【2022年10月1日施行】職業安定法改正のポイントと企業の対応

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

2022年10月1日より職業安定法改正が施行されます。本記事では、今回の改正の内容やポイントについて説明するとともに、企業側が本改正に対して、どのように対応していくべきかについてもお伝えいたします。

目次

【2022年10月1日施行】職業安定法の改正で何が変わる?

インターネット上で求人情報を掲載する求人サイトを運営する等の募集情報等提供事業について、2022年10月から規制が強化されました。規制に違反する場合は、指導の後、改善命令や、業務停止命令等に繋がる可能性もあり、改正された規制内容を把握することが重要となるため、改正内容について本記事で見ていきましょう。

職業安定法改正の目的・背景

近年、働き方に関する日本人の考え方は大きく変化しています。従来は特定の企業での終身雇用型が常識でしたが、今や転職を経てキャリアアップを目指すことも珍しくなく、転職のハードルは相当程度低くなっています。

このような働き方に関する日本人の考え方の変化は、求人業界をこれまでになく活性化させています。求人業界の隆盛に伴い、従来の求人メディアのみならず、職業安定法で想定されていなかった多様なサービスが登場してきていることから、その実態と法律の平仄を合わせるべく、職業安定法が改正されました。

職業安定法の改正内容とポイント

本改正の主たる内容は次のとおりです。

  • ①規制対象となる事業(サービス)の拡大化(「募集情報等提供事業」の定義の拡大)
  • ②求職者の情報を収集する「特定募集情報等提供事業者」の届出制
  • ③求人情報の的確表示義務
  • ④個人情報の収集目的明示義務

以下で1つずつ見ていきましょう。

①募集情報提供に該当する求人サービスの拡大

従前、「募集情報等提供」は、企業や求職者からの「依頼を受けて」情報提供を行う事業を意味していました。今回の改正では、企業や求職者から直接依頼を受ける場合のほか、直接の依頼がなくとも、募集情報や求職者情報の提供が行われる、いわゆるクローリング型の求人メディアや人材データベース等も、「募集情報等提供」に含まれることとなりました。

②特定募集情報等提供事業者の届出制を創設

求職者の情報を収集する「特定募集情報等提供事業者」については、事業者の情報を予め厚生労働省への電子申請により届け出ることが義務付けられました。

これに該当する具体例としては、求職者に会員登録を求めている場合、求職者のメールアドレスを集めてメールマガジン等の配信をしている場合、求職者が求人情報を閲覧した履歴を収集し、その履歴をもとに求人情報を紹介する場合等です。

届出はいつまでに行う必要がある?

「特定募集情報等提供事業者」の届出は事業を始める前に、あらかじめ電子申請で行う必要があります。
改正法施行前から「特定募集情報等提供事業者」に当たる事業をしていた場合は、2022年12月31日までに届け出る必要があります。

なお、届出事項の変更がある場合は、変更翌日から30日以内、事業廃止の場合は廃止から10日以内に届け出る必要があります。

③求人等に関する情報の的確な表示の義務化

募集情報等提供事業者は、求人等に関する情報が、正確かつ最新の内容が保たれるための措置を講じることが義務付けられました。以下詳しく見ていきます。

的確な表示が義務付けられる事項とは?

各事業者に対して、的確な表示が義務付けられるのは次の事項です。

  • 求人情報
  • 求職者情報
  • 求人企業に関する情報
  • 自社に関する情報
  • 事業の実績に関する情報

対象となる広告・連絡手段とは?

的確な表示が求められるのは、下表の広告や連絡手段となります。

  • 新聞・雑誌・その他の刊行物に掲載する広告
  • 文書の掲出・頒布
  • 書面
  • ファックス
  • ウェブサイト
  • 電子メール・メッセージアプリ・アプリ等
  • 放送(テレビ・ラジオ等)
  • オンデマンド放送等

虚偽・誤解を生じさせる表示の禁止

募集情報等提供事業者は、虚偽の情報が表示されないようにすることはもちろん、虚偽ではなくとも誤解を生じさせるような情報が表示されないように、注意する必要があります。

例えば次のように、給与に関して「モデル収入例」として社員の中で特に高い給与が支給されている例を、その旨注記することなく、採用されればその金額が必ず支給されるかのような表示は禁止されています

×【給与】400万円~【モデル給与】1000万円~
(社内で特に給与が高い労働者の給与を全ての労働者の給与であるかのように例示)

○【給与】400万円~600万円
○【給与】400万円~600万円
【モデル給与】555万円
(同職種社員の給与の平均を例示)

正確かつ最新の内容に保つ措置の義務化

募集情報等提供に関わる事業者は、求人等に関する情報が、正確かつ最新の内容が保たれるため、例えば次のような措置を講じる義務があります。

  • 募集終了や募集情報の内容変更がある場合、速やかにその反映を行う。
  • 募集情報がいつ時点の情報なのかを明確にする(例えば、「2022年12月1日現在の情報です。」等と明記しておく。)。

④個人情報の取扱いに関するルールの変更

募集情報等提供事業者も、職業安定法上の個人情報に関する次の規制を受けます。

  • 業務の目的達成に必要な範囲内で、求職者の個人情報を収集・使用・保管する。
    (例えば、募集情報等提供事業者が自社の採用選考のために求職者の個人情報を使用することは許されません。)
  • 求職者の個人情報を収集する際には、業務の目的を具体的に明らかにする。
    (「募集情報等提供のために使用します」とのみ表示するのでは足りず、「当社のサービスに登録している企業に提供します」と表示するなど。)
  • 業務上知り得た人の秘密を漏らしてはいけない。
  • 求職者の個人情報をみだりに第三者に提供してはいけない。

職業安定法の改正で企業に求められる対応とは?

昨今、転職市場が拡大する中、今回の職業安定法の改正によって、求人情報等の正確性や、個人情報の保護がより強く求められることとなりました。

規制内容は言われてみれば当然のことのように感じるものばかりですが、実際の運用の中では想定していなかった様々な事例が出てくるものであり、適法な対応ができているかよくわからないことも少なくないでしょう。

後述の是正命令や業務停止命令等がなされてしまう前に、具体的な対応方法を今一度確認しておく必要があります。

改正職業安定法に違反した場合の罰則

今回紹介した改正職業安定法に違反した場合の罰則としては、特定募集情報等提供事業の届出を行わなかった場合や、虚偽の届出をした場合の罰則のほか、特定募集情報等提供事業の停止命令に違反した場合の罰則はありますが、その他に明確な罰則はありません。

ただし、規制に違反していることが確認された場合、一般的には、まず是正指導が行われ、是正指導に従わない場合など、悪質なケースについて改善命令や事業停止命令などの行政処分が行われることとなるため、注意が必要です。

職業安定法の改正で不明点があれば、企業法務を得意とする弁護士にご相談下さい。

今回ご紹介した職業安定法の改正内容は、一見当然のことを規制しているように見受けられますが、実際の運用の中で対応に迷う場面も多いはずです。また、今回の改正は、規制対象事業の拡大も含まれており、そもそも自社が今回の規制対象になるのかどうか、という点も判断が難しいところです。

「当社は改正法に対応している」と自信をもって事業を行っていくうえで、弁護士に相談するにしても、他者事例を知る経験豊富な弁護士に相談をすることが重要となってきます。募集情報等提供事業者やそうでない職業紹介事業者も顧問に持つ弊所へのご相談を是非ご検討ください。

職業安定法改正に関するQ&A

特定募集情報等提供の「労働者になろうとする者に関する情報」とはどのような情報ですか?

典型的には、求職者の氏名、住所、メールアドレスや求人情報の閲覧履歴等です。

メールアドレスを収集し、合同説明会のお知らせのみ配信している場合でも特定募集情報等提供となりますか?

合同説明会のお知らせの配信のみを行っているのであれば、そもそも募集情報等提供にあたりませんが、それ以外求人や求職者情報の提供を行う場合は、メールアドレスを収集している以上、特定募集情報等提供事業者に該当することとなります。

的確な表示において、「自社に関する情報」を表示する際の注意点はありますか?

自社に関する情報は、各企業HPの企業概要のページ内などで、変更があった場合に反映し忘れていると、虚偽の表示をしているものとされる可能性があるため注意が必要です。

事業の実績に関する「虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示」とはどのようなものですか?

例えば、取引先関連の情報や販売数、売上・利益に関する情報につき、事実と異なる表示をする場合や、虚偽とはいえないまでも曖昧で過大な表示をすること等です。

労働条件の明示と求人等に関する情報の的確な表示は別で行う必要がありますか?

原則として別に行う必要があると考えておくべきです。労働条件の明示義務にかかる事項が的確に表示されていたとしても、書面交付による明示義務を免れるわけではないからです。

特定募集情報等提供事業者の届出義務の導入によって何が変わりますか?

特定募集情報等提供事業者は、求職者に関する情報を収集する事業者であるため、重要な個人情報を保有することとなることが多く、届出すらしない、いい加減な事業者の排除に寄与する可能性があります。

紙媒体でのみ情報提供している場合、特定募集情報等提供事業者の届出は必要ですか?

不要です。厚生労働省の概要を説明する資料にも届出を要しない例として、「紙媒体でのみ情報提供している場合」と記載されています。

特定募集情報等提供事業者の届出は電子申請も可能ですか?

可能です。厚生労働省のHPから申請できます。

個人情報の取扱いの「業務の目的の達成に必要な範囲」とはどのような範囲をいいますか?

募集情報等提供という業務の目的は、求人情報や求職者情報を他の求人企業や求職者に提供することにあるため、その情報提供に必要な範囲をいいます。

「個人情報の利用目的の明示」はどのような方法で行えばよいですか?

自社のHPの利用規約等で公表する形で行うことが望ましいでしょう。
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執筆弁護士

弁護士 中村 和茂
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士中村 和茂(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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