建設業の時間外労働の上限規制をわかりやすく解説【2024年4月施行】

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

2024年4月より、建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、一般企業と同じく厳格な労働時間管理が求められるようになりました。

これにより、労働時間を正確に把握しなければ罰則の対象となるため、曖昧だった労務管理は見直しが必須となりました。さらに2025年12月には建設業法改正が全面施行され、適正な工期設定など長時間労働を防ぐルールも導入されました。

この記事では、上限規制の内容や建設業に求められる対応、2025年の改正点などについて解説します。

建設業の時間外労働の上限規制とは

2024年4月より、建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、従来の猶予期間は終了しました。

労働基準法では「1日8時間・週40時間」が法定労働時間とされ、これを超えて働くには36協定の締結が必要です。さらに、36協定を結んでいても、時間外労働は原則として「月45時間・年間360時間」が上限となり、企業は必ず遵守しなければなりません。

繁忙期など特別な事情がある場合には、特別条項付き36協定の締結により一時的に上限を超えることも可能ですが、「年720時間以内」などの厳しい条件が設けられています。

  • 【労働基準法における労働時間の上限】
    • 1日8時間
    • 週40時間
  • 【36協定を締結した場合の時間外労働の上限】
    • 月45時間
    • 年間360時間
  • 【特別条項付き36協定を締結した場合の労働時間の上限】
     ※臨時的・特別的な事情がある場合
    • 年間720時間以内
    • 月100時間未満
    • 2~6ヶ月の平均がいずれも80時間以内
    • 月45時間を超えるのは、年6回まで

これまで建設業では、36協定があればこれらの上限規制の適用が猶予されていましたが、2024年4月以降は一般企業と同じ基準を守ることが義務となりました。


出典:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説(厚生労働省)

36協定の手続きについての詳細は、こちらの記事をご覧ください。

1年間の時間外労働は720時間以内

36協定の特別条項に定めることで、年間720時間以内の法定外残業が認められます。

ただし、720時間÷12ヶ月=月60時間の残業が認められるわけではありません。特別条項には、「残業が45時間を超える月は、年6回まで」というルールがあるため、毎月60時間の残業は法律違反となります。

また、特別条項で定めた上限時間が720時間未満の場合、その時間が優先されます。例えば、特別条項で「700時間以内」と定めた場合、700時間を超えた時点で違法となります。

時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満

36協定の特別条項を結んだとしても、1ヶ月の時間外労働と休日労働の合計は100時間未満に抑える必要があります。

例えば、以下のケースは合計時間が100時間を超えるため、違法となります。

〈時間外労働〉
1日4時間×出勤日数22日=88時間

〈休日労働〉
1日6時間×出勤日数3日=18時間

〈合計〉
88時間+18時間=106時間

ひと月でも100時間を超えると違法になるため、労務管理には十分注意が必要です。

時間外労働と休日労働の合計は2〜6ヶ月の平均で80時間以内

36協定の特別条項を適用したとしても、2~6ヶ月における時間外労働と休日労働の合計は、月平均80時間以内に設定する必要があります。

これは、1月~12月のうちどの2ヶ月、3ヶ月・・・6ヶ月をとっても、月平均80時間以内に収めなければならないということです。

例えば、繁忙期の4月に95時間の時間外労働をした場合、5月は65時間以内にしなければなりません。

時間外労働が月45時間を超えるのは年6ヶ月まで

36協定の一般条項では、時間外労働の上限は月45時間と定められています。しかし、特別条項付き36協定を締結すれば、この上限を超えて残業することも可能になります。ただし、月45時間を超えられるのは年6回までとされており、無制限に延長できるわけではありません。

例えば、以下のような方法が考えられます。

〈1月~6月の時間外労働〉
45時間×6ヶ月=270時間

〈7月~12月の時間外労働〉
75時間×6ヶ月=450時間

〈1年間の時間外労働時間〉
270時間+450時間=720時間

このケースであれば、1年間の時間外労働の上限「720時間以内」に収まるため問題ありません。
なお、月45時間のカウントに休日労働は含まれません。

災害復旧・復興事業は適用除外

災害時の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の上限について、以下2つのルールは適用されません。

  • 月100時間未満
  • 2~6ヶ月平均80時間以内

建設業の労働時間の現状と課題

建設業で時間外労働の規制がすぐに導入されなかったのは、業界ならではの事情があります。

建設業では人手不足や高齢化により限られた人員で現場を回さざるを得ず、一人あたりの負担が大きくなっていました。また、建設工事は天候の影響で作業が中断しやすく、遅れを取り戻すために長時間労働が発生しやすい状況です。低賃金や休日の少なさも影響し、時間外労働が年360時間を超えるケースも少なくありませんでした。

こうした背景から、建設業ではすぐに長時間労働を是正するのは難しいとされ、時間外労働の上限規制は5年間猶予されていました。しかし、過重労働が続けば従業員の健康悪化やメンタル不調のリスクが高まります。そこで、2024年4月より建設業にも上限規制が適用されました。

建設業の時間外労働の上限規制に対する取り組み

2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、長時間労働に依存した働き方の見直しが求められるようになりました。適正な労働時間管理や余裕ある工期設定はもちろんのこと、元請・下請を含めた現場全体で労働時間を共有し管理する体制も必要となります。

ここでは、建設業の事業者が取り組むべき具体的な対応策について解説します。

労働時間の適正な管理

従業員ひとりひとりの労働時間を正確に把握することが重要です。
例えば、スマホで出退勤を打刻できる勤怠システムを導入すれば、現場への直行直帰が多い建設業でも簡単に労働時間を管理することができます。

さらに、アラート機能を備えた勤怠システムを選ぶのもおすすめです。アラート機能があれば、時間外労働の上限が近づいたときに通知が届くため、違法な長時間労働を未然に防ぐことができます。

特に36協定で定めた上限を超えないよう、労務担当者や現場責任者がリアルタイムに労働時間を把握し、早めに業務調整を行うことが重要です。

週休2日制の導入検討

日本建設業連合会及び国土交通省も、建設業の週休2日制の導入を推進しています。

まとまった休みが取れれば、必然的に労働時間の短縮につながります。また、限られた時間の中で作業するため、モチベーションや業務効率のアップにつながることも期待できます。

さらに、これまで休みが不規則だった建設業で週休2日制が進めば、業界全体のイメージアップにつながり、就労者の増加も見込めます。人手不足が解消することで、長時間労働も徐々に改善されるでしょう。

生産性向上への取り組み

時間外労働が制限されても、業務量が減るわけではありません。限られた時間で急いで作業をすれば、重大な事故やミスを招くおそれもあります。

そこで、事業主は作業効率のアップを図り、労働時間を削減する取り組みが求められます。例えば、機械の導入や作業ラインの見直し、無駄な作業の洗い出しなどを検討しましょう。

余裕のある工期の設定

長時間労働を前提としない、余裕をもった工期を設定することが重要です。発注者と受注者でよく話し合い、実際の作業内容や天候による遅延リスク、休日日数などを踏まえて工期を決めることで、無理のない施工計画を立てることができます。

昨今、建設業でも週休2日制や4週8閉所(4週間で8日休む)の取組みが進み、従業員の休暇確保が重視されるようになっています。こうした働き方改革を前提に、必要な作業日数を見積もることが必要です。

さらに、余裕を持った工期設定は、労働時間の削減だけでなく、現場の安全性向上にも大きく貢献します。作業に追われる状況が減ることで、焦りや不注意による事故のリスクが下がり、無災害の現場づくりにつながるでしょう。

給与体系や社会保険の見直し

建設業の人手不足を解消するためには、給与体系や社会保険など労働条件の見直しが欠かせません。

例えば、日給制から月給制へ切り替えると収入が安定し、求職者にとっても魅力的に映ります。
また、経験や技能に応じた昇給制度の整備も、労働者のモチベーションアップや定着に効果的です。

なお、給与体系を見直す際は以下の2点に注意が必要です。

  • 【同一労働同一賃金】
    業務内容や責任の重さが同等の従業員については、正社員やアルバイトといった“雇用形態”にかかわらず、同一の賃金を支払う必要があります。
  • 【割増賃金】
    月60時間を超える時間外労働については、50%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられています。このルールは、令和5年4月より中小企業にも適用されているため注意しましょう。

さらに、建設業では社会保険に未加入の企業が多いことが課題でしたが、2020年10月の建設業法改正により、社会保険への加入が実質的に義務化されました。健康保険や厚生年金を整えることは、働く人を守るだけでなく、企業の信頼性を高めるうえでも重要です。

「同一労働同一賃金」や「割増賃金」については、以下のページでも詳しく解説しています。

建設業における移動時間や待機時間の考え方

移動時間や待機時間が「労働時間」に含まれるかは、その時間が使用者の指揮命令下に置かれているかどうかで判断されます。よって、就業規則の規程などではなく“実態”に即して判断されるのが基本です。

例えば、以下のような時間は労働時間とみなされる傾向があります。

  • 移動時間(資材の運搬や監視を任されている場合、移動中に打ち合わせを行う場合)
  • 待機時間や手待ち時間
  • 安全教育のための時間
  • 始業前の朝礼や点呼
  • 作業着への着替え

一方、従業員が自主的に掃除や体操を行っている時間や、始業前の自由時間などは、労働時間に含まないのが一般的です。

時間外労働の上限規制に違反した場合の罰則

時間外労働の上限を超えて労働させた場合6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があります。

ただし、違反が発覚したからといって直ちに罰則が適用されるわけではありません。まずは労働基準監督署から行政指導が入り、改善が見られない場合に罰則を科されるのが一般的です。それでも、違反が続くなど悪質なケースでは、企業名が公表されることもあり、社会的信用を大きく損なうリスクがあります。

また、下請企業が時間外労働の上限規制に違反した場合でも、元請企業が労務管理上の責任を問われることがあります。特に元請側が無理な工期設定や過剰な作業量を押しつけた結果として違反が生じた場合には、元請にも連帯責任が及ぶ可能性があるため注意が必要です。

【2025年全面施行】建設業法改定による働き方改革の促進

建設業における人手不足や資材高騰などの課題を受けて、2024年に建設業法が改正され、2025年12月12日に全面施行されました。主な改正点は次のとおりです。

【労働者の処遇改善】
建設業者には労働者の処遇改善の努力義務が課され、国がその取組状況を調査・公表することになりました。さらに、労務費の基準の新設と、不当な見積りや原価割れ契約の禁止も定められ、適正価格での契約が求められています。

【資材高騰への対応】
契約前に資材価格の高騰などのリスクを通知し、請負代金等の変更方法を契約書に明記することが義務化されました。リスク発生時は受注者から工期や代金変更などを求めることができ、発注者には誠実に応じる努力義務があります。

【働き方改革と生産性向上】
長時間労働を防ぐため、発注者・受注者ともに、著しく短い工期で契約を締結することが禁止されました。さらに、ICT活用を条件に技術者の専任義務などが緩和され、特定建設業者にはICT活用の努力義務も課されています。

建設業の時間外労働の上限規制についてのQ&A

特別条項付き36協定は必ず提出しなければなりませんか?

法定労働時間を超えて労働をさせるには、36協定の締結が必須です。
また、1月45時間かつ年360時間を超える時間外労働を行う場合、特別条項付きの36協定を締結し、労働基準監督署に提出する必要があります。

なお、1年単位の変形労働時間制では、時間外労働が1月42時間かつ年320時間を超える場合に特別条項の設定が必要です。

時間外労働の上限規制に伴い、就業規則の改定は必要ですか?

時間外労働の上限規制に伴い、勤務時間や休日などの“労働条件”を変更する場合、就業規則の改定が必要となります。
就業規則の改定後は就業規則変更届、労働者を代表する者の意見書、変更後の就業規則を所轄の労働基準監督署に提出した上で、労働者に就業規則の変更を周知します。

就業規則の変更方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

建設業の週休2日制に関して、法律上の規定はありますか?

2026年時点では、建設業に「週休2日制」を義務づける法律はありません。
そのため、時間外労働の上限を守っていれば、週休1日や不定休であっても法的な問題はありません。

ただし、人手不足や高齢化が進む現在では、週休2日制は人材確保や離職防止に有効とされており、国土交通省も公共工事を中心に導入を推進しています。将来的に義務化される可能性も踏まえ、事業主は前向きに週休2日制の導入を検討することが望ましいでしょう。

時間外労働の上限規制されたことで、下請契約においてはどのような取り組みが必要ですか?

工事を請け負う建設業者も、著しく短い工期で請負契約を締結することが禁止されています(改正建設業法19条2項)。

時間外労働の上限が規制されたため、たとえ発注者と受注者で工期を合意・契約していても、労働基準法の定める上限時間を超えて作業を行うことはできません。そのため、注文者だけでなく受注者も、余裕のある適切な工期を定めることが重要です。

着工後に遅れが生じた場合、当事者間で協議のうえ、工期の延長も検討する必要があります。

建設業における時間外労働の上限規制については弁護士にご相談ください

建設業の労務管理は複雑なので、事業主の方だけで対応するのは困難です。また、毎月の上限時間を定めたり、従業員の労働時間を正確に把握したりと、多くの手間がかかります。

弁護士であれば、時間外労働への取り組みについて具体的なアドバイスができます。自社に合った方法を選ぶことで、効率よく労務管理が行えるでしょう。
また、人手不足や従業員のメンタル不調など、中小企業が抱えるさまざまな問題についても幅広くサポートが可能です。

弁護士法人ALGは、建設業でも多くの顧問契約を締結しています。建設業界ならではの問題にも対応していますので、お困りの方はぜひ一度ご相談ください。

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執筆弁護士

弁護士法人ALG&Associates
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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