パワハラ防止措置の内容についてYouTubeで配信しています。
いわゆるパワハラ防止措置の指針に基づき、企業は①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談・苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応並びに④併せて講ずべき措置をパワハラ防止措置として行わなければなりません。
動画では、これらのパワハラ防止措置の内容について、指針に沿って解説しています。
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監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「パワハラ防止法」といいます。)では、すべての企業に対してパワハラ防止措置を講じることが義務付けられています(同法第30条の2第1項)。
また、具体的な措置は厚生労働省の指針で定められているため、事業主は十分理解のうえ、適切に対応することが重要です。
本記事では、パワハラ防止法の概要や目的、企業が講じるべき措置の内容を具体的に紹介していきます。
自社のパワハラ防止対策にご不安がある方は、ぜひご覧ください。
目次
2022年から中小企業もパワハラの防止措置が義務化
2020年に施行されたパワハラ防止法により、事業主はパワハラ防止措置を講じることが義務付けられました。
本法の成立の背景には、パワハラの相談件数の増加が挙げられます。
都道府県労働局に寄せられる相談において、「いじめ・嫌がらせ」に関するものが急増しており、パワハラは社会問題になりつつあります。
このような状況を改善するため、法整備によってパワハラ対策の強化が図られました。
また、当初パワハラ防止法の適用対象は“大企業のみ”でしたが、2022年の法改正により、中小企業にも適用範囲が拡大されました。
パワハラにあたる行為の具体例とは?
パワハラとは、職場で⾏われる言動のうち、以下3つの要素を全て満たすものをいいます。
- ① 優越的な関係を背景とした⾔動であって、
- ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
- ③ 労働者の就業環境が害されるもの
例えば、「役立たず」「バカでのろま」など部下の人格を否定する言葉や、大勢の前で長時間怒鳴り続ける言動などは、パワハラに該当する可能性があります。
なお、「職場」は社内だけでなく、仕事の延長といえる場面も含みます。例えば、終業後の懇親会や接待、出張先、通勤途中の言動もパワハラとなり得ます。
また、「労働者」は正社員だけでなく、パートやアルバイト、契約社員など、自社で雇用するすべての者が対象です。
パワハラの定義についてより詳しく知りたい方は、以下のページも参照してください。
企業に義務付けられるパワハラ防止措置の内容とは?
厚生労働省の指針では、パワハラを防止するため企業に以下の措置を講じるよう義務付けています。
- ①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
- ②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- ③職場におけるパワハラの事後の迅速かつ適切な対応
- ④①~③とあわせて講ずべき措置
それぞれの措置について、次項から具体的にみていきます。
①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
事業主は、以下の事項について就業規則などで定め、労働者に周知・啓発する必要があります。
- パワハラの内容
- パワハラを行ってはならない旨
- パワハラを行った者に対して厳正に対処する旨
- 対処の内容
周知方法は、就業規則だけでなくパンフレット、社内報、ホームページなどの広報を利用することも可能です。また、パワハラに関する研修や講習を実施するのも有効と考えられます。
また、パワハラ行為者への対処としては、就業規則において新たに懲戒規定を設けるか、現行の懲戒処分の対象となり得る旨を明示するのが一般的です。
②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
労働者が相談しやすい環境を作るため、事業主は以下の措置を講じることが義務付けられています。
- 【相談窓口の設置・周知】
- 相談に対応する担当者を定めること
- 相談に対応するための制度を設けること
- 外部の機関に相談窓口を委託すること
- 相談窓口の電話番号や担当者、利用方法について労働者に周知すること
- 【相談内容や状況に応じた適切な対応】
- 相談時の留意点などをまとめたマニュアルを作成すること
- 相談窓口の担当者に対し、相談に応じる姿勢や対応方法について研修を行うこと
- 相談を受けた者が、人事部などと迅速に連携できる仕組みを設けること
③職場におけるパワハラの事後の迅速かつ適切な対応
職場でのパワハラが疑われる場合、事業主は速やかに以下の措置を講じる必要があります。
【事実関係の迅速かつ正確な確認】
相談者と行為者それぞれから話を聞き、事実関係の確認を行います。双方の主張が食い違う場合、第三者へのヒアリングも行いましょう。
なお、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなど、その認識にも適切に配慮する必要があります。
【パワハラ被害者への対応】
パワハラ被害者に対して、配置転換や被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、産業医や保健スタッフによるメンタルケアなどの配慮を行うことが求められます。
【パワハラ行為者への対処】
就業規則や服務規律に基づき、懲戒処分などを行います。また、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助や被害者への謝罪、被害者と引き離すための配置転換なども検討すべきでしょう。
【再発防止措置】
・パワハラを禁止する旨や、パワハラ行為は懲戒処分の対象になり得る旨を、改めて周知すること
・パワハラへの意識を高めるため、研修や講習を行うこと
④①~③とあわせて講ずべき措置
パワハラによる弊害を防ぐため、事業主は以下2つの措置も講じることが義務付けられています。
- 相談者や行為者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じること
例:相談窓口の担当者へプライバシー保護に関するマニュアルを配布する、又は研修を実施する - 相談したことを理由に、解雇や降格などの不利益取扱いを受けることはない旨を定め、労働者に周知すること
例:相談窓口の利用方法と併せ、就業規則などに明記する
パワハラの防止措置義務を怠った場合の罰則は?
パワハラ防止法上、同法に違反したことに対して直接罰則を科す規定はありません。
ただし、厚生労働大臣は必要があると認めるときは、事業主に対する助言、指導又は勧告をすることができます(同法第33条第1項)。
同法違反に対する勧告に事業主が従わない場合には、その旨が公表される可能性もあります(同条第2項)。
また、厚生労働大臣は、事業主からパワハラの防止措置義務の実施に関し必要な事項について報告を求めることができます(同法第36条第1項)。
厚生労働大臣から報告を求められた事業主が、報告をせず、又は虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料に処せられます(同法第41条)。
また、当然ながら、パワハラ防止措置を講じないとパワハラが発生する可能性は相対的に高まるといえます。パワハラが発生した場合、被害者に対して企業が損害賠償義務を負う可能性があることに注意してください。
パワハラだけでなくセクハラ・マタハラ等の対策も必要
職場におけるセクシュアルハラスメント※1や、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント※2についても、当該言動により労働者の就業環境が害されることがないよう、防止措置を講じることが事業主に義務付けられています。
※1 男女雇用機会均等法第11条
※2 男女雇用機会均等法第11条の2及び育児・介護休業法第25条
セクハラ・マタハラの定義や対応方法については、以下のページでも解説しています。ぜひ参照してください。
職場におけるパワハラに関する裁判例
パワハラに関する裁判例として、三洋電機コンシューマエレクトロニクス事件(平20(ネ)66号 広島高等裁判所松江支部 平成21年5月22日判決)をご紹介します。
【事件の概要】
Y社は業績悪化に伴い、Xを含む従業員に対し、他部門への生産応援や異動、県外会社への出向を検討していました。
そんな中、従業員Xは同僚に対し、他の従業員Aの悪口や噂を吹き込むなど不適切な言動を繰り返していました。さらに、本言動の事実確認後も、XはY社に対して「工場でサンプルを不正出荷している従業員がいる」「契約社員を不当に辞めさせようとしている」など不適切な発言を繰り返していたことから、人事部社員はXを呼び出し、面談を実施しました。
その際、Xは無断でボイスレコーダーを持参しており、後にその録音データを証拠として人事部社員のパワハラ行為について訴えを起こしました。
【一審判決】
ボイスレコーダーの録音データには、「あなたの行動は会社にとって迷惑だ」「名誉棄損で訴えてやる」「会社の決定には一切口を出すな」「全体の秩序を乱すような者は辞めてもらう」といった趣旨の人事部社員による高圧的な発言が記録されていました。また、他にも、
- 人事部がXに対し、「必要に応じて譴責以上の処分を下す」旨の覚書に署名捺印させたこと
- 製造業ではなく清掃業を担う他社に出向させたこと
- 出向先での人事評価を下げるよう依頼し、基本給の減額を招いたこと
などの事実から、裁判所は「Xに対する会社側の対応はパワハラにあたる」と判断した上、Y社に慰謝料300万円の支払いを命じました。
【裁判所の判断】
裁判所は、面談時の高圧的な態度や発言は指導の範囲を超えているとし、人事部社員のパワハラ行為を認定しました。
一方、Xについても、「面談時に不遜な態度を取り続けていたこと」や「無断でボイスレコーダーを持ち込んでいたこと」など落ち度があるとして、賠償額は相当低額で足りるとしています。
その結果、裁判所は、慰謝料は一審よりも大幅に減額した「10万円」が相当であると判断しました。
【ポイント・解説】
この裁判例のポイントとして、違法なパワハラ行為の存在が認定された点では一審と控訴審で同じであったものの、慰謝料額の算定に際して判断が大きく分かれたことが挙げられます。
これは会社の責任(賠償額)を判断するにあたり、パワハラに該当する言動がなされた経緯や背景が極めて重要であることを明らかにしているものと考えられます。
パワハラ防止対策でお悩みならば弁護士にご相談ください
パワハラ防止法は大企業・中小企業すべての企業に適用されるため、措置が不十分な場合は速やかに対応する必要があります。
しかし、中小企業は人手不足などの理由から対応が遅れ、措置を講じても十分機能しないというケースが少なくありません。
企業法務に強い弁護士に依頼することで、自社に合ったパワハラ防止対策をスムーズに構築できます。また、万が一パワハラが発生しても、弁護士のサポートがあれば冷静に対処できるでしょう。
パワハラ対策についてご不安がある方は、ぜひ一度弁護士法人ALGにご相談ください。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士田中 佑資(東京弁護士会)
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士中村 和茂(東京弁護士会)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある