘱としての雇用は継続するし、それ以外にも様々な職種を設定して雇用の継続を図るという趣旨のものであり、Xもそのように認識していた旨判示し、Xの雇用継続に対する期待に合理性があるとしました。

(2)本件雇止めが解雇権濫用に当たるか否かについて

本判決は、Xの雇止めについて、50歳不更新制度を根幹として導入された特嘱制度の終了に伴う措置であるから、50歳不更新制度に合理性と社会的相当性が認められなければ、本件雇止めについても合理性と社会的相当性は認められない旨判示しました。

その上で、Y社は、50歳不更新制度を導入した理由について、50歳を超えた講師はジェネレーションギャップにより生徒との間で円滑なコミュニケーションを取ることが困難になり、体力の低下により一回の授業の中で多数の生徒全員を巻き込んだ授業をやり抜くことが困難になること等を主張したのに対し、本判決は、Y社が主張する事情が社会一般的に存在するとは認められず、一律に50歳をもって理想的な授業ができなくなると決めつけることはできないのであって、当該制度引いては本件雇止めにつき、合理性及び社会的相当性のいずれも認められないと判示しました。

(3)結論

以上より、本判決は、本件雇止めは解雇権濫用に該当し、解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しようとしなかったときに当たるものとして、XとY社の法律関係は、従前の雇用契約が更新された場合と同様になると判示しました。

Ⅲ 本事例から見る実務における留意事項

有期労働契約の雇止めに関する判例法理は、労働契約法19条によって立法化されました。本判決は、同条2号のカテゴリーに属するものであり、雇用継続(契約更新)に対する労働者の期待に合理性があるか否かの事実評価の一例を示したものと言えます。

本判決では、契約更新の手続が厳格ではなかったことや、説明会における資料の内容が雇用継続を図る趣旨のものであること等が指摘されています。更新手続や説明会資料の内容がどういった内容であれば、雇用継続に対する期待に合理性が認められないことになるかは、上記判示からは必ずしも明らかでありませんが、少なくとも、上記Ⅰの事情止まりでは、合理性を否定する事情としては足りないということになります。

なお、本件では、雇止め前最後の雇用契約書に、「※2012年度の更新が最後となります」との記載がありましたが、本判決は、正社員からアルバイトに至るまでほぼ同じ書式が用いられており、更新を最終とする理由の記載がないこと等から、この一文をもって平成25年2月末日以降の契約更新はしない旨をXに説明したとは認められないと判示しました。そのため、会社としては、かかる記載をすれば足りるという保証はなく、状況に応じて、対象社員に対する通達(書面)や口頭による説明等により、更新がないことを周知徹底させておく必要があると言えるでしょう。

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