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年次有給休暇の義務化における「時季指定」について

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働者のワークライフバランスを実現するため、“働き方改革”の一環として義務化された【年次有給休暇の時季指定】。使用者には、一定のルールを正確に把握したうえで、労働者に適切に年次有給休暇を取得させることが求められます。

このページでは、使用者による年次有給休暇の時季指定に焦点を絞り、その概要と注意点等についてお伝えします。次項より詳しくみていきましょう。

年次有給休暇の時季指定義務

日本の年次有給休暇取得率の低さが問題視される中、“働き方改革”において労働基準法が改正されました。これにより、平成31年4月から、会社の規模にかかわらずすべての会社において、使用者には、労働者の意見を聴取したうえで時季を指定し、労働者に有給休暇を取得させることが義務付けられました。具体的には、10日以上の年次有給休暇を付与する労働者に対して、年次有給休暇日数のうち毎年5日について、時季を指定して取得させる必要があります。

なお、“働き方改革”における年次有給休暇の取扱いについて、以下のページでさらに詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。

働き方改革で年5日の有給取得が義務化に

労働者による時季指定権

原則的に労働者は、年次有給休暇の取得の時季を指定する権利(=時季指定権)を有します。そのため、使用者は基本的に、労働者が指定する時季に年次有給休暇を付与しなければなりません。しかしながら、それが事業の正常な運営を妨げる場合に限って、使用者は、指定の時季を変更させることができます(=時季変更権)。(労基法39条5項)

なお、時季変更権の詳しい内容ついては、以下のページで説明していますので、ぜひご覧ください。

時季変更権

時季指定を実施するタイミング

使用者は、労働者による時季指定権の行使を妨げないよう、確実に年5日の年次有給休暇を労働者に取得させなければなりません。

例えば、基準日から一定期間が経過した時点で年次有給休暇の取得が5日に満たない労働者に対して時季指定を行う、例年、年次有給休暇の取得が著しく少ない労働者に対しては、年次有給休暇の付与日(=基準日)に時季指定を行う、といったように、労働者ごとに、基準日から1年以内に適時、時季指定を実施することになります。

時季指定の対象となる労働者

時季指定の対象となるのは、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に限られます。正社員ばかりでなく、フルタイムでないパートタイム労働者等でも、10日以上の年次有給休暇を付与されていれば対象となります。また、一般の労働者だけでなく、管理監督者にも適用されます。

なお、“10日以上の年次有給休暇”とは、1年間に付与される有給休暇の日数を指し、前年度の繰り越し分は含めません。未消化分の有給休暇の取扱いに関する詳しい説明は、以下のページに譲ります。併せてご覧ください。

未消化分の有給休暇の取扱い

有給休暇の時季指定が不要となるケース

労働者による時季指定権の行使や、会社が年次有給休暇の計画的付与を実施したことによって、年に5日以上の年次有給休暇をすでに取得している労働者には、使用者による時季指定を行う必要はありません。

また、労働者の退職の申し出から実際の退職日までの期間が、使用者の時季指定によって取得させるべき年次有給休暇の日数を下回ることがあります。この場合、必要な日数分を取得させることができませんから、時季指定は不要となります。

年次有給休暇の計画的付与及び、退職時の年次有給休暇の扱いについての詳しい内容は、それぞれ以下のページで説明していますので、ぜひご覧ください。

年次有給休暇の計画的付与
退職時の有給休暇

半日単位・時間単位による時季指定

時季指定において、労働者の意見を聴取した際に、半日単位で年次有給休暇を取得したいという希望があった場合には、半日単位で指定することは可能です。この場合、半日単位での取得1回を0.5日と分として計算します。

他方で、時間単位での年次有給休暇については 使用者による時季指定の対象とはなりません。

半日・時間単位の年次有給休暇の取扱いについては、以下のページで詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。

半日・時間単位の有給休暇

時季指定した有給休暇の変更について

使用者によって年次有給休暇の時季指定が行われた後に、指定した日程を変更することはできるのでしょうか。①業務上(使用者側)の都合により変更したい場合、②労働者から変更の希望があった場合に分けて、それぞれ確認してみましょう。

業務上(使用者側)の都合等により変更したい場合

時季指定後に、業務上の都合等で日程を変更することはできます。

ただし、使用者側から一方的に変更できるわけではありません。日程の変更について改めて労働者の意見を聴取し、その意見を尊重したうえで新たな時季指定日を決定する必要があります。

労働者から変更の希望があった場合

労働者から時季指定した日程を変更したいという希望があった場合には、その事情等を考慮して、極力労働者の希望に適う時季を指定することが最適です。また、時季指定日を変更した場合、年次有給休暇管理簿の内容も修正しなければなりません。

なお、年次有給休暇管理簿の詳しい説明については、以下のページをご覧ください。

年次有給休暇管理簿の作成・保存義務

労働者が時季指定日に出勤した場合

使用者の年次有給休暇の時季指定義務は、取得日の指定だけでなく、実際に取得させることにまで及びます。したがって、使用者の時季指定日に、業務の忙しさ等を理由に労働者が出勤してしまい、また、使用者がその日の労働を容認してしまった場合、年次有給休暇を取得させたことになりません。そのため、改めて時季指定をし直して、取得させる必要があります。

なお、労働者が時季指定日に出勤したことにより、労働者に年5日の年次有給休暇を取得させることができなかった場合、使用者は労働基準法違反と評価されてしまうため、注意が必要です。

有給休暇を時季指定する際の注意点

年次有給休暇の時季指定において、使用者が気を付けるべきことには、他にどんなものがあるでしょうか。ここでは、特に以下の2つの注意点について説明します。

労働者の意見聴取の必要性

年次有給休暇の取得はあくまでも労働者の権利です。そのため、使用者が年次有給休暇の時季指定をする際には、労働者に取得の時季について意見を聴取し、その意見を尊重して、希望する時季に付与できるよう最大限努力する必要があります。

就業規則の不利益変更となるリスク

休暇に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項(労基法89条)であるため、使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、その旨を就業規則に定める必要があります。具体的には、対象となる労働者の範囲と、実施の方法等について記載しなければなりません。

また、就業規則において会社が独自に定めている休暇(例:夏季休暇、年末年始休暇)や、休日としていた曜日(例:土曜日、日曜日、祝日)を、年次有給休暇に振り替えて対応することは、就業規則の不利益変更にあたります。

労働基準法の改正によって年5日の年次有給休暇の時季指定が義務化されたのは、年次有給休暇の取得促進が目的であるため、労働者の休暇、休日を減らすことは法の趣旨に反します。したがって、そのような時季指定は無効となるおそれがあります。

有給休暇の時季指定に関する罰則

年次有給休暇の時季指定に関する規定が就業規則にない場合や、年次有給休暇を年5日取得させなかった労働者が1人でもいる場合等には、労働基準法違反として扱われ、罰則が科されるおそれがあります。

年次有給休暇に係る罰則については、以下のページで詳しく説明していますので、併せてご覧ください。

労働基準法違反への罰則
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