
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
外国人労働者が会社で働いている姿を見ることも珍しくない昨今ですが、外国人労働者を会社が雇用する場合には、日本人労働者を雇用する場合と異なる配慮を行い、法律が定めたルールを守って適切かつ慎重に対応することが求められます。
外国人労働者を雇い入れることを検討しているけれど、何から手を付けていいのか分からない…そんな悩みを抱えている会社担当者の方は本記事を是非ご一読ください。
外国人労働者の募集~入社時のルールとは?
会社が外国人を雇用する際には、様々なルールが設けられています。以下でその内容について解説していきます。
募集採用時の明示
会社は、外国人労働者を募集採用する際には、外国人労働者側に対し、採用後に従事する業務内容や賃金、労働時間、就業の場所、労働契約の期間、労働・社会保険関係に関する事項について、その内容を明らかにした書面の交付等を行うことが求められます。
特に、会社の採用募集に応じ労働者になろうとする外国人が国外に居住している場合は、来日時の渡航費用の負担、住居の確保等の募集条件の詳細について、あらかじめ明確にするよう努めることが必要です。
在留資格の確認
会社は、外国人労働者を雇用する場合等において、外国人労働者の氏名、在留資格、在留期間等の事項について、外国人労働者が保有するパスポート、外国人登録証明書及び資格外活動許可書又は就労資格証明書の提示を求める方法により確認し、法律の定める方法及び期限にしたがって、ハローワークに届け出ることが必要です(雇用対策法第28条第1項及び附則第2条第1項)。
労働条件の明示
労働基準法上、労働条件を明示する労働条件通知書につき、労働者に対して、書面を作成して交付することが義務付けられています(労基法第15条第1項)。そして、このことは外国人を雇い入れる場合であっても同様です。
会社としては、単に労働条件通知書を和文で作成して漫然とこれを外国人労働者に交付するのではなく、外国人の母国語で作成した労働条件通知書を作成・交付することが望ましいでしょう。
雇用契約書の締結
労基法上は作成が義務付けられていない雇用契約書ですが、特定技能に係る外国人労働者の場合、在留資格の認定にあたって、雇用契約書を提出するように求められます。労働条件通知書のみならず、雇用契約書についても作成することを忘れないようにしましょう。
詳しくは以下のページをご覧ください。
社会保険の手続き
社会保険制度において、国籍要件は存在しないため、外国人労働者を雇用する会社においては、適用事業所に該当する等の要件を充たすのであれば、必要な諸手続きをとって外国人労働者を被保険者として加入させる必要があります。
この際、会社としては、外国人労働者の雇い入れ時に、外国人労働者に対し、社会保険制度について理解できるように説明を行って制度内容について周知を行うことが望ましいものとされています。
詳しくは以下のページをご覧ください。
外国人雇用状況の届出
会社は、新たに外国人労働者を雇い入れた場合若しくはその雇用する外国人労働者が離職した場合等においては、その外国人労働者の氏名、在留資格、在留期間等について、ハローワークに届け出ることが義務付けられています(雇用対策法第28条第1項及び附則第2条第1項)。
詳しくは以下のページをご覧ください。
外国人労働者を雇用する際の注意点
上記のとおり、様々なルールの下で行うように求められる外国人労働者の雇用ですが、さらに留意しなければならない事項もいくつかあります。
国・人種などによる差別は禁止される
例えば、「●●国籍者以外の方歓迎」といったように、特定の国や人種などに着目した差別に基づいて、外国人労働者を募集することは許されません。このことは、職業安定法において、職業紹介事業者が会社に職業紹介を行うに当たり、国籍を理由とした差別的取扱いをすることが禁止されていることにも表れています(同法第3条)。
また、労働基準法においても、会社は、労働者の国籍を理由として、賃金や労働時間等の労働条件について差別を行ってはならないと定められています(同法第3条)。
業務内容に合った在留資格を持つ外国人しか雇用できない
外国人労働者を雇用する際に、留意が必要なのが外国人の在留資格の内容です。
外国人労働者と一口に言っても、その在留資格には様々なものがあります。具体的には、医療や教育、経営・管理から介護まで、約20種類にわたる職種に関する在留資格が存在します。基本的に、外国人労働者は、在留資格で定められた範囲での活動ないし就労をすることしかできません。
仮に、在留資格と異なる業務内容に従事させてしまった場合には、刑事罰が科されてしまう可能性もあります(入管法第73条の2)。会社としては、外国人労働者の在留資格の内容はきちんと確認するようにしましょう。
違法な雇用は日本人雇用と同じく罰せられる
会社は、外国人労働者についても、日本人を雇用したときと同様に、労働基準法の定めに従った労務管理を行う義務があります。そのため、外国人労働者について労働基準法に違反した労務管理を行った場合には、日本人労働者に対して違法な労務管理をした場合と同様に罰せられることとなります(同法第117条以下)。
外国人労働者の採用に関する裁判例
【事件の概要(昭和45年(ワ)第2118号・昭和49年6月19日・横浜地方裁判所・第一審)】
在日朝鮮人であった労働者が会社の臨時従業員の採用試験に応募した際、提出した履歴書に本籍を愛知県と記載する等、虚偽の事実を記載したところ、会社は本籍等を詐称したことを理由として採用内定を取り消しました。
これに対し、外国人側は、会社側の採用取消等が国籍を理由とした不当な差別に基づくものであり、無効である等と主張しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、会社に採否の自由があることを認めた上で、原告が履歴書に虚偽の事実を記載していたことを認定しました。
他方で、裁判所は、本籍や住所を偽ったことが、会社として雇用を継続できないまでの悪影響を及ぼすものではない上、会社と原告の間の電話内容や会社による原告の身辺調査の態様に鑑みて、採用取消の理由が専ら国籍によるものであったことを認定し、採用取消等を無効と判断しました。
この判断の前提として、裁判所は、戦後の在日朝鮮人に対する差別構造(在日朝鮮人であることを明らかにすると大企業の就職試験受験の機会さえ得られない状況等)を考慮したものとされています。
【ポイント・解説】
上記裁判例は、戦後における在日朝鮮人の差別構造に着目して判断が示されたものではありますが、労働契約等において国籍による差別が許されないものであることを示した裁判例の一つであるといえます。
今や労働基準法等の各法令において国籍による労働条件の差別の禁止等が定められているところですが、その理念を改めて示した裁判例であるといえるでしょう。
外国人雇用でトラブルにならないためにも弁護士にご相談下さい
外国人の雇用には、様々な法規制に加え、言語の壁等に起因する外国人特有の配慮すべき事項も存在します。外国人労働者を雇い入れる際に、法的に問題なく手続きを進めたいということであれば、弁護士等の専門家に是非ご相談ください。
よくある質問
採用時に国籍を限定することは可能ですか?
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会社にはどのような人材を採用するかといった採用の自由(憲法第22条第1項)があります。
しかし、職業安定法上、職業紹介にあたって国籍で差別を行うことは禁止されています(同法第3条本文)。そのため、会社も、特定の国籍を条件とした差別的取扱いを行うことは避けるべきです。
労働条件通知書や雇用契約書は、雇用する外国人の母国語で作成した方が良いですか?
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外国人労働者であっても、労働条件通知書の交付が義務付けられます(労働基準法第15条第1項)。
その際、外国人の中には、通常の日常会話に支障がない方もいれば、漢字等にふりがなを振らなければ日本語の内容が分からない方もいます。そこで、会社としては、雇用する外国人の母国語で労働条件通知書を作成することが望ましいといえます。雇用契約書についても同様に、外国人の母国語で作成するのが労働条件を理解してもらう点からは望ましいといえます。
外国人労働者を雇用する際に就業規則を翻訳する必要はありますか?
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労働基準法上、就業規則を和文以外の外国語に翻訳することは義務付けられていません。
もっとも、就業規則は、従業員が閲覧を求めた際にはいつでも閲覧させられるようにする義務があります(労基法第106条第1項)。そうすると、会社としては、日本人労働者か外国人労働者か否かを問わず、就業規則の内容が従業員に理解できるような体制を整えておくことが望ましいといえます。
具体的には、漢字に振り仮名を振る等の対応が考えられます。
詳しくは以下のページをご覧ください。
外国人労働者が社会保険の加入を拒否する場合はどうしたらいいですか?
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社会保険制度において国籍要件は存在せず、外国人労働者であったとしても、会社が適用事業所である場合には健康保険組合等に対して必要な手続きを行う必要があります。
会社としては、外国人労働者に対し、社会保険制度の内容について周知するように努め、外国人労働者にとってもメリットのある制度であること等について丁寧に説明を尽くすことが望ましいといえます。
詳しくは以下のページをご覧ください。
外国人労働者のパスポートを会社で保管することは可能ですか?
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外国人労働者のパスポートを会社で保管することは避けるべきです。
例えば、技能実習法においては、明確に外国人技能実習生からパスポートや在留カードを会社が保管することを禁止しており、その他の私生活上の自由を制約することも禁止しています(同法第47条第1項)。
アルバイト・パートで外国人を雇用する場合も在留資格が必要ですか?
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アルバイトやパートで雇用する外国人であったとしても、在留資格は必要です。
会社としては、就労ビザの就労可能職種の内容や在留期間等の内容については、注意深く確認しなければなりません。仮に、会社が在留資格のない外国人労働者を働かせていたことが発覚した場合には、刑事罰が科される可能性もあります(入管法第73条の2)。
詳しくは以下のページをご覧ください。
外国人労働者と日本人労働者で賃金や待遇などに差をつけても良いですか?
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外国人労働者と日本人労働者の間で、賃金等の待遇に合理的な根拠なく格差を設けることは「国籍」による差別にあたり、禁止されています(労基法第3条)。
詳しくは以下のページをご覧ください。
外国人労働者の受け入れ体制を整えるにはどのような準備が必要ですか?
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外国人労働者の受入れにあたって一番の障壁になるのは、やはり言語の壁といえます。
言語の壁があると、社会保険制度一つとっても理解が得られずに手続きが滞る等、様々な問題が生じ得ます。会社としては、労働条件通知書や就業規則の母国語での作成等、法律上は求められていない事項であっても、外国人労働者に配慮した準備を行うことが必要といえます。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士榊原 誠史(東京弁護士会)
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士中村 和茂(東京弁護士会)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある