監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
従業員の病気を理由とした解雇の有効性は、病気が業務に起因する場合も、私傷病による場合も、それぞれ厳しく判断されます。解雇が無効と判断された場合には、遡って多額の賃金の支払いを命じられることがあり、リスクが大きいです。
本記事では、従業員が病気になった際の解雇について、解雇が認められるケースや注意点を解説します。
目次
病気を理由に従業員を解雇できる?
業務上の傷病によって従業員が休業した場合には、休業期間及びその後30日間は当該従業員を解雇することは原則としてできません(労基法19条1項本文)。
また、そうでなくとも、私傷病による解雇も「客観的に合理的な理由」及び「社会通念上相当である」ことが求められ、有効性は厳格に判断されます。
私傷病で休職期間満了までに復職できない場合は解雇が認められる
休職期間満了後に復職不能と判断された場合には、自動退職とする就業規則は、実務上多く用いられています。ただし、復職不能との判断が不適切と判断され、自動退職の効果が認められない場合もあります。
詳しくは以下のページをご確認ください。
復職可能であるにもかかわらず解雇すると違法とみなされる
休職は雇用関係を維持し、職場復帰の可能性を残す制度と考えられるため、休職期間満了時に復職可能であるにもかかわらず解雇を行った場合には、その解雇は無効と判断される可能性が極めて高いです。
私傷病による解雇が問題となった判例
事件の概要
【平成10年(ワ)第3014号 大阪地方裁判所 平成11年10月4日判決】
本件は、鉄道会社Yで長年車両の保守業務を行っていたXが、私傷病(脳内出血)により半身の麻痺、失語症を発症し、その後も後遺症が残ったため、就業規則に従い合計約3年間休職した事案です。
この間に後遺症は徐々に改善したものの、通院先からは「保守作業は無理だが、軽作業なら可能」との診断が継続しており、上司による面接でも右足首下の不安定、発語不明瞭が認められたことから、Yは休職期間満了によりXを退職扱いとしました。
裁判所の判断
裁判所は、復職の意思を示した労働者の復職の可否の判断にあたり、職種非限定の労働契約であれば、休職前の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、配置替え等により現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合には、当該労働者に配置可能な業務を指示すべきである、としたうえで、本件では現実に復職可能な勤務場所があるとして、YによるXの退職扱いを無効と判断しました。
ポイント・解説
本件では、休職前の水準まで業務遂行能力が回復していなくとも、復職は可能であると判断した点が重要です。
また、Yの判断において、休職期間中よりもXの状態が改善していることを考慮していないこと、Yの会社規模が大きく、Xの状態に応じた合理的配慮を行うことが可能であったことが考慮されています。
そのため、従業員の今後の改善見込みや、会社としての対応可能性の双方が判断のポイントとなっています。
業務起因の病気の場合は休職期間満了後も解雇が制限される
業務上の傷病によって従業員が療養のために休業した場合には、休業期間及びその後30日間は当該従業員を解雇することは原則としてできません(労基法19条1項本文)。
そのため、休職期間満了後も療養が必要な場合には、原則として解雇が認められません。
業務上の病気であっても解雇が認められるケースがある
使用者が業務上の傷病について療養開始後3年を経過しても治らないため平均賃金の1200日分の打切補償を支払った場合、労働基準法19条1項本文の適用はなく(労基法19条1項ただし書、労基法81条)、特段の事情がない限り解雇が認められる可能性が高いです。
業務起因の病気による解雇が問題となった判例
事件の概要
【平成22年(ネ)第627号 東京高等裁判所 平成22年9月16日判決】
本件は、Z社の従業員であるAが、過労とストレスによる業務上の疾病を理由に、2年以上にわたり就労しなくなった事案です。
Z社は、自社就業規則の規定に基づき、Aが就労しなくなったときから3年を経過した際、Aに対して打切補償を行うとともに、Aを解雇しました。これに対し、Aが解雇の有効性を争いました。
裁判所の判断
裁判所は、打切補償の要件を満たした場合には、使用者側が業務上の疾病の回復のための配慮を全く欠いていたというような、打切補償制度の濫用ともいうべき特段の事情が認められない限りは、解雇は合理的理由があり社会通念上も相当と認められる、と判断し、本件の解雇を有効と判断しました。
ポイント・解説
本判決は、業務上傷病を理由に長期間休職する従業員について、使用者側の対応を示したものとして、影響の大きい判断と考えられます。
病気を理由に解雇する場合の注意点
解雇権の濫用があると不当解雇として無効になる
私傷病の場合も、業務上の疾病で打切補償を行った場合も、解雇が「客観的に合理的な理由」及び「社会通念上相当である」と認められなければ、解雇・自動退職扱いは無効になります。
復職の可否の判断等、雇用関係の終了の判断は慎重に行う必要があります。
解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となる
使用者は労働者を解雇しようとする場合においては、30日以上前に解雇予告をするか、平均賃金に応じた解雇予告手当を支払わなくてはなりません(労基法20条1項)。
従業員の私傷病や業務上の疾病を理由に解雇をする場合も、この規定は適用されるため、解雇の際は解雇予告または解雇予告手当が必要です。
詳しくは以下のページをご確認ください。
病気を理由に解雇する場合でも退職金の支払い義務はある?
退職金は、主として就業規則等に基づいて発生しますが、退職金を不支給とすることができるのは会社に対して背信的な行為を行った場合に限られるため、病気を理由とする解雇の際にも退職金の支払義務は発生すると考えられます。
病気を理由とした解雇における失業保険の取扱い
病気を理由とする解雇後の失業保険の受給の可否は、本人の労働の能力によって判断されます。
解雇後も働く意思と能力を備えているのであれば、失業保険の給付の対象となり得ますが、病気により労働の能力を喪失している場合は、失業保険の受給要件を満たさず、傷病手当金の受給を検討することとなります。
詳しくは以下のページをご確認ください。
よくある質問
病気による解雇が不当解雇と判断されるのはどのような場合ですか?
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業務上の傷病によって従業員が休業した場合には、休業期間及びその後30日間は当該従業員を解雇することは原則としてできません(労働基準法19条1項本文)。
また、そうでなくとも、私傷病による解雇は厳格に判断されるため、病気・負傷の存在が労働能力に与える影響の大きさ、病気・負傷の回復可能性、他の業務等への配転の可能性等を考慮して不当解雇と判断される場合があります。
試用期間中でも病気を理由に解雇できますか?
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本採用期間と同様、病気を理由とする解雇には「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当」といえることが必要であり、休職等、解雇以外の措置をとることができる場合には解雇の有効性は否定される可能性が高いです。
もっとも、試用期間は本採用の有無を会社が決断するための期間でもあることから、本採用期間に比して解雇が許容される裁量は比較的広いです。
アルバイトでも病気を理由に解雇できますか?
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相当期間就労が不能になったなど、「やむを得ない事由」がある場合には解雇が可能ですが、アルバイトの契約期間中の解雇は比較的厳格に判断されます。
メンタル不調を理由に従業員を解雇できますか?
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精神的な不調を理由に欠勤を続けている従業員に対しては、精神科医による健康診断を実施する、診断結果に応じて休職命令を検討するなど一定の配慮が必要です。
解雇が認められるためには、当該解雇が一定の措置を経た後に行われなければなりません。詳しくは以下のページをご確認ください。
病気休職中の従業員を解雇することはできますか?
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休職期間を設ける趣旨は、私傷病を原因としてただちに雇用契約を終了させず、職場復帰の可能性を探ることにあると考えられます。そのため、休職期間中に解雇することは不当と判断される可能性が高いです。
休職期間満了後に自動退職とすることは可能ですか?
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休職期間満了後に復職不能と判断された場合には、自動退職とする就業規則は、実務上多く用いられています。ただし、休職期間満了時に従業員が完全に回復していなくとも、相当期間内に回復することが認められ、当該従業員に適切なより軽い作業が存在する場合には自動退職の効果が生じないと考えられる点に注意が必要です。
従業員が復職を希望している場合でも解雇できますか?
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貴社が復職の可否を判断する際、相当期間内に回復する見込みがあるか、当該従業員に適切なより軽い作業がある場合には、解雇は無効と判断される可能性が高いです。
病気による解雇は就業規則に定めが必要ですか?
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解雇の原因となる事由は就業規則の絶対的必要記載事項であり(労働基準法89条3号)、病気を理由として解雇できる旨の記載がなければ、解雇は無効と判断される可能性が高いです。
病気を理由に退職勧奨を行う際の注意点を教えてください。
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退職勧奨は、その内容等から従業員が退職を強要されたと判断された場合、違法となるリスクがあります。そのため、退職勧奨の際には長時間の面談とならないよう、また従業員を精神的に圧迫するような言動をしないことが重要です。
また、従業員が退職しない意思を明確に固めている場合に退職勧奨をすることは、違法の疑いが強いため注意が必要です。
詳しくは以下のページもご確認ください。
従業員の解雇でお悩みの際は弁護士にご相談ください
解雇は、従業員の生活に大きな影響を及ぼす重大な措置であるため、その有効性については裁判上も厳格に判断される傾向にあります。会社としては、解雇理由の有無だけでなく、これまでの指導・注意の経緯、配置転換や改善機会の付与の有無、手続きの相当性など、さまざまな事情を慎重に検討する必要があります。
また、対応を誤ると、解雇が無効と判断され、未払い賃金や慰謝料等の請求を受けるなど、労使トラブルが長期化・深刻化するおそれもあります。そのため、従業員の解雇や退職勧奨を検討する際には、事前に法的リスクを把握したうえで、適切な方針を立てることが重要です。
従業員の解雇、退職勧奨、問題社員対応等でお悩みの企業様は、トラブルを未然に防ぐためにも、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
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執筆弁護士

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士九里 亮太(東京弁護士会)
この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
