
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
職業安定法とは、求人募集や職業紹介におけるルールを定めた法律です。近年は働き方の多様化などを背景に何度か改正されており、直近では2024年4月1日に改正職業安定法が施行されました。
今回の改正により、企業は求人募集時に新たな労働条件を明示する義務が課されました。未対応の企業は、速やかに対応を進める必要があります。
本記事では、2022年と2024年に行われた法改正のポイント、企業に求められる対応、違反時の罰則などについてわかりやすく解説していきます。
目次
職業安定法とは?法改正の背景
職業安定法とは、求人募集や職業紹介におけるルールを定めた法律です。採用活動や職業紹介事業が適正に行われるよう、事業者に様々な対応を義務付けています。
本法は、1947年に「労働者供給の原則禁止」を目的に制定されました。当時は“強制労働”や“中間搾取”などが横行しており、これらの劣悪な就労環境から労働者を保護するため、法整備に至りました。
しかし、近年は働き方の多様化などに伴い、従来の法律の見直しが進められています。
具体的には、転職活動の活発化やインターネット求人の普及、求人詐欺の増加など新たな傾向に対応するため、2022年と2024年に法改正が行われました。
【2022年10月】職業安定法のこれまでの改正内容
2022年10月の改正では、インターネット求人が急速に拡大していることを受け、求人情報を提供するメディアや運営元に対する規制が強化されました。
主な改正点は、以下の4点です。
- ①募集情報等提供事業の範囲の拡大
インターネット上の情報から収集した求人・求職者情報などを提供するクローリング型の求人メディアや人材データベースなども、対象事業に含まれることとなりました。 - ②特定募集情報等提供事業者の届出制の創設
労働者になろうとする者に関する情報を収集する「特定募集情報等提供事業者」について、厚生労働省への届出義務が課されました。 - ③求人に関する情報の明確な表示が義務化
事業者に対し、求人情報や企業情報、事業実績などについて的確な表示をすること等が義務付けられました。 - ④個人情報の取り扱いに関するルールの強化
募集情報等提供事業者も、職業安定法における個人情報取り扱い規定の適用対象となりました。
【2024年4月施行】職業安定法の改正内容とポイント
2024年4月の改正では、求人募集時などに明示すべき労働条件に以下の3つが追加されました。
- ①従事すべき業務の変更の範囲
- ②就業場所の変更の範囲
- ③有期労働契約を更新する場合の基準
よって事業者は、以下のようなタイミングでこれらの労働条件を新たに明示しなければなりません。
- ハローワークに求人の申込みを行うとき
- 自社のホームページで募集をかけるとき
- 求人広告の掲載を行うとき
また、採用過程で明示した労働条件について変更があった場合、変更内容を速やかに明示する必要があります。
①従事すべき業務の変更の範囲
「業務の変更の範囲」とは、将来的な見込みも含め、労働者が従事する可能性のあるすべての業務をいいます。例えば、以下のような記載方法が考えられます。
業務内容 | (雇入れ直後)法人営業 (変更の範囲)製造業務を除く当社業務全般 |
---|---|
(雇入れ直後)経理 (変更の範囲)法務の業務 |
在籍出向などにより、出向先での業務内容が上記の範囲を超える場合、その旨も明示しなければなりません。また、有期雇用労働者については、当該契約期間中に変更され得る業務の範囲をすべて記載する必要があります。
なお、「将来的な見込み」については、募集時に想定され得る変更の範囲を明示すれば足り、未確定の事業方針まで考慮する必要はないとされています。
②就業場所の変更の範囲
「就業場所の変更の範囲」とは、将来的な見込みを含め、労働者が就業する可能性のあるすべての場所をいいます。例えば、以下のような記載方法が考えられます。
業務内容 | (雇入れ直後)大阪支社 (変更の範囲)本社および全国の支社、営業所 |
---|---|
(雇入れ直後)渋谷営業所(変更の範囲)都内23区内の営業所 |
この例では、入社後は特定の場所で研修などを行いますが、将来的には全国転勤の可能性があるということになります。
また、在籍出向などにより勤務地が上記の範囲外となる可能性がある場合、その旨も明示しなければなりません。
一方、一時的な他部署の応援業務や出張、研修などは、変更の範囲に含まなくて良いとされています。
③有期労働契約を更新する場合の基準
「有期労働契約の更新」については、契約更新の有無やその判断基準について明示します。また、通算契約期間または更新回数の上限を定める場合、その内容も明示しなければなりません。
例えば、以下のような記載方法が考えられます。
契約期間 | 期間の定めあり(2024年4月1日~2025年3月31日) | 契約の更新 有(契約期間満了時の業務量、勤務成績により判断) 通算契約期間は4年を上限とする。 |
---|---|---|
契約の更新 有(自動的に更新する) 契約の更新回数は3回を上限とする。 |
これらの明示が必要な理由は、求職者に正確な情報を提供するためだけでなく、無期転換ルールの適用を回避することも挙げられます。
無期転換ルールでは、通算契約期間が5年を超えた有期雇用労働者について、本人から申込みがあれば必ず無期雇用に転換しなければなりません。
上記のように、通算契約期間や契約回数の上限を設けておくことで、無期転換申込権が発生する前に雇用契約を終了させることが可能となります。
職業安定法の改正で企業に求められる対応や注意点とは?
2024年の法改正により、求人募集時における労働条件の明示義務が強化されました。
これにより事業者は、以下の点に留意しながら適切に対応することが求められます。
- 労働条件は漏れなく明示する
新たに明示が義務付けられた3つの労働条件(業務の変更の範囲等)についても、求人票にしっかり盛り込む必要があります。 - 求人を出すタイミングで明示する
労働条件は、基本的に求人内容を公開するタイミングですべて明示しなければなりません。 - すべて明示できない場合はその旨を記載する
広告スペースが少ないなどの理由で、労働条件をすべて明示できない場合、「詳細は面接時にお伝えします」といった注意書きが必要です。 - 労働条件に変更があった場合は速やかに明示する
一度明示した労働条件に変更があった場合、変更後の内容を速やかに公開する必要があります。
改正職業安定法に違反した場合の罰則
〈刑事罰〉
職業安定法に違反すると、以下のような罰則の対象となる可能性があります。
内容 | 罰則 |
---|---|
実態とは異なる虚偽の情報(好条件等)を記載し、求職者をだました場合 | 6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(同65条1項9号) |
・無許可で有料の職業紹介事業を営んだ場合 ・虚偽の申告によって職業紹介事業の許可を受けた場合 |
1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(同64条) |
〈行政処分〉
罰則は受けなくても、職業安定法に違反した場合は行政指導の対象となる可能性が高いです。
また、行政からの助言や指導、是正勧告を受けても法違反が是正されない場合は、企業名が公表されたり、事業許可が取り消されたりするおそれがあるため注意が必要です。
職業安定法の改正で不明点があれば、企業法務を得意とする弁護士にご相談下さい。
求人募集を出す際は、職業安定法のルールを厳守し、必要な労働条件をすべて明示しなければなりません。
また、求人広告の情報に誤りがあると、採用後に労働者とトラブルになったり、早期の離職につながったりするリスクがあるため、記載方法にも十分注意が必要です。
しかし、法改正は2022年、2024年と度々行われており、改正内容をいまいち理解しきれていない事業者の方も多いのではないでしょうか。
弁護士であれば、法改正の内容を踏まえ、企業がとるべき対応について具体的なアドバイスが可能です。また、的確な求人広告を出すことで、優秀な人材が集まり、採用活動がスムーズに進む可能性もあります。
職業安定法の改正内容についてお悩みの方は、ぜひ一度弁護士法人ALGにご相談ください。
企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料※
企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)
会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません。
受付時間:平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00
平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00
※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。
執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある