監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
退職した従業員から、在職中のハラスメントや長時間労働、未払い賃金、不当解雇などを理由として、会社へ損害賠償請求がなされるケースがあります。このような請求を受けた場合、企業には法的観点を踏まえた適切かつ慎重な対応が求められます。
本記事では、退職した従業員から会社が損害賠償請求を受ける主なケースと、その対応方法について解説します。
目次
退職した従業員から会社が損害賠償請求されるケースとは?
退職した従業員から会社に対して損害賠償請求がなされる背景には、在職中に生じた労務管理上の問題が存在することが少なくありません。企業が適切な対応を行っていなかった場合、退職後であっても、安全配慮義務違反や不法行為などを理由として、法的責任を追及される可能性があります。
以下では、退職した従業員から会社に対して損害賠償請求がなされる主なケースについて解説します。
パワハラ・セクハラに関する請求
パワハラやセクハラは不法行為(民法709条)に該当し、加害者である従業員だけでなく、会社も使用者責任(同法715条)に基づき損害賠償責任を負います。
また、会社が働きやすい職場環境を形成する義務(職場環境配慮義務)を怠ったとして、債務不履行責任(同法415条1項)に問われることもあります。
詳しくは以下の各記事をご確認ください。
長時間労働に関する請求
会社が従業員に対して長時間労働をさせていたために、従業員に健康被害等が生じた場合にも、会社に損害賠償責任が認められる可能性があります。
例えば、月80時間超えるような時間外労働(特に、月100時間を超える時間外労働)を従業員にさせていた場合、会社の安全配慮義務違反と健康被害等による損害との因果関係が認められやすく、損害賠償請求を回避することが困難となる場合があります。
未払い賃金に関する請求
損害賠償請求そのものではありませんが、退職時や退職後に、過去のサービス残業に対する未払残業代を請求されるケースも多く、退職と密接に関連したトラブルといえます。
詳しくは以下の記事をご確認ください。
労働災害に関する請求
労働災害が発生し、これにより従業員が被った損害が労災保険の支給範囲を超える場合、従業員が会社に対し、安全配慮義務違反などを理由に損害賠償を請求してくることが考えられます。
詳しくは以下の記事をご確認ください。
不当解雇・退職強要・雇止めに関する請求
不当解雇や退職強要等をしたとして解雇が無効と判断された場合、違法な解雇自体が不法行為に該当するとして、損害賠償の対象となります。
また、退職勧奨の程度を超えて、違法な退職強要をした場合には、当該退職強要が不法行為に当たるとして、損害賠償(慰謝料)を請求される可能性があります。
なお、無効な解雇をした場合、会社は解雇後に継続的に不払いとなっている賃金を当該従業員に支払う必要が生じる点にも注意が必要です。
詳しくは以下の各記事をご確認ください。
退職後の従業員から損害賠償請求された場合の対応
まずは事実確認をする
元従業員の請求の根拠となる事実関係を確認します。
雇用契約書や就業規則、退職合意書等の内容を確認するほか、元従業員からの請求に応じて関連する資料を精査します。
弁護士に相談する
元従業員が主張する請求権が成立するのか否かの判断を会社のみで行うことは困難な場合も多いため、専門家である弁護士を活用することが推奨されます。
反論方針を検討する
確認した事実に基づき、債務不履行や不法行為が成立しないとの反論や、これらが成立したとしても消滅時効が完成していないかなどを検討します。
書面で対応する
裁判外の交渉で解決を図るほか、万が一裁判上の手続き(労働審判や訴訟等)に発展する場合には、裁判所に必要な書面(答弁書等)を提出し、会社側の正当な言い分を主張します。
退職後のトラブルを防止するためにやっておくべき対策
適切な労務管理
過度な長時間労働を必要としない労働環境の整備、タイムカード等を用いた正確な賃金計算を行うなど、適切な労務管理をすることが重要です。
相談窓口の設置
相談窓口を設置するなど、ハラスメント等の問題を早期に発見し、是正するための体制を整備することが、紛争の深刻化を防ぐために重要です。退職時の誓約書の作成
退職時に従業員から秘密保持や競業避止に関する誓約書を取得することは、後のトラブル防止に寄与します。あらかじめ就業規則に退職後も秘密保持義務や競業避止義務を負う旨を定めておくことで、退職する従業員が誓約書に署名する心理的な抵抗感を減らすことができます。
詳しくは以下の記事をご確認ください。
退職した従業員から損害賠償請求された裁判例
事件の概要(平成8年(ワ)9953号・平成11年10月18日・大阪地方裁判所・地位確認等請求事件)
上司5名が、従業員に対して約4ヶ月間わたって合計30回以上の面談(中には1回8時間にもわたるものもあった)を行い、面談時には威圧的な言動を伴う退職勧奨を継続した事案です。
裁判所の判断
裁判所は、退職勧奨の頻度や面談時間の長さ、態様が許容範囲を超えており、違法な退職勧奨にあたるとして不法行為の成立を認め、会社に対し慰謝料の支払いを命じました。
ポイント・解説
単なる退職の勧誘にとどまらず、許容限度を超える頻度、回数、言動を用いた退職の強要は違法と判断されます。
会社が退職勧奨を行う際は、退職勧奨の頻度、回数、面談における発言内容などに細心の注意を払う必要があります。
よくある質問
退職した従業員から損害賠償請求された場合、会社はまず何をすべきですか?
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まずは慌てずに、「事実を確認の上、追って回答します。」等と伝え、弁護士に相談する等の対応をご検討ください。
内容証明郵便で損害賠償請求が来た場合、会社はどのように対応すべきですか?
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内容証明郵便で請求が届き、仮に厳しい支払期限が設定されていても、すぐに資産が差し押さえられるといった事態にはなりません。
そのため、まずは届いた内容証明郵便を持って、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
内容証明郵便ではなく、口頭やメールで損害賠償請求された場合はどう対処すべきですか?
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口頭やメールで請求されたとしても、慌ててその場で対応せずに、事実関係を慎重に確認し、法的根拠を精査してください。
退職した従業員から損害賠償請求された場合、どのような証拠や書類を用意すればよいですか?
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基本的なものとして、雇用契約書や就業規則、退職合意書等が挙げられますが、その他にも、例えば、退職した従業員がいわゆる問題社員だった場合には、証拠として、始末書や警告書、社員指導票などのほか、改善指導や教育訓練の記録を用意することも考えられます。
ハラスメント被害による請求であれば、加害者とされる者に対するヒアリングを行うことも考えられます。
退職した従業員からの請求内容が不明確な場合はどうしたらいいですか?
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請求内容が不明確な場合には、当該従業員に、請求内容をより明確にするよう求めるのが通常です。
具体的な請求内容が分からないまま、思い当たる事情について謝罪したり、反論するようなことは控えることが望ましいです。
退職後に損害賠償請求されないようにするため、退職前にはどのような確認を行うべきですか?
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従業員から退職の意向が示されたら、すぐに退職届を作成してもらうことが有効です。
最終的には、退職に際し、会社と従業員との間に債権債務関係が残っておらず、今後従業員から会社に対して何の請求もしないことを約束する退職合意書を作成できれば、退職後に損害賠償請求されるリスクを大きく軽減することができます。
その前提として、未払残業代がないか、ハラスメント相談の有無の確認等をすることが必要な場合も考えられます。
退職した従業員から損害賠償請求されたらまずは弁護士にご相談ください
退職した従業員から会社に対して損害賠償請求が行われるケースには、未払い残業代請求やハラスメントに関する請求など、さまざまな類型があります。請求の内容によっては、準備すべき証拠資料や企業側に求められる対応が異なるため、適切な初動対応が重要です。
弁護士法人ALGには、企業側の労務問題に精通した弁護士が複数名在籍しており、退職者からの損害賠償請求への対応についても豊富な実績を有しています。
企業のリスクを最小限に抑えるためにも、退職した従業員から損害賠償請求を受けた場合には、早期に弁護士へ相談することをお勧めいたします。
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執筆弁護士

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士久保田 惇(東京弁護士会)

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士合田 千真(東京弁護士会)
この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
