ポジティブ・アクション
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
女性の活躍推進が求められる中、ポジティブ・アクションの重要性も増しています。ポジティブ・アクションは、男女平等な職場を作るための取組のことで、多くの企業が実施しています。
また、女性の立場を向上させる以外にも様々なメリットがあるため、まだ取り組んでいない企業も積極的に検討されると良いでしょう。
本記事では、ポジティブ・アクションの概要や実施手順、具体的な取組みの例などを解説していきます。ぜひ参考になさってください。
目次
ポジティブ・アクションとは
ポジティブ・アクションとは、男女間の差をなくすため、企業が自主的に取り組む活動のことです。主に職場における女性差別を解消し、実質的な機会均等を実現するための取組とされています。
日本では、性別による役割分担意識が根付いており、仕事でも未だに男女差が目立っています。例えば、「女性の管理職が少ない」、「女性は事務職に偏りがち」といった問題は一向に解消されません。
また、この状況は女性の勤労意欲を低下させ、人手不足を深刻化させる要因にもなります。
そこで、女性が十分に活躍できる環境を整え、すべての人が平等に働ける社会を作るため、ポジティブ・アクションが導入されました。
なお、ポジティブ・アクションは厚生労働省をはじめ様々な機関から推奨されています。
また、ポジティブ・アクションを行う企業を国が援助することが認められており(男女雇用機会均等法14条)、本制度の重要性がうかがえます。
ポジティブ・アクションの必要性
他の先進諸国からの遅れ
日本の女性の参画率は、世界的にみて低水準となっています。
例えば、議員や会社役員などの「指導的地位」に就く女性の割合は14.9%に留まっており、衆議院議員については1割にも達していません(2019年度)。
多様な人材の育成
ニーズが多様化する中、男女問わず様々な人材を確保することは有効です。例えば、女性目線による新規商品の開発、バランスのとれた行政サービスの提供につながるためです。
また、全ての人が働きやすい環境を整えることで、労働力不足の解消にもつながります。
社会的イメージの向上
ポジティブ・アクションに取り組む企業は、持続的な成長が見込めるため、顧客や取引先から好意的な印象を持たれることがあります。
それによって企業利益が伸びれば、経済全体の発展にも貢献できます。
女性活躍推進とポジティブ・アクション
ポジティブ・アクションを後押しするため、2016年には女性活躍推進法が施行されました。
本法は、企業に女性の活躍に関する様々な取組を義務付け、ポジティブ・アクションの実効性を高めるのが目的です。例えば、女性の活躍について調査・分析したり、行動計画の策定や情報開示を行ったりすることが義務付けられています。
また、女性活躍推進法では、ポジティブ・アクションを行う企業に対し、公共調達における受注の機会を増やすなどの優遇措置が設けられています。
これにより、より多くの企業がポジティブ・アクションに取り組むことが期待されています。
女性活躍推進法については、以下のページで詳しく解説しています。
ポジティブ・アクションの取組の進め方
現状の分析と問題点の発見
まず、自社の現状を分析することから始めましょう。具体的には、以下のような点を調査し、問題点を把握します。
- 役職ごとの男女比率
- 雇用形態ごとの男女比率
- 男女別の勤続年数
- 女性労働者への配慮(妊娠中の在宅勤務、セクハラ相談窓口の設置など)
- 労働条件や福利厚生における男女差
- 採用における男女差
なお、より客観的なデータを得るため、労働者へのヒアリングやアンケートを行うのも効果的です。
調査で問題点が明らかになったら、その原因も考えましょう。そうすることで、自然と解決策もみえてきます。例えば、以下のようなケースが考えられます。
【問題点】女性の応募者が少ない
【原因】男性へのアピールポイントが多い、女性が少ない学部のみを対象にしている等
【問題点】女性の役職者が少ない
【原因】昇格の対象を男性に限定している、人事評価者が男性を優遇している等
具体的取組計画の作成・労働者への周知
次に、現状を改善するための方法を考えましょう。
まずは大枠の“目標”を定め、それに沿って“具体的取組”を決めるのが一般的です。以下の例を参考にしてみてください。
【目標】女性の採用を増やす
【取組】女性の活躍や成果をアピールする、女性の面接官を増やす
【目標】女性の管理職を増やす
【取組】女性の教育訓練の機会を増やす、昇格基準を見直す
【目標】女性の勤続年数を伸ばす
【取組】妊娠中の在宅勤務を認める、託児所を設置する、復帰支援プログラムを導入する
【目標】社内の雰囲気や風土を改善する
【取組】男女が意見交換できる場を設ける、セクハラ相談窓口を設置する、労働者の意見・要望を積極的に取り入れる
取組計画には、実施体制や実施期間も盛り込みます。
プロジェクトチームを作るのか、又は人事部が担当するのか、いつまでに目標を達成させるのかなどを具体的に定めましょう。
また、策定した行動計画は、労働者に周知しなければなりません。
周知方法は、説明会や社内用、回覧版などで良いですが、必ず計画の実行前に周知しましょう。
具体的取組の実施
取組計画を策定・周知したら、その計画に沿って取組を実施してみましょう。
とはいえ、新たな制度を導入したり、従来の規定を変更したりするのは容易ではありません。実際に成果を上げるには時間もかかるでしょう。
また、女性の採用を増やそうにも、翌年から急に応募者が増えるとは限りません。
これらの理由から、具体的取組の実施は長期的な姿勢で臨むことが重要です。途中で失敗に終わらないよう、以下の留意点を押さえておきましょう。
具体的取組計画を実行する際の留意点
具体的取組を行う中では、「思うように計画が進まない」という事態も起こり得ます。その場合、無理やり計画を進めるのではなく、問題点に早期に対処することが重要です。
そのまま計画を進めると成果が上がらないだけでなく、労働者の不満を招くおそれもあります。
また、場合によっては計画を立て直すなど、軌道修正を図ることも必要です。
そうすることで新たな課題や問題点が見つかり、かえって早く成果を上げられる可能性もあります。
具体的取組の成果の点検と見直し
具体的取組の結果を踏まえ、振り返りを行います。なお、この作業は一定期間ごとに行い、取組の効果がないときは計画を見直しましょう。
例えば、多くの女性社員を管理職に登用したところ、かえって離職率が上がったり、降格の申し出が増えたりするケースがあります。
これは、無闇に女性社員を昇給・昇格させた結果、業務についていけなかったことが原因と考えられます。
そこで、この結果に対する改善策を考え、計画に追加しましょう。
例えば、女性社員向けの説明会を開き、管理職の業務内容や勤務体制を詳しく説明する方法があります。
また、研修制度を整え、昇格後の不安を解消することも重要です。
ポジティブ・アクションの取組の例
ここで、ポジティブ・アクションの具体的取組の例をご紹介します。どのような目標を立てるかによって異なるため、以下で整理しておきましょう。
採用拡大
女性の採用拡大を目指す場合、以下のような取組が考えられます。
- 会社説明会で女性社員の活躍ぶりを紹介する
- 女性社員のキャリアアップや育児休業取得の実績をアピールする
- 機械加工や現場作業など、“男性のイメージ”が強い職場で働く女性社員を紹介する
- 女性が多い学部からの募集人数を増やす
- 女性の面接官を増やす
- 性別によらない公正な評価マニュアルを作成し、面接官に周知・指導する
ただし、特別な事情がある場合を除き、応募対象を女性に限定することは禁止されています。つまり、女性限定の募集・採用は基本的に認められませんのでご注意ください。
その他、身長・体重を要件とする募集要項も基本的に認められません。
女性の採用を増やす場合も、「男女平等が基本であること」を覚えておきましょう。
職域拡大
職域拡大とは、それまで女性が少なかった部署に、積極的に女性を配置することを指します。
以下に具体的取組例をあげます。
- 配置転換する女性に研修や教育訓練を行う
- 複数の女性を一緒に配置する
- 自己申告制度や社内公募制度を導入する
- 雇用管理区分を再編し、女性の総合職を増やす(転勤がない「地域型総合職」を作るなど)
- 男女それぞれが使いやすい設備を設置する(男女別のロッカールームや更衣室など)
- 役職者に対し、女性社員の受入れ講習を実施する
特に「女性がほぼゼロだった」という場合、本人の支援だけでなく、設備の整備から役職者の指導まで幅広く対応する必要があります。
管理職登用
女性の管理職が増えると、女性目線の経営がなされ、より多様なニーズに対応できるようになります。
具体的取組の例としては、以下のようなものがあります。
- 昇格基準を見直し、労働者に周知する
- 女性の人事評価者を増やす
- 女性社員に対し、研修や教育訓練への積極的な参加を呼びかける
- 管理職候補の女性に対し、個別で研修・育成を行う
- 女性管理職との座談会を企画する
- キャリア形成について相談できる場を作る
管理職への登用は、「勤務時間が長くなりそう」「家庭との両立が難しそう」「重圧に耐えられない」など様々な不安も伴います。
これらは労働者が特に気にするポイントですので、企業がしっかりサポートしてキャリアアップを推進しましょう。
勤続年数の伸張
女性が長く働くことは、労働力不足の解消にもつながります。
少子高齢化が進む中、人手不足はますます深刻化すると考えられるため、できるだけ多くの社員を留めることが重要です。
女性の勤続年数を伸ばすための取組には、以下のようなものがあります。
- 法定以上の育児・介護休業制度を導入する
- 女性が職場復帰しやすいよう、復帰支援プログラムを提供する
- 復帰後でもキャリアアップできるような人事評価体制を整える
- 育児期間中の時短勤務や在宅勤務、フレックス勤務を認める
- 復帰後の生活設計を共有してもらう
- 託児所を設置する又は保育園の費用を一部負担する
法律上の育児・介護休業は“最低限”のきまりですので、企業が独自にルールを定めることもできます。
社員の事情や要望をしっかり把握し、効果的な方法を模索しましょう。
職場環境・風土改善
制度を整備しても、男女の役割分担意識が強い企業ではうまく機能しない可能性があります。
例えば、「男性は経営に関わるが、女性は補助業務がメイン」といった風潮が根付いていれば、女性の管理職登用はなかなか実現できません。
そこで、社員の意識改革も重要なポイントといえるでしょう。具体的取組の例は、以下のようなものです。
- 女性だけが掃除やお茶出しを行うという社内慣行をなくす
- 女性の責任感や意欲を向上させる(会議での発言権を男女平等に与えるなど)
- 定例会議の議長を男女でローテーションにする
- 男女の意見交換の場を設ける
ただし、それまでの意識を変えるのは容易ではないため、根気強く取り組むことが重要です。
ポジティブ・アクションは男女雇用機会均等法の違反にならないか
男女差別をなくすのが目的であれば、女性に有利な取組をしたり、女性限定の措置を講じたりしても問題ありません。
そもそも男女雇用機会均等法は、職場における男女平等を実現するための法律です。
したがって、現状「女性差別がある」「女性に不利な環境である」といった問題がある場合、それを解消するための取組については違法となりません(男女雇用機会均等法8条)。
では、男女雇用機会均等法には他にどんな規定があるのでしょうか。詳しくは以下のページをご覧ください。
国の援助
ポジティブ・アクションを推進するため、国も様々な支援を行っています。
ただし、支援といっても“経済的な援助”ではなく、企業がポジティブ・アクションを実施しやすいようサポートするのが主な目的です。
支援の具体的な内容は、以下のとおりです。
- 経営者団体と連携し、女性の活躍を推進するための協議会を実施する
- ポジティブ・アクションに取り組む企業を表彰する
- 機会均等推進責任者や人事担当者などに、ポジティブ・アクションに関する情報提供を行う(メールマガジン「きらら通信」の配信など)
- 自社の女性活躍推進の状況を診断できるシステムや、男女間格差を「見える化」するための支援ツールを提供する
- 女性管理職の意見を共有するとともに、ロールモデルを育成するためのマニュアルを整備・普及する
その他、企業に対するセミナーの実施や、雇用管理アドバイザーの派遣などを行うこともあります。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある