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セクシュアルマイノリティ(LGBT)への差別|企業における課題と対応方法について

最高裁が、2023年7月11日、経済産業省による性同一性障害の方に対する職場トイレ制限について違法である旨の判決を出したことについてYouTubeで配信しています。

生物学的な性別は男性で、性同一性障害である旨の医師の診断を受け、女性として私生活を送る方について、執務階とその上下の階の女性トイレの使用を認めず、それ以外の階の女性トイレの使用を認める旨の処遇を経済産業省が行ったことについて、その適法性が裁判で争われ、最高裁判決が原告側(上告人)を勝訴させました。

動画では、裁判官の補足意見も紹介し、一般企業で同種の問題が生じた場合に、どのように対応した方が良いのかについても解説しています。

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弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

雇用する場面や労働環境において、セクシュアルマイノリティへの差別が問題視されています。一般に、セクシュアルマイノリティは、仕事に対する適性や業務遂行能力とは無関係であるのに、強い偏見によって差別的な扱いを受けるケースが多いのが現実です。
しかし、各企業には、性的マイノリティを含めた多様な人材が活躍できる職場環境を整えるための取組みが求められています。

本記事では、セクシャルマイノリティ(LGBT)の概要や、セクシャルマイノリティへの対応等について解説していきます。

セクシュアルマイノリティ(LGBT)とは

セクシュアルマイノリティとは、“性のあり方における少数者”をいいます。具体的には、「性的指向(好きになる性)」や「性自認(性の自己認識)」における少数派のことで、同性愛者や両性愛者、心と身体の性が一致しない人々などが代表的です。

また、「LGBT」(エル・ジー・ビー・ティ)という言葉も浸透してきています。これは、セクシュアルマイノリティのうち、特に広く知られているレズビアン(L)・ゲイ(G)・バイセクシュアル(B)・トランスジェンダー(T)の頭文字を取ったもので、セクシュアルマイノリティの総称のひとつとして用いられます。

LGBTだけが性的少数者ではなく、性自認や性的指向が決まっていないセクシュアリティであるクエスチョニングなどを加えて「LGBTQ」「LGBTQ+」等の総称も用いられています。

LGBTは相対的に少数派ですが、精神疾患等の病気ではなく、治療の対象にもあたらないというのが一般的な認識です。

【2023年6月】LGBT理解増進法の施行

LGBT理解増進法とは、正式名称が「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」であり、性的マイノリティへの理解を広めるための法律です。

同法の第6条において、事業主等には、性的指向とジェンダーアイデンティティの多様性に関して、その雇用する労働者の理解の増進に関し、次のようなことを行うことにより、性的指向とジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該労働者の理解の増進に努めることが求められます。

  • 普及啓発
  • 就業環境の整備
  • 相談の機会の確保

また、同法の10条2項により、事業主には、その雇用する労働者に対し、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を深めるため、次のような措置を講じるよう努めることが求められます。

  • 情報の提供
  • 研修の実施
  • 普及啓発
  • 就業環境に関する相談体制の整備
  • その他の必要な措置

職場で起こり得るセクシュアルマイノリティへの差別

職場でのセクシュアルマイノリティに対する差別は、採用や雇用管理の場面だけでなく、日常的な会話の場面等において無意識に行われるケースが少なくありません。
トイレや更衣室、制服など、男性と女性の二種類に分けて対応している場面についても、労働者に苦痛を与えていることがあります。

使用者としては、労働者にセクシャルマイノリティがいることを前提として、課題解決に向けた積極的な施策を講じることが重要です。

差別の具体例
採用選考時
  • 履歴書に記載した“戸籍上の性”と“性自認”が異なると伝えたところ、内定を取り消される
  • 性自認に基づいて応募書類を提出したところ、戸籍上の性との不一致を理由に不採用とされる
  • 戸籍上の性と見た目(スーツ、髪型等)が異なることにより、不採用とされる
  • 採用条件において“男性募集”“女性募集”等、性別に関する記載がある
差別的な言動
不当な取り扱い
  • 性的指向や性自認を理由に、解雇されたり退職を強要されたりする
  • 性自認による外見や振る舞いを理由に、営業職から事務職へ配置転換される
  • セクシュアルマイノリティであることを人事に伝えたところ、職場内で言いふらされた
  • 同性パートナーが家族として認められないため赴任先に同行させることができず、単身赴任を命じられた
福利厚生 同性パートナーについて、夫婦(配偶者)であれば利用できる福利厚生(慶弔休暇・手当・社員寮の利用等)の対象外にされる
施設の使用
服装規制
  • トイレ、更衣室、社員寮等、男女別に決められた施設を利用することに苦痛を感じる
  • 戸籍上の性における服装規程(制服やスーツ、髪型等)を強要される

なお、採用や職場における様々な差別については、以下の記事で解説していますのでご覧ください。

雇用における差別の概要と具体例

セクシュアルマイノリティへのハラスメントの防止

セクシュアルマイノリティへの差別はセクハラのひとつだといえます。また、性的指向・性自認に関するハラスメントは、「SOGIハラ」という概念で整理される場合もあります。

さらに、改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の指針には、性的指向・性自認に関する記載があります。指針では、次のような言動をパワハラの一類型である精神的攻撃の一例として挙げています。

  • 相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うこと
  • 労働者の性的性向・性自認等の機微な個人情報について当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること(アウティングすること)

企業がとるべきセクシュアルマイノリティへの対応

事業主は、セクシュアルマイノリティが抱える課題を率先して解決していくことが求められます。具体的な取り組みとして、次のようなものが挙げられます。

  • ①方針の策定・周知や推進体制づくり
  • ②研修・周知啓発などによる理解の増進
  • ③相談体制の整備
  • ④採用・雇用管理
  • ⑤福利厚生における取組
  • ⑥職場環境の整備
  • ⑦職場における支援ネットワークづくり

これらの取り組みについて、次項より解説します。

方針の策定・周知や推進体制づくり

企業から「性的指向や性自認にかかわらず、多様な人材が活躍できる職場環境を作る」という方針を明確に打ち出すことにより、労働者から信頼されるようになります。

企業の方針が分からなければ、労働者は相談を行うことが難しくなります。明確な姿勢を示すことで、問題が発生したときに早期に把握できるようになるため、解決しやすくなります。

また、職場環境について匿名でアンケートを実施することによって、性的マイノリティの当事者が意見を伝えやすくなります。

研修・周知啓発などによる理解の増進

企業が雇用しているすべての労働者が、性的指向や性自認についての基本的な知識を持つようにするために、研修等を実施する必要があります。
研修では、ハラスメントの意義、類型、具体例はもちろん、LGBT関係ではアウティングやSOGIハラは許されないこと等をその内容に盛り込むようにしましょう。管理職等については、部下からの相談があった場合の対応の仕方等についても説明する必要があります。

相談体制の整備

セクシャルマイノリティである労働者が、性的指向・性自認について企業に相談したいと思っているケースもあります。あらかじめ企業内に相談や解決の場を設けておきましょう。

相談窓口は、新たに設ける方法や、ハラスメント等の窓口において性的指向・性自認についての相談を受け付けることを明示する方法等があります。
労働者がアウティングの脅威を感じないように、相談窓口担当者の教育・研修を適切に行うことはもとより、相談窓口には秘密保持義務があることを周知しましょう。

採用・雇用管理

採用においては、セクシャルマイノリティの人を排除しないよう、性別や性的指向・性自認からは中立的な基準による採用活動を行うことが求められます。近年では、応募のときに性別を記入する欄を廃止する等の取り組みが行われています。

また、採用時にカミングアウトがあった場合等は、当該情報は高度なプライバシー情報として、情報管理を厳重なものとしてアウティングが行われないようにする必要があります。

配置や昇進などの雇用管理についても、セクシャルマイノリティである労働者が安心して能力を発揮できるように、公正・公平な取り扱いが求められます。

福利厚生における取組

セクシャルマイノリティである労働者であっても、福利厚生制度を利用できるように規定の見直し等を行う必要があります。
例えば、福利厚生制度を利用するときの申請書について、情報を知り得る労働者の範囲を限定することによって、アウティングにつながらないようにするべきです。

また、法律上の婚姻関係でないパートナーがいる方も、配偶者がいる方と同様に制度が利用できるようにする等、セクシャルマイノリティを念頭に置いた制度を設計することが望ましいでしょう。

職場環境の整備

職場環境は、セクシャルマイノリティのなかでも、特にトランスジェンダーである労働者が働きやすい環境にすることが求められます。

トランスジェンダーである労働者については、自認する性の服装による勤務の希望や、トイレ・更衣室などの施設利用について配慮が必要となります。また、自認する性別を表すような通称名の使用、ホルモン治療のための通院への配慮、性別適合手術のための休暇の付与等、様々な対応が考えられます。

職場における支援ネットワークづくり

企業で雇用している労働者について、セクシャルマイノリティのことを理解して支援する者を応援するための取り組みや、性的指向・性自認に関する企画への協賛・出展によって当事者と交流する機会を増やす取り組みが考えられます。

そのような取り組みによって、企業として真剣にセクシャルマイノリティのことを考えている姿勢を示すことが重要です。

企業がセクシャルマイノリティ(LGBT)支援を行うメリット

企業がセクシャルマイノリティの支援を行うことには、次に挙げるようなメリットがあります。

  • 生産性の向上
  • 労働者の離職の防止
  • 人権侵害による訴訟リスクの回避
  • 海外からの集客
  • 企業価値の向上

すべての人が働きやすい環境を整えることにより、労働者から選ばれる企業になるだけでなく、消費者や取引先にとってもイメージの良い企業になることができます。

LGBTフレンドリー企業の取り組みについて

LGBTフレンドリー企業とは、LGBTが働きやすい職場づくりに取り組んでいる企業のことをいいます。
全国的な制度ではありませんが、地方公共団体によっては、例えば札幌市の「LGBTフレンドリー指標制度」、福岡市の「ふくおかLGBTQフレンドリー企業登録制度」のように、企業等のLGBTに関する取組内容に関し、独自の評価指標が設けられ、LGBTフレンドリー企業としての登録が認められています。

LGBTフレンドリー企業に認定される企業は増えているようです。
LGBTフレンドリー企業の取り組みとしては、例えば以下のようなものが挙げられます。

  • 同性パートナーを社内の制度で家族として扱う
  • 同性パートナーとの間の子供について、子の看護休暇などの適用対象とする
  • 同性パートナーについて慶弔見舞金を支給する
  • セクシャルマイノリティの人権についての研修を行う
  • セクシャルマイノリティについて解説したリーフレットを配付する

セクシュアルマイノリティへの差別における罰則

企業がセクシュアルマイノリティの労働者に対する配慮を怠った場合、以下のような規定を根拠として、損害賠償請求や罰則を受ける可能性があります。

  • 安全配慮義務違反ないし職場環境配慮義務違反(労契法5条、労安衛法3条1項)
  • 職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置(男女雇用機会均等法11条)
  • 使用者責任(民法719条)
  • 役員等の第三者に対する損害賠償責任(会社法429条1項)
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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