【2025年最新】女性活躍推進法とは|改正や企業の義務をわかりやすく解説

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
女性活躍推進法とは、働くことを希望する女性が安心して働けるよう、企業に様々な取り組みを求めるための法律です。主に行動計画の策定や情報公表などが義務付けられており、対象企業は漏れなく対応する必要があります。
また、女性活躍推進法は2016年4月に施行されてから、内容を強化するために何度か改正が行われています。事業主は最新のルールを正しく理解し、適切に運用することが重要です。
本記事では、女性活躍推進法の目的、近年の法改正のポイント、企業に求められる具体的な取り組みなどについて詳しく解説していきます。
目次
女性活躍推進法とは
女性活躍推進法(正式名称:女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)は、女性が自分らしく、能力を活かして働けるように支援するための法律です。2016年4月に施行され、2026年3月31日までの期間限定の法律(時限立法)となっています。
この法律では、企業が女性の活躍を後押しするために、次のような基本方針が定められています。
- ①女性に対して、採用や昇進の機会を積極的に与えること
- ②女性が仕事と家庭を両立しやすい環境を整備すること
- ③仕事と家庭の両立について、女性本人の意思が尊重されること
これらの方針に基づき、企業には「女性活躍を促進するための行動計画の策定」や「関連情報の公表」が義務づけられています。
女性活躍推進法が施行された背景
女性活躍推進法が制定された背景には、以下のような問題があります。
●女性のキャリア形成が困難
女性は妊娠や出産を機に退職を余儀なくされることも多く、それによって長期的なキャリア形成が阻害されてしまう事態が問題視されてきました。ライフステージに変化があっても、女性がキャリアを維持しながら働き続けるための職場づくりが求められます。
●男女格差が大きい
日本は、諸外国に比べて男女格差(ジェンダーギャップ)が大きいとされてきました。特に賃金や管理職の割合で差が大きいことから、早急な改善が求められています。
●少子高齢化による労働力不足
企業の人手不足は年々加速しており、労働力の確保が急務となっています。女性が長く働ける環境を整えることで、労働力不足の解消につながると期待されています。
女性活躍推進法の改正
女性活躍推進法は、内容を強化するため段階的に改正が行われてきました。2020年以降の改正のポイントについて、以下で整理していきます。
〈2020年6月〉
●女性活躍に関する情報公開の強化
●特例認定制度(プラチナえるぼし)の創設
〈2022年4月〉
●一般事業主行動計画策定義務の対象拡大
〈2022年7月〉
●女性の活躍に関する情報公表項目の追加
【2020年6月】女性活躍に関する情報公表の強化
2020年6月より、常時雇用する労働者が301人以上の事業主に対して、女性の活躍に関する情報を公表することが義務付けられました。具体的には、以下の2区分からそれぞれ1項目以上を選択し、情報公表を行わなければなりません。
- ①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供
- ②労働者の職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備
【2020年6月】特例認定制度(プラチナえるぼし)の創設
2020年6月より、従来の「えるぼし」よりも高い水準である「プラチナえるぼし」が創設されました。これは、えるぼし認定を受けた企業のうち、特に優良な企業に与えられる認定です。
具体的には、以下5つの項目において一定の水準を維持していることが認定の要件となります。
- 採用
- 継続就業
- 労働時間等の働き方
- 管理職比率
- 多様なキャリアコース
プラチナえるぼし認定を受けると、自社の商品やホームページに認定マークを付すことができるため、女性の活躍の推進に積極的な企業であることを対外的にアピールできます。
また、税制面などで優遇措置が受けられるのもメリットです。
例えば、法人税の税額控除率が加算されたり、低金利で融資を受けられたりする場合があります。
さらに、プラチナえるぼし認定企業は「一般事業主行動計画」の策定・届出義務が免除されるため、事業主の負担軽減にもつながります。
えるぼしの認定基準については、下表で整理します。
認定の段階 | 認定の要件 |
---|---|
えるぼし(1段階目) | ・評価基準のうち1つ又は2つの項目を満たし、その実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表していること。 ・満たさない基準については、事業主行動計画策定指針に定められた取組みの中から当該基準に関連するものを実施し、その実施状況を「女性の活躍推進企業データベース」に公表するとともに、その実績が2年以上連続して改善していること。 |
えるぼし(2段階目) | ・評価基準のうち3つ又は4つの項目を満たし、その実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表していること。 ・満たさない基準については、事業主行動計画策定指針に定められた取組みの中から当該基準に関連するものを実施し、その実施状況を「女性の活躍推進企業データベース」に公表するとともに、その実績が2年以上連続して改善していること。 |
えるぼし(3段階目) | 評価基準の5項目をすべて満たし、その実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表していること。 |
プラチナえるぼし | ・策定した一般事業主行動計画に基づく取組みを実施し、目標を達成したこと。 ・男女雇用機会均等推進者、職業家庭両立推進者を選任していること。※ ・プラチナえるぼしの評価基準の5項目をすべて満たしていること。※ ・女性活躍推進法に基づく情報公表項目(社内制度の概要を除く。)のうち、8項目以上を公表していること。※ ※実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表していることが必要です。 |
【2022年4月】一般事業主行動計画策定義務の対象拡大
2022年4月の法改正により、常時雇用する従業員が101人以上の企業も、「一般事業主行動計画の策定・届出」や「女性の活躍に関する情報の公表」が義務となりました。これまでは、従業員数が301人以上の企業だけが対象でしたが、改正によって対象範囲が広がったことになります。
ここでいう「常時雇用する労働者」とは、正社員だけでなく、パートやアルバイトなど雇用形態を問わず、契約期間の定めがないすべての従業員を指します。
また、契約期間がある場合でも、以下のいずれかに該当する場合は「常時雇用」とみなされます。
- 1年以上継続して雇用されている者
- 1年以上継続して雇用されることが見込まれる者
なお、従業員数が100人以下の企業については、これらの取り組みは「努力義務」とされており、義務ではありませんが、積極的な対応が推奨されています。
【2022年7月】女性の活躍に関する情報公表項目の追加
2022年7月の改正により、従業員が301人以上いる企業では、女性の活躍に関する情報の公表項目が追加されました。企業は、次の3つの項目について、それぞれ1つ以上を選び、公表する必要があります。
- ①「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」の中から1項目
- ②「職業生活と家庭生活の両立」の中から1項目
- ③男女の賃金の差異(法改正により新設)
特に新設された「男女の賃金差」は、
(女性の平均年間賃金 ÷ 男性の平均年間賃金)× 100
という計算式で算出されます。
この賃金差は、以下の3つの区分ごとに公表する必要があります。
- 全労働者
- 正規社員
- 非正規社員
これにより、企業の取り組み状況がより明確になり、求職者や社会に対して透明性のある情報提供が求められています。
【2025年】女性活躍推進法における法改正の動向
女性活躍推進法は10年間の“時限立法”なので、2026年3月31日で失効する法律です。
しかし、男女の賃金格差などの課題はいまだ解消されておらず、問題の是正には継続的な取り組みが必要とされています。実際、2025年のジェンダーギャップ指数をみても、日本は148ヶ国中118位とあまり状況は改善されていません。
そこで、2024年10月に女性活躍推進法の10年間の期間延長が提言され、改正案がまとめられました。
改正案には、「女性特有の健康問題へ対応」や「ハラスメント対策の強化」など新たな取り組みも追加されており、より充実した内容に変更される見通しです。
女性活躍推進法における事業主の義務や取り組み

女性活躍推進法は、対象企業に対して、以下の4つの取り組みを義務付けています。
- 【ステップ1】自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
- 【ステップ2】一般事業主行動計画の策定・社内周知・外部公表
- 【ステップ3】一般事業主行動計画を策定した旨の届出
- 【ステップ4】行動計画に基づく取組みの実施・効果の測定
これらの取り組みは一度行ったら終了ではなく、実施後の効果の測定後、ふたたび課題分析を行い、行動計画を作り直す、PDCAサイクルで進める必要があります。
【ステップ1】自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
自社の女性従業員の活躍状況について、以下の4つの基礎項目(必ず把握すべき項目)について数値を出し、状況を把握します。数値が低い項目については、どのようにすれば数値を上げられるのか、課題を分析します。
【基礎項目】
- ①採用者に占める女性比率
- ②平均勤続年数の男女比
- ③月別の平均残業時間数
- ④管理職に占める女性比率
なお、基礎項目に加えて、以下のような選択項目(必須項目ではない)を把握し、さらに深く課題の分析を行うという方法もあります。
- 男女別の採用における競争倍率
- 女性労働者の割合
- 労働者の男女別の継続雇用割合
- 労働者の毎月の平均残業時間
- 男女別の職種または雇用形態の転換の実績 など
【ステップ2】一般事業主行動計画の策定・社内周知・公表
企業は、女性従業員の状況を把握し、課題を分析したうえで、その結果をもとに「一般事業主行動計画」を策定する必要があります。
一般事業主行動計画とは、自社の女性従業員の活躍に関する状況把握・課題分析の結果をもとに、改善目標を設定し、目標を達成するための取組みをまとめたものです。
行動計画には、課題に沿った、以下の4つの内容を盛り込む必要があります。
- ①計画期間(2025年まで)
- ②数値目標
- ③取組内容
- ④取り組みの実施期間
策定した一般事業主行動計画は、社内の従業員に周知し、外部にも公表しなければなりません。
労働局や厚労省のホームページに行動計画の記載例が出ているので、活用すると良いでしょう。なお、一般事業主行動計画の作成方法について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧下さい。
社内通知・外部公表の方法
策定した一般事業主行動計画は、以下の方法により、社内に周知し、外部に公表を行います。
社内通知 | 事業所の見やすい場所への掲示や備え付け、電子メールでの送付、企業内ネットワークへの掲載、書面による交付など |
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外部公表 | 厚生労働省が運営する「両立支援のひろば」への掲載、自社のホームページへの掲載、県の広報誌・日刊紙への掲載など |
公表内容はおよそ年1回更新する必要があります。また、外部公表する内容は法令で定められています。
企業の規模に応じた公表内容は、以下のとおりです。
【常時雇用する労働者が301人以上の事業主】
⇒(A)①~⑧より1項目選択+(A)⑨必須+(B)①~⑦より1項目選択
【常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主】
⇒(A)①~⑨および(B)①~⑦より1項目以上を選択
(A)女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供 | (B)職業生活と家庭生活との両立 |
---|---|
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一般事業主行動計画の外部公表は、就職活動中の学生や子育て中の女性の企業選択に役立ちます。
また、女性の活躍推進における自社の取り組みをアピールできるため、優秀な人材確保、企業イメージの向上につながることも期待されます。
【ステップ3】行動計画を策定した旨の届出
行動計画を策定したら、策定日からおおむね3ヶ月以内に、自社を管轄する労働局に届け出ます。
「一般事業主行動計画の策定・変更届出様式」を、電子申請、郵送、直接持参いずれかの方法で提出します。
詳細は、厚⽣労働省ホームページをご参照ください。
【ステップ4】行動計画の取り組みの実施・効果の測定
一般事業主行動計画を実施し、定期的に数値目標の達成状況や、取り組みの進捗状況を点検・評価し、効果の測定を行います。さらに、測定結果をその後の取組みや計画に反映させ、いわゆる、以下のPDCAサイクルを回していくことが重要となります。

女性活躍推進法における罰則の有無
女性活躍推進法には、「一般事業主行動計画の策定・届出」と「女性の活躍に関する情報公表」の実施義務に違反した場合における罰則規定がないため、これらの実施義務を怠っても、義務違反に基づいて処罰を受けることはありません。
ただし、厚生労働大臣(都道府県労働局長)が必要とする場合は、対象企業に対して助言や指導、勧告が行われる場合があります(同法30条)。
また、えるぼし認定など女性の活躍が推進されている昨今において、女性の活躍推進に関する情報を公表しないと、働きにくい職場であるという印象を与え、企業のイメージダウンにつながる可能性があります。また、求職者に対するアピールもできないため、人材確保が難しくなるおそれもあります。
女性活躍推進のための両立支援助成金
女性の活躍推進に取り組む企業は、「両立支援等助成金」を受給できる可能性があります。
これは、仕事と育児・介護等の両立を図るための取り組みを行う中小企業主に対して支給される助成金です。具体的には、以下の6つのコースに分けられます。
- ①出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
育児休業を取得しやすい雇用環境を整備し、男性社員が育児休業を取得した場合に支給される助成金。 - ②介護離職防止支援コース
円滑な介護休業の取得と職場復帰に取り組み、従業員が介護休業や介護両立支援制度を利用した場合に支給される助成金。 - ③育児休業等支援コース
円滑な育児休業の取得と職場復帰に取り組み、従業員が育児休業を取得した場合に支給される助成金。 - ④育休中等業務代替支援コース
育休取得者や時短勤務者の業務を代わりに行う従業員に手当を支給した場合や、代替要員や派遣社員を受け入れた場合に支給される助成金。 - ⑤柔軟な働き方選択制度等支援コース
フレックスタイム制やテレワークなどの柔軟な働き方選択制度等を複数選択し、従業員が制度を利用した場合に支給される助成金。 - ⑥不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース
不妊治療や月経、更年期など、女性の健康課題に対する両立支援制度等を利用しやすい雇用環境を整備し、従業員が制度を利用した場合に支給される助成金。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある