通算雇用期間の上限を理由とする雇止めの適法性~高知地裁平成30年3月6日判決~ニューズレター 2019.2.vol.86

Ⅰ 事案の概要

原告は、被告との間で、平成25年7月1日に雇用期間を平成26年3月31日までとする契約職員として雇用契約を締結し、その後、2回にわたり契約(雇用期間は各1年)を更新しました。しかしながら、被告は、平成28年4月1日以降、契約を更新しませんでした(以下、「本件雇止め」と言います。)。そこで、原告は、労働契約法19条に基づき、契約が更新されたと主張して、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金等の支払いを求めました。

なお、被告が準拠する法人の就業規則には、「契約職員の雇用期間は、1会計年度内とする。ただし、3年を超えない範囲内において更新することができる」と規定されています。

本件の主たる争点は、本件雇止めについて、解雇権濫用法理を類推適用すべき場合か否か、すなわち19条1号・2号該当性が認められるかです。

Ⅱ  判決のポイント

※㋐~㋔については、執筆者が共通の着眼点に立つと判断したもの毎に分類したものです。

1 【1号該当性に関して】

(1) 期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っていると認められる「実質無期契約タイプ」該当性について、否定されました。判断過程は、以下のとおりです。

(2) ㋐被告が準拠する法人の就業規則には、通算雇用期間の上限が3年であることが明記されていること、㋑被告は、原告との契約更新時に、その都度、契約期間を明記した辞令書及び労働条件通知書を交付していたほか、少なくとも上司が原告と面談して契約の更新に関する意向確認を実施していたこと、㋒被告においては、平成23年4月1日以降、通算雇用期間の上限の3年を超えて雇用された契約職員は存在しなかったこと、これらの事情からすれば、被告において、契約職員の通算雇用期間の上限が3年であると明確に示され、これを超える雇用の継続はしないという厳格な運用がされており、通算雇用期間内の契約更新時にも、漫然と更新するのではなく、契約の更新に関する意向確認を行った上で、契約期間を定めた新たな雇用契約を締結し、採用の辞令を発するといった手続を履践していたものと認められる。

そうすると、被告による契約職員との契約更新の手続が形式的なものであるとか、形骸化していたなどとはいえず、本件雇止めが期間の定めのない労働契約を締結している労働者に対する解雇と社会通念上同視できるとは認められない。

2 【2号該当性に関して】

(1)2号該当性が肯定されるものとしては、相当程度の反復更新の実態から、雇用継続への合理的な期待が認められる「期待保護(反復更新)タイプ」と、相当程度の反復更新の実態があるとまではいえないものの、格別の意思表示や特段の支障がないかぎり当然に更新されることを前提に契約を締結したものと認められる「期待保護(継続特約)タイプ」が想定されます。

本件では、「期待保護(反復更新)タイプ」該当性について、否定されたと考えられます。判断過程は、以下のとおりです。

(2) ㋓原告が準職員採用試験(法人が平成28年1月に実施)に際して作成した履歴書の記載からすれば、原告が平成28年3月31日をもって雇止めがなされることを十分に理解していたことが強く推認される。これに加えて、㋐被告が準拠することとしてきた法人の就業規則において、通算雇用期間の上限が3年と明確に定められていたこと、㋑契約職員との契約更新の手続が形骸化していたなどとはいえないこと、㋒被告において、平成23年4月1日以降、通算雇用期間の上限の3年を超えて雇用された契約職員は存在せず、公募手続を経て再雇用された例はないこと、㋔原告に関しては、契約の更新回数は2回に過ぎず、通算雇用期間も2年9か月にとどまることなどの事情を総合考慮すると、原告が通算雇用期間の上限である3年を超えて被告との有期雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるとは認められない。

Ⅲ 本事例からみる実務における留意事項

19条1号・2号該当性の判断要素としては、当該雇用の臨時性・常用性(仕事の内容が臨時的・補助的か、基幹的か)、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況(契約書を毎回締結しているか、手続が形式的となっていないか)、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断するとされています。

上記の㋐㋑㋒は「契約期間管理の状況」に関するもの、㋔は「更新の回数」と「雇用の通算期間」に関するもの、㋓は「など」に関するものと考えられます。

1号、2号いずれについても、まずは、「契約期間管理の状況」に関する事実として、契約の締結時や更新時に契約書に挿入される、不更新条項や更新限度条項が、人事労務管理上の理由とともに適切に説明され、当該労働者の納得のうえで合意されたと認められるのかが着目すべき点といえます。更新の回数や期間について上限をあらかじめ定めておけば足るというものではなく、実際にも定めに則した運用がなされているかが重要です。

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