フレックスタイム制の対象者や清算期間についてわかりやすく解説!

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

柔軟な働き方が求められる今、フレックスタイム制を導入する企業が増えています。
フレックスタイム制は自由度が高い制度ですが、清算期間や労働時間など一定のルールは存在します。また、労務管理も複雑になりやすいため、導入前にしっかり確認しておくことが重要です。
そこで本記事では、フレックスタイム制のルールや残業代の取扱い、導入の流れなどを詳しく解説していきます。導入を検討している事業主の方は、ぜひご覧ください。

フレックスタイム制の対象となる労働者とは

フレックスタイム制とは、一定期間の総労働時間を定めたうえで、始業時刻と終業時刻の決定を労働者に委ねる制度です。ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方ができるため、育児や介護との両立を図りやすいのが魅力です。
また、フレックスタイム制の対象となる労働者の範囲に制限はないため、すべての労働者に適用することも可能です。

ただし、パートやアルバイトは〇時~〇時というシフト制で働くことが多いため、始業時刻と終業時刻を本人に委ねるのは困難です。フルタイムのアルバイトなど例外的な場合を除き、フレックスタイム制の適用は難しいでしょう。

フレックスタイム制の仕組みや注意点は、以下のページで解説しています。

特定の部署や個人ごとに適用させることは可能か?

フレックスタイム制は、特定の部署や個人に適用させることも可能です。
部署単位で導入する場合、労使協定の中で、対象範囲をその部署に限定すれば法的に問題ないでしょう。
また、対象部署の中でも個別に適用の有無を決めたいのであれば、個々の労働契約書や労働条件通知書の中で就労形態をフレックスタイム制とすべきでしょう。

フレックスタイム制の適用除外について

フレックスタイム制は、自由な働き方を認めるという性質上、労働者のモチベーションやワークライフバランスを向上させる一方で、勤勉でない労働者が1日のほとんどを就労しない事態等を招くおそれもあります。
このような労働者への対応も念頭に置いた場合には、コアタイムの導入といった制度設計で対応することができます。

もっとも、一部の労働者への対応のために、他の労働者の自由な働き方を制限するというのも得策ではありません。
そこで、労使協定の中で、フレックスタイム制の適用解除を定めておくことが有用です。

具体的には、合理的な理由がないにもかかわらず頻繁に実労働時間が不足する者について、フレックスタイム制の適用を解除することがある旨を定めておくのが良いでしょう。

フレックスタイム制の「清算期間」とは

「清算期間」とは、フレックスタイム制において労働者の総労働時間を定める期間のことです。
よって、労働者の所定労働時間は1日単位ではなく、清算期間単位で決めることになります。

法改正により清算期間の上限が「3ヶ月」に延長

2019年4月の労働基準法改正により、フレックスタイム制の清算期間の上限が「1ヶ月以内」から「3ヶ月以内」に延長されました。月を跨いで労働時間を調整できるため、より柔軟な働き方が可能です。

清算期間が1ヶ月以内のケース ・1ヶ月の実労働時間が総労働時間を超えると、割増賃金の支払いが必要
・1ヶ月の実労働時間が総労働時間を下回る場合、欠勤扱いや賃金控除となる
清算期間が1ヶ月を超えるケース ・1ヶ月の実労働時間が総労働時間を超えても、直ちに割増賃金は発生しない
・2ヶ月、3ヶ月の総労働時間の範囲内で、労働時間の調整が可能(総労働時間を超えなければ、残業代は発生しない)

清算期間を延長する際のポイントや注意点は、以下のページで解説しています。

清算期間が1ヶ月を超える場合は労使協定が必要

清算期間が1ヶ月を超える場合、労使協定を締結し、労働基準監督署へ届け出なければなりません。また、労使協定では以下の事項について定める必要があります。

  • 対象労働者の範囲
  • 清算期間
  • 清算期間における総労働時間
  • 標準となる1日の労働時間
  • コアタイムとフレキシブルタイム(任意)

労使協定の届出を怠った場合、30万円以下の罰金を科せられる可能性があるため注意が必要です。
なお、清算期間が1ヶ月以内の場合、労使協定は締結しますが届出は不要です。

清算期間における総労働時間と時間外労働

フレックスタイム制では、清算期間における法定労働時間の総枠を超えて働いた時間が「時間外労働」にカウントされます。法定労働時間の総枠は、以下の計算式で算出できます。

法定労働時間の総枠=「清算期間の暦日数÷7」×「40時(1週間の法定労働時間)

例えば清算期間が1ヶ月の場合、法定労働時間の総枠は以下のとおりです。

清算期間の歴日数 1ヶ月の法定労働時間の総枠
31日 177.1時間
30日 171.4時間
29日 165.7時間
28日 160.0時間

例えば、1月(暦日数31日)に180時間働いた場合、2.9時間が時間外労働となり、割増賃金が発生します。
また、清算期間が1ヶ月を超える場合、法定労働時間の総枠は上表の時間を足して算出します。例えば、

〈清算期間が11月~12月の2ヶ月の場合〉
→法定労働時間の総枠は「171.4時間+177.1時間=348.5時間」

となります。

残業代が発生するタイミング

フレックスタイム制の場合、清算期間における総労働時間をもとに残業代を計算します。そのため、残業代が発生するのは「清算期間終了後」となります。

清算期間が1ヶ月のケース

1ヶ月の法定労働時間の総枠を超えた時間に対して、残業代を支払います。
よって、1日の労働時間が8時間(法定労働時間)を超えても、直ちに残業代が発生するわけではありません。

清算期間が1ヶ月を超えるケース

2ヶ月、3ヶ月の労働時間を合計し、法定労働時間の総枠を超えた時間について残業代を支払います。
なお、総労働時間と実労働時間に過不足がある場合、月を跨いで調整することも可能です。

ただし、1ヶ月ごとの週平均労働時間が50時間を超える場合、その時点で残業代が発生します。

残業代の計算例などは、以下のページで紹介しています。

清算期間中の労働時間の過不足の扱い

清算期間の「実労働時間」と「総労働時間」に過不足が出た場合、以下のような対応が必要です。

清算期間が1ヶ月のケース

  • ①不足時間分を賃金から控除する
  • ②不足時間分を翌月の総労働時間に加算する

②で不足時間分を繰り越しても、翌月の総労働時間は「法定の総労働時間の総枠」に収める必要があります。
一方、実労働時間が総労働時間を超過した場合、超過時間分を翌月に繰り越すことはできません。残業代も、当月の給与で支給する必要があります。

清算期間が1ヶ月を超えるケース

実労働時間の不足・超過どちらも、月を跨いで調整が可能です。
例えば、当月が繁忙期で総労働時間を超過した場合、翌月の労働時間を減らすことで残業代の発生を抑えることができます。

ただし、労働時間には“上限”があるため、「繁忙期の1ヶ月だけ極端に長く働く」といった方法は認められません。

過不足の調整については、以下のページでも詳しく解説しています。

フレックスタイム制の清算期間の決め方

フレックスタイム制の導入や、清算期間を変更する場合、労使協定の締結または変更が必要です。
具体的には、過半数労働組合または過半数代表者と交渉し、合意を得る必要があります。
また、フレックスタイム制の導入・変更後は就業規則の見直しも必要です。

導入時や変更時の詳しい手順は、以下のページをご覧ください。

部署ごとに異なる清算期間を設定することも可能

フレックスタイム制では、部署によって清算期間を変えることも可能です。
また、繁忙期とそれ以外で清算期間を変えることもできるため、より柔軟な働き方を実現できます。例えば、以下のような使い分けも可能です。

営業部 プロジェクトが多忙な4月~6月を清算期間とする
経理部 年末調整業務を行う12~1月を清算期間とする
人事部 採用や入社手続きが多い2~4月を清算期間とする

ただし、部署や時期によって清算期間が変わると、労働時間の管理も複雑になります。また、労働者の混乱も招きやすいため、労使協定の締結時は十分な説明が必要です。

対象者や清算期間などフレックスタイム制に関するお悩みは、弁護士にご相談ください

フレックスタイム制は、労働者にとっても企業にとってもメリットがある制度です。柔軟な働き方を実現するため、積極的に導入を検討すると良いでしょう。

ただし、清算期間の設定は慎重に行う必要があります。また、導入後も労働時間の管理や残業代の計算など、複雑な手続きが多くなるため注意が必要です。

弁護士であれば、企業ごとに適切な清算期間をアドバイスできるため、実態に合った制度設計が可能です。また、導入後の労務管理も安心して任せることができます。

弁護士法人ALGは、企業問題の知識や経験が豊富なため、フレックスタイム制の導入から実務まで幅広いサポートが可能です。お悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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