メンタルヘルスが人材定着に及ぼす影響

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

メンタルヘルスとは心の健康を指します。メンタルヘルスが不調となってしまう原因は、私生活上の出来事がきっかけとなることもありますが、業務上の要因によってメンタルヘルス不調を引き起こすケースも非常に多くあります。
精神疾患による労災請求件数は年々増加傾向にあり、支給決定件数も増加しています。企業がメンタルヘルス対策を行う理由は個人の生産性や、周囲への影響、労務リスクなど様々でしょう。
今や離職原因の大きな柱となっているメンタルヘルス不調。本稿では、メンタルヘルスが人財定着に及ぼす影響について解説していきます。

目次

メンタルヘルス問題が企業の人財定着に及ぼす影響とは?

メンタルヘルス問題が発生すると、以下の2点において職場環境の悪化が見込まれます。

  • ① 当該従業員のパフォーマンスが落ち、そのまま回復しなければ休職や離職になる可能性がある。
  • ② 当該従業員の業務量を調整するため、もしくは引き継ぐために周囲の従業員の業務量が増え、長時間労働など、重い負荷がかかる可能性がある。

上記のように、メンタルヘルス不調となった従業員の離職だけでなく、周囲の従業員についても、業務の過重負荷によって離職する可能性があります。

メンタルヘルス問題はドミノ倒しのように離職が広がっていく可能性があり、人財定着に及ぼす影響は非常に大きいものでしょう。メンタルヘルス問題は、不調者が発生した部署でだけ対応するのではなく、会社としてどのように対応していくのかスキームを立てて対処することが重要です。

メンタルヘルスについての詳細は下記ページで詳細を解説しています。

近年のメンタルヘルス問題の深刻化

患者調査という統計データをご存知でしょうか。
この統計データによると精神疾患による総患者数は500万人超となっています。メンタルヘルス不調の患者は20年前のおよそ2倍相当まで増加していることになります。

「メンタルヘルス不調=うつ病」と考える方も多いでしょう。しかし、うつ病と診断されることだけがメンタルヘルス不調ではありません。
厚生労働省によると「精神および行動障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むもの」とされています。
つまり、病名がつかなくても、強いストレスや不安から気分の落ち込みが激しく、仕事の集中力を著しく欠くような状態もメンタルヘルス不調といえます。

最近、沈みがちでパフォーマンスも落ちている、という従業員は社内に一人もいないでしょうか。今は該当者がいなくても、メンタルヘルス不調は決して他所の問題ではなく、いつ社内で発生してもおかしくない身近な問題になっているのです。

メンタルヘルス不調と離職率の関係

2022年の労働安全衛生調査(実態調査)では、1年間にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上の休業もしくは退職が発生した事業所の割合は13.3%とされています。

メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所割合は6割を超えていますが、メンタルヘルス不調による離職等は増える一方です。法定のストレスチェックや相談窓口の設置が対策の大きな柱となっていますが、離職を防ぐにはこれだけでは十分とはいえないでしょう。メンタルヘルス不調の原因を未然に防止することが離職を食い止めることに繋がります。

メンタルヘルス不調を引き起こす職場原因にはどのようなものがあるでしょうか。同調査によると強いストレスや悩みのある労働者は8割超にのぼります。その主な要因は、仕事の量、仕事の失敗や責任の発生、対人関係などとされていますので、管理職のマネジメント教育やハラスメント対策、相談窓口の活性化などの対応を行っていくことが有効と考えられます。

また、メンタルヘルス不調が発生した場合、法定の制度ではありませんが、多くの企業が休職制度を設けています。休職対応やその後の退職対応についても近年トラブルが多発しています。メンタルヘルス不調が発生したら弁護士などの専門家に相談しながら対応していく方が良いでしょう。

退職及び解雇については下記ページをご確認ください。

周囲の従業員の離職に繋がるおそれも

メンタルヘルス不調は休職・退職になる以前から個人の生産性低下が発生しています。その場合、周囲の従業員がフォローすることになれば残業の助長に繋がります。
また、休職や退職となれば、周囲の従業員へ業務が引き継がれ、過重労働や強いストレスが発生することになり、離職を検討する従業員も出てくるでしょう。

メンタルヘルス不調が発生した場合、当該従業員へのフォローはもちろんですが、人員不足や業務過多など周囲の従業員への影響にも注意するべきです。業務量の増えた従業員へ手当や賞与の増額など経済的な面で対処することも必要ですが、それだけでは周囲の従業員のモチベーションを維持することは難しいでしょう。

上司や管理職が周囲の従業員の苦労を労い、正しく評価しフィードバックする精神的報酬が大切です。2次的なメンタルヘルス不調や離職を引き起こさないためには、周囲の従業員の状態をしっかり把握することも重視するようにしましょう。

職場でメンタルヘルス不調が発生する主な要因とは?

メンタルヘルス不調の主な要因となる3点について解説します。
どのような職場にも発生する可能性があるものばかりですので、今は該当しないと思っても内容を把握しておくことをお勧めします。

これらの要因が1つでも当てはまるのであれば、職場にメンタルヘルス不調の兆しがある従業員がいないか、改めて確認しておきましょう。メンタルヘルス不調は早期発見・早期対処が肝心です。

過重労働

過重労働は、長時間労働や休日出勤によって、時間外・休日労働時間が月100時間を超える、もしくは2~6ヶ月平均で月80時間を超えるような労働状況を指します。
一般的に過労死ラインとも言われ、このような状況が続くと身体・精神に様々な健康障害を引き起こすとされています。長時間労働は睡眠不足に陥りやすく、睡眠時間の減少はメンタルヘルス不調者の発生頻度を高めるとされています。

また、過重労働になると休憩時間を削るなど適切な食事を怠ることも多く、食事時間の不規則化や栄養不足などになるケースもあります。もし、過重労働が発生し常態化しているのであればすぐに対処しましょう。

どうしても残業を続ける従業員がいるのであれば勤務間インターバル制度の導入や、仕事の持ち帰り禁止などの規則を徹底しても良いでしょう。従業員が生活時間を確保し、心身を休ませる時間がとれるよう職場環境の見直しを行うことが重要です。

労働時間については下記ページをご参考ください。

仕事の失敗・責任の発生

仕事の失敗や責任の発生によって、短期間に強いストレスや悩みを抱えるとメンタルヘルス不調に繋がることがあります。

仕事である以上、常にコンフォートゾーンにいるわけにはいきませんので、新たな試みによってビジネスパーソンとして成長してもらうことは大切です。しかし、仕事上の失敗が発生したときに、フォロー無く責任だけを誇張されてしまうと成長よりも回避(離職)にベクトルが向いてしまいます。

仕事の失敗をしたときこそ、上司の手助けやフォローが大切です。失敗したことを過剰に叱責したり、他の従業員への見せしめになるような対応をすればハラスメントにも繋がります。仕事の失敗や責任が発生した時こそ管理職は丁寧な対応を心がけましょう。

正しく対処すれば優秀な人財へ成長し定着に繋がっていきます。対応によって離職と定着の別れ道となるでしょう。

ハラスメントを含む対人関係の問題

ハラスメントは代表的なものとして、セクハラ、マタハラ、パワハラがあります。
近年では社外の人間からのハラスメントとしてカスハラについても重要視されています。

ハラスメントとメンタルヘルス不調には強い関連性があります。そしてハラスメントでは被害者だけでなく、ハラスメントを目撃する周囲の従業員もメンタルヘルス不調を引き起こすことが示唆されています。
まずは社内のハラスメント対応状況を確認してみましょう。

管理職への研修は定期的に行っているでしょうか。
相談窓口は設置しているでしょうか。
相談担当者の対応マニュアルは適切でしょうか。

たとえば窓口があっても形骸化していれば無意味となってしまいます。形式的ではなく実際に運用できているのかを確認しましょう。

もし、社内の窓口だけで不十分なのであれば、専門家の社外相談窓口を設置することも有用です。ハラスメント対策は企業の義務ですので、対応内容に疑問があれば弁護士へご相談ください。

ハラスメントについては下記ページで詳細を解説しています。

人財定着には従業員の精神面でのケアが必要不可欠

どれほど仕事にやりがいがあっても、精神的負荷が大きすぎる職場では長期にわたって働くことは難しくなります。
人財をしっかりと定着させるには、従業員の身体だけでなく、精神面にも配慮できる職場作りが必要です。心身の健康が保てる職場では、従業員の生産性低下防止だけでなく、職場全体の活力向上などプラスの活性化が見込まれます。

メンタルヘルス対策にはどのようなものがあるでしょうか。
一般的によく知られているのは法定のストレスチェック制度でしょう。しかし、その他にも相談窓口の設置や、産業医と連携したチーム作り、産業保険総合支援センターの活用など、企業によって様々です。自社にあったメンタルヘルス対策を社内のニーズを踏まえて整備していきましょう。

メンタルヘルス対策における4つのケア

メンタルヘルス対策は、従業員のパフォーマンス低下や離職を防止し、心身共に健康な状態で働いてもらうために行うものです。法律の観点から述べると、メンタルヘルス対策は企業の安全配慮義務に含まれると考えられます。つまり、対策を怠り従業員が精神疾患等を発症すれば損害賠償請求の対象となり得ますので、離職率が低いからメンタルヘルス対策は不要、というわけにはいきません。

厚生労働省はメンタルヘルスに関する4つのケアを公表しています。メンタルヘルス対策を効果的に行うにはこの4つのケアを継続することが重要とされています。4つのケアを理解し、社内のメンタルヘルス対策に役立てましょう。

使用者の配慮義務については下記ページでご確認ください。

セルフケア

メンタルヘルス対策は会社主導で行いますが、従業員自身にも心の健康に目を向けてもらうようにしましょう。従業員に以下のようなセルフケアが行える教育の機会や情報提供を会社主導で行います。ストレスチェック実施のタイミングで行うことも効果的です。

  • ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
  • ストレスチェックなどを活用したストレスへの気づき
  • ストレスへの対処

なお、セルフケアの対象者は管理職も含まれます。管理職にもセルフケアを積極的に行うよう働きかけましょう。なお、厚生労働省の「こころの耳」というページではセルフケアに関する研修動画が掲載されています。このような公的な情報提供についてもうまく活用するとよいでしょう。

ラインによるケア

ラインによるケアとは、職場の管理職が主体となって職場環境改善を含むメンタルヘルスケアを行うことを指します。具体的には、部下のメンタルヘルス不調を早期発見して支援したり、人事労務スタッフと連携して労働条件の改善や適正配置の配慮などを行います。

仕事上の悩みは上司に相談することが最も多いと調査データで明らかになっています。適切なラインケアの実施ができるようになれば、メンタルヘルス不調を食い止める有効な体制といえます。

まずは管理職に自身の役割を認識してもらえるよう研修などを行いましょう。管理職に求められる対応を理解することで、部下の言動の異変やSOSに意識が向くようになります。メンタルヘルスケアでは、いつもと違う様子に気づくことが非常に重要なのです。

管理職に求められるのは早期発見と傾聴等の対応です。しかし単独での解決まで求められてはいません。
管理職は相談内容に応じてしかるべき専門家や適任者へ繋げることが求められるのであって、一人で抱え込むことは管理職自身のメンタルヘルスに影響する可能性があります。管理職と連携して対応できるチーム作りを事前に想定しておくと良いでしょう。

事業場内産業保健スタッフ等によるケア

セルフケアやラインケアで対応できない範囲については専門家のアドバイスを得るようにしましょう。3つめのケアは医療専門職による支援です。事業場内産業保健スタッフ等によるケアでは、産業医や産業保健師などの医療専門職と連携して助言を得たり、職場巡視で気になった点を管理職や人事労務スタッフと情報共有してもらう等、会社全体のケアをサポートしてもらいます。

産業医の選任義務は事業場の従業員が50人以上の場合となっていますので、会社の規模によっては産業医がいないこともあるでしょう。その場合には、地域産業保健センターが保健サービスの提供を行っているので相談先として利用してもよいでしょう。

しかし、利用回数の制限もあるので、継続的な支援という点では50人未満の事業場であっても産業医を選任しておくのがメンタルヘルスケアにおいては有益と考えられます。

事業場外資源によるケア

社内資源だけでなく、社外の専門機関の活用によってメンタルヘルス対策を行うことも大切です。
情報提供や研修を受けたり、職場復帰における支援などサービス内容は多岐にわたります。社外の専門機関と連携することで、メンタルヘルス不調の予防や、発症後の対応など社内だけでは難しいサポートをしてもらえるよう、日頃から連携先を検討しておきましょう。

事業場外資源としては産業保健総合支援センターや民間の産業保険サービス会社、EAPサービスを行う民間企業などがあります。弁護士もメンタルヘルス研修や、メンタルヘルス不調者の法的対応についてアドバイスする等の点で事業場外資源に該当します。

人財定着を促進するEAP(従業員支援プログラム)とは?

EAPには社内のスタッフが行う内部EAPと、社外のサービス提供会社が行う外部EAPがあります。いずれも職場の生産性に関する問題のサポートや、従業員のパフォーマンスに影響する問題解決の手助けなどを行うことが多く、外部EAPについてはそれぞれ専門分野が異なっています。

例えば相談したいことはあるけれど社内の人間には知られたくないといった場合、外部EAPと契約していれば、従業員のニーズに沿った対応が可能となります。また、メンタルヘルス不調が発生した場合にも、休職などの制度に関する相談対応や、復職支援、社内の緊急対応についてのアドバイスなど、EAPで受けられるサービスは様々です。

EAPを導入することで、社内だけでは対応できていなかった従業員の心の健康に関する相談が可能になります。例えば、従業員のメンタルヘルス不調の原因が職場ではなくプライベートにあるのであれば、従業員が直接弁護士へ相談できるEAPサービスも有用です。

プライベートの問題に会社が介入することは難しいですが、解決しなければ仕事のパフォーマンスやメンタルヘルスに影響し続けてしまいます。家庭の悩み等をEAPサービスの一環として弁護士に相談し不安を払拭できれば生産性の低下を防ぐことができるでしょう。

どんな問題であっても相談できる窓口があれば、適切にガス抜きができるのでメンタルヘルス保持に繋がり、離職防止にも寄与することでしょう。

EAPを導入するうえでのメリットは下記ページで詳細を解説しています。

メンタル不調を予防することで、従業員の離職を食い止めることができます。分からないことがあれば弁護士にご相談下さい

メンタルヘルス問題に取り組むことは離職防止に繋がります。
メンタルヘルス不調を未然に防ぐ職場づくりが大切となりますが、そのためには様々な労務管理やハラスメントに対する従業員の意識改革などが必要となってきます。

また、どれだけ未然に防ごうとしてもメンタルヘルス不調が発生する可能性はあります。発生した時の産業医との連携や休職制度の活用など企業が行う対応は多岐にわたります。しかし、事前に体制を整えておくことで貴重な人財の離職を食い止められるのであれば、企業として取り組まないという選択肢はないでしょう。

制度整備や管理職研修など不明点があれば弁護士へご相談ください。弁護士であれば、個々の会社に応じた法的マネジメントが可能です。

よくある質問

企業がメンタルヘルスケアを怠った場合、どのようなリスクが生じますか?

メンタルヘルスケアに関連する会社の主な義務的措置は以下のようなものがあります。

  • ストレスチェックの実施
  • 産業医の選任
  • 安全衛生委員会の設置

これらの義務を怠ると労働安全衛生法に違反することとなり、違反内容によっては50万円以下の罰金や是正勧告の対象となり得ます。

しかし、これらをただ実施しているだけでは完璧とはいえません。会社には安全配慮義務があり、心の健康に配慮することもこの義務に含まれると解されています。

つまり、メンタルヘルス不調が職場環境や職務内容によって引き起こされた場合、業務量の調整や産業医との面談、休職等適切な対応を会社が行わなければ不法行為に該当することになります。その場合には、損害賠償請求の対象ともなり裁判等に発展するリスクがあります。

また、メンタルヘルス不調を引き起こす環境を改善しなかったときのリスクはこれだけではありません。メンタルヘルス不調を訴えた従業員が休職やパフォーマンス低下等になることによって、周囲の従業員に負担が発生し過重労働に繋がる可能性があります。

そのような状況が継続すれば周囲の従業員にもメンタルヘルス不調や離職等が発生することになり、人財定着とは真逆の現象を引き起こしてしまうでしょう。

使用者の配慮義務については下記ページよりご確認ください。

メンタルヘルス問題と使用者の損害賠償責任については下記ページで解説しています。

EAPを導入する手順について教えて下さい。

EAP(従業員支援プログラム)には様々なサービスがありますが、自社のニーズに合ったものを導入しなければ求める効果は得られません。カウンセラーが社内に在室するなどの内部EAPや、社外の民間企業が行う外部相談窓口のようなEAPサービスもあります。

EAPは会社全体で行うメンタルヘルス対策です。EAPを導入すればメンタルヘルスケアが完成するわけではありませんので、あくまで対策の一部として機能させることを意識しましょう。

まずは過去、現在の従業員に起きているメンタルヘルス不調の情報収集等を行い、メンタルヘルスケアの方針や計画を策定します。社内に産業保健スタッフがいるのであれば、その意見を聞きながら調整し、EAPサービスの内容を検討しましょう。特にメンタルヘルスケアやEAPの重要性を管理職に理解してもらうことが大切です。管理職研修を行ったり、試験的にカウンセリングを体験してもらうなどすると良いでしょう。

また、EAPサービスは状況に応じて変更することもできます。実施方法やサービス内容が自社に合っているのか、利用率は上がっているのか等を定期的に確認し、効果が無いのであれば他のサービスを検討してみましょう。EAPサービスの利用率促進を行いながら、サービス内容については適宜検討を行い、社内に浸透する効果的なサービスを模索することが大切です。

健康な働き方と組織マネジメントについては下記ページで解説しています。

メンタルヘルスの不調はどのような社員に起こりやすいのでしょうか?

性格面では完璧主義や責任感が強い場合にはうつ病に罹患しやすい傾向があるとされています。ストレス傾向としては、コップに半分入った水を、「半分しか」入っていないと考える人はネガティブ思考が強いとされています。

しかし、メンタルヘルス不調はこのような真面目だったり、ネガティブ思考の人だけがなるのではない、という点に注意が必要です。メンタルヘルス不調は転勤や昇進などの環境変化や、仕事上の失敗などが引き金として発症することもあります。既往歴がある従業員だけを注視していても不十分なのです。

メンタルヘルスの不調の兆候としては、食欲減退や睡眠の質の低下、不安感の増強などがあります。これにともなって、外見にも表情が乏しくなったり、遅刻や欠勤が増えるなどの変化が起きることが多いとされています。

もし、仕事の悩みを抱えて苦しんでいたり、勤務態度や外見の変化等に気になる従業員がいれば、上司から産業医の面談を促すなど、早めの対処を心がけましょう。

職場のメンタルヘルスケアを産業医に一任しても良いですか?

産業医は従業員の健康管理や職場巡視、面談等の対応、衛生委員会の参加等が主な職務となります。会社全体のメンタルヘルスケアについてサポートをしてもらうことは可能ですが、一任することは難しいでしょう。

会社の専属であるか等によって、その対応にも差はあるでしょう。職場のメンタルヘルスケアについては、産業医には心の健康作り計画に参加してもらい、全体的な方針・方策を設計してもらいましょう。その上で、日常の細かな体制作り等については現場である衛生管理者や管理職等が主役になって行うことも必要です。

ただし、疑問点が生じれば産業医、もしくは産業保健師へ相談しながら対応を進めていきましょう。事案によってはその他の専門家も含めた対応を検討します。

職場のメンタルヘルスケアは誰かに一任するのでは無く、職場内外の人間が協力し合って構築していかなければなりません。事業規模によっては産業医の選任義務が無く、社外の医師に対応を求めるケースもあるでしょう。どのような社外資源を活用するのかについては、社内状況を踏まえて検討しましょう。法定の制度整備についての疑問があれば弁護士へご相談ください。

産業医については下記ページよりご確認ください。

従業員のストレスを把握するために有効な手段を教えて下さい。

多くの企業で活用されているのはストレスチェックの実施です。
これは50人以上の事業場では義務とされていますが、近年では50人未満の事業所でも実施する傾向があります。

しかし、ストレスチェックの結果は従業員本人と実施者・実施事務従事者しか見ることができません。会社が個人のストレスチェック結果を開示するには従業員の同意が必要です。ただし、ストレスチェックの集団分析を行うことは可能です。この集団分析の結果を毎年蓄積することで、部署毎の傾向や経時変化などを把握することが可能です。まずは、集団分析結果による傾向と対策から始めても良いでしょう。

その他、法定の手段では無く会社が独自に行うものもあります。たとえば定期的に1on1ミーティングを行うことで管理職が部下のストレスを把握するという対応も可能でしょう。最近では、毎週水曜日にパソコンを起動させると、メンタルの状態を5段階評価で回答するなどの定期アンケートを実施することもあります。結果を人事や管理職で共有することで従業員の不調のサインに気づく機会を増やすことができるでしょう。

ストレスチェックについては下記ページで解説しています。

社内相談窓口の設置は、メンタルヘルス不調による離職防止として有効ですか?

メンタルヘルス不調の原因が職場内にあるのであれば、社内相談窓口の設置は一定の効果はあるでしょう。
しかし、原因がプライベートの問題である場合には社内の相談窓口は活用しづらいものです。プライベートの問題であれば会社が関与する必要はありませんが、離職に繋がる懸念があるのであれば対処できた方が良いでしょう。
このような場合には、プライベート問題でも相談できる社外窓口を設置することで、より離職防止への効果が期待できます。

社内・社外いずれにもいえることですが、ただ設置して周知するだけでは不十分です。相談窓口の活用を促進する施策を行わなければ、離職防止の一手とはなりません。
例えば、管理職が試しに相談窓口を利用し、体験談を部署内で話せばリアルな利点が伝わります。また、管理職が有用性を体験することで、部下にメンタルヘルス不調がみられれば相談窓口を勧めやすくなります。まずは、相談窓口の存在を認識してもらい、最初は活用者を会社主導で増やしていくとよいでしょう。

また、相談窓口の対応スキルにも注意が必要です。相談窓口を活用する人は悩みを抱えていて非常に困っている状態です。もし、対応マニュアルがなく、担当によって対応が違ったり、ずさんな対応となっていれば、その従業員は二度と相談しようと思わなくなってしまうでしょう。

相談対応スキルについては研修を定期的に行い、マニュアルを作成してどの担当者でも同じ対応ができるように社内で徹底することが必要です。社内に相談窓口を浸透させ、活用しやすい体制を整えれば離職防止に有効な体制となるでしょう。

従業員数の少ない小規模事業場においても、産業医や保険スタッフを置く必要がありますか?

労働安全衛生法では50人以上の事業場で産業医の選任が義務とされています。
しかし、選任義務の無い小規模事業場の場合でも、産業医が必要になるケースはあります。
例えば長時間労働となっている従業員や、ストレスチェックで高ストレス者となった従業員の面談対応等です。

産業医を選任していない場合、地域産業保健センターを活用することでサービスを受けられますが、回数制限などがあるため継続した相談等は難しくなっています。もし、休職から復帰する従業員がいるのであれば、その復職判断や支援プランの作成にも産業医は大きな役割があります。自社の状況を振り返り、メンタルヘルス不調による離職者や、メンタルヘルス不調を訴えている従業員、その可能性のある者等が既にいるのであれば産業医や保健スタッフ等を検討するタイミングでしょう。

法定の義務はなくても、従業員の心身の安全に配慮することは会社の義務です。状況に応じて産業医や保健スタッフの選任を検討しましょう。

産業医については下記ページよりご確認ください。

休職者の職場復帰をサポートするために、企業が行うべきことを教えて下さい。

休職者が職場復帰する際、その従業員の状態に応じてどのようなサポートが必要になるのか社内で復帰支援プランを作ることが推奨されています。厚生労働省から職場復帰支援の手引きが発表されているので参考にすると良いでしょう。
職場復帰支援の流れは下記のような5つのステップに分かれます。

  1. (第1ステップ)病気休業開始及び休業中のケア
  2. (第2ステップ)主治医による職場復帰可能の判断
  3. (第3ステップ)職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
  4. (第4ステップ)最終的な職場復帰の決定
  5. (第5ステップ)職場復帰後のフォローアップ

従業員が復職を希望した場合、会社は主治医の診断書を求めることが一般的です。この診断書をもって第3ステップに移行することでしょう。
しかし、主治医は日常生活における病状の回復レベルによって職場復帰の可能性を判断するため、職場で必要となる業務遂行能力が回復していないこともあります。この点は主治医だけでなく、産業医の意見も仰ぎながら判断していくと良いでしょう。

職場復帰支援プランは産業保健スタッフがいる場合には、そのスタッフが中心となり作成しますが、いない場合には人事担当者が作成の中心となることが多いでしょう。管理職や従業員本人などと情報交換を行い、社内で連携しながらプラン作成を進めていくことになります。

プラン内容は状況に応じて様々ですが、リハビリ出勤等を導入する企業もあります。従業員の職場復帰率を高める効果が期待されていますが、リハビリ出勤時の賃金や労災の取扱いが曖昧でトラブルとなるケースもありますので、導入する場合には専門家を交えて制度設計を行う方が良いでしょう。

リハビリ出勤については下記ページで解説しています。

メンタルヘルス不調による退職の申し出を断ることは可能ですか?

結論としては、退職の申し出を拒否し、雇用継続を強制することはできません。
民法上、無期雇用の従業員であれば、退職の申し出から2週間が経てば会社の承諾がなくても雇用契約は終了となります。有期雇用の場合は、やむを得ない事由がなければ期間途中の退職はできないとされていますが、メンタルヘルス不調の程度によってはやむを得ない事由に該当すると考えられます。

では、貴重な人財が退職するのを会社は受け入れるしかないのでしょうか。
メンタルヘルス不調が原因による退職希望であれば、休職制度の活用や、時短勤務、在宅勤務等、治療と仕事を両立させる働き方を提案してみてもよいでしょう。その上でメンタルヘルス不調の原因を確認し、原因が職場にあるのであれば、第2第3のメンタルヘルス不調者を出さないためにも早急に対応しましょう。従業員に寄り添った対応をすることで、退職ではなく、その後の人財定着に繋がる可能性もあります。

退職及び解雇については下記ページをご確認ください。

職場のストレスが原因で自殺者が出た場合、会社は責任を問われるのでしょうか?

自殺の原因が職場にあるのであれば、会社は遺族に対して損害賠償責任を負うことになるでしょう。

会社は従業員の心身の安全に配慮しなければいけないとされています(安全配慮義務)。自殺を強行してしまうほどの原因を改善せず見過ごしたのであれば、会社に十分な過失が認められる可能性があるでしょう。

事件がメディアに取り上げられたりすれば、社会的信用にも大きく影響します。仕事の取引や採用困難などの2次的な損害が発生すると考えておくべきです。

通常、職場が原因となる自殺の要因としては、長時間労働やハラスメント等人間関係が主なものとしてあげられます。それらの問題を放置していたのであれば、会社の管理ミスと判断されます。

もし、塞ぎ込んでいたり、仕事のパフォーマンスが低下している従業員がいるのであれば積極的に声をかけましょう。気落ちからメンタルヘルス不調に発展しないよう早期発見・早期対処の意識が肝要です。

メンタルヘルス問題と使用者の損害賠償責任については下記ページよりご確認ください。

メンタルヘルスを原因とする自殺者の近況については下記ページよりご確認ください。

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執筆弁護士

弁護士 アイヴァソン マグナス一樹
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士アイヴァソン マグナス一樹(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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