監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
近年、ワーク・ライフ・バランスを重視する動きが加速し、男性が育児休業を取りやすい環境づくりは、企業にとって欠かせない課題となっています。国も育休取得率の公表を企業に義務づけるなど、男性の育休取得を強く後押ししています。
ここでは、男性社員の育休取得の促進に向け、会社が取り組むべき内容について解説しますので、ぜひご覧ください。
目次
育児・介護休業法改正による男性の育休取得促進の義務化
男性の育休とは、育児・介護休業法に基づき、父親が子供の誕生後に一定期間、仕事を離れて育児に専念できる制度です。男性社員の育休取得は権利であり、義務ではありません。ただし、国は男性の育休取得率を高めるため、会社に対して、以下のような取り組みを義務づけています。
- 育休を取りやすい職場環境の整備
- 妊娠・出産を申し出た労働者に対する育児休業制度の周知
- 育休取得の意向確認
さらに、常時雇用する労働者が300人を超える会社では、男性社員の育児休業の取得状況を公表することが義務づけられています。
公表すべき内容は次のとおりです。
- ① 男性の「育児休業等の取得率」
- ② 男性の「育児休業等及び育児を目的とした休暇の取得率」
※従前は常時雇用する労働者が1000人を超える企業に限定されていましたが、2025年4月1日からは常時雇用する労働者が300人を超える企業に対象が拡大されています。
詳しくは以下のページをご覧ください。
男性の育休取得率の現状
男性の育休取得率は、確実に増え続けています。
厚生労働省の調査によると、2024年の民間企業における男性の育休取得率は40.5%となり、前年より10%以上増えて過去最高を更新しました。背景には、産後パパ育休の普及や育休取得状況の公表義務化といった、国による制度的なサポートがあると考えられます。
もっとも、女性の育休取得率が80%を超える一方で、男性はまだ低い水準にとどまっています。さらに、企業の規模や業種によって差があることも課題です。
男性の育休取得促進が義務化された背景
日本では男性の育休取得を支援する制度が整備されていますが、取得率はまだ約40%と低く、十分に浸透しているとはいえません。その理由として、職場の人手不足や、育休を取ると昇進や評価に影響するのではという不安があげられます。
こうした状況の中、育児の負担が女性に偏り、出産や育児を機に女性が退職するケースは少なくありません。そこで、国は女性の離職を防ぎ、少子化対策を進めるため、企業が男性の育休取得を積極的に支援することを義務づける法改正を進めています。
今後は、制度の実効性を高めるため、さらに改正が行われる見込みです。企業には制度対応だけでなく、管理職の意識改革などを通じて、男性が当たり前に育休を取れる社会を実現することが求められています。
男性が利用できる育休制度と休業期間
育児を行う男性従業員を支援するため、国は以下のような育児休業制度を用意しています。
- ①育児休業(原則として子供が1歳に達するまで)
- ②産後パパ育休(出生時育児休業|子供の出生後8週間)
- ③パパ・ママ育休プラス(2ヶ月の育児休業延長)
- ④保育所に入れない場合などの育児休業の延長(最長2歳まで)
③と④は①の育児休業の延長制度になります。
育児休業は、子供が1歳になるまで取得できる長期休業で、育児全般を目的としています。一方、産後パパ育休は、出産直後の母親をサポートするために、子供の出生後8週間以内に取得できる短期休業です。両制度は併用可能で、産後パパ育休を取得した後に育児休業をとることも可能です。
育児休業(原則として子供が1歳に達するまで)
育児休業制度とは、1歳未満の子供を養育する従業員に対し、原則として子供が1歳に達するまでの期間、会社に対して育児休業を申し出ることができる制度です(育介法第5条第1項)。
原則として、育児休業の申し出は、子供1人につき分割して2回まで申請することができます(同法第5条第2項)。会社は、従業員の育児休業の申し出があったときは、拒否することができません(同法第6条)。
もっとも、利用できる従業員の範囲には一定の制限が設けられており、日々雇用される労働者は、育児休業制度を利用することはできません(育介法第2条第1号)。
有期雇用労働者については、子供が1歳6ヶ月に達する日までに労働契約が満了することが明らかではない場合に育児休業を取得することが認められています(同法第5条第1項但書)。
育児休業は基本的に子供が1歳になるまでですが、一定の要件を満たせば1歳6ヶ月、さらに最長で2歳まで延長することが可能です。どのような場合に延長できるのか、具体的な要件については、以下のページで解説していますので、あわせてご覧ください。
産後パパ育休(出生時育児休業|子供の出生後8週間)
産後パパ育休制度(出生時育児休業)とは、子供を育てる男性社員が、子供の出生後8週間以内に最大4週間まで休める制度です(育介法9条の2第1項本文)。
産後パパ育休は、2回に分けて取ることができます。例えば「出産直後に2週間休み、その後職場に復帰し、妻の体調に合わせて再度2週間取る」など、家庭の事情に応じて柔軟にスケジュールを組むことが可能です。会社は、社員から産後パパ育休制度の利用の申し出があったときは、拒否することはできません(同法9条の3第1項本文)。
育児休業制度と同じく、日々雇用される労働者は産後パパ育休を利用できません(育介法2条1号)。有期雇用の労働者については、子供の出生日または出産予定日のいずれか遅い方から起算して、8週間を経過した日の翌日から6ヶ月後までの間に、労働契約が終了することが決まっていなければ、取得が認められています(同項但し書)。
パパ・ママ育休プラス(2ヶ月の育児休業延長)
パパ・ママ育休プラスとは、父親と母親がともに育児休業を取得する場合、通常の育児休業では子供が1歳に達するまでの期間に限って育児休業を取得することができるものとされているところ、1歳2ヶ月になるまでの間で1年間の休業を取得することを認める制度です(育介法第9条の6)。
この制度は、育児に父母双方が参画できるように、男性従業員に対して育児休業を取得することを促そうとする制度といえます。
保育所に入れない場合などの育児休業の延長(最長2歳まで)
育児休業は原則、子供が1歳になるまでですが、以下のようなやむを得ない事情がある場合は、延長することができます。
- 保育所などへの入所申込みをしているが、入所できない場合
- 子供を養育する予定者が死亡、けが、病気などで養育困難な場合
- 離婚などにより養育者と別居になった場合
- 新たな妊娠で6週間(多胎妊娠は14週間)以内に出産予定、または産後8週間を経過しない場合
このような理由がある場合は、まず1歳6ヶ月まで延長でき、その時点でも状況が変わらなければ、再申請により最長2歳まで延長可能です。あくまで特別対応であるため、1歳の時点で「2歳まで延長したい」という申請はできません。また、延長するには、休業後に職場へ戻る見込みがあることが条件になります。
企業が男性社員の育休取得を促進するメリット
男性社員の育休取得を促進することは、男性社員だけでなく会社にも大きなメリットがあります。
昨今、仕事と家庭の両立を重視する求職者が増えており、男性も育休を取りやすい職場は、採用の場面でとても魅力的に映ります。反対に、男性の育休取得率が低い企業は敬遠され、企業の採用戦略に悪影響を与えかねません。
男性育休を積極的に推進することで、「働きやすい企業」というイメージを確立し、優秀な人材の確保につなげることができます。
男性社員の育児休業中の賃金について
男性の育児休業中の賃金については、法令上その支払いを義務付ける規定は設けられていません。
一般的には、就業規則等において定めがなければ、会社からの給与は無給とされることが多いですが、雇用保険法において、休業前の賃金の一定割合を支給する育児休業給付金制度が設けられています。
労働者が利用できる育児休業給付金制度
育児休業給付金制度とは、育休中の収入を補うため、雇用保険から給付金が支払われる制度です。
もちろん男性社員も対象です。給付額は、育休開始から180日間は休業前給与の67%、その後は50%が支給されます。給付を受けるには、育休開始前2年間に雇用保険に12ヶ月以上加入していることなどが条件です。
給付金を受け取れるのは育休期間中のみです。育休期間は、父親が取得する場合は出産日(出産が遅れたときは出産予定日)から子供が1歳になるまでとなります。ただし、保育園に入れないなどやむを得ない事情があるときは、最長2歳まで育休を延長し、その間も育児休業給付金を受けとることが可能です。
さらに、子供が生まれた直後に、両親とも14日以上の育休または産後パパ育休を取得すると、「出生後休業支援給付金」が追加支給されます。最大28日間、休業前給与の13%が上乗せされ、手取りは実質ほぼ100%となるため、経済的な負担を大きく軽減できます。
育休取得中の社会保険料の免除
男性社員が育休を取っても労働契約は継続するため、健康保険や厚生年金などの社会保険には加入し続けることになります。ただし、産後パパ育休期間や育児休業期間(勤務先が認めた3歳未満までの育休期間を含む)については、社員と会社ともに健康保険料と厚生年金保険料の支払いが免除されます。
健康保険料が免除されても、医療などの健康保険の給付は通常通り受けることが可能です。また、年金についても、免除された期間は納付した期間として扱われるため、将来の年金額にきちんと反映されます。
さらに、育休中は雇用保険料の支払いも不要です。雇用保険とは、給与に対してかかる保険なので、給与が支払われない育休期間中は保険料を払う必要がありません。
男性社員の育休取得促進に向けて企業がすべき対策
男性従業員が育休取得を含め、育児に参画しやすい体制を整備するにあたり、会社においては下記のような対策を講じることが考えられます。
就業規則などの改定
育児休業は、就業規則に定めなければならない「休暇」(労働基準法第89条第1号)に関する制度であるため、会社としては、就業規則上に育児休業に関する規定を設ける必要があります。
もし、就業規則に定めを設けていない場合には、規程の整備が必要です。
従業員に対する十分な周知
会社は、従業員又はその配偶者が妊娠・出産したことを申し出たときは、従業員に対して、育休制度等について周知するとともに、育休取得についての意向確認のための面談等を行う措置を講じなければならないとされています(育介法第21条第1項)。
相談体制等の整備
また、育休の申出がスムーズに行われるよう、会社は以下のいずれかの措置をとるように義務付けられています(育介法第22条第1項、同法施行規則第71条の2)。
- 育児休業に関する研修の実施
- 育児休業に関する相談体制の整備
- 従業員の育児休業取得に関する事例収集・提供
- 従業員への育休制度と取得促進に関する方針の周知
育休を取得しやすい風土づくり
育休取得に向けた体制整備に加え、会社としては、育休を取得しやすい風土づくりを行う必要があります。育介法は、育休を利用する従業員の就労環境が害されないように、従業員からの相談に応じ、適切に対応するための必要な体制整備や雇用管理上の必要な措置をとることが義務付けられています(同法第25条第1項)。
育休取得を想定した人材配置
法が求めている体制を整備したとしても、育児休業を取得したい従業員としては、職場の人手不足を懸念して、育児休業取得の申出をしにくいと感じてしまう恐れがあります。
会社としては、そのような事態を回避するために、育休取得を想定した人材配置を行うことが必要といえるでしょう。例えば、育休を取得した従業員の欠員を埋めるために、他部署から人員を一時的に配置したり、有期雇用労働者を雇用するといった対策が考えられます。
復職後のフォロー体制の確立
従業員が育児休業から復職した際にも、会社として、当該従業員をフォローする必要があります。
育休取得期間中の業務内容の共有等、職場復帰がスムーズに進む体制を整え、育休から復帰した従業員が円滑に通常業務に戻れるような措置を講ずるのが望ましいです。
男性社員の育休取得を認めない場合のペナルティ
男性社員から、法律に定められた要件を満たした育休の申し出があった場合、会社は基本的に拒否することはできません(育介法6条1項)。また、育休を申請したこと等を理由に、従業員に解雇など不利益な扱いをすることも禁止されています(同法10条)。
会社が育休申請を拒否すると、厚生労働大臣から是正勧告を受けることがあります。勧告に従わなければ、その事実が公表される可能性があるため注意が必要です(同法56条、56条の2)。
また、従業員が300人を超える企業には、男性社員の育休取得率を年1回以上公表する義務があります(同法22条の2)。これに違反した場合も勧告の対象となり、従わなければその旨が公表されるリスクがあります(同法56条、56条の2)。
法律で禁止される不利益取扱いについての詳細は、こちらの記事をご覧ください。
男性社員の育休取得でお困りの際は、企業労務に強い弁護士にご相談ください
会社には男性の育休取得を促進する義務があり、法令に沿った対応が求められています。対応を誤ると、行政指導や企業名の公表リスクが生じるため、早めに体制を整えることが大切です。
労務に強い弁護士なら、最新の法改正に合わせた就業規則の作成・見直しや、男性社員が育休を取りやすい社内環境づくりをしっかりサポートできます。育休取得率の公表義務や不利益な取扱いの禁止など、会社が守るべきポイントは多いです。専門家のアドバイスを受けることでリスクを未然に防ぐことができます。
「どんな制度を整えればいいのか」「法改正に対応できているか不安」など、男性育休でお困りの場合は、ぜひ企業労務に強い弁護士法人ALGにご相談ください。
企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料※
企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)
会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません。
受付時間:平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00
平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00
※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。
執筆弁護士

- 弁護士法人ALG&Associates
この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
