監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
退職勧奨においては、労働者から退職合意を引き出すために労働者に対して解決金が支払われることが一般的です。
ここでは、退職勧奨において、使用者が労働者に支払う解決金の相場や交渉方法を解説します。
目次
退職勧奨における退職金とは?
退職勧奨を行う際には、労働者から退職の意向を引き出すためのインセンティブとしての金銭の支払いを提案することが多く行われます。この金銭は解決金という名目で提示されることが多いですが、退職金という名目が用いられることもあります。
詳しくは以下のページをご確認ください。
退職金と解決金
一般に、退職金とは、労働契約の終了に伴い企業が労働者に支払う一定の金銭をいいます。
退職金は、労働契約上又は法律上必ず支給しなければならないものではなく、就業規則等に定めがある場合に初めて支給されるものです。「退職勧奨における退職金」という表現がされる場合には、このような就業規則等に定めがある退職金とは別に、さらに上乗せした退職金を支給する場合の金銭を指すことが多いです。
退職勧奨の際に、労働者から退職の意向を引き出すためのインセンティブとして示す金銭は、特に退職金制度のない会社であれば「解決金」という名目で提示されるのが一般的ですが、税金の取扱いに影響が生じ得るほかは、基本的には「退職勧奨における退職金」と同様の趣旨のものであると考えて良いものといえます。
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退職勧奨で解決金を支払わない場合のリスク
退職勧奨で解決金を支払わない場合にはリスクがあります。以下では、このようなリスクについて解説します。
合意が困難となる
退職すると、今後の生活に必要な収入が減少することになるため、少なくとも生活費を補填するだけの解決金の提示がない退職勧奨には、心理的に応じづらくなります。
また、解雇の場合でも平均賃金の30日分の解雇予告手当を支払う必要があることとの関係で、それ以上の解決金が得られない退職勧奨に敢えて応じるメリットを感じづらいことが多いです。そのため、適切な解決金の提示のない退職勧奨では、それだけ合意を獲得することが難しくなる傾向にあります。
それでも使用者が労働者を辞めさせようとすると、退職強要を誘発してしまったり、実質的に解雇と判断されるような辞めさせ方となってしまうリスクがあります。
解雇トラブルになる可能性がある
退職勧奨の対象となった労働者が退職する際に使用者が解決金を支払わない場合、労働者が自由な意思に基づいてそのような条件に応じることが一般的に考えづらいことから、労働者の退職の意思表示は強要されたものであると評価されるおそれがあります。
解雇と判断される場合には、労働者の退職は無効とされるだけでなく労働者から慰謝料のほか一定期間の賃金を請求されるなど、解雇トラブルに発展するリスクもあります。
退職勧奨における退職金・解決金の相場は?
解雇する際には平均賃金の30日分の解雇予告手当が必要であることとの関係で、退職勧奨の際の解決金として、最低でも賃金の1ヶ月分程度は提示することが多いです。しかし、使用者が労働者に支払うべき金額は状況によって変わります。
以下では、退職勧奨において労働者に支払う解決金の相場について解説します。
退職勧奨までの会社の対応経緯
労働者が非違行為を働いたことや能力不足を理由として、使用者が退職勧奨によって労働者を退職させようとする場合、労働者の非違行為について注意指導、軽度の懲戒処分といった段階が踏まれていたり、あるいは労働者の能力不足について指導、異動といった段階が踏まれている場合には、解雇が有効になりやすく、相対的に支払うべき退職金・解決金の額は抑えられるでしょう。
使用者としては、退職勧奨に至るまでの労働者の非違行為に対して都度注意をするなど適切に対処することで、退職勧奨の場面でも交渉を有利に進めることができます。
退職勧奨に至った原因
使用者が労働者に退職勧奨をするに至った原因が労働者にある場合、支払うべき金額は低くなり、逆に使用者に原因がある場合、支払うべき金額は高くなります。相場として、労働者に原因がある場合は基本給の1から3ヶ月、使用者に原因がある場合は基本給の3から6ヶ月が目安と考えられます。
ただ、結局は労働者が条件に応じるかの問題ですので、より高額な解決金を提示しないと協議が整わないこともあります。
再就職までの生活に必要な金額
労働者は退職することによって生活の糧を失うため、退職勧奨に応じるには心理的ハードルがあります。そのため、再就職して安定した経済的基盤を得るまでの生活に必要な金額を支払えば、労働者としても退職に応じやすいといえます。
その際には、労働者に高度なスキルや、転職市場で需要の高いスキルがあるなど転職が容易であるのかといった、労働者の転職の容易さを考慮するべきでしょう。
有給休暇の残日数
労働者としては、退職時に有給休暇が残っている場合、それらを消化してから退職したいと思うでしょう。そこで退職勧奨の対象労働者の年次有給休暇が消化し終わった日を退職日としたり、あるいは、退職日までに消化できない年次有給休暇を買い取ることも、使用者の交渉材料となります。
詳しくは以下のページをご確認ください。
退職勧奨をする際の退職金・解決金の交渉ポイント
以下では、退職勧奨において退職金・解決金を労働者に提示する際のポイントについて解説します。
適切なタイミングで条件を提示する
退職勧奨により合意に至るかは、事案の性質、企業や労働者の個性、その時の資力や感情、企業と労働者の日頃の関係性になど、諸般の事情によりますが、適切なタイミングで適切な額の退職金・解決金を提示することは、労働者の退職合意を得る上で重要です。
提示が早すぎると足元を見られて増額を要求されたり、逆に遅すぎると反発を招いて合意を得られにくくなるというリスクがあります。
解決金の上限額を設定する
退職勧奨における適切な退職金・解決金の額は事案によって異なりますが、対象労働者を退職させたいがあまり、労働者からの法外な金額の請求を受け入れてしまうことは控えるべきです。
事案に応じた適切な退職金・解決金の上限を明確な根拠に基づいて設定したら、これに沿って労働者ときちんと交渉していくことが重要です。
弁護士に交渉を任せる
事案に応じた適切な退職金・解決金の額を設定したうえで、適切なタイミングで条件を提示することは交渉に慣れていないと難しい面があります。また、使用者である企業の従業員や役員が直接労働者と交渉すると、冷静な対応ができないケースも考えられます。
弁護士に交渉を任せることで退職勧奨がスムーズに進むほか、時間や労力の浪費を防ぐメリットもあります。
退職勧奨における退職金・解決金の税金について
退職勧奨に際して使用者から労働者に支払われる金銭が退職金として扱われる場合、支払われた金銭は退職所得として課税対象になります。一方で、解決金として支払われた場合、それが損害賠償金・慰謝料の性質がある場合には所得税の課税対象とはならず、退職金の性質のない金銭として支払った場合には一時所得として課税対象になると判断される場合があります。
労働者に支給する金銭が課税対象になる場合、使用者としては支払った金銭から税金等を源泉徴収する必要があります。
退職勧奨時の退職金に関する裁判例
事件の概要
下関商業高校事件(最一小昭和55年7月10日)、日本アイ・ビー・エム事件(東京地判平成23年12月28日)
裁判所の判断
上記両判例及び裁判例は、ともに退職勧奨の違法性が問題となったものです。
下関商業高校事件(最一小昭和55年7月10日)は、「退職勧奨は、……自発的な退職意思の形成を慫慂するためになす説得等の行為」であるから、「被勧奨者は、何らの拘束なしに自由にその意思を決定し得る」とし、「被勧奨者の自由な意思決定が妨げられる状況であったか否かが、その勧奨行為の適法、違法を評価する基準になる」と判示しています。
そのうえで、本件では「今後優遇措置を条件とする退職勧奨を一切行わない」旨の通知がなされた背景があり、その点から多数回に及ぶ退職勧奨を行う合理性が乏しく、社会的相当性を逸脱したものと評されます。
一方で、日本アイ・ビー・エム事件(東京地判平成23年12月28日)は、会社が任意退職者募集のため、特別支援金の支払いなど有利な退職条件を定めた退職者支援制度を設け、同制度の応募を勧奨するためのプログラムを立案し、かかる制度に応募するよう4人の従業員に勧奨したという事案です。これに関して裁判例は、「説得活動について……手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り、使用者による正当業務行為としてこれを行い得る」としたうえで、「……退職した場合におけるメリットについて、更に具体的かつ丁寧に説明又は説得活動をし、退職勧奨に応ずるか否かにつき再検討を求めたり、翻意を促したりすることは、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り、当然に許容されるもの」と判示しています。
ポイント・解説
日本アイ・ビー・エム事件も、下関商業高校事件が是認した判断基準に沿った判断をしていますが、前者の裁判例では、会社が特別支援金の支払いなど有利な退職条件を定めた退職支援制度に基づき退職勧奨がなされていたことから、社会的相当性を逸脱したものではないとした一方で、下関商業高校事件は、「今後優遇措置を条件とする退職勧奨を一切行わない」旨の通知がなされたうえでの多数回の退職勧奨の合理性が否定されたものといえます。
このように、退職勧奨において退職金・解決金の支給は、労働者の合意を引き出す条件としてだけでなく、労働者に対する退職勧奨が不法行為として違法にならない要因にもなります。
よくある質問
退職勧奨をした場合、必ず退職の対価としてのお金を支払う必要がありますか?
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退職勧奨とは、労働者に対して辞職を勧める使用者の行為を意味し、これ自体は法律行為ではなく事実行為に過ぎません。法的に明確なルールが決まっているわけではなく、退職時の条件は労使双方の同意によって決まります。
退職の同意を得る対価として一定の金額を支払うことを提案することが効果的であることは別として、必ずお金を支払わないといけないわけではありません。
退職勧奨で退職金を減額することは可能ですか?
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退職金規程から算出される金額については、使用者に支払義務があることから、原則としてこれを減額することはできません。
もっとも、退職勧奨の結果、使用者と労働者との間で退職金の扱いを変更する内容の合意が成立する場合には、退職金を減額することが可能となる場合もあります。
詳しくは以下のページをご確認ください。
退職勧奨を断られた場合、退職金を減額できますか?
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退職勧奨を断られた場合に労働者に不利益な取り扱いをすることは、退職の強要と判断され、強要の結果得られた退職合意が取り消され、交渉行為自体に不法行為が成立する可能性があります。
退職金についても、退職勧奨を断られたことを理由に減額することはできません。
業績不振を理由に退職勧奨した場合、退職金はどのように扱われますか?
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退職勧奨の結果、退職合意が得られた場合の条件は、労使双方の同意によって決まります。
退職勧奨で特に退職金に関する合意がされていない場合には、業績不振の事情があっても、退職金規程に従った退職金の支払いは必要となります。他方で、業績不振を理由に退職金の額を変更することを交渉すること自体は、基本的には問題ないものと考えられますので、労働者が応じれば、退職金額を減額できる場合があります。
退職勧奨時の解決金は、解雇予告手当を下回る金額でも問題ないですか?
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退職勧奨時の解決金は労使双方の同意によって決まることから、その金額について絶対的な基準があるわけではなく、解雇予告手当を下回る金額が直ちに問題になるわけではありません。
もっとも、解雇するときでさえ支払わなければならない金額を退職勧奨に当たって支払わないことは、労働者の自由な意思に基づく退職合意であるのか疑義が生じやすくなる可能性があることには留意が必要です。
詳しくは以下のページをご確認ください。
退職勧奨時の退職金を分割払いにできますか?
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退職勧奨時の条件は労使双方の合意によって決まることから、労働者が同意すれば退職金を分割払いにすることも可能です。
退職に合意してもらうには、退職金と解決金を二重で支給すべきですか?
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労働者は、退職にあたって退職金規程に基づいた退職金は当然支払われると考えているケースが多いものと考えられますので、上乗せする解決金を提示しないと退職の同意が比較的得られにくくなることが考えられます。
従業員から退職勧奨時の解決金を増額してほしいと言われたらどうすればいいですか?
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当該労働者を退職させたい程度、退職勧奨に至った経緯、使用者の企業規模に応じた金銭的余裕、双方の交渉の経過等状況に応じて増額するべきか決めるべきでしょう。
なお、増額せず、以前と同じ条件で執拗に交渉を続けると、退職強要であると判断されやすくなるリスクがあることに注意が必要です。
退職勧奨対応で労使トラブルにならないためにも、まずは弁護士にご相談ください
使用者が労働者に対して退職勧奨を行う際には、退職が強要であったとして後にトラブルに発展するおそれがあります。使用者が適切な退職勧奨を行っていない場合には、労働者の退職が認められないばかりか、その間の賃金や慰謝料など金銭的な損害が生じるリスクもあります。
一方で、こうしたトラブルを未然に防ぐために退職勧奨を適切・適法に行うためには、交渉に慣れており法律にも精通している者が行うことが重要です。労働者に対して退職勧奨をお考えの企業様は、無用なトラブルを避けるためにもまずは弁護士にご相談ください。
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執筆弁護士

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所早川 盾一郎(東京弁護士会)

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士合田 千真(東京弁護士会)
この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
