会社が破産したら従業員はどうなる?解雇手続きや未払い賃金など解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

会社の業績不振等により資金繰りが厳しくなった場合、経営者として、これ以上事業を継続していくことができないと判断して、破産手続きを取るという判断を下す場合もあります。

会社が破産した場合には、所定の手続きを経た上、その会社は消滅することとなります。
それでは、会社が破産するとなった場合、その会社に雇用されている従業員はどうなるのでしょうか。

以下では、会社が破産した場合に従業員の取り扱いや手続きについて、解説していきます。

会社が破産したら従業員は解雇することになる

会社が破産する場合には、会社そのものが消滅することとなります。
そして、会社が消滅する以上は、継続して従業員を雇用し続けることはできないため、従業員は解雇することとなります。
解雇の対象となるのは、正社員やアルバイトの区別関係なく、その会社に雇用されている従業員全員です。

詳しくは以下のページをご覧ください。

破産に伴う解雇は不当解雇にあたるのか?

会社が破産する場合には、再建の見込みがなく、最終的には会社を消滅させることとなり、従業員を雇い続けることができなくなる以上、会社を破産させるにあたって実施された解雇は、基本的には適法な整理解雇として、不当解雇には当たらないと考えられます。

しかし、真実は、破産手続をとるつもりがないのに、破産することを理由として解雇した場合で、解雇後、破産手続を進めることなく、引き続き事業を継続している場合などは、不当解雇と判断される可能性があります。

詳しくは以下のページをご覧ください。

破産する場合の解雇手続き

従業員に解雇を通知するタイミング

破産手続の申立てを目指す場合は、破産手続が開始される前に従業員を解雇することが多いです。
具体的には、会社の事業を停止させるタイミングで、従業員全員に対して破産手続の申立てをする旨を伝え、その際に従業員全員を解雇することになります。

解雇予告・解雇予告手当の支払い

会社を破産させる場合の解雇についても、能力不足による解雇をする場合と同様に、30日以上前の解雇予告又は30日分以上の平均賃金の支払いのいずれかが必要となります(労基法20条1項)。

破産させる場合には、事業を停止するタイミングで従業員全員を即日解雇することが一般的であるため、基本的には、それぞれの従業員に対して30日分以上の解雇予告手当を支払うこととなります。

即日解雇しなければ、事業を停止した日以降に従業員が通勤したことにより交通費がかかった場合や時間外労働の割増賃金が発生した場合に、即日解雇して解雇予告手当30日分を支払った場合よりも多い金額を支払う必要があり、会社が弁済すべき債務の総額が増加してしまうこととなるためです。

詳しくは以下のページをご覧ください。

従業員の未払い賃金や退職金の取り扱いはどうなる?

破産手続を申し立てる会社は、財務状況が悪いため、従業員に対して賃金や退職金の支払いができないケースも考えられます。

未払賃金や退職金がある従業員は、破産手続との関係では、会社に賃金を請求する権利(労働債権)を有する債権者となります。
つまり、従業員が債権者として、破産手続きの中で労働債権を請求してくる可能性があるということです。

未払い賃金・退職金は優先的に支払われる

破産手続において、労働債権は債権の中でも「財団債権」又は「優先的破産債権」に分類されます。これらの債権は、他の破産債権よりも優先して支払われます。

・「財団債権」とは
破産手続によらずに随時弁済を受けることができる債権のこと(破産法2条7項)

・「優先的破産債権」とは
一般の先取特権(民法306条各号)等、他の債権に優先して弁済される破産債権のこと(同法98条1項)。

「財団債権」と「優先的破産債権」に該当する債権として、それぞれ以下のものが挙げられます。

【財団債権】

  • 未払賃金のうち、破産開始決定前3ヶ月分の給与相当額(破産法149条1項)
  • 未払退職金のうち、退職前3ヶ月分の給与に相当する金額(同条2項)

【優先的破産債権】

  • 未払賃金のうち、破産開始決定前3ヶ月を超える給与相当額(民法306条2号、308条。以下同じ。)
  • 未払退職金のうち、退職前3ヶ月分の給与を超える金額
  • 解雇予告手当

退職金については以下のページもご覧ください。

未払賃金立替制度について

「未払賃金立替払制度」とは、企業が倒産したことにより、賃金が支払われないまま退職することとなった労働者に対して、未払賃金の一部を立替払いする制度です。

退職日の6ヶ月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している未払賃金(給与と退職金)を対象としており、基本的には、未払賃金総額の8割の支払いを受けることができるとされています。

会社の資産状況が厳しく、労働者に対して未払賃金の支払いをすることが困難である場合には、この制度を利用するように案内する方法があります。

会社破産で従業員が退職する場合に必要な諸手続き

従業員の解雇に伴って、主に次の手続きが必要となります。

  • 雇用保険の手続き
  • 社会保険の手続き
  • 住民税の手続き
  • 源泉徴収票の交付

以下、それぞれ見ていきましょう。

雇用保険(失業保険)の手続き

雇用保険は、いわゆる失業保険のことであり、失業した労働者が金銭の給付を受けられる制度です。
会社の破産に伴う解雇は「会社都合退職」に当たるとされるため、従業員にとって失業保険の受給時には、次のようなメリットがあります。

  • 申請から7日の待機期間を経た後、すぐに失業手当が支給される
  • 手当の支給期間が自己都合退職よりも長くなる
  • 以上の事項は、会社が破産することで解雇されることとなった従業員のその後の生活のために非常に重要なポイントとなるため、雇用保険に関する情報は漏れなく伝えましょう。

    そして、従業員がすぐに雇用保険を受給できるように、次の手続きを行いましょう。

    • 従業員の退職日から10日以内に「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」を作成する
    • 上記の書類を解雇通知書の写しとともに管轄のハローワークへ提出する
    • ハローワークから受け取った離職票を従業員に交付する

    社会保険の手続き

    解雇により、従業員は社会保険(健康保険や厚生年金)の被保険者でなくなるため、会社は従業員(被扶養者を含む)の保険証を回収して、資格喪失届とともに日本年金機構に提出する必要があります。

    解雇後に従業員が健康保険を使うためには、従業員自ら、国民健康保険に切り替えるか、社会保険を任意継続するかのいずれかの方法を取ることになります。

    住民税の手続き

    多くの会社では、従業員の住民税について、従業員の賃金から住民税額分差し引いて従業員の代わりに納付する方法(特別徴収)が取られている場合が多いですが、破産する場合には、事業を停止した日以降は、会社において特別徴収をすることができなくなるため、従業員に各自で支払ってもらう方法(普通徴収)に切り替えることが必要です。

    この場合には、事業者において従業員が居住している自治体に「給与所得者異動届出書」を提出する必要があります。

    源泉徴収票の交付

    会社には、従業員が退職した日から1ヶ月以内に源泉徴収票を発行する義務があり、これは会社が破産することとなった場合も同様です。
    源泉徴収票は、従業員の確定申告や年末調整に必要な書類のため、解雇による離職日までに発生した賃金などに基づいて源泉徴収票を作成して、速やかに従業員に交付する必要があります。

    破産時の従業員対応でお悩みの際は、弁護士法人ALGにご相談下さい。

    会社を破産させる場合には、従業員との関係では、未払いとなっている賃金や退職金についてトラブルが生じることも想定され、その対応に苦慮することも多いと思われます。
    破産に当たっての従業員対応についてお悩みの場合には、弁護士に相談することをお勧めします。

    よくある質問

    従業員への破産の告知はどのタイミングで行うべきですか?

    破産手続の申立てを目指す場合には、それ以上の賃金支払債務の発生を防止するため、破産手続が開始される前に従業員を解雇することが多いです。

    そのため、基本的には、会社の事業を停止させるタイミングで、従業員全員に対して破産手続の申立てをする旨を伝えることが多く、その際に、併せて従業員全員を解雇する旨も伝えることとなります。

    破産時の従業員説明会ではどのようなことを説明すべきですか?

    破産する場合に従業員に説明をする事項については、以下の項目が考えられます。

    • 会社が破産手続の申立てをすることとなった経緯
    • 従業員全員に対する解雇の通知
    • 給料、退職金、解雇予告手当の支払いの見通し
    • 給料の未払いが発生する場合には、未払賃金立替払制度の手続きの説明
    • 雇用保険や社会保険の手続き

    従業員への解雇の伝え方で気を付けるべきことはありますか?

    会社が破産する場合には、従業員は自分の意思とは無関係に突然、職を失うこととなり、不安に駆られることが容易に考えられます。
    そのため、まずは会社を破産させざるを得なかった経緯を十分説明した上、解雇された後の手続き、特に失業保険の給付については、十分に説明するべきです。

    会社の破産で解雇する場合、会社都合退職となりますか?

    破産の場合には、会社の事業継続が困難なことによる解雇となるため、基本的には、「会社都合退職」となります。
    詳しくは以下のページをご覧ください。

    破産時、従業員が解雇に応じてくれない場合はどうしたらいいですか?

    破産の際の解雇は、いわゆる「整理解雇」であり、会社からの一方的な意思表示で雇用関係を解消するものであるため、従業員の意思とは関係なく、解雇することとなります。

    破産による解雇で従業員から不当解雇を争われた場合はどうしたらいいですか?

    会社が真実として破産する場合には、不当解雇と判断される可能性は低いため、会社の事業継続が困難となった事情を収集・整理して、真実として破産せざるを得ない状況であることを説明できるようにすることが重要です。

    破産による解雇においても再就職支援は行うべきですか?

    破産による解雇の場合、従業員は自分の意思とは関係なく職を失い、従業員の生活に大きな影響を与えることとなるため、会社に法的な義務はないものの、再就職支援が望まれる場合もあります。

    未払賃金立替払制度は解雇予告手当についても対象ですか?

    解雇予告手当も対象となります。

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    執筆弁護士

    弁護士 田中 佑資
    弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士田中 佑資(東京弁護士会)
    弁護士 中村 和茂
    弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士中村 和茂(東京弁護士会)

    この記事の監修

    執行役員 弁護士 家永 勲
    弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

    執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

    近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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