外国人労働者に対するコンプライアンス研修|研修内容や実施時の注意点

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

グローバル化が進む現代において、外国人労働者は多くの企業にとって重要な戦力です。しかし、文化や言語、法制度の違いから、意図せずコンプライアンス違反に至ってしまうケースも少なくありません。

本記事では、外国人社員に対するコンプライアンス研修の重要性と実施時の注意点について解説します。

目次

外国人労働者におけるコンプライアンス遵守の重要性

外国人労働者が日本の法律や社会規範を理解し遵守することは、企業活動の円滑化とリスク管理の観点から極めて重要です。文化や価値観の違いから生じる予期せぬトラブルを防ぎ、労働者自身が安心して働ける環境を整えるためにも、コンプライアンスの周知徹底が不可欠となります。

外国人雇用について、より詳しくは以下のページをご覧ください。

コンプライアンス研修を怠った場合のリスク

コンプライアンス研修を怠ると、労働災害の発生、情報漏洩、ハラスメントなどといった問題につながる可能性があります。これらの問題は、企業の法的責任を問われるだけでなく、行政処分や社会的信用の失墜といった経営上の大きな損失につながるリスクをはらんでいます。このようなリスクを未然に防ぐための投資が重要です。

外国人労働者のコンプライアンス研修の内容

コンプライアンス研修では、日本で働く上で必要となる知識を提供する必要があります。法律や社内ルールだけでなく、日本のビジネス慣習や生活文化についても伝えることが、相互理解を深める鍵となります。

日本の労働法

日本の労働関係法令は、国籍を問わず国内で働くすべての労働者に原則として適用されます。特に労働基準法第3条は、国籍、信条等を理由として賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱いをすることを禁じており、企業の法令遵守が求められます。

外国人を雇用する際に守るべき法令(募集から入社まで)

募集・採用では、職業安定法第3条により、人種や国籍、信条等を理由とする差別的取扱いは禁止されています。採用時には、不法就労を防止するため、在留カード等で就労資格の有無を確認する必要があります。労働契約の締結に際しては、労働基準法第15条に基づき、賃金等の労働条件を明示しなければなりません。

外国人を雇用する際に守るべき法令(入社から退職まで)

外国人労働者にも、日本人労働者と同様に、労働基準法や労働契約法、労働安全衛生法、最低賃金法等が適用されます。また、雇用保険や労災保険、健康保険、厚生年金保険も同様に外国人労働者にも適用されることになっています。外国人労働者を解雇する際は、解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合、権利濫用として無効となります(労働契約法第16条)。

日本のビジネスマナー

「報告・連絡・相談(報連相)」の徹底や時間厳守、名刺交換の作法、ビジネスメールの書き方など、日本特有のビジネスマナーを教えることも大切です。これらのビジネスマナーは、業務を円滑に進める上で不可欠です。そのため、単にやり方を教えるだけでなく、なぜそのマナーが必要なのか、背景にある考え方まで説明すると、より一層理解が深まります。

日本での生活

ゴミの分別ルールや騒音問題といった地域社会のルール、納税や社会保険の手続き、在留資格の更新など、日本で生活する上で不可欠な情報を提供する必要もあるでしょう。生活に関する知識は、労働者の不安を軽減し、業務に集中できる環境づくりに欠かせません。

安全衛生教育

安全衛生教育とは、労働災害を防ぐために、職場の安全や健康に関する知識を労働者に提供する教育です。特に外国人労働者は、言語や文化、労働慣行の違いから、危険に関する情報の理解が不十分になる場合があります。安全な作業方法を確実に習得し、労働災害を防ぐために適切な安全衛生管理は重要です。また、労働者一人ひとりの安全意識を高め、安心して働ける職場環境の維持にもつながります。

安全衛生教育について、より詳しくは以下のページをご覧ください。

外国人労働者のコンプライアンス研修の実施方法

コンプライアンス研修の実施方法には様々な選択肢があります。企業の事情に詳しい社内講師や、専門知識が豊富な外部講師による研修を基本としながら、EラーニングやDVD、各種教材を用いた学習を組み合わせることも有効です。

さらに、具体的な事例について討議するグループディスカッションを取り入れることで、一方的な知識の伝達に留まらず、実践的な理解へとつなげることができます。研修の目的や対象者の日本語能力に応じて、適切な方法を組み合わせることが求められます。

外国人労働者へコンプライアンス研修を行う際の注意点

コンプライアンス研修の効果を最大限に高めるためには、受け手である外国人労働者の視点に立った配慮が不可欠です。一方的な情報伝達ではなく、双方向のコミュニケーションを心がけ、理解度を確認しながら進めることが成功の鍵となります。

日本語レベルに合った研修の実施

専門用語を避け、「やさしい日本語」を用いる、図やイラストを多用するといった工夫が求められます。また、必要に応じて母国語の資料を用意したり、通訳者を介して説明したりするなど、個々の日本語能力に合わせた柔軟な対応を行うことで、内容の正確な理解を促進できます。

文化的背景への配慮

宗教上の理由による食事制限(ハラルなど)や礼拝の時間、家族に対する価値観など、文化的背景の違いを尊重する姿勢が重要です。日本の常識を一方的に押し付けるのではなく、そのルールの背景を丁寧に説明し、相互理解を深めることで、信頼関係の構築につながります。

外国人労働者へのコンプライアンス対応についてお困りの際は弁護士にご相談ください。

外国人労働者へのコンプライアンス対応は、専門的な知識を要する複雑な問題を含む場合があります。雇用手続きや日々の労務管理、万が一のトラブル発生時など判断に迷う際には、企業法務や労働問題に精通した弁護士に相談することをお勧めします。専門家の助言を得ることで、法的なリスクを適切に管理し、問題の早期解決を図ることが可能です。

よくある質問

コンプライアンス研修のマニュアルは母国語で作成すべきでしょうか?

法律上の義務ではありませんが、正確な理解を促すため、母国語の資料を用意することが望ましいです。母国語の翻訳が難しい場合でも、図やイラストを多用した「やさしい日本語」で作成するなどの配慮が効果的です。

コンプライアンス研修を実施する適切なタイミングはいつですか?

最も重要なのは、労働安全衛生法でも定められている「雇入れ時」です(労働安全衛生法第59条1項)。まず雇入れ時に、日本の法令や社内ルールに関する基本的な知識を体系的に教育することが重要です。その後は、在留資格の更新時や関連法令の改正時、または定期的なフォローアップとして、適切なタイミングで追加研修を実施することが望ましいです。

外国人労働者のコンプライアンス研修の時間はどのくらいが適切ですか?

研修時間について法的な定めはありません。重要なのは時間数よりも、内容を確実に理解してもらうことです。一度に長時間行うと集中力が続かないため、例えば、1回あたり1~2時間程度の研修を、テーマごとに複数回に分けて実施する方法が効果的です。重要なテーマには時間をかけ、理解度を確認しながら進めることも大切でしょう。

外国人労働者のコンプライアンス研修は、どのくらいの頻度で実施すれば良いですか?

雇入れ時の研修に加えて、少なくとも年に1回は定期的な研修を実施し、知識の確認とアップデートを行うことが望ましいでしょう。その他コンプライアンスに関わる法改正があった場合や、社内で関連する問題が発生した場合など、必要に応じて随時研修を計画することがリスク管理上重要です。

外国人労働者を受け入れる部署に対しても、コンプライアンス研修を実施すべきでしょうか?

実施することをお勧めします。外国人労働者本人だけでなく、受け入れ部署の上司や同僚が、労働関係法令や異文化への理解を深めることは極めて重要です。文化や習慣の違いによって生じる誤解やハラスメントを未然に防ぎ、円滑なコミュニケーションと働きやすい職場環境の構築につながります。

入管法などの法令に詳しくなく、研修の実施に不安があるのですがどうしたら良いですか?

無理に自社のみで完結させようとせず、外部の専門家や機関を活用することをお勧めします。弁護士、社会保険労務士などの専門家や、外国人材の研修を専門に行う企業に相談・依頼することで、法的に正確かつ効果的な研修を実施することが可能です。

外国人労働者のコンプライアンス研修の講師は誰に依頼すれば良いですか?

研修内容によって最適な講師は異なります。社内ルールや実務に関する内容であれば企業内部の担当者が、法改正や専門的な法律解釈については弁護士や社会保険労務士、在留資格については行政書士など、外部の専門家に依頼するのが良いでしょう。内容に応じて、社内講師と外部講師を組み合わせる方法も有効です。

外国人労働者に法令違反があった場合、会社はどのように対応したら良いですか?

まずは事実関係を正確に調査し、国籍による差別なく、就業規則の懲戒規程に則って公平に対応することが原則です。ただし、その違反行為が在留資格の取消事由に該当する可能性もあるため、対応に迷った場合は、自己判断を避け、速やかに弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談してください。

ちょこっと人事労務

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料

企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません。

0120-630-807

受付時間:平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

0120-630-807

平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。

執筆弁護士

弁護士 大額 祥聖
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士大額 祥聖(東京弁護士会)
弁護士 髙木 勝瑛
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士髙木 勝瑛(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます